年金分割の按分割合を0.3:0.7とする審判例
年金分割の按分割合を0.3:0.7とする審判例
シュシュ:年金分割というと、0.5で硬直的に動かないというイメージが、合意ではあるけど、0.3というのもあるんだね。
弁護士:評論家的な人もいますが、将来の受給額を見据えて熱心に弁護活動をした結果だと思います。事例は、民間企業の会社員、妻は教員です。ダブルインカムなんですね。離婚後、妻の申立てにより夫の年金が0.5にされたのですが、今度は夫が妻の厚生年金(旧共済)の分割を求めたのです。
シュシュ:裁判所は、家事労働をあまりしないからとかそういうことなのかな。
弁護士:裁判所は、先行する厚生年金の分割の結果を踏まえて、双方が受給できる年金受給額を同額にするために按分割合を調整した結果、とみる見方もあります。
ただ、今後は被用者年金一元化法施行後のワンストップサービスで父母の年金情報をミックスしたものが提示されるので、今後、このような調整はいらないとある論者は論じています。
1 事案の概要
元夫から元妻に対して申し立てられた年金分割について、按分割合を0.3とした審判例が初めて登場し、注目となりました(東京家庭裁判所審判平成25年10月1日)。
元夫は大企業の会社員、妻は教員です。それぞれの情報通知書によると、夫の標準報酬総額は、2億4500万円、妻は8700万円でした。そこで、先行して妻の年金分割。5の審判だけ確定したのです。
2 判旨
「(1) 年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を〇・五と定めるのが相当であるところ、その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべきである(大阪高等裁判所平成21年(ラ)第499号、第607号同年9月4日決定・家庭裁判所月報62巻10号54頁参照)。
そして、上記特別の事情については、上記年金分割の制度趣旨に照らせば、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるというべきである。
(2) ところで、相手方は、本件に関し、申立人が昭和五九年ころには約一九〇〇万円近い負債を負っていたこと、退職金についても相手方に金額及び入金の事実を知らせていないこと、平成六年には相手方が申立人に二〇〇万円を貸し付け、申立人は相手方に対し今後キャッシングをしないとの誓約書を差し入れたがこれを遵守しなかったこと、平成七年に申立人が入院した際には相手方が入院費一一一万七九九八円を立て替えて支払ったこと及び相手方が自宅建物の住宅ローンを返済していること等を主張して、申立人について私学共済年金制度における年金分割を認めるべきでない旨主張する。
そこで、上記の相手方が主張する点について、前記の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情があるか否かについて見るに、本件においては、前記一認定の各事実に照らせば、①申立人が一〇〇〇万円単位の負債を負ったり、相手方から借入れをしたり、入院により経費がかかったりしており、相手方が家計のやりくりに苦労したであろうことが認められること、また②平成七年に申立人が丙川社を退職した後は、不定額の生活費を負担していたものの、それのみで家計を維持するには不足しており、平成二年から家事を負担しながら非常勤教員として勤務するようになった相手方が、同一一年からは専任教員として勤務するようになり、同年以降は相手方の収入を主として家計が維持されていたことの各事実は認められるものの、③申立人は結婚当時から平成七年まで婚姻中の三三年間、一部上場企業である丙川社に勤続して、相当額の収入を得ており、昭和五九年当時の借入金も大部分は退職金で返済したこと、そして、④相手方は、昭和三七年に婚姻した後、婚姻期間約五〇年間のうち、平成二年に非常勤教員として勤務するまでの約三〇年近くは概ね専業主婦として生活していたから、その間の家族の生計は、申立人の給与収入により維持されていたと認められること、⑤退職金額については、相手方も申立人も共に他方に対して明らかにしていないこと、⑥前件離婚調停では、相手方自身の判断で、自宅建物の申立人持分を財産分与を原因として取得して離婚後は相手方の負担で住宅ローン残額を返済する内容に合意しており、他方で、同調停では、双方名義の預金等のその余の財産については分与の対象としていないこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、相手方の給与から支払われていた私学共済年金の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等の五〇%とみることは相当でないとは認められるが、婚姻生活における申立人の相手方に対する寄与をゼロとして申立人について年金分割を認めないこととするまでの特段の事情があるとはいえず、その寄与割合については、申立人と相手方夫婦の婚姻期間五〇年と、そのうち、主として申立人の収入で家計が維持されていた三〇年との比例的な関係を対応させて、申立人の年金分割の按分割合を三〇%と認めるのが相当であるというべきである(相手方が専任教員となった平成一一年には、前記認定のとおり申立人は丙川社を退職していたものであるが、退職後も、申立人は不定額ではあるが生活費を負担するなどして相手方と同居して共同生活を営んでいたのであるし、婚姻関係は継続的なものであるから、申立人が退職し、相手方のみが稼働していた期間を限定的にとらえて、相手方の年金保険料の納付に関する申立人の寄与がなかったということはできない。)。
三 よって、申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を〇・三と定めるのが相当であるから、主文のとおり審判する。」
3 弁護士とシュシュのパースペクティヴ
シュシュ:裁判例は、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる」と指摘し、例外的事情があるかを検討しているけど、主として、又は、専ら、夫の浪費を責め立てる内容だね。
弁護士:うん、ほとんど説得力がありませんね。判旨によれば、妻が家計にやりくりに苦労した、妻が生活費の一部を支出していた、夫は相当額の年収があり多くの婚姻期間は夫の収入で賄われていたこと、退職金は双方明らかにしていないこと、住宅ローンは妻が取得し返済していること―が事情だね。
シュシュ:妻が住宅ローンを取得して苦労しているんだから、という手が論旨の決め手になっている感じで説得力がないね。肯定的な要素と否定的要素も区別されていないし。
弁護士:この八尾さんという人は家事では有力裁判官なんだけどねえ。
シュシュ:決め方もざっくりしているけれども、「夫婦の婚姻期間50年と、そのうち、主として夫の収入で家計が維持されていた30年との比例的な関係を対応させて、夫の年金分割の按分割合を30パーセントと認めるのが相当」としているね。これって論者がいうように、混ぜて2で割れば、公平になるというものでもなさそうな判断枠組みだね。
弁護士:まあ、その論者は、夫の報酬標準月額が2億4500万円、妻8700万円で、今後、1通の通知書の各々の金額が記載され、妻からの申立てにより双方の合算額の2分の1を限度として按分割合が定められることになります、と指摘していますが、本決定では、夫が不利になっていますが、これまでの審判例からみて、夫婦の寄与度を同等とみられないような事情があるのか、否定的な意見もありますね。ただ、今後、家事労働もそうですが、経済的な主張はシビアに取り上げられる可能性を示唆するものともいえるのではないでしょうか。