住宅ローン債権者に対する預金担保として住宅ローン残高とほぼ同額の預金債権がある場合

東京高裁平成29年6月30日

元夫である原審申立人が,元妻である原審相手方に対し,財産分与の審判を申立て,原審が不動産の持分分与を不相当として金員の支払いを命じたのに対し,双方が抗告した事案。抗告審は,原審判を変更し,共有名義の本件不動産につき,双方を連帯債務とした住宅ローンの抵当権が設定されているが,原審相手方が債権者に対して預金債権を有し,抵当権実行の可能性は低いとし,該不動産の原審相手方の共有持分を同申立人に分与し,その移転登記手続等を命じた事例

シュシュとのパースペクティブ

シュシュ:本件は不動産の財産分与で登記名義が2分の1ずつになっていたというものだね。

弁護士:夫は財産分与で、妻の持分の取得を希望していたんだ。

シュシュ:原審は、妻が主債務者であり、夫は保証人、妻の借入金債務を被担保債権として抵当権が設定されているとして、妻が返済を怠ったら抵当権が実行される可能性があり、夫が債務を弁済すると求償関係の問題が生じるので、夫への分与を認めなかったんだ。

弁護士:抗告審はおもしろい判断をしているね。

シュシュ:不動産の評価は、資産価値から負債を控除したもので求めるわけで、そうなると原審のように抵当権が実行される可能性があるということになります。ところが抗告審は、妻名義の普通預金が住宅ローンの預金担保になっていることに着目したよ。実務上、普通預金が預金担保になっているか否かまでは調べないことも多いと思うので注目されるね。

弁護士:まあ、そうなると、不動産の資産価値と相殺すべきもの、つまり控除すべきものは、預金、債務とも0として、本件不動産には抵当権が附されているものの、被担保債権額を控除しないものとしました。

シュシュ:結論として、抵当権が設定されているものの、妻の預金債権が先に担保に供される可能性が高いということで、妻の共有持分を夫に譲渡したというものです。

弁護士:個人的に不動産は、資産価値と、住宅ローンの負債を控除した残額が資産価値となるので、別途の預金債権があるので、そちらに着目して住宅ローンの負債についている抵当権に着目しないのは少し無理がある判断だなと思いました。

シュシュ:本件は、不動産を購入するため住宅ローンがあり、かつ、抵当権があるものの、本件不動産から債務を控除することの処理自体には争いはないよね。ここでは、妻名義の預金に担保が設定され、預金と住宅ローンがほぼ同額という特殊事情があったんだね。

弁護士:たしかに、ほぼ同額だと抵当権を実行するより相殺してしまう方が現実的だね。

シュシュ:債務と担保預金の評価をいずれも0とすることで、これによると本件不動産には抵当権が設定されているものの、実行される可能性が低いとして、本件不動産の妻共有持分を元夫の希望するとおり、同人に分与した。

弁護士:まあ、おもしろいよね。預金をゼロに評価するからこそ、抵当権の実行可能性もゼロになるという、本当に形而上学的、論理的な判断だよね。

シュシュ:とはいうものの、預金担保が設定された住宅ローンの処理についての判断は少ないので、こういう主張の仕方もあるんだね。

判例

1 原審判を次のとおり変更する。
  (1) 原審申立人に対し,別紙物件目録記載の土地建物の原審相手方持分2分の1を分与する。
  (2) 原審相手方は,原審申立人に対し,別紙物件目録記載の土地建物の原審相手方持分2分の1につき,前項の財産分与を原因とする持分移転登記手続をせよ。
  (3) 原審相手方は,原審申立人に対し,710万円を支払え。
 2 手続費用は,第1,2審を通じ,各自の負担とする。

