内縁の夫が交通事故で死亡!妻が損害賠償請求できる?
内縁の夫が交通事故で死亡!妻が損害賠償請求できる?
内縁の夫が交通事故で死亡したら、妻は加害者に損害賠償請求できるのでしょうか?
弁護士:どう思う、青人?
青人:うーん、内縁の場合は、法律婚ではないんだよね。そうすると法律上は形式的に夫婦ではないから、夫の相続人としての地位は取得できないから、夫固有の慰謝料請求権を主張することはできないが、自分が傷ついたという慰謝料を主張できると考えるよ。
弁護士:では、一緒に考えていこう。
法律上、内縁の配偶者には、「法律上」形式的に遺産相続権がないので、預金や不動産は相続できません。「交通事故の損害賠償請求権」も相続による取得は認められません。
青人:一般的には、夫が交通事故でなくなった場合の慰謝料請求権などは、夫固有の損害賠償請求権を妻が相続すると考えるのだよね。だから、実務上はあまり不思議に思わないけれど妻固有の慰謝料請求ができるのかどうかという問題とパラレルになってくるよね。
弁護士:最近、名古屋地裁が犯罪被害者給付金の法制度が同性婚を含む内縁が包含されるかが争われたものがあったが、この考え方も法的な相続人をベースとするか、実質的な親密な人の精神的ダメージの回復か、いずれに重点を置くかで考え方が変わってくると思います。
では、一緒に考えてみよう。
それであれば、夫が死亡した内縁の妻には何の補償もないことになってしまいます。
しかしそのような結論は不当なので、法律は形式を超えて、内縁の配偶者にも一定の権利を認めています。しかしながら、やはり法律婚と完全に同じ保障とは言い難いものとなっているようです。
今回は内縁の配偶者が交通事故で死亡したときに内縁の妻に認められる損害賠償請求権について、解説します。
1.死亡事故の損害賠償請求権は「相続」される権利
通常、死亡事故が起こったら被害者の「相続人」が加害者へ損害賠償請求をします。死亡と同時に被害者が取得した損害賠償請求権を、相続人が相続するためです。つまり、夫の損害賠償請求権を「相続」した者として処理しているので相続人が誰であるかが大きな意味を持ちます。
死亡事故の被害者から相続される賠償金は、主に「逸失利益」と「慰謝料」です。
- 死亡逸失利益
被害者が交通事故で死亡すると、はたらけなくなります。本来であれば生涯はたらいて収入を得られたはずなのに、事故によって収入を得られなくなるため、その失われた収入を「逸失利益」として相手に請求できます。逸失利益が認められるのは、基本的に「事故前にはたらいて収入を得ていた人」です。相続人は本人から逸失利益を相続して加害者へ請求できます。
- 死亡慰謝料
被害者が死亡すると、被害者本人や遺族は大きな精神的苦痛を受けます。その精神的苦痛に相当する賠償金を「慰謝料」として請求できます。これは、勘違いしてはなりませんが、形式は、夫自体の慰謝料を考慮することになります。ですから、妻の精神的苦痛がどれくらい大きいかは通常問題とされないわけです。
2.内縁の配偶者には相続権がない
内縁の妻や夫には「相続権」がないので、逸失利益や慰謝料を「相続」しません。内縁の配偶者が交通事故で死亡しても、逸失利益や慰謝料の「相続」を理由としては加害者へ損害賠償請求できないのです。この点が先ほど、青人が不当だと主張した点なのです。
3.「扶養利益の喪失」として損害賠償請求が可能
それでは内縁の配偶者には何の補償も及ばないのでしょうか?
