令和6年民法改正~新しい養育費制度をめぐって~先取特権・法定養育費・情報開示制度
民法改正~新しい養育費制度をめぐって~弁護士が解説
令和6年民法改正(令和8年施行見込み)では、新しい養育費制度がもうけられることになりました。
離婚の際のこどもの問題というと、「親権」「面会交流」が取り上げられることが少なくありませんでしたが、現在離婚後父親を中心とする非監護親が養育費を支払っている割合は30パーセントとされています。
母子家庭では世帯年収が236万円、父子家庭では496万円とされ、二馬力で働くパワーカップルと比べると、こどもの貧困が問題にならざるを得ず、高等教育進学をめぐって特に進学率が高い東京都では問題とされてきました。
では、「新しい養育費制度」というのは一体どんなものなのでしょうか。離婚問題に詳しい弁護士が解説していきます。是非、参考にしてみてください。
1.新しい養育費制度の概要
新しい養育費制度では、養育費の履行確保のために大きな改正が行われました。現在でも、養育費の履行促進には①履行勧告、②履行命令、③強制執行、④強制執行の執行力の効果が高められていますが、こうした立法政策にかかわらず履行率は30パーセントにとどまっていました。
ところで、養育費の性格を確認しておきましょう。というのも、最近の家庭裁判所及び非監護親からは、18歳成人制を根拠に養育費(子の監護の費用(民法306条3号、先取特権)、子の監護に要する費用(民法766条の3、法定養育費)、扶養料(民事執行料151条の第1項各号)は、18歳に達する日の属する月までとの理解も広がってきています。
現行877条は親族間の扶養義務を定め、877条1項は直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務があるとされていますが、条文には特に年齢や兄弟姉妹を区別する規定はなく社会通念上の違和感もあるところです。
このため、親の未成年(未成熟)のこどもに対する扶養義務は、子が自己と同水準の生活を保持する義務(生活保持義務)とされています。分かりやすくいえば、自分にパンが1個あるだけでも、それを分け与えなければならないという義務であり、余裕があれば行えば良いという兄弟姉妹に対する生活扶助義務とは区別されています。
ところで、民法上、教科書にはそのように記載されており、養育費の根拠はよく分からないというのが素朴な法律家の意見でした。一説には、民法752条、760条、877条、760条、820条、766条、条文上の根拠はないものまで百家争鳴の状態でした。
こうした観点から、非監護親の中には、自己の生活の困窮を訴えて、自己の生活を犠牲にしない程度、つまり余裕があるときのみ養育費を支払えば良いという誤った理解が広がるようになっていたものと思われます。
改正法は、条文化し、誰の目にもどの程度の養育費の支払いがどの程度かを分かるものとしているといえるのではないかと思われます。
ざっくり、今回の改正の実務的目玉は、①養育費の先取特権の新設、②法定養育費制度が「新しい養育費制度」といえます。
1-1.民法817条の12第1項の新設で養育費の根拠をはっきりさせたこと
たしかに、これまでの解釈がそのまま条文に書かれただけではないかと思われますが、民法の教科書に書いてあるだけのことと、条文で明示されていることを行わないものでは背信性の程度が全く異なってきます。
親の責務の規定においては、「父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない」とされています。
ここでは、「父母」と記載することにより親権の有無にかかわらないことを明確にして、その扶養義務の性格は生活保持義務、つまり、自分に余裕があるときだけ援助すれば足りるものではないことが明示されるに至りました。
1-2.「養育費」と「扶養料」とは
養育費は、未成年(未成熟)の子に対して非監護親が監護親に支払うものです。これに対して、民法877条1項に基づいて18歳以上の「成人」の「子」は、親に対して扶養料を請求することもできるようになっています。
養育費と扶養料は重畳的関係にあり、二重取りはできません。ただし、東京都では、父母が双方働きに出ている社会的実態がスタンダードであるため、今後は、こどもがサード・パーティとして、父母双方に対して扶養料を求める調停・審判なども考えられるようになるでしょう。
なお、18歳を越えていても、東京都を基準にする限り、大学生であれば22歳を越える最初の3月に至るまでは監護親から養育費が請求でき、こどもから非監護親に扶養料を請求する場合も、監護親が代位行使又は任意代理人として行動できる可能性などは考えられるところと思われます。
2.養育費の先取特権~ついに民事執行法のみでは対応できなくなり民法に反射して帰ってきた養育費問題~
養育費は、統計上、70パーセントが正当に支払われていないと思われます。アメリカでは40パーセント程度ですから、日本においても強く是正が必要な社会的実態があります。
そのため、様々な制度が、民法の手続法である「民事執行法」にありますが、最早「民事執行法」では対処しきれなくなり、今度は、「先取特権」として「法定担保物権」として帰ってくることになりました。
みなさんになじみ深い先取特権は、「未払給料の請求」などがあるかもしれません。
