男性のモラハラ被害者―有責配偶者になる前に弁護士に相談を!
はじめに
「夫婦げんか」と「DV(ドメスティック・バイオレンス)」は、しばしば混同されますが、本質的にまったく異なるものです。DVの核心は暴力を使って相手を支配することにあり、その暴力は身体的なものだけでなく、精神的・経済的・性的な形をとることも少なくありません。なかでも「モラハラ(モラルハラスメント)」は、言葉や態度で相手の自尊心を傷つけ、精神的に追い詰める行為であり、外から見えにくいがゆえに深刻な問題をはらんでいます。
近年の調査によれば、「身体的攻撃」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれかを配偶者から受けたことがあると回答した割合は、女性23.5%(うち「何度も」13.2%)、男性21.9%(うち「何度も」7.2%)にのぼっています。この数字が示すとおり、DVは女性だけの問題ではなく、男性もまた深刻な被害を受けていることが明らかになっています。
本記事では、DVおよびモラハラの実態、見落とされがちな男性被害者の問題、そして被害者が思いがけず「有責配偶者」と認定されてしまうリスクと、その法的な対処法について詳しく解説します。一人で悩まず、正しい知識を持って早期に専門家へ相談することが、自分自身と大切な人を守る第一歩となります。

DVとは何か——暴力の多様な形態と社会的背景
DV防止法と暴力の定義
2001年に成立した「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)」は、夫婦や恋人など親密な関係における暴力を取り締まる法律として制定されました。その年の流行語大賞でも「ドメスティック・バイオレンス」がトップ10入りし、社会的な認知が急速に広まりました。
DVの暴力は一種類ではなく、以下のように複合的な形態をとります。
- 身体的暴力:殴る・蹴る・物を投げるなど直接的な加害行為
- 精神的暴力(モラハラ):怒鳴る・無視する・侮辱する・脅すなど心理的に傷つける行為
- 経済的圧迫:生活費を渡さない・働くことを妨害する・金銭を管理し完全支配するなど
- 性的強要:同意なく性的行為を強制する・避妊に協力しないなど
- 社会的隔離:友人・家族との交流を断ち切る・外出を制限するなど
これらの行為が単独で、あるいは複合して繰り返されることで、被害者は精神的・経済的に追い詰められ、逃げることも声を上げることも難しくなっていきます。
DVの社会的・構造的背景
DVの背景には、社会構造的な原因が深く潜んでいます。男性の攻撃性をたくましさとして評価する文化、男性が常に女性より優先される社会慣行、性別役割分業構造——これらが複合的に作用し、加害者は知らず知らずのうちに社会における優位性を利用して相手を支配してきました。
1995年、北京で開催された国連世界女性会議「北京行動綱領」においても、女性に対する暴力は両性間の「歴史的な不平等な力関係」の現れであり、「文化的様式」と「伝統的慣行」に由来するものであると明示されています。つまりDVは個人の問題ではなく、社会全体が生み出してきた構造的な問題でもあるのです。
また、暴力は「抵抗力を奪い、支配をより確実にする手段」として用いられてきた歴史があります。DVの加害者が被害者の逃げ場を奪い、自尊心を削り続けるのは、この支配構造を維持するためです。
DVの「暗数」——統計に現れない被害の実態
公的統計(犯罪白書など)に現れるDVの認知件数は、実態のごく一部に過ぎません。性犯罪やDVには「暗数」——警察に通報されない被害——が非常に多く存在します。被害者が通報・相談しない主な理由は以下のとおりです。
- 自分が犯罪被害者だと気づいていない
- 「大したことではない」と思い込まされている
- 「届けても仕方ない」と諦めている
- 人に知られたくない、恥ずかしいという感情がある
- 加害者への恐怖や経済的依存から動けない
DVは、被害者自身も社会も「我慢すべき私的な問題」と思い込まされてきた歴史があります。その背景にあるのは、根強い性別役割分担意識と男尊女卑の考え方です。こうした意識がDVを「見えにくい問題」にし続けてきました。暗数をあぶりだすために国際的には被害者調査(ICVS:国際犯罪被害実態調査など)が活用されていますが、実態把握にはまだ多くの課題があります。