実際にはそのようなことはありません。形式論としては「扶養利益」に対する侵害として損害賠償請求権を有するような形で形式論的保護が与えられているのが内縁のポイントとなります。
裁判所は、内縁の配偶者が交通事故で死亡したとき、遺された配偶者の「扶養利益」が侵害されるとして損害賠償請求権を認めています。
扶養利益とは、「配偶者に扶養してもらえる利益」です。夫がはたらいて妻がその収入で暮らしている場合、妻は夫に「扶養されている」状態です。その夫が死亡したら妻は扶養される利益を失うので、その損害を加害者へ請求できるのです。
扶養利益の侵害は、相続とは無関係なので、相続権のない内縁の妻でも請求が認められます。
最高裁判所も、「内縁の配偶者が被害者から扶養されていた場合に被害者が死亡したら、内縁の配偶者は扶養利益の喪失を理由に加害者へ損害賠償請求できる」と判断しています(最三小判平成5年4月6日)。
4.相続人がいる場合の調整方法
死亡した配偶者に「子ども」などの相続人がいると、内縁の配偶者の損害賠償請求権との調整が必要になります。たとえば内縁の夫が再婚で、前妻との間に子どもがいるケースなどです。
法律上、子どもには相続権が認められるので本人の「死亡逸失利益」を相続します。死亡逸失利益は「被害者が死亡しなかったら得られたはずの収入」であり、内縁の配偶者に認められる扶養利益の損害賠償と重なり合います。
内縁の配偶者と相続人の両方に損害賠償請求権を認めると、同じ損害について2重請求を認める結果になって不都合です。
そこで裁判所は、内縁の配偶者と相続人の両方から請求があった場合には、内縁の配偶者への扶養利益の補償を差し引いた金額を相続人へ支払うべきと判断しています。
裁判例(名古屋地裁平成21年7月29日)
5年間同居していた内縁の夫が交通事故で死亡したケースです。内縁の夫には前妻との間に2人の子どもがいました。
裁判所は内縁の妻の扶養料を「月額8万円」として30年分認め、扶養料の侵害額を1,537万円としました。2人の子どもについては、被害者に認められる逸失利益約4,304万円から内縁の妻に認められる扶養料1,537万円を差し引き、2,767万円分の逸失利益の損害賠償を認めました。
5.近親者としての慰謝料請求も可能
交通事故の被害者は、逸失利益以外に「慰謝料」も請求できます。逸失利益は「将来得られなくなった収入」であり財産的な損害ですが、慰謝料は「精神的苦痛」に対する目に見えない損害で、別ものです。
内縁の配偶者には相続権がないので、被害者が受けた精神的苦痛に関する慰謝料を相続によって取得できません。ただ法律は、被害者が死亡したとき「遺族(近親者)」に固有の慰謝料を認めています(民法711条)。近しい親族が死亡すると人は通常大きな精神的苦痛を受けるので、その苦痛に対する慰謝料が認められるのです。被害者本人の損害賠償請求権は相続できなくても「自分の受けた精神的苦痛に対する慰謝料」を請求できると理解しましょう。
民法711条には「配偶者、親、子ども」と書いてありますが、この規定は内縁の配偶者にも類推適用されると考えられており、遺された内縁の配偶者は自分の「固有の慰謝料」を加害者へ請求できます。
相続人がいる場合の金額の調整
慰謝料についても、被害者に子どもなどの相続人がいる場合には金額を調整しなければなりません。
一般的に、死亡事故で発生する慰謝料には「相場」があり、一家の大黒柱が死亡した場合には2,800万円程度とされます。相続人や遺族が多数いるからといって慰謝料の金額が増えるわけではありません。内縁の配偶者と前妻の子どもが死亡慰謝料を請求する場合、どちらにどの程度認めるかが問題となるのです。
逸失利益や扶養利益の侵害のケースと異なり、慰謝料について裁判所は明確な割り振り基準を明らかにしていません。一例として、死亡慰謝料全体の金額を2,800万円としながら内縁の妻に900万円、2人の子どもに1,900万円を認めた裁判例があります(名古屋地裁平成21年7月29日)。
6.自賠責の「遺族」には内縁の配偶者も含まれる
死亡事故が発生すると、「遺族」は自賠責保険へ保険金の請求が可能です。
自賠責の保険金請求権が認められる「遺族」の範囲は法律上の「相続人」と異なり「内縁の配偶者」も含むので注意しましょう。交通事故で被害者が死亡すると「遺族」に含まれる内縁の配偶者も慰謝料を請求できます。
自賠責における死亡慰謝料の金額
被害者本人の慰謝料…350万円
遺族の慰謝料
| 被扶養者なし | 被扶養者あり |
遺族が1人 | 550万 | 750万 |
遺族が2人 | 650万 | 850万 |
遺族が3人 | 750万 | 950万 |
犯罪被害者給付金
このほか、犯罪被害者等給付金支給法は遺族給付金の対象になる配偶者について、「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む」と定めています。この法律において「犯罪行為」とは、日本国内又は日本国外にある日本船舶若しくは日本航空機内において行われた人の生命又は身体を害する罪に当たる行為とされており、犯罪行為による被害にあった場合は、この法律により遺族給付金の対象となる可能性がないとはいえません。
まとめ
内縁の配偶者が交通事故で死亡した場合、遺された配偶者に「相続権」はありません。ただし扶養されていた場合には扶養利益の侵害に対する損害賠償請求ができますし、慰謝料請求も可能です。名古屋でも交通事故が多数発生している状況で、死亡事故は他人事とはいえないでしょう。万が一の際にはお気軽に弁護士までご相談ください。