パターン別 離婚後も自宅に済み続けるための対処方法を弁護士が解説!
パターン別 離婚後も自宅に済み続けるための対処方法を弁護士が解説!
「離婚しても自宅に住み続けるにはどうしたらいいのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースがよくあります。
「子どもが成人するまで、小学校や中学校を卒業するまでの間だけでも家に住みたい」と考える方も多いでしょう。
家に住み続ける方法は、持ち家か賃貸かによっても変わってきます。
この記事では持ち家のケースと賃貸のケースに分けて離婚後も自宅に住み続ける方法を解説します。
ただし、すべてのケースであてはまるわけではありません。ご了承ください。
「できれば離婚後も居住環境を変えたくない」と考えている方はぜひ参考にしてみてください。
1.持ち家の場合
まずは持ち家の場合、どのようにすれば離婚後もマンションなどの家に住めるのか、みていきます。
1-1.財産分与してもらう
1つ目は家を財産分与してもらう方法です。
ここでいう財産分与とは、夫婦共有財産を離婚時に分け合う清算的財産分与です。
預貯金や生命保険、車や株式などと同様に、不動産も財産分与の対象になります。
もっとも、財産分与してもらえるだけの、持分が自分にあるのか、足りない部分は代償金で補えるのか、などが問題になると思います。
名義と財産分与の関係
不動産の場合、名義人が不動産登記によって明らかにされています。夫婦で居住している家であっても、100%どちらかの名義になっている場合や共有登記にしている場合など、さまざまな状況があるでしょう。
ただ夫婦で財産分与する場合には、名義にこだわる必要はありません。
たとえば夫名義が100%の家を妻が取得してもかまいません。夫が6割、妻が4割などのように共有登記にしている場合でも、夫が6割、妻が4割分の権利を取得することにこだわる必要はないのです。
財産分与の割合は、夫婦で2分の1ずつにするのが原則です。
名義に限らず、家については基本的に「夫婦がそれぞれ半分ずつの権利を持つ」と考えましょう。
財産分与割合と家の分け方
財産分与の際には夫婦で2分の1ずつにするのが原則ですが、必ずそうしなければならないわけではありません。
双方が納得すれば、財産分与割合は自由に変えられます。たとえば家を全部妻が取得することにしても問題はありません。
離婚後も家に住み続けたい場合には、相手と話し合って家を全部譲ってもらえるように交渉しましょう。
財産を半分ずつにするけれど家に住みたい場合
財産分与の割合は半分ずつにするけれど、家に住み続けたい場合にはどうすれば良いのでしょうか?
この場合、家を取得する側が相手へ「代償金」を払って清算します。2分の1を超える部分の代金を相手に支払い、家を買い取るイメージです。
たとえば家の価値が3000万円のケースにおいて、妻が家を全部取得するとしましょう。この場合、妻が夫へ1500万円を現預金で支払えば公平に財産分与ができます。
代償金さえ支払えば家は妻のものになるので、離婚後も妻や子どもが住み続けることができます。
こうした代償金を支払うことができるかで、妻が家を取得できるかなどが変わってくることも少なくないと思います。
住宅ローンと財産分与
家を分けるとき、よく問題になるのが住宅ローンです。
住宅ローンが残っている家やマンションの場合、どのように分ければ良いのでしょうか?