先取特権は、抵当権とは異なり約定のいらない担保物件ですから、後にご紹介する「法定養育費制度」と合わせ技で用いることで、債務名義がなくても、その存在を証する文書(民事執行法181条1項4号)で非監護親の財産を差し押さえたり、財産開示手続に加えたりして就労先などの第三者からの情報取得手続の申立てをすることができ、一応物権を持っているため、一般の強制執行債権者に優先して養育費債権の回収を目指すことができるようになりました。
したがって、今後、非監護親としては、特に養育費を約定して、3年も5年も放置しておくと、物権に基づいて不動産を競売されてしまう可能性なども出てくるでしょう。
もともと、理屈のうえでは、これまでの制度でもできましたが、改正の目玉は、特に何の約定がなくても法定養育費債権の範囲であれば、先取特権に基づいていきなり担保権を実行できるということとなりました。
もっとも、労働者側の裁判などを担当していると、給与債権が先取特権の対象といっても、それほど実効性があるとは考えられていないため、法定養育費債権制度をよりよく活かすための布石と見るべきなのでしょう。
一般先取特権にはランキングがあり、民法306条では、債権者間の共益費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給の順序に従うものとされていますが(民法329条)、養育費債権の先取特権は、雇用関係に次ぐ第三位にランキングされることになりました。
つまり、養育費の不払いは、給与の不払いを起こした使用者に準じて取り扱われることになり、葬式の費用を踏み倒すような罰当たりよりも悪質との評価が民法上加えられることになりました。
今後は、アメリカと同様、厳しく養育費不払いに関しては取り締まりの対象になっていくと思われますが、例えばイリノイ州法でも、養育費の不払いは、まずは裁判官命令に反した法廷侮辱罪に問われ、6か月以上滞納した場合や未払いが5000ドルを超えた時点でクラスA(軽犯罪、最大1年の拘禁)に問われます。また、未払が2万ドルに達している場合はクラス4(重罪)に問われ、最大3年拘禁されることになっています。
養育費の不払いは、既に犯罪化が進んでいるアメリカでも、未だ全体の40パーセント存在しています。
今回、養育費債権は、労働債権に準ずることなり、母子家庭の子の生活の保護という社会政策、すなわち、こどもの扶養は社会全体で支えるべきであり、債権者平等の原則に反しても一般債権者に監護親が優先されるとの価値判断が行われることになりました。
このように、養育費債権は、一般債権に優先することになるため、養育費不払いに対する社会人としての評価は厳しいものがあるとういうべきであり、今後は、面会交流権などの議論にも、社会全体でこどもの扶養を支えて民法上のフェアプレーヤーが金銭債権を劣後させて譲り合っているのに、自由勝手気儘に養育費を支払わない非監護親の面会交流権の行使はいわゆる背信的悪意者性が強いものとの風潮が強まっていくことになると考えられます。
ただし、養育費債権は、労働債権には劣後するものとされましたが、東京都では、多くの事業者は法人化しているため、あまり大きな問題ではないと思われます。
養育費のうち、先取特権は全ての範囲にあるわけではなく、「子の監護に要する費用として相当な額」とされることになりました(民法308条の2)。言葉遊びのようですが、子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により不要を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額とされるものといわれています。
2-1.弁護士が作成する養育費に関する協議書にも執行力が生じることになったこと
先述のとおり、「子の監護に要する費用として相当な額」の範囲では、養育費債権は、法定担保物件である先取特権を有することとされているので、かかる部分では公証人による公正証書によらなくても、弁護士が関与して作成した当事者間の合意に課する文書であれば、公証人や法務大臣の認証を受けていなくても、先取特権の範囲では担保権実行として財産の差押えを行うことができるようになりました。
上記の場合、当事者間で約定した金額と法務省令で定められる金額のうち、どちらか少ない方の範囲で先取特権があります。
2-2.養育費は、今後公正証書によらなくても弁護士などの法律家のチェックを
当事者間の合意に課する文書は、債務者の署名・押印は必須であると思われますので、形式的証拠力が必要となりますので、弁護士などの法律家を介在させた方が先取特権の行使にあたって有意に便利といえます。
特に養育費の額が高額な場合は、担保権の設定行為にも当たるため、今後養育費の設定は、債務者の意思を担保するものである必要があるというべきです。
したがって、念書などでは不十分とされる可能性があるので、弁護士などに依頼して、民事執行法181条1項4号の養育費につき「その存在を証する文書」を作成してもらうのも一つと思われます。なお、差押をするためには、給付債権としての特定性が担保されている必要があるため、養育費の始期及び終期及びその金額が定まっていなければ執行できません。
この辺りは、面会交流についての給付債務の特定に関する最高裁の判例とするところや公証実務に一定の理解がある法律家が関与することが望ましいと思われます。