男性被害者問題——見過ごされてきたもう一つの現実
男性もDVの被害者になる
冒頭で示したとおり、DV被害は女性だけの問題ではありません。男性被害者の割合は約21.9%にのぼり、過去4年間で増加傾向にあることも報告されています。特にモラハラ(精神的暴力)においては、女性が加害者となり男性が被害者となるケースが少なくありません。
しかし男性被害者は、「男のくせに被害にあうなんて」という社会的偏見にさらされ、被害を相談することが非常に困難です。強くあることを求められてきた男性にとって、「支配されている」という現実を認めることは自己否定に近い感覚を伴います。その結果、被害が深刻化するまで声を上げられないケースが後を絶ちません。

モラハラ加害者が女性のケース
女性がモラハラ加害者となる場合、その手口は非常に巧みです。怒鳴る・物を壊すといった激しい行為から、無視する・侮辱する・子どもを利用して孤立させるなど、外から見えにくい形で被害者を追い詰めます。特に公務員や医師など社会的地位の高い男性が被害者となるケースが多い傾向が指摘されています。
これは「社会では力がある自分が、なぜ家庭で支配されているのか」という認知的不協和が被害の自覚を遅らせるためです。また、「加害者である妻に感謝している」「自分が悪い」と思い込まされる洗脳状態に陥ることもあります。
さらに、DVの分類としてCCV(Coercive Control and Violence:支配・隷従関係を伴う暴力)が指摘されています。身体的暴力の有無にかかわらず、精神的支配によって被害者が完全に相手に従属させられている状態です。この状態では、被害者自身がDVを受けているという認識を持てないことさえあります。CCVは男性被害者にもとても多いです。
セクシュアルマイノリティの被害者
DVの問題は異性カップルに限りません。同性カップルや性的マイノリティのパートナー間においても、DV・モラハラは発生します。しかし、被害を相談するためにはカミングアウトを伴う場合も多く、相談や通報の障壁がさらに高くなっています。日本では性的指向や性自認に関する法制度の整備が遅れており、こうした被害者への支援体制はいまだ十分とはいえません。
有責配偶者とは何か——離婚における法的リスク
有責配偶者の定義
有責配偶者とは、婚姻関係の破綻を招く原因を自ら作った側の配偶者のことです。以下のような行為が有責性の原因として認められます。
- 配偶者以外との肉体関係(不貞行為)
- 正当な理由なく同居・協力を拒む「悪意の遺棄」
- 身体的暴力・DV
- モラハラ(程度・態様によっては婚姻破綻の原因となりうる)
- 風俗通いなど配偶者の信頼を著しく損なう行為
なお、双方に離婚原因がある場合は、有責性の大きさを比較してどちらが有責かを判断します。同程度の場合は「双方有責」として、有責配偶者がいない場合と同様に扱われます。また、モラハラは目に見えないケースが多く立証が難しいため、モラハラ案件に経験豊富な弁護士へ早期に相談することが重要です。
モラハラ被害者が有責配偶者になってしまう典型パターン
モラハラ被害者が有責配偶者と認定されてしまう最も典型的なパターンは、精神的苦痛から逃れようとして別の異性と肉体関係を持ってしまうケースです。特に、モラハラの悩みを異性に打ち明けたことをきっかけに関係が深まり、不貞行為に至るパターンが見受けられます。こどもが小さいと、10年以上離婚できない場合もあります。
被害者の感覚では「心の支えを求めただけ」であっても、法的には不貞行為として評価される可能性があります。モラハラは立証が困難なため、本来は被害者だった側が一方的に有責と判断されるリスクが非常に高いのです。
また、離婚相談をしている最中に不貞に及んでしまうケースや、知人宅(特に異性の家)への宿泊が「不貞の証拠」として利用されるケースも後を絶ちません。弁護士介入前の単独行動は、取り返しのつかない法的不利を招く可能性があります。
有責配偶者となった場合の2つの重大リスク
リスク①:離婚請求が極めて困難になる
