悪意の遺棄・婚姻費用
同居している夫が生活費をまったく家庭に入れない場合
シュシュ:今回は、悪意の遺棄と生活費を支払ってくれない場合を考えたいと思います。
弁護士:生活費を支払ってくれないという事例は結構多いですよね。
離婚原因である悪意の遺棄といえますか。
悪意の遺棄に該当する可能性があります。ただ、最近は婚姻費用分担調停が充実していますので、生活費の不払いがあれば調停をして、同居であったとしても、支払いを命じてもらい給与債権に強制執行をすることができます。そういう意味では、本当に強制執行もできないような場合は悪意の遺棄になると思いますが直ちに悪意の遺棄に該当するかは慎重に判断するのがよいようにも思われます。
民法は、離婚原因の1つとして、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(民法770条1項2号)を挙げています。
「遺棄」とは、民法752条の同居、協力、扶助義務を履行しないことを意味し、正当な理由なく同居しないことや夫婦がなすべき協力義務を果たさないことや、扶助義務(夫婦がお互いに自身と同程度の生活を他方配偶者に保障する義務)を果たさないことを意味します。
「悪意」は、単に遺棄の状態を認識しているだけではなく、遺棄によって婚姻関係が破綻することを積極的に企図、若しくは認容していることを意味します。ですので、単純に生活費の不払いだけを意味しているわけではありません。
夫が生活費をくれない、という場合では、妻の収入の有無、その金額など、夫が生活費を入れない目的をなどを総合的に考慮し、悪意の遺棄に該当するか判断されることになると思われます。例えば、相談者が専業主婦で夫には稼ぎがあるにも関わらず、合理的な理由もなく、生活費をまったく相談者に渡さず、その結果、相談者が通常の生活が送れない状態に陥っているような場合には、「悪意の遺棄」に該当する可能性が高いと思われます。他方、妻も共働きの場合は悪意の遺棄と認められる可能性は低いようにも思われるのです。
無断で別居した夫が生活費をくれない
夫が無断で家を出て、家族とは別に住居を構え生活を始め、家族の生活費を入れなくなった場合は悪意の遺棄といえますか。
シュシュ:不倫の場合はよくあるよね。
弁護士:悪意の遺棄に該当する可能性が高いです。
民法に定めた離婚原因の「悪意の遺棄」の「遺棄」とは、夫婦間の同居・協力・扶助義務を履行しないことを意味しますが、「同居義務」とは、夫婦が同じ住居で生活する義務のことを意味します。そこで、合理的な理由もなく、夫が家を出て、別に住居を構えて生活した場合には、同居義務に違反することとなり、悪意の遺棄に該当する可能性があります。
また、民法752条の扶助義務とは、夫婦がお互いに自身と同程度の生活を他方配偶者に保障する義務のことを意味します。この義務に違反するかどうかは、相談者の収入の有無、収入金額や、夫の収入、生活費をまったく入れない目的などを総合的に判断し、悪意の遺棄に該当するかが判断されます。
夫が家を出て生活費をくれない、というケースでは、例えば、夫にきちんとした稼ぎがあり、相談者には収入がない、または十分ではないにもかかわらず、合理的な理由もなく、生活費を支払わないというような場合には、民法752条の扶助義務を履行していないものと考えられ、悪意の遺棄に該当する可能性が高いと思われます。このように生活費をいれないから直ちに悪意の遺棄に該当するのではなく「総合判断」になるのです。
自分の不貞行為が原因で生活費をもらえない
自分の不貞行為が原因で別居となるも夫から生活費を支払って貰えない場合、悪意の遺棄となりますか
弁護士:悪意の遺棄にはあたらないと考えられます。
シュシュ:僕は反対、悪意の遺棄に当たる可能性があると思います。だって、不貞していることと夫婦の扶助義務の履行は関係がないと考えられるもの。特に、不貞をしている場合、養育費相当額のみという裁判例も多いけど、「夫婦のみ」の場合、申立てが却下されるところまではいかないと思いますね。
夫の立場からすれば、妻の不貞行為が原因で別居に至ったにもかかわらず、その後も生活費を支払わなければならないというのは納得ができないように思えます。
類似のケースですが、もっぱら妻側に責任のある事情から夫婦が別居し、夫が妻に生活費を渡さなかったのが「悪意の遺棄」にあたるかが争われた事件で、昭和39年最高裁判所は、婚姻関係破綻に主として責任のある者からは相手に対して扶助請求を主張し得ないとして、悪意の遺棄に該当しないと判断しました。
つまり、婚姻関係破綻の主たる原因が妻の不貞行為にある場合、夫が扶助義務を履行しないとしても、悪意の遺棄にはあたらないと考えられます。一般的には、妻からの扶養料請求が信義則に反し権利の濫用に該当することが多いからではないからと思います。