法務省、離婚後の共同親権の本格的検討へ
「共同親権」制度の導入
日本経済新聞の2月18日付けの報道によると、「法務省は離婚後に父母の双方に親権が残る「共同親権」制度の導入の本格的な検討に入った」ことが分かった。共同親権といっても、母親のもとで監護され、面会交流の目的に教育目的もいれたうえで日数の充実化が図られることが中心となると思われるが、他方で、養育費の支払いの履行確保など父親側の義務も存在することを再認識してほしい。特に幼少期の場合は父母が離婚することにより児童心理に与える影響や喪失感は大きい。今回の検討は、母親のリプロダクトライツと異なり、こどもの権利、父親の権利との調和の観点からの検討と利益調整が必要と考える。
既に、前の法務大臣が読売新聞社のインタビューで共同親権について法制審議会に諮問したい意向を示していたので、この流れをくむものと考えられる。
現在の民法は父母のいずれか一方が離婚後の親権を持つ「単独親権」を規定しているが、共同親権も選べるようにし、両方の親が子育てに関わりやすくするのが狙いである。首都圏では共働きも多く離婚後も一定の関与にネガティブではない元夫婦も存在する。
各国の共同親権
欧米では日本と同様、1980年代まで多くの国で単独親権が採用されていたが、その後、養育費と面会交流をセットに考える調停制度の創設などで選択制による共同親権が普通である。
共同親権は、1980年以降、欧米で広がりを見せていたが、今般ではアジア諸国でも導入されるようになり、日本は先進国でもほぼ唯一に近い形で例外的に単独親権を採用している。ハーグ条約の批准により準拠法が欧米の法律の裁判が日本で出され、日本人同士の夫婦と外国人間の夫婦との間の差別感が広がっていた。当然の検討の時期といえよう。
現行制度では親権を持たない親は戸籍上の他人となり、子どもとの面会交流が大きく制限される。近年の民法改正で面会交流の文言は民法に記載されたが、面会交流を権利としてとらえる考え方が少なく解釈上は裁判所がする処分ないし父母間の合意にすぎないと考えられている。
ただ、近年の離婚の増加による親権及び監護権争いで、子どもを相手親に知らせず連れ去ったり、相手親による虚偽のドメスティックバイオレス(DV)を弁護士や行政機関に訴えたりするなどの事例が社会問題化している。しかし、家庭裁判所は、主たる監護者の異動に伴い子を異動させることは違法ではないという判例があったり、ドメスティックバイオレンスに対する認定も、別居時のいざこざのみで認定される例も多く、制度の本来の趣旨を逸脱しいたずらに夫婦間の葛藤を煽っている例も散見される。
特筆すべきは、一方の意見しか聞かないでDVを認定する住民票の閲覧制限を目的外に利用したとして、名古屋地裁が母親側とそれに協力した愛知県に賠償を命じる判決が言い渡されたことである。この判決は高裁で覆されているが、原審の裁判長は最高裁で保護命令の創設に関わったといわれる判事で両者の意見を公平にきかないで虚偽のDVの申告が横行していることに警鐘を鳴らすものといえた。
こうした問題を踏まえ、法務省は別居親と子どもとの面会交流を積極的に実現し、親子間の完全な断絶を防ぐことで子どもの養育環境を整えるため、共同親権の本格導入の検討に入った。
共同親権の考え方は、「子の利益」を重視する点にある。日本では養育費や面会交流の方法などを合意せずに離婚届けによる離婚(協議離婚)をすることができるため、「子どもの福祉に反する」との意見がある。簡易なメディエート制度の導入なども考えられてよいかもしれない。
離婚後も父母の双方が子どもの監護・教育の責任を追うべきだとの考えで、欧米などの国々ではこうした価値観に基づき、父母の双方が離婚後も共同で親権を持つのが主流だ。
日本では親権は「親の子どもに対する権利ないし支配権」と考えられがちだが、欧米では「子どもを監護・養育する義務」と捉えており、両親が親権を持つのは当然との考え方が支配的だ。その一環として行われている面会交流も遊ぶなどのレジャー目的ばかりではなく、ペアレンティングと呼ばれる教育目的が中心ともいわれる。
離婚後も、一方の親が面会交流や養育費の支払いを拒むと違法行為に問われる。例えば、フランスでは面会交流の受渡を拒んだ場合には刑罰がある。ただ父母の関係が良好でない場合、親権の行使をめぐって双方が激しく対立し、子どもの利益を害することもある。配偶者からの暴力から逃げるため「一刻も早く離婚したい」という深刻なケースもあり、両親の間を行き来することで、子供が逆に精神的に不安定になるなどの症例も報告されている。そのため深刻な配偶者暴力事案では、単独親権とするのが相当のように思われる。ただし、これらの症例は欧米では面会交流日が100日を超えることが多いことから起こることであり、改正にあたっては日本の実態に合わせる必要があり、その制限についても慎重にあるべきである。
このため、共同親権を導入した場合でも、養育環境を慎重に考慮し、ケースによっては単独親権を選択することもできるよう検討する。欧米では親権選択にあたり、裁判所などを介して子どもの養育環境を熟慮して決定する場合が多いという。多くの裁判所でも共同親権か、単独親権かをめぐり争いを生じることが多いのが一般で、日本のようにゼロサムのような「過激」な紛争が生じている例は少ないと考えられる。
法務省によると、日本では協議離婚が中心で、親権の決定に裁判所が介入していないケースが大半だ。選択的な共同親権を導入するには、親権の決定に裁判所が深く関与する手続きをどう構築するかが課題となる。そのうえでは、日本のように後見的関与がなく、自由に協議離婚が行われその後の追跡調査も行われていない国は稀であり、一例では韓国では協議離婚は熟慮期間、親教育の受講、領事面前での宣誓という裁判所の関与がある。また、フランスではすべて裁判所が関与するといわれる。
アメリカでは州により法制は異なるが、仲裁人が決められ、面会交流の日数と養育計画、養育費の額が中心に決められることが多い。なお、アメリカでは養育費の不払いも重罪であることを附言しておきたい。