セックスレスによる離婚について
セックスレスによる離婚について
- どのようなケースで、セックスレスを原因として離婚が認められるのか?
- セックスレスで慰謝料請求できる場合はどんなケース?
- セックスレスで離婚する場合の慰謝料相場を知りたい
セックスレスや性関係の不一致を理由として夫婦が離婚するケースは実際にあります。ただしセックスレスによって必ず離婚が認められるわけではありませんし、慰謝料を請求できるとも限りません。
以下ではセックスレスで離婚が認められるのはどのような場合なのか、またセックスレスによる離婚の慰謝料相場を弁護士が解説いたします。
1.セックスレスで離婚できるケース
1-1.セックスレスで離婚できるケースとは
夫婦のセックスレスとは、夫婦間に比較的長期間、性交渉がない状態です。どのくらい性関係がなかったらセックスレスになるという明確な基準があるわけではありませんが、一般的に1か月程度性交渉がなかったら、セックスレスの状態にあると考えられています。
そしてセックスが夫婦のつながりを維持するための基本となる大切な行為であることは、過去に最高裁判所も認めています。
ただし夫婦がセックスレスの状態になったとしても、常に離婚原因として認められるわけではありません。離婚が認められるには、セックスレスが民法の定める「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当する必要があります。
民法は、夫婦関係が破綻する重大な事情を4つ、列挙しています。
- 不貞
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復しがたい精神病
そして5番目に「その他婚姻を継続し難い重大な事由」を離婚原因として定めています。この要件は、①~④に準じるほど重大な事由です。セックスレスの場合にも、それが配偶者の不貞や生活費不払い、家出(悪意の遺棄)、DVなどと同じくらい重大な事情になっているのであれば、離婚裁判によって離婚を認めてもらうことが可能です。たとえば特にこれといった理由もないのに長期間セックスを拒絶し続けている場合、実は他の異性と不倫している場合、結婚前からセックスできない身体であることを隠していた場合などに離婚が認められやすいです。裁判例では結婚前から性的不能であることを隠しているケースでは比較的高額の損害賠償が認められています。
1-2.合意があればセックスレスが原因でも離婚できる
民法の定める法定離婚原因が必要なのは「離婚訴訟」によって離婚するケースのみです。夫婦が自分たちで話し合いをして協議離婚や調停離婚をするケースでは離婚原因が問題にならず、どのような事情であっても離婚できます。そこでセックスレスを理由とする場合でも、両者が合意さえすれば離婚できます。
1-3.セックスレスで離婚できるケース
- 夫婦の片方がセックスを望んでいるが、相手が特に合理的な理由もないのに受け入れない
- 一方がセックスを希望しているのに、結婚以来一度もセックスがない
- 一方がセックスを望んでいるのに、1年以上の長期間セックスレスになっている
- 夫婦の一方が不倫しているので配偶者とのセックスを受け入れなくなっている
- 婚姻前のケガや病気、体質的な性的不能でセックスができないのに、そのことを告げずに結婚した
- セックスレスが原因で夫婦が不和となり、お互いに夫婦関係を修復する意思を失っている
- 夫婦が合意によって離婚する(協議離婚、調停離婚、和解離婚など)
- セックスレスや寝室が別々であることが家庭内別居を裏付ける場合
どちらかというと、夫がセックスに応じないときの妻側からの離婚請求が認められやすい傾向にあります。
1-4.セックスレスで離婚できないケース
- 夫婦の双方がセックスを望んでいない
- 病気やケガ、年齢や体調の問題など、セックスできない事情がある
- セックスを拒絶した回数が2,3回など少ない
程度問題とはいえますが、年齢や正当事由がある場合は離婚原因とは言い難いということになるということがあると思います。
2.セックスレスで慰謝料請求できるケース
セックスレスで離婚が認められる場合、慰謝料請求できるケースもあります。
離婚の際に慰謝料が発生するのは、一方の配偶者に不法行為が成立するからですが、不法行為が成立するには、その当事者に「故意過失にもとづく違法行為」があることが必要です。たとえば離婚の場合、不貞(不倫や浮気)、暴力(DV)、生活費不払い(悪意の遺棄)など、行為者に有責性が認められる場合において、慰謝料が発生します。
セックスレスによって慰謝料が認められる可能性があるのは、以下のようなケースです。
- 相手が合理的な理由なくセックスを一切受け入れない
- 何度も求めているのに、結婚以来1度もセックスを受け入れてもらっていない
- 何度もセックスを求めているが、強く拒絶されて声をかけられなくなった
- 相手が浮気しているのでセックスに応じない
3.セックスレスの慰謝料相場
セックスレスの場合、慰謝料の相場は数十万~200万円程度です。相手が不貞をしており、その影響でセックスレスになっている場合には慰謝料が高額になりやすいです。
4.過去にセックスレスによって離婚が認められた裁判例
- 最高裁 昭和37年2月6日
婚姻前に夫が睾丸を摘出し、婚姻後、1年半の間セックスが行われなかった事例です。裁判所は妻による離婚請求を認めました。
- 横浜地裁 昭和61年10月6日
夫が新婚旅行のときから妻に全く触れず、その後もセックスが一切無かった事案です。妻は同居後1か月半で実家に戻り離婚請求を行い、離婚が認められています。
- 京都地裁 昭和62年5月12日
結婚するとき自分が性的不能であることを妻に告げず、同居後3年半の間、セックスがまったく行われなかった事案です。性的不能であることを告げなかったことが信義則違反(民1条2項)として、妻による離婚請求が認められています。
- 福岡高裁 平成5年3月18日
夫がポルノビデオにはまって自慰行為ばかり行っており、妻がセックスを求めても約2年間の間、拒絶し続けた事案です。妻による離婚と慰謝料請求が認められています。
セックスレスで離婚できるのか、慰謝料を請求できるのかについては、個別的な判断が必要となります。気になる方は、お気軽に弁護士までご相談ください。