親権者はどのような方法で、またどのような基準で決めることなのでしょうか。
離婚する夫婦の間に未成年子がおり、夫婦の双方が親権を者となることを希望している場合、親権者はどのような方法で、またどのような基準で決めることなのでしょうか。
親権者の定め方
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりません。世界的潮流として1980年代は離婚後は単独親権行使とするのが一般的であり、我が国はその後改正が行われておらず単独親権行使となるのです。ただ、他方の親権は、一方の親の死亡で顕在化することもあるのであり、失われるというより潜在化すると考えられています。
なお、平成24年4月から、協議離婚の届出用紙に養育費及び面会交流の取り決めの有無の回答欄が設けられましたが、合意は離婚の用件ではなく、またこの記載がなくとも離婚の届出は受理される扱いです。ただし、不貞や不仲でろくに話し合いをしていないケースもあり、母親のためではなくこどものための養育費や面会交流の決まりと理解されています。
当事者間の話し合いで親権者が決められない場合には、当事者の一方から、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、その協議の中で子の親権者を定めることができます。
調停が不成立に終わった場合
調停が不成立に終わった場合は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判で子の親権者を定めることになります。なお、調停で離婚については合意ができているものの、親権者について合意ができていない場合は、裁判所が職権で調停に代わる審判を行い、どちらが親権者とすべきか決めることもできます。親権に争いがある場合は最終的には離婚訴訟となります。
親権者決定の判断基準
裁判例を見ると、父母のいずれが親権者として適格性を有するか判断する場合、父母の側の事情として、監護に対する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、従前の監護状況、子に対する愛情の程度、親族等監護補助者による援助の有無等が、また子の側の事情として、年齢・性別、兄弟姉妹の関係、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、環境の変化への適応性、子の希望、などの要因を総合的に検討して判断しています。
現実の親子の状況はまちまちであり、断定的なことはいえないのですが、裁判例に現れた具体的な判断基準を検討してみます。
監護の実績・継続性の基準
心理的な結びつきを重視し、子を現に養育している者を変更することは、子の心理的な不安をもたらす危険性があることから、子に対する虐待・遺棄放置など子の福祉上問題となるような特別の事情の無い限り、現実に子を養育監護している者を優先させるべきであるとされています(平成24年最高裁)
母子優先の基準
子の幼児期における生育には母親の愛情が不可欠であるとの考え方から、乳幼児については、特別の事情のない限り、母親の監護を優先させるべきであるとするものです(平成10年東京高裁)。この基準に対しては、母親が幼い子の養育に適していると一概にいえるものではなく、家庭における父母の役割が変化しつつある現在においては、硬直化した見解であって、むしろ子が誰との間に心理的絆を有しているのか、父親・母親のいずれに親権者としての適格性があるのかを事案ごとに具体的に判断すべきであるとの指摘がなされています。
子の意思の尊重
15歳以上の未成年の子について、親権者の指定、子の監護に関する処分についての裁判をする場合には、その未成年の子の陳述を聴かなければならないと規定しています。
実務上は、10歳前後以上であれば、子どもの気持ちを傷つけないやり方で、その意思を確認しているようです。未成年者の自己決定権は可能な限り尊重すべきであり、15歳にこだわることなく、後述の家庭裁判所調査官等の得意な弁護士の調査により子供の意思の聴取をすべきものとされています。
なお、その結果については親子関係を悪化させないように配慮すべきことは言うまでもありません。しかし、未成年の子は、近親者や身近にいる者の影響を受けやすく、また現に監護している者の意向を忖度する場合もありますから、発言だけでなく、態度や行動などを総合的に観察し、子の発展段階に応じた適切な評価が必要となりましょう。