自ら婚姻破綻の原因を作った有責配偶者からの離婚請求は、裁判所によって厳しく制限されます。最高裁判所の判例では、有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、7年から10年程度の継続的な別居をはじめとする厳しい条件を満たすことが必要とされています。
特に女性がモラハラ加害者の場合、男性被害者が高所得であることが多いため、加害者側は離婚に応じないケースがほとんどです。「有責配偶者」という烙印が押された被害者は、モラハラ環境から解放されるまでに膨大な時間と精神的消耗を強いられることになります。
リスク②:婚姻費用の請求ができなくなる
別居中は、収入の多い側が少ない側に対して婚姻費用(生活費・教育費・医療費などの総称)を支払う義務があります。しかし、不貞を行った側は自己の生活費部分について婚姻費用を請求できなくなるという判断が一般的です。他方、モラハラ程度では、権利の濫用になることは少なく、モラハラ被害者は、婚姻費用を支払わなければならない可能性おあり、男性モラハラ弁護の経験豊富な弁護に依頼する必要があります。
婚姻費用を受け取れなくなると、別居状態の継続が経済的に困難になります。その結果、モラハラ環境から物理的に距離を置くことも、離婚を実現させることもより難しくなるという悪循環が生じます。
有責性を免れるための「破綻の抗弁」は意外に役に立たない
不貞行為があっても、「不貞より前にすでに婚姻関係が実質的に破綻していた」と主張することで有責性を免れる可能性があります。これを「破綻の抗弁」といいます。不貞する前から婚姻関係が実質的に破綻していれば、その不貞によって新たに婚姻関係が毀損されたとはいえない、という考え方に基づきます。しかし、実際は、別居から3か月から半年程度は経過していないと破綻の抗弁は適用されません。実務上、婚姻破綻の抗弁が認められることは多くないのです。
条件①:不貞より前から別居が継続していた
半年〜1年以上の継続的な別居があれば、その時点で婚姻関係はすでに破綻していたと扱われやすくなります。ただし、単に同居していないというだけでは不十分です。夫婦としての実態が失われており、修復の見込みもないことを客観的に示すことが求められます。別居に至った経緯、夫婦間のやり取りの状況、その後の関係性なども総合的に考慮されます。
しかしながら、地裁と異なり、「家裁」は、事実認定が甘いため、別居後の興信所資料も証拠にしてしまうこともあるため、裁判所が地裁か、家裁かなどプロフェッションの弁護士にモラハラ弁護を頼みましょう。
なお、当事者は「この程度の別居期間があれば大丈夫」と甘く見積もりがちです。離婚に詳しい弁護士のアドバイスを必ず得るようにしてください。
条件②:不貞より前にモラハラがあったことを証明することも苦しい!
不貞行為よりも前の時点で激しいモラハラが存在していた事実を証明できれば、婚姻関係はその時点ですでに破綻していたという主張が成り立ち得る可能性があります。しかし、現実は、そのようにああ区はないので、自己診断に頼らず、弁護士に相談してください。
以下のような証拠が立証に活用できます。
- 加害者との会話を記録した音声データ
- 傷ついた状態や出来事を記録した日記
- LINEやメール等のメッセージのやり取り
- メンタルクリニックのカルテ・診断書
- 医療機関への通院履歴
- 家族や友人の証言
ただし、モラハラの立証は一般的に非常に困難です。睨みつける・無視するなど証拠が残りにくい手口も多く、一方的に不貞の責任を負わされるリスクは高い状態が続きます。迫真性のある事情説明書の作成も重要です。迫真性のある事情説明書のヒヤリングは2時間以上必要です。それも含めて、経験豊富な弁護士に初動から依頼することが何より大切です。
被害者が身を守るために今すぐすべきこと―男性モラハラ被害担当弁護士へすぐに相談
絶対にやってはいけない行動
モラハラ被害者は感情的・精神的に極限まで追い詰められた状態にあるため、判断力が著しく低下していることがあります。こうした状態で衝動的に行動することが、法的に取り返しのつかない不利を招く最大の原因です。特に以下の行動は厳禁です。
名古屋市のDV相談に連絡すると、「男性は受け付けておりません」といわれます。
だからといって、以下の行為は絶対NGです。
