離婚を前提に別居したけれど「法律上の離婚原因」がない場合の対処方法
離婚を前提に別居したけれど「法律上の離婚原因」がない場合の対処方法
- 相手との同居が苦痛になったので別居した
- 離婚に応じてくれないので、相手に真剣に考えてもらうために別居した
- 同居しているともめてしまうので、冷却期間をおくために別居した
離婚を希望しても相手が了承してくれない場合、多くの方が「別居」を選択します。離婚を前提に別居をすれば、特に女性の別居の場合、家事の利益を失う男性やこどもと会えなくなるなどの点から「法律上の離婚原因」がなくても離婚に応じてくれることがあるのです。
確かに別居すると相手の気が変わって離婚に応じてくれる可能性がありますが、必ずしもそうなるとは限りません。
特に「法律上の離婚原因」がない場合には、すぐに裁判を起こしても離婚できない可能性が高いので、注意が必要です。
今回は法律上の離婚原因がないけれど、離婚を希望して別居しているときの対処方法を弁護士の視点から解説します。
できるだけ早期に離婚を成立させるため、ぜひとも参考にしてみてください。
1.法律上の離婚原因がないと離婚できない!
相手との同居が苦痛になって別居しても、必ず離婚できるとは限りません。協議や調停で離婚するには、夫婦双方の合意が必要だからです。相手が頑なに拒絶している状態では、離婚を強制できません。どうしても離婚に応じてもらえない場合には、最終的に「離婚訴訟」を申し立てて裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
訴訟では「法律上の離婚原因」があれば、夫婦が合意していなくても裁判所が離婚判決を出してくれて離婚が成立します。
1-1.法律上の離婚原因は?
法律上の離婚原因とは、民法が「夫婦関係が破綻した」と認める5種類の事情です。つまり、婚姻関係は修復が不可能な状態、破綻していないといけないのです。
該当する場合には夫婦関係が破綻していると認められるので、裁判所が離婚を認めてくれます。
- 相手の不貞
配偶者があなた以外の異性と性関係を持っている場合です。プラトニックな交際関係では「不貞」といえないので注意しましょう。
- 相手による悪意の遺棄
相手の収入が高いのに生活費を払ってくれない、正当な理由なく家出して戻ってきてくれない、同居を拒絶されている、などの事情です。
- 相手が3年以上生死不明
相手が3年以上生死不明の状況が続いていれば、裁判で離婚できます。
- 相手が回復しがたい精神病にかかっている
相手が重度の統合失調症や躁うつ病などにかかっていて回復が見込めない場合、これまで相手を献身的に介護してきたなどの一定条件を満たせば離婚が認められる可能性があります。
- その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
上記の4つに準ずるほど重大な事情があって夫婦関係の継続が難しい場合に、離婚が認められます。たとえば相手からDVやモラハラを受けていた場合、長期間の別居が続いている場合、夫婦がお互いに修復する意思を失っている場合などが該当します。
1-2.離婚原因が認められないケース
訴訟では、上記の5つのいずれかの事情がないと離婚が認められません。
たとえば以下のような状況では、訴訟を起こしても離婚できる可能性は低いと考えましょう。
- 性格の不一致が原因で別居している
- 相手が不倫しているが、証拠がない
- 宗教や思想、政治信条が合わない
- 別居期間が短い
- 一応別居しているがメールやLINEなどで相手と頻繁にやり取りしており、子どもを交えて家族として一緒に行動することもある
日本では「性格の不一致」によって離婚を希望する方が非常に多いのですが、性格の不一致は離婚原因にならないので注意しましょう。
2.何年以上別居すれば離婚が認められる?
別居は法律上の離婚原因ではありません。
ただし別居期間が長くなり夫婦としての実態が失われて修復不可能な状況になれば、訴訟で離婚が認められる可能性があります。そういった状況になると「婚姻関係を継続し難い重大な事由」があると考えられるからです。また、婚姻を継続し難い重大な事由は、他の有責事由との相補関係で別居期間が認められます。例えば、「重大な侮辱」がある場合については、1年半程度でも離婚が裁判上認められる可能性があるかもしれません。
では具体的に何年以上別居すれば離婚できるのでしょうか?