       理   由

 (前注)略称は原審判の例による。
 第1 抗告の趣旨および理由
 1 原審申立人
 抗告の趣旨及びその理由は,即時抗告申立書,平成28年■月■■日付け「追加説明」と題する書面に記載のとおりである。
 2 原審相手方
 抗告の趣旨及びその理由は即時抗告申立書,平成28年■月■■日付け「主張書面」と題する書面に記載のとおりである。
 第2 事案の概要
 本件は,原審申立人が原審相手方に対し,財産分与を求めた事案である。
 原審は,原審相手方に対し2769万円の支払を命ずる旨の審判をした。
 原審申立人と原審相手方は,それぞれ即時抗告をした。
 第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所は,原審申立人に対し別紙物件目録記載の土地建物〔以下「本件不動産」という。〕の原審相手方持分2分の1を分与し,原審相手方に対しその本件不動産の持分2分の1につき財産分与を原因として原審申立人に持分移転登記手続をするように命じ,原審相手方は原審申立人に対し財産分与として710万円を支払うように命ずるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原審判の理由の第1の2(2),3,第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
 (1) 原審判9頁1行目の「上記番号の各資産」を「上記番号のうち2-1から2-10までの各資産」に改め,3行目末尾に次のとおり加える。
 「上記番号2-11は,■■■の原審相手方名義の普通預金口座(口座番号■■■)の預金であるところ,これは,原審申立人と原審相手方が本件不動産(■■■の物件)を各持分2分の1として購入した際に,その資金として■■■から連帯債務として借り入れた住宅ローン(原審別紙相手方名義の資産・負債表番号4-2の債務5630万8895円)の預金担保となっている(原審相手方の即時抗告申立書)。
 そうすると,上記預金は担保とされ,その預金額と住宅ローン債務額はほぼ同じであるから,離婚時の財産分与の対象となる資産としては,これらを併せて評価し,預金,債務とも0とする。したがって,本件不動産については,登記上担保が付されているけれども,その評価額から被担保債務額を控除しないこととする。」
 (2) 原審判9頁16行目冒頭から10頁1行目末尾までを次のとおり改める。
 「 オ 原審別紙相手方名義の資産・負債表番号4-2(債務)
 前示のとおり,同債務は,ほぼ同額の預金担保が付されていることから,評価として0とする。
 カ 相手方名義の共有財産額のまとめ
 原審相手方名義の共有財産額は次のとおりとなる。
  1-1    2036万5000円
  2-1~10 1692万4488円
  2-11           0円
  4-1    5650万0000円
  債務             0円
  控除後    9378万9488円」
 (3) 原審判10頁18行目冒頭から24行目末尾までを次のとおり改める。
 「(2) そうすると,以下の計算式のとおり,原審相手方から原審申立人への分与額は2754万1641円となる。
 ア 原審相手方名義の共有財産額 9378万9488円
 イ 原審申立人名義の共有財産額 3870万6205円
 ウ 原審相手方から原審申立人への分与額(上記アとイの合計額の2分の1相当額からイを控除した額)      2754万1641円」
 (4) 原審判11頁1行目冒頭から17行目末尾までを次のとおり改める。
 「 原審申立人は,本件不動産の原審相手方持分2分の1の取得を希望している(原審申立人の平成29年4月13日付け準備書面1等)。本件不動産には抵当権が設定されているが(甲3),原審申立人と原審相手方は被担保債権について連帯債務を負い,原審相手方名義の預金が担保とされていることは前示のとおりであるから,抵当権が実行される可能性は相当程度に低いといえる。そうすると,本件不動産の原審相手方共有持分を原審申立人に分与することが相当である。」
 2 以上によれば,本件不動産の原審相手方持分2分の1を原審申立人に分与し,原審相手方に対し本件不動産の持分2分の1につき財産分与を原因とする持分移転登記手続を命ずることが相当である。また,原審相手方に対し分与すべき2754万1641円から上記持分の評価額2036万5000円を控除した額が717万6641円となるから,財産分与として710万円の支払を命ずることが相当である。
 よって,原審判を変更することとして,主文のとおり決定する。
  平成29年6月30日

 

 

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