別居中に夫以外の男性の子どもを出産した場合の親子関係について

 

別居中に夫以外の男性の子どもを出産した場合の親子関係について

 

夫婦が不仲になって別居すると、別居中に妻と別の男性との間に子どもができてしまうケースがあります。その場合、子どもの「父親」は誰になるのでしょうか?

法律上、妻が婚姻中に妊娠した子どもは「夫の子ども」と推定されてしまいます。

推定を覆すには、嫡出否認や親子関係不存在確認などの手続きをとらねばなりません。

 

今回は別居中に夫以外の男性の子どもを妊娠した場合の「父親」を確定する方法について、解説します。父親が誰になるかは子どもの一生にとって非常に重要な問題なので、別居中に子どもができてしまった場合にはぜひ参考にしてみてください。(2023年5月8日現在の情報に基づきます)

 

1.嫡出推定とは

夫婦の別居中に子どもができた場合、その子どもの父親は誰になるのでしょうか?

この場合、子どもの父親は「夫」と推定されます。民法上、妻が婚姻中に妊娠した子どもは「夫の子ども」と推定されるからです(民法772条1項)。

また民法は、婚姻成立後200日から婚姻の解消または取り消しから300日以内に生まれた子どもは「婚姻中に妊娠した」と推定されると規定しています。

(嫡出の推定)

第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 

このように、法律によって子どもの父親が夫と推定されることを「嫡出推定」といいます。

嫡出子とは、妻が婚姻中に妊娠した子どもです。これに対し、未婚の状態で妊娠した子どもを「非嫡出子」といい、区別されています。

 

1-1.別居していても嫡出推定が及ぶ

嫡出推定については、夫婦が別居していても同居していても関係がありません。別居中の夫婦でも嫡出推定が及ぶので、別居中に生まれた子どもの父親は別居中の夫と推定されてしまいます。

 

1-2.子どもの父親は別居中の夫となる

別居中に別の男性との間にできた子どもも、嫡出推定によって夫の子どもと推定されます。そのまま子どもの出生届を提出すると、子どもの父親欄には夫の名前が掲載されてしまい、子どもは夫の戸籍に入ることとなります(夫が筆頭者の場合)。

 

2.推定されない嫡出子とは

一方、民法によって嫡出推定が及ばない嫡出子もあります。それは、婚姻成立後200日以内に生まれた子どもです。

ただし実際には婚姻前から性関係のあるカップルも多く存在するでしょう。よって現実には、嫡出推定が及ばない場合でも、父母が嫡出子として届け出れば夫の子どもとしての戸籍の届出が受け付けられています。

ただし届出時に母親が「嫡出ではない子ども」として届け出ると、原則通りに子どもは非嫡出子として取り扱われます。具体的には戸籍の母親欄にのみ名前が載り、父親欄は空白になります。この場合、非嫡出子なので、夫は子どもの父親になれません。

 

婚姻後200日以内に夫の子どもが生まれた場合、夫の嫡出子として届け出たければその旨役所で告げると良いでしょう。反対に、子どもの父親が夫でない場合には「嫡出ではない子ども」として届け出ると、戸籍に本当の親子関係を反映させやすくなります。

 

3.夫が子どもの血縁上の父親ではない場合の対処方法

別居中に子どもができると、子どもの父親が夫ではないケースも少なくありません。

そういったケースでも子どもの出生届を提出すると、子どもの戸籍上の父親が夫になってしまいます。

その場合、どのようにして真実の父子関係を戸籍に反映させれば良いのでしょうか?

 

嫡出否認の訴えを提起する

まずは夫の方から「嫡出否認の訴え」を提起する方法が考えられます。

嫡出否認の訴えとは、父親と推定された夫が「実際には父親ではない」と主張して嫡出子を否定するための請求です。

嫡出否認の訴えが認められると、子どもと父親の親子関係が否定され、その旨戸籍にも反映されます。

 

嫡出否認の訴えの期限

嫡出否認の訴えは、夫が子どもの出生を知ったときから1年以内にしなければなりません。期限を過ぎると請求できなくなるので、嫡出推定を否定したいときには急いで手続きすべきです。

 