訴訟において「〇年以上別居すれば離婚できる」という明確な基準はありません。
ただ3~5年程度別居期間が継続しており夫婦としてのやり取りなどがなくなって没交渉の状態になっていれば、訴訟で離婚が認められる可能性が高くなってきます。(この意味で、別居直前に性交渉を持つべきではありません。)
別居後3年以上が経過して離婚調停も不成立になっているなら、1度訴訟を起こしてみるのもよいでしょう。具体的な状況により判断が変わってくるので、本当に離婚したいなら弁護士に相談してみてください。弁護士に相談するタイミングは、財産分与など他の審理事項がある場合、調停で1年程度かかることもあるかもしれませんので、それを考慮して提起するのも良いかもしれません。
自分が不倫している場合には要注意
自分が不倫している場合や相手に暴力を振るった場合などには、上記の理屈は当てはまらないので注意が必要です。別居後3年や5年程度別居期間が継続していても、訴訟で離婚が認められない可能性が高くなります。
法律では「有責配偶者」からの離婚請求は基本的に認められません。有責配偶者とは、「離婚原因を作りだした責任のある配偶者」です。
不倫をして離婚原因を作っておきながら、相手が望まないのに離婚を強制的に実現するのは不合理といえるでしょう。そこで自ら不倫した有責配偶者は、離婚訴訟を起こしても信義則上、離婚を認めてもらえません。
ただし有責配偶者からの離婚請求であっても、別居期間が10年程度続いていれば離婚が認められる案件もちらほら出てきます。
また、こどもがいない事例では、5年程度が一つのメルクマールではないかとの説も聴かれるところです。
たとえ過去に不倫したことがあっても、長期にわたって配偶者と別居状態が続いており相手との夫婦関係の実態が完全に失われているなら、1度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
3.協議や調停で離婚する
法律上の離婚原因がない場合にどうしても離婚したければ、可能な限り協議離婚や調停離婚を目指すべきです。離婚訴訟を起こしても、結局は請求棄却されて労力や時間が無駄になってしまう可能性が高くなるためです。
このような観点から、調停段階から弁護士を就けるのが妥当といえます。東京では、遺産相続のみならず離婚でも弁護士をつけるのが一般化してきています。
3-1.協議で離婚する場合の注意点
「離婚しない」と主張する相手との協議離婚を成立させるには、こちらの離婚意思が固いことをしっかりわからせて、「もはや修復の余地がない」と理解させなければなりません。
話し合いの際、相手をなじって攻撃するだけでは、かえって頑なな態度にしてしまう可能性が高いので注意しましょう。
また別居期間が長くなれば、相手も徐々に現実を受け入れていくものです。当初は強く離婚を拒絶していても、だんだんとあきらめの気持ちが生じて根負けするケースが少なくありません。粘り強く交渉しましょう。
3-2.離婚調停の注意点
協議では離婚できない場合、離婚調停を申し立てる方法も有効です。
調停は何度でもできるので、1回は相手に離婚を拒絶されて不成立になっても時間を置いて、再度申し立てられます。2回目の離婚調停で離婚できるケースもあるので、あきらめる必要はありません。
ただし離婚調停の際、こちらが離婚したい理由や強い離婚意思をうまく調停委員に伝えられないと、かえって「夫婦関係を修復してはどうか?」「別居状態を解消して家に戻ってはどうか?」などと説得されてしまう可能性もあります。
調停で離婚したいなら、しっかりと調停委員を説得するだけの準備を整えて臨みましょう。
弁護士を代理人に立てると調停委員を味方に引き入れやすくなりますので、口下手な方、1人で調停を申し立てるのが不安な方は相談してみるとよいでしょう。
4.別居期間中の生活費について
別居期間中、基本的に収入の高い側は収入の低い側へと生活費を払わねばなりません。
夫婦の生活費を法律上「婚姻費用」といいます。
婚姻費用は離婚が成立するか別居を解消するまで払わねばならないので、再び同居しない限りは離婚するまで延々と払い続けなければなりません。
4-1.婚姻費用を請求する場合
こちらが請求する側の場合、相手に婚姻費用を払わせることによって離婚へのプレッシャーをかけられます。相手が婚姻費用の支払いを辞めたければ、離婚に応じるしかない状況になるためです。
4-2.婚姻費用を請求される場合
こちらが婚姻費用を払わねばならない場合には、少々辛い立場に追い込まれる可能性があります。相手が離婚に応じなくても別居している限り送金をしなければならず、経済的な負担が大きくなるからです。
送金側が不利益を受けないためには、婚姻費用の「金額」に注意しましょう。
婚姻費用には法的な相場がありますが、離婚を希望するあまり相手の言いなりになって相場を超えた金額を定めてしまう方も少なくありません。そのような約束をすると、別居後の生活が苦しくなって首を絞めてしまいます。
また相手に求められるままに公正証書を作成してしまったら、給料などを差し押さえられてしまう可能性もあります。
別居時の生活費について取り決めをするときには、必ず弁護士に相談して妥当な金額を確認しましょう。
「離婚に応じてもらうため」と思って相手に譲歩しすぎると思ってもみなかった不利益が及ぶリスクが高まるので、自己判断で動かずに弁護士の意見をきいてみてください。
4-3.婚姻費用が高額過ぎる場合
いったん婚姻費用を取り決めたら、きちんと支払う必要があります。
払わないと「悪意の遺棄」として有責配偶者となり、ますます離婚請求が認められにくくなりますし、離婚するとしても慰謝料を請求されてしまうでしょう。
婚姻費用を取り決めた後に減収などによって支払が難しくなったら、婚姻費用の金額を変更しましょう。まずは相手と話し合って減額するのが基本ですが、難しい場合には家庭裁判所で「婚姻費用減額調停」を申し立ててください。調停で話し合っても金額が定まらない場合、裁判官が妥当な婚姻費用の金額を決めてくれます。
金額が過大になっていれば適正な範囲に抑えてもらえる可能性があるので、困ったときには早めに調停を利用しましょう。
当事務所は離婚に悩む方への法的支援に専門性を持とうと力を入れている名古屋の法律事務所です。別居中の生活費や相手が離婚に応じない場合の対応にも長けています。一審で請求棄却の事例を高裁で和解離婚に持ち込んだケースもありますので、お困りの方がおられましたらぜひ、ご相談ください。