こどもの発達及び夫婦間紛争のこどもへの影響について~別居や親子交流に関連して~

 

こどもの発達及び夫婦間紛争のこどもへの影響について~別居や親子交流に関連して~

――家裁で講演した発達心理学者の見解も踏まえた、弁護士によるやさしい解説――

こどもは、私たち大人が思う以上に「見て見ぬ振り」をするプロフェッションです。

夫婦のあいだに生まれた緊張、視線のぶつかりあい、声色の変化。
それらは言葉として整理されていなくても、こどもの心には静かに積み重なっていきます。

本コラムでは、家庭裁判所で講演した発達心理学者(法制審議会家族法制部会委員)が語った「こどもの発達の基本」と、「夫婦間の紛争が子に与える影響」を基礎的視座にしつつ、離婚・親権・面会交流などを扱う弁護士としての経験も交え、一般の方にも読みやすいやさしい言葉でまとめました。

1 子どもの発達は「安心できる関係」から始まる

1-1 子どもは「関係の中」で育つ存在

家庭裁判所で講演した発達心理学者は、「子どもの発達の出発点は 安心できる関係 である」と強調していました。

こどもは、親の表情、声の抑揚、動作、接し方――そのすべてから世界を理解していきます。
特に乳幼児期は、親の反応がそのまま「世界は安心できる場所か」を決めるほど重要です。心理学的な「心の安全基地」といわれるのです。

1-2 「安全基地」があってこそ挑戦ができる

安心感があるからこそ、子どもは外の世界へチャレンジできます。

初めての公園

初めての保育園

初めてのお友達

こうした“初めて”を支えるのは、家庭という安全基地。

紛争が激しいと、この安全基地が揺らいでしまいます。

2 夫婦間の紛争はなぜ、こどもに影響を与えるのか

2-1 こどもは「見ていないふり」をするプロ~見ていないフリをしているだけで実は見ている~

多くの親御さんが、「子どもの前ではケンカしていません」とおっしゃいます。

でも、発達心理学者は明確に言います。

「子どもは、親が想像するよりずっと敏感なのです」

ドアの閉め方、声の調子、食卓での沈黙。

子どもはそれらを丁寧に拾いながら、「ひょっとして僕のせい?」「どうしてパパは怒っているんだろう?」「ママはなぜ不機嫌なの?」と心の中で説明をつけようとします。

2-2 ACEs(逆境的体験)に含まれる“家庭内の不和”

近年、世界的にも重視される ACEs(Childhood Adverse Experiences/小児期逆境体験) には、次のような項目が含まれています。

●家庭内の暴力・言い争い

●親の別居・離婚

●親の精神的不調

●身体的・精神的虐待

ACEsが重なるほど、成人後の心身の健康に影響が出やすいことがさまざまな研究で示されています。カリフォルニア州では、ACEsの治療に年間約7兆円の予算が投じられています。医師側が「健康なこどもを裁判所が病気にしている」と批判されているのです。

発達心理学者はこれを踏まえて、「夫婦間の高い葛藤は、こどもにとっても逆境的な体験になり得る」と強調していました。

3 “高葛藤”が続くと起きやすい子どもの変化

3-1 小学生までの子にあらわれやすい様子

高葛藤の家庭で育つと、子どもは次のような“分かりやすいサイン”を見せることがあります。

●朝起きられなくなる

●学校に行きたくないと言い出す

●お腹が痛い・頭が痛いと訴える

●弟妹を必要以上に叱る

●自分のせいだと思い込む

●大人っぽくなる

これはわがままでも怠けでもなく、“心の負荷”が身体に出ている状態です。

3-2 思春期・高校生期の子どもは「大人っぽい冷静さ」で耐えることも

思春期になると、子どもは感情を外に見せずに処理しようとします。

何も言わない

●「別に」と返す

●自室にこもる

●母親の恋人のような息子として振舞う

●SNSに気持ちを書き込む

一見落ち着いて見えても、内面では不安や葛藤を抱えていることが少なくありません。

4 発達心理学者が強調した“高葛藤はまず遮断する”という原則

4-1 夫婦関係の調整より、まず“子どもを守ること”

家庭裁判所での講演で、発達心理学者は一貫して以下のように述べています。

「高い葛藤が続く場合、夫婦が歩み寄れるかどうかよりも、まず、「葛藤から子どもを守ること」が優先される」とされます。

これはとてもシンプルな心の理論に基づいています。でも深い考え方です。

夫婦の関係改善を目指す前に、

●こどもが日常的に巻き込まれない状況をつくること。
●そのうえで、次に親子交流を含めた「秩序ある関わり」へ進むことが大切だという意味です。

4-2 「遮断 → 秩序づくり」という二段階モデル

高葛藤のケースで重要なのは、次の順番であると家裁の講演では述べられています。

●まず葛藤を遮断する

暴力・罵倒・威圧・挑発が子どもに届かないようにすることが大切です。

その後、「秩序ある関わり・連絡の仕方」を整えていくのです。これを「仮秩序」といいます。
例えば、書面やメールでの連絡、連絡帳の活用、公的機関の利用などが挙げられます。