調停前置主義

嫡出否認の訴えには調停前置主義が適用されます。すなわち、訴訟を起こす前に先に調停を申し立てなければなりません。

いきなり訴訟を起こすことは認められていません。

 

合意に相当する審判について

嫡出否認調停で父母が両方とも「子どもは夫の子どもではない」という認識で一致した場合、裁判所が「合意に相当する審判」という方法で決定を行います。

一般の調停のように、「調停成立」だけで解決されるわけではありません。

子どもの父親が誰かという問題は、夫婦が話し合って決めるべき事項とは異なるためです。裁判所が関与して、裁判所が相当と認めたからこそ子どもと父親の関係が確定する、という考え方です。

夫婦が合意するだけではなく、裁判所が事実関係の調査を行って相当と認めた場合に裁判官の判断によって「合意に相当する審判」が行われると理解しましょう。

 

調停が不成立になると訴訟が可能になる

嫡出否認の訴えには調停前置主義が適用されますが、調停が不成立になると訴訟が可能となります。

調停では夫婦の認識が一致せず不成立となった場合、夫側は訴訟を起こして子どもとの父子関係を否定できます。

 

4.夫が嫡出否認の訴えを提起しない場合の対処方法

嫡出否認の訴えは、現行法においては夫の側からしかできません。よって夫の方から嫡出否認の訴えを起こさない限り、子どもとの父子関係が否定されないままになってしまいます。

また夫や元夫が自分の子どもであることを知らないまま時間が過ぎると、1年の出訴期間が経過してしまって嫡出否認の訴えを提起できなくなってしまうケースもあります。

 

このように嫡出否認の訴えができなくなったら、どのようにして子どもと父親の親子関係を否定すれば良いのでしょうか?

 

4-1.外観上、嫡出推定を受けない場合がある

婚姻中に妊娠した子どもでも、外観上、夫の子どもでないことが明らかな場合、子どもが嫡出推定されない場合があります。

 

たとえば以下のような場合です。

  • 妻が妊娠した時点で夫が海外赴任していた
  • 妻が妊娠した時点で夫が刑務所に収監されていた
  • 妻が妊娠した時点ですでに夫婦が不仲になって別居していた

 

最高裁判所は、上記のようなケースでは民法上の嫡出推定が及ぶはずのケースでも嫡出推定がはたらかないと判断しています(最高裁平成10年8月31日)。

 

このように「外観上明らかに父子関係がない場合に嫡出性を否定する考え方」を「外観説」といいます。

 

4-2.嫡出推定を受けない子どもの場合、親子関係不存在確認請求ができる

外観説によって嫡出推定を受けない子どもの場合、嫡出否認の訴えによって嫡出性を否定する必要はありません。「親子関係不存在確認」の手続きによっても父子関係を否定できます。親子関係不存在確認とは、親子関係が法律上存在しないことを確認するための手続きです。

親子関係不存在確認請求にも調停前置主義が採用されているので、まずは調停を申し立てて合意を目指し、合意できなければ訴訟を起こして親子関係の不存在を確認する必要があります。実際の親子関係不存在確認の手続きでは、父と子どものDNA鑑定を行うなどして親子関係の不存在を立証します。

 

4-3.先回り認知請求もできる

親子関係不存在確認の手続きをしなくても、子どもの方から血縁上の正しい父親に対し、認知請求ができます。親子関係不存在が確定した後はもちろん、親子関係不存在確認の手続き前に先回りして認知請求することが認められています(最高裁昭和44年5月29日)。

これを「先回り認知請求」といいます。

 

なお先回り認知請求をしても夫へ通知されるとは限りませんが、場合によっては家庭裁判所から夫へ確認をとられるケースもあります。

親子関係不存在について十分な証明資料があれば、夫への通知が行われにくくなります。夫の関与なしに対応を進めたい場合には、あらかじめDNA鑑定書を揃えておくなど十分な準備を整えておく必要があるといえるでしょう。

 

