面会交流により脳が悪影響を受けるとの見解について

1 さて、最近、DV事件で「脳」に障害を与える事例があると主張されるケースがあるのだが、少し検討をしておこう。

  まず、裁判所案件と児童相談所案件は区別した方が良い。つまり、裁判所でいわれるような身体的暴力や精神的虐待が家族全員に向けられているような場合は稀である。そうしたケースがあればアメリカにおける脳科学研究知見の援用ができると考える。しかしながら、基調とするべきは児童相談所、換言すれば福祉案件について問題とされるべき知見であり、裁判所で討議される事項ないし一般論として過度の一般化には賛成できない。

2 わかりやすくいうと、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待のことを不適切な養育という。そして、不適切な養育は医学的な観点からは当然ながら加害ないし故意の有無は討議の対象とはならない。

  近年の研究では、比較的若年の精神疾患は、脳の発達段階で負荷がかかることに起因するとの見解は、若年者と責任能力などの論点で問題となり得る。また発症には遺伝的要因と逆境的体験が関連するとされる。

3 論理は飛躍するが、家庭裁判所の報告書にも「愛着」とか「アタッチメント」という言葉があるが、これは、こどもと特定の母性的人物に形成される強い情緒的な結びつきと定義される。要するに、心理的安全基地といわれるが、そのような安全基地があるこどもの情緒は安定しやすいとされる。指摘によると、愛着障害の場合、脳の活動が低下するというレポートがある。

  さて、愛着障害という言葉も発達障害ないしスペクトラムと並び、とみに持ち出される概念となったが、これは基本的に安全が脅かされる体験があって愛着対償を得られない状態が継続し養育者との絆が不十分であることをいう。文字通り、愛着形成が不十分な父親との面会交流などが難しいのは法的理由をさておくと医学的説明からはこのようにできる。

  愛着という概念は、養育者との距離の保ち方にも結び付くものであり、愛着が敵から身を守るという機能をも果たすからである。

4 ただ、愛着障害が生じる理由としては、DVが背後にあるというよりかは、不適切な養育が背景にあることが多い。それは、一例を挙げれば父親だけに責任転嫁できる問題でなく、むしろ母親側にも併せて問題があることが福祉案件では少なくないと思われる。そうであれば、裁判所案件も見立ては同様であるべきように思われる。基本的には発達障害類似の症状を起こすことがあるのだが、心理的安全基地が得られないことにより安定した愛着形成が疎外され、分かりやすく言えば情緒不安を引き起こすことにもなりかねない。

  これらは、将来的に重大な精神疾患を引き起こす因子の一つになる可能性がないとはいえない。であれば、このような事例は福祉対応事例で、家庭裁判所が手におえる問題ではない。ただし、いわゆるスペクトラムとの区別が困難であり早期対処が困難という問題が指摘されているので、早く対応すればよいという問題ではないが、親として意識しておかなければならない事項の一つといえる。

5 ところで、愛着障害で重篤であるのはRADと呼ばれる反応性愛着障害である。なお、RADは全体の学童の2.4パーセントという統計もあり、果たして法廷で論ずる意味があるのかいささか疑問を感じなくもない。

ある研究によると、ゲームをする、ゲームにお小遣いがあるというテーマで、定型発達の場合は脳が活性化したが、RADの場合は、高額報酬課題や低額報酬課題にも反応せず、脳が反応しにくいという問題があると指摘されている。かかる指摘によると主たる原因は、生後1歳から2歳の不適切な養育にあることが多いと説明される。

  愛着スタイルでは、回避的傾向が強く、脳活動が低下しているという現象が生じるという。これは発達障害にも共通するが、愛着障害がある場合は自己肯定感が低く、叱るとフリーズして誉め言葉はなかなか心に響かない特徴がある。これらは脳科学における脳活動の低下が原因とされるのであって、報酬系を復活させるためにも普通以上に、こどもの承認欲求に応える必要がある。

6 次に、RADの場合、脳皮質容積を調べてみたが、一次視覚野の容積の減少がみられるという。私は、脳科学の専門家ではないので分からないが、素人的にみると、RADの場合、不安、恐怖を感じやすいとか、ストレス性身体反応、抑うつ病が起こりやすいとする趣旨の説明のように読めなくもない。敷衍すると、視覚野はどうやら、衝動的な視覚刺激に対するストレスを抑える機能があるという。そうすると、幼少期の逆境経験、強い愛着障害があると、不安を感じやすくなったり、衝動的になりやすいといった弊害が理論的に考えられる。これは大人になってから困る事柄ともいえる。

  そして、視覚野の影響でいうと、5歳から6歳が影響を受けやすいという指摘もある。

7 さて、まとめに代えて、よく面会交流が脳に障害を与えるという主張があるが、これは、面会交流イコール不適切な養育に該当する場合に成り立つ論理にすぎない。換言すれば、一例を挙げれば母子家庭で母親が就労している場合、母親不在が多く愛着形成が進まないことも考えられる。そうすると、面会交流を通じて父母双方から愛着を受けた方が、こどもの健全な発達に資することになるといえる。こういう観点からも、医学的論拠を持ち出して、極端かつ一方的な結論を導くこともできないように思われる。むしろ、こうしたRADなどのハードケースは、児童相談所や福祉で問題になることが多く、通常の離婚事件でこうした点は考慮すぎるのは私見は行き過ぎだと思う。現実、RADは、学童の2.4パーセントにみられる現象にすぎない。

そして、家族法としては、こうした医学的説明にも場合分けを加え、その点も踏まえて議論を深化させていくべきであると考える。

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