離婚で相手に非がある場合は必ず慰謝料請求できるのか?
離婚で相手に非がある場合は必ず慰謝料請求できるのか?
離婚の際「相手から慰謝料を払ってもらいたい」と考える方はたくさんおられます。アメリカの法廷ドラマでは「慰謝料」で弁護士同士が交渉していますよね!しかしすべてのケースで慰謝料をとれるとは限りません。
一般的に慰謝料が発生するのは「相手に有責性がある場合」です。また、この「有責性」がある場合、不貞、暴力、意図的性交渉拒否が中心ですが、その他の場合でも慰謝料が発生する場合があります。
今回は、離婚で慰謝料が発生するケースとしないケースの違いと具体例を解説していきます。
1.離婚で慰謝料が発生するのは「有責性」がある場合
離婚するとき慰謝料が発生するのは、基本的に夫婦のどちらかに「有責性」があるケースです。有責性とは、離婚原因を作ったことに対する責任です。
自分の問題行動によって夫婦関係を破綻させたら有責性が認められて慰謝料が発生します。
「どちらも悪くない」ケースでは慰謝料は発生しません。これを「主として、又は、専ら、どちらに別居の原因があるか」という判断枠組みで判断することになっています。
有責性の認められる配偶者を「有責配偶者」といいます。ただ、浮気の場合に限定されるという見解もありますので、この点はその社会通念からの逸脱の程度を離婚弁護士に相談してください。
相手が有責配偶者であれば、相手に離婚を求めることができますし、相手が離婚を拒絶しても裁判で離婚を実現できます。ですので証拠があれば弁護士が入れば、示談で離婚をまとめることもあり得るのではないでしょうか。
一方有責配偶者の方から裁判で離婚を求めることはできません。被害を受けた方の配偶者が離婚を拒絶していたら、有責配偶者が離婚訴訟を起こしても請求が棄却されて離婚できません。
2.有責配偶者の具体例
具体的に有責性が認められるのは、以下のようなケースです。
2-1.不貞している
典型的な有責配偶者は「不貞している」人です。不貞とは、配偶者のある人が他の人と「男女の性関係をもつ」ことを意味します。一般的には「浮気」「不倫」などといわれます。
ただ一般的な「浮気」という場合、必ずしも男女の性関係があるとは限らず、単にお互いに好意を持って仲良くしているだけの場合も含まれます。「不貞」というためには必ず男女の性関係が必要なので、プラトニックな関係では「不貞」にならず、慰謝料は発生しません。
相手の不倫をもとに慰謝料請求するためには、不倫相手との「性行為」の立証が必要となります。
2-2.生活費不払い
相手が一家の大黒柱であるにもかかわらず生活費を払わなかったら、慰謝料が発生します。この場合、相手は「悪意の遺棄」となるためです。悪意の遺棄とは、積極的に婚姻関係を破綻させてやろうという意図を持って配偶者を見捨てることです。
相手が健康で働けるにもかかわらず就職しないでパチンコ通いなどをしてぶらぶら生活している場合にも悪意の遺棄となって慰謝料請求できます。
2-3.家出
相手が正当な理由なしに家出をして長期間戻ってこなかったりしょっちゅう家出を繰り返したり、あるいは実家に戻ったまま夫婦の自宅へ戻ってこなかったりした場合には、慰謝料が発生します。この場合にも「悪意の遺棄」として有責配偶者と評価されるためです。難しい問題ですが、カナダをひとりで出国し日本に帰国した夫が有責配偶者とされた例もありますが、様々な要素がありこれだけで有責配偶者になるわけではありません。
2-4.DV
家庭内暴力(DV)を振るわれている場合にも相手は有責配偶者です。暴力は人権をふみにじる行為であり、許されるものではないからです。ただ、身体的暴力の証拠の収集や暴言であれば録音など、立証の方法を意識されることをおすすめします。
相手によるDVを理由に離婚する場合には、DVの程度に応じて離婚慰謝料を請求できます。私の経験では、50万円から300万円くらいですが暴力の程度によるとしかいえません。
2-5.モラハラ
身体的な暴力は振るわないけれども精神的に追い詰めてくるタイプの配偶者がいます。いわゆる「モラルハラスメント(モラハラ)」の事案です。
モラハラも違法行為なので相手は有責配偶者となり、離婚の際に慰謝料を請求可能です。ただしモラハラは身体的な暴力とは異なり立証が難しくなるケースも多々あります。身体が傷つかないので被害の証拠を集めにくいからです。
日頃から日記を書いたり録音をとったり相手から渡されてメモ、相手から来たメールを逐一保存するなど、慎重な対応を要求されます。
3.離婚で相手に非があっても慰謝料が発生しないケース
一般的な感覚では「相手に非がある」と思っても、法的な「有責配偶者」にはならず慰謝料が発生しないケースもあります。それは以下のような場合です。
3-1.相手が不妊
夫婦ともに子どもを望んだけれど、どちらかが不妊であるためにやむなく離婚するケースがあります。このような場合、不妊の原因がある側が相手に慰謝料を払わないといけないのでしょうか?
