夫と妻のいずれか収入の多い方を世帯主と判断してこの者に家族手当を支給するさだめ
こどもを連れて夫と別居した折に、自分の勤めている会社に、家族手当・住宅手当の支給を申請したところ、夫婦のいずれか収入の多い方を世帯主と判断して、世帯主にのみ家族手当・住宅手当を支給する定めになっているとして断られました。
離婚前とはいえ、別居後は私も住民票上の世帯主になっているのに、このような支給制限が許されるのでしょうか。
夫と妻のいずれか収入の多い方を世帯主と判断してこの者に家族手当を支給するさだめは、性別を基準としたものではなく、有効であると解されています。離婚前に別居中であったとしても、同様に解されます。本件においては、残念ながら家族手当・住宅手当を受給できない可能性が高いと考えられます。しかし会社に対して、実態に応じた適切な対応を求めていくことが大切です。
1 企業が定める世帯主要件の有効性
家族手当、諸手当の受給要件、支給内容等は、各企業の定めるところによります。「世帯主に支給する」と定めた場合の「世帯主」の意味についても、企業ごとに独自の判断基準を定めることができ、その基準が不合理であったり、男女を差別したりするものでない限りは有効とされます。
上記の事案では、会社に収入の多い方を「世帯主」として家族手当を支給する規定の有効性が問題となりますが、かかる規定は男女差別をするものではないですし、家族手当の二重払いを避けるための一定の合理性が認められます。
したがって、本規定は原則としては有効であると考えられるでしょう。この場合、離婚が長期にわたり実質的に離婚に等しい状態に陥っているなどの事情により弾力的運用を会社に求めることで受給できる場合があります。
2 間接差別となる場合
しかし、例外的に上記相談のような事例でも、家族手当受給規定が無効となり需給ができる場合があります。それは、支給規定が間接差別に当たり、労働基準法4条に反し無効となる場合です。
「夫婦の収入が多い方」であるとか、「住民票上の世帯主」といった、表面上性別に中立的な基準であっても、結果として差別的な効果をもたらす基準やその運用は、「間接差別」として違法となることがあります。裁判例でも、住民票上の世帯主・非世帯主の基準により本人給に差をつけた事案について、労働基準法に違反するとしたものがあります。
こういった裁判例を踏まえて、会社に対して実態に即した適切な対応を求めていくことが重要です。しかし、夫の会社・事業者が給与として支給しており、賃金直接払いの原則からいっても夫の承諾が必要になる場合があると考えられます。また、離婚の事実を濫りに明らかにして夫の会社と交渉した場合、名誉毀損で刑事告訴される可能性があることも否定できないことも注意しましょう。