きょうだいの不分離
きょうだいを分離して養育することは一般的には好ましくないとされています。そしてこのような観点から不分離を歌う判例も多く出されています。しかし、子の年齢、それまでの監護状況(例えば、一緒に育っていた場合と、別々に育っていた場合では異なる)、子供たちの意思等を総合的に斟酌して判断すべきものと考えられます。あまり有意義ではない基準でしたが、最近、日本独自の見解として重視されるようになってきています。
離婚に際しての有責性
離婚に際して、有責である配偶者は親権者としても不適当であるとする見解があります(昭和46年横浜地裁川崎支部)。これは、父母いずれも親権者としての適性について甲乙つけ難い場合に、有責の大小によって決めるのが公平であるとするものです。
しかし、家族を遺棄したとか、異性と同棲している等の事情は、親権者の適格性を判断する一つの要因として判断されるべきであり、夫婦間の問題における有責性を子供の親権者を決定する際の基準として考えるべきではないでしょう。同様な観点から、別居後男性と交際している妻を子の親権者と指定した判例があります(昭和54年東京高裁)
奪取の違法性
一方の監護中に無断で子を連れ去ったり、面会交流のために引渡しを受けた後に子を返さない、同居親に対して暴力をふるって実力で子を奪うなど、子を違法に奪取する場合があります。このような違法な奪取は、特にそれをしなければ子の福祉が害されることが明らかといえる特段の状況がある場合に限って追認されることがありますが、一般には親権者としての適格性判断における重要な事情をされると思われます(平成17年東京高裁)
面会交流の許容性(フレンドリーペアレントルール)
子の成長過程において、別居親の存在を知り、別居親とも良好な関係を維持することは、子の福祉の観点から非常に重要です。そのため、相手方との面会交流を認めることができるか、子に相手方の存在を肯定的に伝えることができるかという点も、親権者として適格性の一つの判断材料になっています。
調査方法
離婚調停において親権者に争いがある場合、裁判所は、心理学、教育学といった行動科学等の専門的な知識を有する家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができます。裁判所から調査命令が発令されると、家庭裁判所調査官は、父母や子ども、監護補助者等と面接し、家庭訪問を行ったり、子どもの通園先等の関係機関を訪問するなどして、子の監護・養育状況、親権者の適格性、子どもの意向等を調査し、その結果を書面で裁判所に報告します。その際、調査官は意見を付することができます。当事者は、調査官報告書の結果を踏まえて、どちらが親権者となるべきか話し合います。調査官は、調停に立ち会い、意見を述べることもあります。
調停が不成立となって裁判となった場合も、裁判所は、家庭裁判所調査官に子の監護状況などについて事実の調査をさせることができます。調査官の調査は、離婚調停の場合と同様の方法で行われます。裁判所は、今まで提出された証拠と家庭裁判所調査官が提出した調査報告書をもとにどちらを親権者とすべきか判断します。
なお、東京家庭裁判所では、離婚訴訟で調査官の調査が行われる場合、事前に父母側の生活状況(生活歴、就業の状況、経済状況、健康状態等)及び子どもの状況(生活歴、これまでの監護状況、心身の発育状況、健康状態等)、監護補助者、監護計画等についてまとめた子の監護に関する陳述書を提出する運用となっています。
親権者指定において考慮すべきこと
いずれにしても、子に関する判断は、財産的な問題とは異なり、子どもの将来を見据えたものであることが肝要です。前述の基準のうち、いずれかを最優先としてしまうのではなく、個々の事案の事情に即して、子の福祉の観点から総合的に判断されるべきでしょう。
子をめぐる問題は今後増加することが予想されます。また、子どもにとって親権者として指定されない親との関係も継続し、父母からの適切な影響のもとに育っていくことが望ましいと解されます。そこで、親権者の指定の調査が十分になされ、可能な限り当事者が納得できるものであるとともに、それにとどまらず、調査の家庭において、親権者と指定される者に対し、相手方とともに子を中心とした生育環境を考えるという気持ちを育むようなカウンセリング的な手法を取ることが求められると考えます。