- 弁護士に相談する前に不貞行為に及ぶこと——不倫の典型パターンで、有責配偶者認定の最大リスク
- 異性の知人宅に宿泊すること——「不貞の証拠」として利用される危険がある
- 弁護士を立てずにモラハラ加害者と直接交渉すること——洗脳・支配下に引き戻されるリスクがある(ハネムーンを利用される)
- SNSや日記に感情的な投稿・記録をすること——後に不利な証拠として使われる可能性がある
モラハラ加害者は支配・洗脳のプロともいえる存在です。
私が、驚いたのは、「Aくん、ごめんね。でもAくんも悪いよね。こどものBも帰ってほしいって言っているの。だからAB両方悪いことにしよう。Aくんが帰ってきたら元通りね」という支配を取り戻そうとしたものでした。
直接接触すれば、被害者が気づかないうちに元の環境に引き戻されてしまうケースも実際に起きております。モラハラ被害者は、絶対に離婚するという強い意思が必要となります。弁護士代理人を必ず立てることが、自分自身を守る最低限の防衛線です。
早期に弁護士へ相談する
モラハラをめぐるトラブルは、当事者同士の話し合いでは解決が難しい領域です。感情的に追い詰められた状況で単独の判断に基づいて行動すると、有責配偶者の認定につながるような行動を取ってしまうリスクが高まります。
早めの段階で、特に、モラハラ被害者男子の弁護経験が豊富な弁護士に相談することで、自身の状況が法的にどう評価されるかを把握したうえで、より多くの選択肢を残した状態で今後を決断できるようになります。なぜなら、モラハラ被害を受けた男性は洗脳されていますし、金銭的・経済的DVを受けているケースがほとんどです。もはや思考がなくなっているケースが多いのです。そして、家裁では、調停委員からモラハラは非常に軽視されます。
ですから、男性のモラハラ被害弁護を受けた専門的な知識を持つ第三者を間に挟むことは、精神的な負担を軽減するうえでも非常に有効です。
なお、令和8年4月施行の改正法により離婚後共同親権制度が導入されました。モラハラ被害者がどの程度親権を確保できるかという問題も新たに浮上しており、この点でも、法律の専門家によるサポートが欠かせません。しかし、実際は、モラハラ加害者が、こどもも不当に囲い込んでいるケースも多く、面会交流や共同親権は上手く行かないのが実情です。
保護命令制度——緊急時の法的手段
DVが深刻な場合、裁判所に申立てを行うことで保護命令を取得できます。保護命令が発令されると、加害者は被害者への接近や連絡が法律で禁止されます。
ただし、保護命令の発令件数や認容率には地域差が大きいことが統計からも明らかになっています。特に、名古屋地裁管轄では認容率が低いことで知られています。
申立ての取り下げ率が高い地域も存在しており、地域によっては弁護士のサポートがより重要になります。まずは最寄りの配偶者暴力相談支援センターや弁護士事務所に相談することをお勧めします。
まとめ
DVやモラハラは、被害者の性別・社会的立場を問わず深刻な問題です。特に男性被害者は、社会的偏見から相談が難しく、モラハラの実態を証明することも容易ではありません。さらに、精神的苦痛から逃げようとした行動が、法的に「有責配偶者」という不利な立場を招くリスクをはらんでいます。
本記事で解説した重要ポイントを以下にまとめます。
- DVは身体的暴力だけでなく、精神的・経済的・性的暴力を含む複合的な問題
- 男性被害者も約21.9%存在し、増加傾向にある
- モラハラ被害者でも不貞行為をすれば有責配偶者となり、10年間離婚できなくなり、モラハラ加害者に多額の婚姻費用及び住宅ローンの家を乗っ取られる可能性があること
- 「破綻の抗弁」により有責性を免れられる場合があるが、立証は困難
- 弁護士介入前の単独行動・異性宅への宿泊・直接交渉は厳禁
- 早期の弁護士相談が、最善の選択肢を残す唯一の方法

感情や衝動に任せて行動する前に、法的な知識を持つ専門家に相談することが、自分自身と大切な人を守る第一歩です。モラハラ案件に精通した弁護士であれば、証拠の収集方法から離婚・別居・親権に至るまで、一貫したサポートを受けることができます。一人で抱え込まず、まずは法律の専門家であり、家族法研究会の家事論文・財産分与・親子交流・共同親権・弁護士キャリア論の著書を持つ弁護士事務所へご相談されてください。
