専業主婦でも財産分与してもらえるのか?
専業主婦でも財産分与をもらえるのか?
離婚の際には、夫婦が共有財産を分け合うため「財産分与」を行います。妻が専業主婦の場合、「自分で働いてお金を貯めたわけでもないので、財産分与をもらえなかったり減らされたりするのでは?」「主人から『稼ぎに文句があるなら自分で稼げ』といわれ続けていたので・・・」と考える方もおられます。
離婚協議の際、夫が専業主婦の妻に対し「お前は財産形成に貢献していないから財産分与はやらない」「3割程度で良いだろう」などと言うケースも少なくありません。
今回は専業主婦でも財産分与を受けられるのか、その割合がどのくらいになるのか、名古屋で離婚問題を日常的に取り扱っている弁護士が解説していきます。
1.財産分与とは
そもそも財産分与とはどのようなものか、理解しておきましょう。
財産分与にはいくつか種類がありますが、離婚時に夫婦の共有財産を清算するための「清算的財産分与」がもっとも重要で頻繁に行われるものです。清算的財産分与とは、婚姻中に夫婦が形成した夫婦の共有財産を、離婚時にお互いが分け合う手続きです。
婚姻中は、夫婦のお互いの財産が「共有状態」となっています。しかし離婚すると夫婦の家計や資産管理はお互いに別々になるので、共有状態のままにしておけません。そこで財産分与を行って共有状態を解消し、お互いの財産内容を明確にします。
財産分与の対象になるのは、婚姻中に夫婦が積み立てた財産全般です。現金や絵画、骨董品などの「物」だけではなく預貯金や不動産、株式や投資信託、車などの「名義」があるものも財産分与対象です。財産分与するときには、婚姻中の名義とは無関係に清算します。
2.財産分与の割合は基本的に2分の1
財産分与をするとき、夫婦でどのくらいの割合になるのでしょうか?
今の日本の社会では男女は平等です。そこで財産分与においても男女で格差が生じることはなく、基本的に夫婦が2分の1ずつに分け合います。家事労働が評価されている裏付けともいえます。
妻が専業主婦でも兼業主婦でも割合を変更されることはありません。
共働きでも夫の方が妻より収入が多いケースもよくありますが、その場合でも財産分与割合は2分の1ずつです。
なお海外では子どもの親権者となった場合に財産分与でも有利になる国がありますが、日本ではそういった制度も採用されておらず、親権者になってもならなくても財産分与は2分の1ずつが原則です。
3.専業主婦でも財産分与を減らされない理由
以上のように、専業主婦であっても財産分与割合を2分の1以下に減らされることはありません。
「なぜ収入がないのに夫と同じだけ請求できるのか?」と疑問を持たれる方もおられるでしょう。それは、妻が家で家族のために行っている家事労働に価値が認められるからです。妻が家で家事や育児をしっかり行っていたからこそ夫が外で安心して働いて収入を得られたという意味で、妻は夫婦の財産形成に貢献していると言えます。いわゆる「内助の功」による財産形成に対する貢献を認めているのです。
そこで専業主婦でも兼業主婦でも高収入な夫と同じだけの財産取得権が認められます。
離婚の際、夫から「お前は専業主婦だから財産は渡さない」などと言われても、「法的に権利が認められているからきちんと支払いをしてください」と言って堂々と財産分与を求めることができます。
しかも財産分与は「内助の功」だけでは説明がつかず、夫が当てた宝くじでも別居前であれば財産分与の対象になるとされています。つまり公平や公正といった理念も財産分与を支えているのです。
つまり、宝くじの当選金の取得に妻の直接の協力を観念することはできないから,これが財産分与の対象になるのは,夫婦共有財産を清算するという理由ではなく,夫婦間の公平や離婚後の生活の安定を図るという離婚給付の論理によるものとされます。(成澤寛教授・民商法雑誌155巻1号187頁)
なお、この場合、2分の1ルールを適用する必要もない。例えば,東京高決平成29年3月2日家判13号71頁は,妻4:夫6の割合で分与を命じています。
4.裁判所ではどういった考えが採用されているか
夫婦の財産分与割合について、裁判所ではどういった考え方が採用されているのでしょうか?