●順番を間違えると、こどもは不安定になり続けること

発達心理学者は、「この順番を間違えると、子どもは不安定になり続けます」と警鐘を鳴らしています。

5 面会交流・共同養育が“子どもの利益になるか”は状況による

5-1 理想論では決めてはいけないこと

「子どもには両親と関わる権利がある」とこどもの権利条約で定められています。
こどもの視点からもちろん大切な視点です。

しかし、発達心理学者は明確に述べます。

「高葛藤状況では、こどもが安心して過ごせることの方が優先される。」

こどもは、「パパ・ママ両方と会うこと」よりも
「安心して暮らせる場所があること」を第一に望んでいますことがあります。こどものケアを中心に考える必要があるのです。

5-2 無理に会わせると逆効果になることも

親同士が対立し、受け渡しで緊張が走ることがあります。

しばしば、父母の葛藤状態が高いと、こどもが連絡の「伝言役」になるのです。例えば、「パパ、養育費を支払っていないから、今月分もらってきて」といったものです。

別れ際に泣いてしまい不安が強まることがあります。

こうした状況は、面会交流の本来の目的と逆行します。

6 発達心理学者が教える「こどもの利益」を守るポイント

6-1 子どもを“盾”にも“道具”にもしない

離婚や面会交流の相談では、つい夫婦の対立が中心になりがちです。
ですが、「この選択はこどもの心にどう響くか?」 という視点です。

6-2 大切なのは、争いを減らしていくこと

争いが続けば続くほど、子どもは“身構える力”を育てざるを得なくなります。
それは生存戦略としては正しい反応ですが、健やかな発達には負担が大きすぎます。

7 こどもの葛藤からの「シャットダウン」から意味するものとは?

遮断(シャットアウト)というワーディングは、「子が葛藤から距離を取れるようにする」という意味です。一番大事な点です。

発達心理学者は、「直接的な言い方」として、こどもを葛藤から「遮断(シャットアウト)」というワーディングを使うことがあります。
これは心理学者的には強い語ですが、実際の意味はこうなのです。

①「まず、子どもの日常から夫婦の葛藤が入り込まないようにすること。」
②「夫婦間の調整を優先するのではなく、子が落ち着いて生活できる枠組みを作ることが第一です。」

ここでの「遮断」は、「相手方を排除しろ」という意味では全くありません。

暴力・怒号・対立・過度な接触・緊張を“子の生活世界”から切り離すという意味であり、あくまで 子ども中心 の考え方です。

発達心理の立場からは、こどもの葛藤からの遮断は、「夫婦関係調整」よりも前に置かれるべきであるとされています。

心理学者の多くは、夫婦の関係修復や共同養育の理想論に触れたがりますが、発達心理学者は違います。

「高葛藤の場面では、共同養育を目指す前に、まず葛藤を下げる仕組みを作る必要があります。」

「無理に交流や対話を進めると、子どもはさらに不安定になります。」

このように、「遮断 → 状況の安定 → 必要に応じて秩序づくり」という段階設定を明確に提示しています。

葛藤からのこどもの遮断を実現するための具体策として、次のような方法を例示しています:

  • 直接の受け渡しを避ける

  • 第三者機関を利用する

  • 子どもが親を「選ばされる」状況をなくす

  • 書面やアプリで連絡し、接触を最小限にする

  • 暴言・圧力・威圧のシーンが子に届かないようにする

これらは 制度的安全装置(protective arrangement) であり、こどもが落ち着くまでの「保護的フィルター」として機能します。

まとめると、こどもの葛藤からの「遮断」の意味はこうです。

✔ 夫婦間の調整を急がない
✔ 子は親の対立を敏感に受け取る
✔ 高葛藤は、発達に影響を与える「逆境体験(ACEs)」であり健康に悪影響を与える
✔ だから、まず葛藤を「こどもから距離を置く」必要がある
✔ これがこどもの葛藤からの「遮断」
✔ 遮断のあと、秩序づけられた連絡や交流に移る
✔ 順番を間違えてはいけない

8 最後に──こどもの心は、心理学的な安全基地を必要としています

こどもは、親の幸せを願っています。
そして、親が少し笑顔になれば、こどももほっとします。

発達心理学者が語った「遮断 → 秩序づくり」という考え方は、
大人が自分のためだけでなく、こどもの未来のために選べる「優しさ(ケアの倫理)の順番」なのだと思います。

依頼者様の想いを受け止め、
全力で取り組み、
問題解決へ導きます。

の離婚弁護士

初回60
無料相談受付中

052-756-3955 受付時間 月曜~土曜 9:00~18:00

メールでのお申込み

  • 初回相談無料
  • LINE問い合わせ可能
  • 夜間・土曜対応
  • アフターケアサービス

離婚問題の解決の最後の最後まで、どんなご不安・ご不満も名古屋駅ヒラソルの離婚弁護士にお任せください。