4-4.外観上明らかではないケースでは親子関係不存在確認の手続きができない

以上のように、夫と妻が別居して没交渉になっている場合などには外観上の理由で嫡出推定が及ばないため、親子関係不存在確認の請求が可能となります。

一方、夫と妻が同居している場合や別居していても交流がある場合、嫡出推定が及んでしまいます。すると、親子関係不存在確認の手続きは利用できません。この場合、嫡出否認の訴えの期限を過ぎると誰からも父子関係を否定する請求ができなくなってしまいます(最高裁平成26年7月17日)。この場合、子どもと父親の血縁関係がないことをDNA鑑定などで証明できる状況でも、親子関係不存在確認請求などによって嫡出推定を覆すことができません。

 

4-5.法改正の動きについて

嫡出推定が及ぶ場合に親子関係不存在確認請求ができないと、本当は父子でないのに子どもと夫が一生父子として取り扱われてしまいます。このような状況は不合理といえるでしょう。

そこで2019年から法制審議会において嫡出推定規定の見直しが審議されています。

具体的には嫡出否認の訴えの出訴期間を長くしたり、母親や子どもの側からの嫡出否認の訴えを認めたりする方向で議論が行われています。

今後は嫡出否認の訴えを母親や子どもの側から行うなどして、嫡出性を否定する方法が認められる可能性が高いといえるでしょう。

 

5.出生届の方法

子どもが生まれた場合、14日以内に出生届を提出しなければなりません。

出生届は役所へ提出する必要があります。14日以内に出生届を提出しないと、過料の制裁が加えられる可能性もあります。嫡出否認の訴えが行われている最中でも、出生届は14日以内に提出しなければならない点に変わりありません。

 

ただ実際に離婚後に子どもが生まれた場合、父子関係不存在確認の判決や審判を得てから届出が行われるケースが多々あります。父子関係不存在確認の手続きが完了してからこれらの審判書や判決書を添えて出生届を提出すると、子どもはいったん父親の戸籍に入ることなく直接母親の戸籍に入れるためです。

もしも先に子どもの出生届を提出すると、子どもはいったん夫の戸籍に入り、その戸籍が訂正されるので「いったん夫の戸籍に入った経緯」が残ってしまいます。

 

戸籍の実務上、離婚後に子どもが生まれて親子関係不存在確認の請求が終わってから出生届が行われた場合、出生後14日が過ぎていても過料の制裁が加えられないケースが多数となっています。実際の戸籍実務では、実情に合わせて柔軟に対応しているといえるでしょう。

 

6.別居中に夫以外の男性の子どもができた場合の対処方法

以上をまとめると、別居中に夫以外の男性の子どもができた場合、以下のような対処方法があります。

  • 妻から夫へ親子関係不存在確認調停を申し立てる
  • 子ども(法定代理人である母親)からから真実の父親へ認知請求を行う
  • 夫から嫡出否認の訴えを提起してもらう

状況に応じて最適な方法を検討し、選択しましょう。

 

7.別居開始後の性関係は不貞行為にならない

別居中に別の男性との間で子どもができてしまった場合、夫からは「不貞」として慰謝料請求される可能性があります。ただ別居後に交際が開始した場合、不貞の慰謝料は発生しないと考えられています。(婚姻関係が破綻していると考えられるためです。)

別居するとその時点で夫婦関係が破綻し、その後の性関係によっても相手配偶者は精神的苦痛を受けないと考えられるからです。

 

別居後の性関係によって夫から不貞の慰謝料を請求されても、基本的に応じる必要はありません。

 

まとめ

離婚前の別居中に夫以外の男性との間で子どもができると、トラブルになるケースが少なくありません。夫の方から不貞にもとづく慰謝料請求されるケースもありますし、夫が嫡出否認の訴えに非協力的なケースも多々あります。

その場合、DNA鑑定書などを用意して、子どもや妻の方から夫へ親子関係不存在確認請求を行わねばなりません。

 

離婚前に子どもができると通常の事案以上にデリケートな問題が生じますし、専門的な対応が必要となるケースが多数です。困ったときには弁護士へ相談しましょう。

 

弁護士であれば事案に応じたアドバイスができますし、調停や訴訟の代理などのサポートも可能です。

 

名古屋駅ヒラソル法律事務所では離婚や子どもの問題に力を入れて取り組んでいます。類似事例についても取り扱合いをした経験がありますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。

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