法律上、不妊は「有責性」とは評価されません。どちらかの不妊によって別れるとしても慰謝料は請求できません。ただし、婚姻前からこどもを作る合意をしており、自らが不妊であるということを伝えていなかった場合、それ自体が不法行為になる可能性があります。最近は夫婦イコールこどもという考え方は薄れていますが、婚姻したらこどもを設けたいというお父様、お母様はたくさんいるのが実情です。しかし、恥ずかしいことかもしれませんが、婚姻前に親族に陪席してもらい、不妊治療なども行う旨の説明など納得の得られる活動をしておくことが無難でしょう。結果的に、男女のいずれかが不妊の場合であった場合は不法行為にはなりません。
3-2.相手が借金した
相手が自分に黙って借金をしたので、信用できなくなって離婚するパターンも多数あります。このような場合、相手に非があって離婚するので慰謝料を請求できそうにも思いますが、可能なのでしょうか?
一般的に相手が借金しているからといって直ちに離婚理由にはなりませんし、慰謝料も請求できません。秘密でサラ金や闇金から借金している場合でも同じです。
ただし借金のせいで生活費を使い込み、まったく生活費を払ってくれなくなった場合には「悪意の遺棄」と評価される可能性があります。また相手が借金を苦にして家出して音信不通になった場合にも離婚と慰謝料請求をできる可能性があります。ただし、最近は債務整理も発達しており、また親の援助が得られるケースもあり、個人的な感想としては浪費癖を問題にすることはあっても、住宅ローンがある以上、借金の存在自体を理由に離婚を求められるケースは多重債務者に限られるのかなという感想を持っています。
3-3.相手が刑事事件を起こした
配偶者が万引きなどの刑事事件を起こすと、「これ以上夫婦関係を続けられない」と考えるケースが多々あります。しかし相手が刑事事件を起こしたからと言って必ずしも離婚できませんし慰謝料も請求できません。
刑事事件を起こしたことは、必ずしも「有責性」とは結びつかないからです。刑事犯罪と夫婦の仲は一致しないからである。むしろ刑事犯罪は市民社会の問題であり、夫婦関係は家庭内の問題だからです。しかし、夫婦間での犯罪、性的な刑法犯、殺人などの重度な犯罪については、その行為態様や出所の見込みがたたないといった理由もあり、離婚が認められる可能性もあるでしょう。
刑事事件がきっかけの場合は父母いずれも離婚弁護士を選任することが望ましいといえましょう。
3-4.相手が子どもを虐待した
相手が子どもに暴力を振るったり育児放棄したりするので、一緒にいられなくなって離婚するケースがあります。この場合にも、必ずしも慰謝料を請求できるとは限りません。
夫婦の問題と子どもの問題は別だからです。相手が子どもを虐待していたら親権はこちらが獲得できますが、直接的な慰謝料請求の理由にはなりにくいので注意が必要です。当事務所では、こどもを原告にして慰謝料を得た案件もありますが、母親からの慰謝料請求に取り込むのは難しいと思われます。
4.離婚で相手に有責性があっても慰謝料を払ってもらえない可能性のあるケース
相手に有責性があっても離婚時に慰謝料を払ってもらえない可能性があります。「相手に支払い能力がない」場合です。
いくら高額な慰謝料が発生しても、無資力な人からはお金を払ってもらえません。その場合には、慰謝料を離婚後の分割払いにしてもらう方法を検討しましょう。たとえば相手が会社員や公務員で定期的な収入がある人であれば、給料から分割払いをしてもらうのは現実的です。
分割払いの取り決めをするときには、将来の不払いに備えて必ず「離婚公正証書」を作成しましょう。
また、最近は、一部の銀行は債務名義があれば、全店照会の弁護士会照会に応じてくれる銀行がわずかながらあります。あきらめずに弁護士に相談するようにしましょう。
離婚で慰謝料が発生するケースとしないケースの区別は一般には難しいこともあります。迷われたら、弁護士までご相談下さい。