交通事故による賠償金は財産分与の対象になりますか。
財産分与の対象となるのは、夫婦が協力して得た財産を2分の1ルールで分けるということになります。具体的には、労働によって築いた財産が典型的なものとなります。例えば、夫が外で働いて妻が家事をするという場合、夫が外で働いて築いた財産は、妻の「内助の功」によるものですので、離婚にあたっては、それによって得た財産は分与の対象となります。
では、交通事故はどうなのか?
まず、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料については、被害者の精神的苦痛に対して支払われるものであって、夫婦が協力して得た財産とはいえません。したがって、財産分与の対象とはなりません。
次に、逸失利益については、事故の後遺障害によって労働による収入が将来に渡って減少することを賠償の対象となるものです。したがって、別居前までに受け取っていればこれに対して支払われる賠償金や保険金は財産分与の対象となります。もっとも、将来の労働能力の先取りと考えると別居後の給与を財産分与の対象に加えるとの見解もあり反対する見解もあります。
どれだけの逸失利益を分けるのが妥当か
そもそも、逸失利益は、後遺障害が残ったときから就労可能年までの将来に渡って得られたはずの収入を一時に賠償金として受け取るものです。
この点、将来に渡る就労可能な年数分の賠償額すべてを財産分与の対象にするのは妥当ではありません。常識的には、後遺障害が残ってから離婚する日(又は別居する日)までに相当する部分を財産分与の対象とするのが妥当です。
大阪高等裁判所平成17年6月9日
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,原審判3頁20行目から同6頁22行目までの事実を認めることができる(ただし,同3頁27行目の「申立人」を「相手方」と,同4頁7行目の「述とべ」を「と述べ」と,同頁19行目の「自動車損害賠償」を「自動車損害賠償保険」と,各改め,同5頁17行目の「治療費等」の次に「(休業損害1560万円《52万円×30か月》を含む。)」を加える。)。
2 財産分与の対象財産は,婚姻中に夫婦の協力により維持又は取得した財産であるところ,上記保険金のうち,傷害慰謝料,後遺障害慰謝料に対応する部分は,事故により受傷し,入通院治療を受け,後遺障害が残存したことにより相手方が被った精神的苦痛を慰謝するためのものであり,抗告人が上記取得に寄与したものではないから,相手方の特有財産というべきである。
これに対し,逸失利益に対応する部分は,後遺障害がなかったとしたら得られたはずの症状固定時以後の将来における労働による対価を算出して現在の額に引き直したものであり,上記稼働期間中,配偶者の寄与がある以上,財産分与の対象となると解するのが相当である。
本件においては,症状固定時(記録によれば,相手方は,○△口大学病院脳神経外科で,一旦,頭部外傷の症状が平成14年2月4日に固定したと診断されたが,その後の経過から,同病院で,同年12月9出改めて症状が固定し,大脳萎縮の亢進があり記憶障害など高次脳機能障害が残存したと診断されたことが認められ,症状固定日は同年12月9日と認めるのが相当である。)から,離婚調停が成立した日の前日である平成15年9月18日までの284日間の分につき財産分与の対象と認めるのが相当である。
以上を前提に,上記期間の逸失利益相当額を算定すると,次の計算式のとおり概ね307万1626円となる。
515600円×12×0.67×0.9523×284÷365=3071626円
3 記録によれば,相手方は,症状固定後も,平成15年3月までの間,上記保険会社から月額52万円の支払を受け,うち45万円を抗告人に渡し,生活費として費消されたことが認められる。
これには,上記逸失利益の期間と重複する部分(平成14年12月9日から平成15年3月までの労働の対価)があるが,保険会社側で何らかの事情により重複支払をしたに過ぎないとみられるから,これを財産分与の先行取得と扱う必要はないというべきである。
抗告理由(1)は,上記の限度で理由がある。
4 そして,記録によれば,抗告人は,家事育児全般に従事し,その結果,相手方が事業に専念できたと認められるから,寄与割合は,概ね2分の1と認めるのが相当である。
以上によれば,相手方の抗告人に対する財産分与額は,上記金額の概ね2分の1に当たる金額である154万円と定め,抗告人に同額を取得させるのが相当である。
よって,相手方に対し,154万円及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を抗告人に支払うことを命じるものとする(財産分与の裁判は形成の裁判であるから,財産分与金に対する遅延損害金の支払は,裁判確定の日の翌日からとするのが相当である。)。