実は昭和の時代の裁判例をみると、専業主婦の財産分与割合を2~3割程度に減額する例がいくつもみられます。これは,その時代の考え方を反映したものといえるでしょう。
しかし現在の裁判において、専業主婦だからという理由のみをもって女性側の財産分与割合を減らすものはありません。
有名な裁判例として、広島高等裁判所平成18年(ネ)第564(平成19年4月17日)の判決があります。ここでは、「夫婦が婚姻期間中に取得した財産は、夫の経済活動だけではなく妻による家計管理や家事育児等などの活動の成果として得られたものであるから、妻が専業主婦であっても家事による寄与を正当に評価すべきである。」として妻に2分の1の財産分与割合を認めています。
現在裁判を行い「妻が専業主婦だから財産分与を減らすべき」と主張しても、通常は通用しません。ただ、法的に通用しなくても単身赴任など「内助の功」が形式的になっている場合は、感情的軋轢を生じやすいといえるでしょう。
5.例外的に財産分与割合が修正されるケース
ただし、必ずどういったケースでも妻の財産分与割合が2分の1になるわけではありません。夫婦の財産が一方の極めて特殊な才能やスキル、地位などによって得られたものであれば、他方の貢献度が低いと判断されて割合が修正される可能性があります。
たとえば夫が医師で病院を経営しており、通常人をはるかに上回る収入を得ているケースなどでは、専業主婦の財産分与取得割合を5%程度に制限された例もあります。
夫が事業家で極端に高収入な場合(婚姻期間中に数百億円の収入を得るような場合)にも、専業主婦である妻の取得割合を減らされる可能性が高いと言えます。
同じように、夫が芸能人、アーティストなどで通常人が得ることのできないような収入を得ていたら、妻の財産分与割合を減らされる可能性があります。
このように、夫が通常人ではなく特殊な才能やスキルを持っており、極端に高い収入を得ている場合には、専業主婦だからという理由ではなく夫婦それぞれの財産形成への貢献度が異なるために財産分与割合が修正されます。
また、内助の功があまり関係がない場合は裁判所により割合が修正されやすいといえるでしょう。例に挙げた宝くじのケースでは、妻の家事労働と夫が宝くじを当てたことに因果関係がないからです。この場合は公平や公正の理念から分与の対象になりますが、「内助の功」とは関係がないので裁判所は自由に割合を設定しやすいという見解があるようです。
例外的なケースの場合や資産が多い場合は、夫、妻、どちらのケースでも離婚弁護士を選任しておいた方が適当といえます。
6.話し合いにより、妻が多額をもらってもかまわない
ここまで「財産分与割合が法的にどのくらいになるか」という観点から説明をしてきましたが、現実には財産分与は夫婦が協議して決定するケースが多数です。その場合には、お互いが納得さえすれば財産分与割合を自由に決められます。ぴったり半分にすることも財産の中に固定資産があると難しい場合があり、弁護士が必要な場合が多いのです。
専業主婦の場合、離婚後の生活に困る可能性もあります。特に子どもを抱えてシングルマザーになる場合、経済的な困難に直面するケースが少なくありません。そのようなとき、夫が妻へ財産を多めに譲り、離婚後の生活に使わせるよう配慮するのは通常よくあることです。たとえば自宅をそのまま分与する、預貯金を分与する、せめて子どもの学資保険はそのまま妻に分与する、子どもの貯金は子どもに帰属させるなどの対応があります。
もっとも、お金のことになるとシビアになる人がほとんどで、なかなか互譲しにくいという側面もあり、40代~60代以上の離婚訴訟は多くが争点は財産分与のみというケースもあります。反対に20代~30代は資産形成がそれほど進んでおらず特有財産ばかりというケースもあり、そこまで争点化していないケースが多いと思われます。
専業主婦であっても財産分与を半分取得できますし、話し合いによってはむしろそれより多額を取得できる可能性もあります。夫との離婚協議で財産分与を減らされそうになっている方がおられましたら、弁護士がお力になります。財産分与は「離婚後応援金」「再出発計画資金」「老後に備えた大事な準備金」と考えてください。当事務所では財産分与計算を非常に得意とする弁護士(安藤一幹弁護士、慶應義塾大学院卒、愛知県安城市在住で名古屋市の法律事務所に所属、愛知県弁護士会所属*2019年9月1日現在の情報をもとにしています。記事の閲覧時期によっては異動が生じている場合があります。)が所属しておりますので、お困りの際には、お気軽に無料の離婚相談でご相談下さい。
2019年9月1日時点の情報をもとにしております。