この場合「家の価値から住宅ローン残高を引いた金額」が正味の家の価値として財産分与対象になります。清算的財産分与を行う場合、その金額を2分の1ずつにします。
たとえば3000万円の価値があるけれども2000万円のローンが残っている物件があるとしましょう。この場合、物件の価値は1000万円となります。それを夫婦で等分に分けるので、お互いの権利は500万円ずつです。
妻が家を全部取得する場合、夫へ500万円を払ったら取得できることになります。
ただし夫が家のローンを払っている場合、住宅ローンを完済するまでの間は家の名義変更ができません。ローン完済前似勝手に家の名義を変えると住宅ローン契約違反になってしまうためです。
そうなると一括返済請求される可能性もあるので、やってはいけません。
この場合、以下のように対応しましょう。
- 住宅ローンの借り換えをする
たとえば夫名義の家があって妻が財産分与を受けたい場合、妻が金融機関へ申し込んで住宅ローンの借り換えをします。審査に通れば家の名義とローン名義が妻となり、妻は安心して家に住み続けることができます。反対にいうと、借り換えや代担保の提供ができない場合は、住宅ローンの借り換えができない場合もあります。
- 金融機関と交渉して家の名義人を変更する
2つ目は、今の借入先の金融機関に相談して家の名義人を変更する方法です。
ただ現在のローン名義人より新しいローン名義人の収入が低い場合などには、名義人の変更を認めてもらえない可能性が高くなります。別の物的担保や保証人を求められるケースも多いので、状況に応じて交渉を進めましょう。
- 住宅ローンはそのまま家に住み続ける
3つ目は、住宅ローン名義はそのままにして家に住み続ける方法です。もっとも、夫側に不利であるため、実現する可能性がどれくらいであるかは慎重に検討する必要があるでしょう。
たとえば家の名義が夫になっていて妻が離婚後も家に住みたいけれど、借り換えもローン名義人の変更もできない状況だとしましょう。
この場合、ローン名義は夫のまま妻が子どもと一緒に家に住み続けるのです。
ただし他人のローンが設定されている家に住むと、ローン名義人がローンを払わなくなったときに家を退去させられるリスクが発生します。またローン名義人から賃料を請求されたら基本的には払う必要があるでしょう。
他人名義の家に住み続けると、ある程度のリスクは発生するので、十分に理解した上でこのスキームを利用すべきです。
また、基本的に、この場合、家の名義は、夫が取得することが多いでしょうから、最終的には妻が不動産の所有権を取得できることはできず、一定の時期に出ていく必要があると思われます。
1-2.扶養的財産分与について
財産分与には「扶養的財産分与」もあります。扶養的財産分与とは、離婚後に配偶者の一方が十分な生活力を持てない場合、一定期間、他方配偶者が生活費を支援するタイプの財産分与です。たとえば離婚後2年間、元夫が妻に生活費として毎月10万円程度送金を続けたりします。
離婚後も妻が家に住みたいけれど、妻に家を買い取る代償金を払う資力がない場合などには扶養的財産分与の考え方が役に立つでしょう。裁判例でも、扶養的財産分与の考えを踏まえて離婚後の一定期間、妻と子どもが家に住み続けるための賃借権を設定した事案があります(名古屋高裁平成18年5月31日)。
賃借権を設定する期間については、子どもが成人するまで、高校を卒業するまで、小学校を卒業するまでなどの間などと取り決めるケースがよくあります。ご家族の状況に応じて期間設定しましょう。
以上のように清算的財産分与では家の取得が難しい場合でも、扶養的財産分与を設定してすれば家に住み続けられる可能性があります。ただし、扶養的財産分与は原則認められない、ということを念頭に置いておく必要があるでしょう。
1-3.使用権を設定してもらう
清算的財産分与では家を取得できない場合でも、家の使用権を設定してもらえば家に住み続けられる可能性があります。もっとも、使用権を設定する側はほとんどメリットがありませんから、あまり現実的な解決方法とはいえません。
無償で住まわせてもらう「使用貸借契約」を設定しても良いですし、有償で住まわせてもらう「賃貸借契約」を設定してもかまいません。
相手が無償利用を認めないなら賃貸借契約として、賃料を支払うと良いでしょう。ただし、離婚した父母で、適正賃料の設定をすることは難しいことが多く、この観点からも、あまり実務上は見かけないおのといえます。
賃料の金額は、周辺の相場を参考にしたり住宅ローンを代わりに支払うことにしたりして、定めるケースが多数です。
今後子どもが成人するまでの間だけでも使用権を設定してもらいましょう。ただし、こどもが未成熟子の場合は、不動産の価値が低下することも考えられ、成人するまで使用権を設定することも考えられなくはないが、あまり現実的ではない、というところだと思います。
1-4.共有持分権にもとづく利用
家の名義が共有になっている場合には、共有持分にもとづいて家を利用できる可能性があります。
共有持分権者には対象物を使用する権利が認められるからです。たとえば10分の3など一部の持分であっても、対象物の全部を使用できます。3割しか使えないわけではありません。
ただし持分を超えて対象物を利用する場合、他の共有者へ賃料相当額の使用料金を払わねばなりません。共有持分にもとづいて離婚後も家に住み続ける場合には、相手と話し合って「いくらの使用料を払うのか」取り決める必要があるでしょう。
なお共有物に関しては「共有物分割請求」ができます。一般的なケースで共有物分割請求をされると、相手が家を買い取ったり家が競売にかかったりして家が失われる可能性があります。
ただし離婚後の居住用不動産が共有になっている場合、元配偶者が共有物分割請求を行って追い出しにかかるのは「権利濫用」として認められない可能性もあるようです。大阪高裁平成17年6月9日の裁判例でも、そういった判断がなされています。
離婚後に相手から共有物分割請求をされても、家に住み続けたいなら誠実に協議をする必要があります。困ったときには弁護士へ相談しましょう。
2.賃貸物件の場合
次に婚姻中に賃貸物件に居住している場合、どのようにすれば家に住み続けられるのかみてみましょう。
2-1.家や相手と話し合って賃借人の地位を引き継ぐ
離婚後も賃貸物件に住み続けたい場合、元配偶者や大家と話し合って賃借人の名義を変えるのが一番確実です。離婚後にはあなたが賃借人となれば、家賃を払っている限り大家から退去を迫られる心配がありません。
この方法をとる場合、できれば離婚前に大家の承諾をとりましょう。名義人が変わるので賃貸借契約書も作成し直すべきです。
2-2.相手が協力しない場合や大家が拒否する場合
それでは元配偶者や大家が賃借人の名義変更に協力しない場合にはどうしたら良いのでしょうか?
元配偶者が承諾しなくてもかまわない
この場合、元配偶者が協力しなくても物件に居住することは可能です。
賃貸借契約は賃貸人と賃借人との間で成立するものだからです。基本的には大家が賃借人の変更を承諾すれば、賃借人名義の変更ができると考えましょう。
大家が承諾しない場合
では大家が賃借人の変更を認めない場合には、退去せざるを得ないのでしょうか?
法的に、そういった理解にはなっていません。
婚姻後に配偶者のどちらかの名義で家を借りた場合、相手配偶者もその物件について賃貸人の地位を持っていると考えられるからです(東京地裁昭和39年8月5日参照)。
つまり婚姻中に家を2人で借りたのだから、名義にはかかわらずどちらにも賃借権がみとめられる、という意味です。
賃料滞納などの信頼関係破壊行為がなければ、離婚後も名義人ではない配偶者が賃貸物件に住み続けられます。
2-3.結婚前に借りた家の場合
別れた配偶者が結婚前に借りた家の場合、上記の理屈があてはまりません。
離婚して名義人が出ていってしまったら、相手配偶者は賃借人の地位を引き継げない結果になります。
ただし名義人が出ていった後も元配偶者が賃料を払って住み続けており、大家もそれを知りながら特にクレームを出したり退去を迫ったりしなかったとしましょう。この場合「黙示の承諾」があるとして、元配偶差者に賃借権や転借権が認められると可能性があります。いったん承諾してしまったら、大家は元配偶者へ退去請求できません。
つまり名義人が出ていった後も元配偶者が賃料を払っていてしばらくの間、特に何も言われなかったら、そのまま家に住み続けられる可能性があるという意味です。
2-4.物件から退去しなければならない場合とは
以上のように、賃貸物件の場合には相手が出ていったとしても、賃借人の地位を引き継いで家に住み続けられる可能性が高いといえます。
ただしこれは「賃料をきちんと払い続けている場合」に限られます。
賃料支払いは賃借人の重要な義務であり、支払わないと賃貸人への重大な裏切り行為となってしまいます。
たとえ賃借人の地位を引き継げるとしても賃料を払わないと大家から明渡し請求されてしまうので、そういったことのないように賃料はきちんと支払いましょう。
通常は、家賃は婚姻費用から全額引かれてしまうので、大きすぎるなどの事情がある場合は、物件から退去しないということにこだわらず、退去するケースが多いと思います。
まとめ
今回は、離婚後も家に住み続ける方法について持ち家と賃貸のパターンに分けて解説しました。離婚しても今の環境を変えたくない方は参考にしてください。
名古屋駅ヒラソル法律事務所は財産分与を始めとする離婚問題に詳しい弁護士事務所です。子どもの問題にも熱心に取り組んでおり、親身に対応いたします。離婚後の財産分与や家・マンション、お子さまへの影響などについてお悩みがある方は、お気軽にご相談ください。