3.目玉中の目玉「法定養育費」制度
鋭い方が読めば、法律上、法務省令で自動的に養育費が設定されることになり、その養育費債権に先取特権があるということになると、理論的に法定養育費の範囲で、いきなり担保権が実行できることになると思われます。
これまで、養育費は、「債務名義に基づく強制執行」で申し立てていましたが、今後は、「一般先取特権の実行」として申し立てることも増えていくものと思われます。
父母の協議によって定めのない補完的な制度として、民法766条の3に法定養育費制度がもうけられることになりました。今後は、法務省令で定められる養育費の金額がいくらになるかが注目を集めています。本稿が執筆されている令和6年9月28日時点では公表されていないものの、生活保護基準によるべきとの説、例えばこども一人あたり5万円と形式的に決めるべきとの説、家庭裁判所の算定表を上回るべきとの説などが散見されます。最終的には法務大臣の裁量で決めることとなります。
今後は、法定養育費の金額自体も、法務大臣が職権を持つことになりましたので、良い法務大臣を選ぶという点で政治に関心を持たれたり投票行動の参考にしたりしても良いかもしれません。
まず、請求できる者は母子家庭でいえば母親です。民法上は、「父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」(民法766条)とされており、民法上、「主たる監護者」という用語が養育費に関連して条文に登場しています。
ただし、監護分掌をしている場合など「主たる監護者」を認定しにくいケースもあると思われ、そのようなケースでは法定養育費の請求権者の要件を満たすか否かに注意が必要といえます。
そして、法定養育費の始期は「離婚の日」からとされました。そして、終期はこどもが成人するか父母の協議により子の監護の費用の分担について定めた日あるいは家裁審判確定の日までとされました(改正後民法766条の3第1項)。
注意が必要であるのは、現在は、父親側(非監護親)は、養育費債務を分担するのは多くは請求時説によっています。
しかし、民法改正後、明示的に「離婚の日」からとされたため、今後は、少なくとも法定養育費の範囲であれば、いったん民法の効力により発生し、後日、既発生分については、父母の協議により修正することが可能ないし家裁が変更することを可能としているように思われます(民法766条の3第3項)。
現在の運用に照らして考えると、例えば、養育費債権は、乳児の認知に関連している場合は子の出生時に遡って支払を命じる審判もありますし、小学生や中学生などは、原則通り調停が起こされた時からという説が一般的であるものの、今後、過去に遡って養育費債権については執行される可能性もないとはいえないということになります。
そして、法定養育費債権の周期は子が18歳になったときといえます。実際は、養育費はこどもが未成熟子、つまり大学を卒業するに至る22歳を越える最初の3月までとされることが多いものの、民法は都道府県を問わず適用されることや、大学進学率は東京都以外5割以下にとどまることから、法定養育費はあくまで最低限ということで「成人」と明文で規定されています。
3-1.目玉中の目玉「法定養育費の額」とは?
今後は、「法定養育費の額」について政治的テーマになることが考えられます。すなわち、法定養育費は、非監護親が負担するべきものであり、国家の予算的手当てを伴わない民法上の利益較量の問題であることに照らして、法定養育費制度は今後政治的イシューになる可能性はあるといえるでしょう。例えば、法定利息は、昔は年5分でしたが、現在は3分とされていますが、法定養育費制度も法務大臣によって変動し得るものといえるものです。
そして、額については、債務者、つまり、非監護親の不利益にも鑑みる必要があるので、「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」とされています。
条文だけでは、いくらになるのか、さっぱり分かりませんが、先取特権が設定され、法定養育費はそれと連動する関係上、いちいち煩雑な計算が必要とすべきと解すべきではなく、一義的にこども一人2万円なら2万円、5万円なら5万円といった方が、利用者としては簡便でしょう。もっとも、条文の文言に照らすと、生活保護基準が適用される可能性、あるいはそれよりもやや上回る水準(生活保護と一緒であれば生活保護を受けた方が一般的に早いから)とされる可能性が高いものの、弁護士や市役所(区役所)で簡単に計算できる内容でなければならないと思われます。
もっとも、先取特権が認められている範囲が、「子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して」という金額であるのに対して、「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」というのは、いかにも、「最低限度」感が漂っていることは条文との比較で明らかであり、先取特権の範囲よりは少ない範囲となるので、例えば、最低養育費債権がこども一人当たり3万円、先取特権の対象は6万円というようなイメージで法務省令が出るかもしれません。
いずれにせよ、本記事執筆中では分かりませんので、法務省令を確認することが必要となります。おそらく令和8年の正月くらいに発表されるのではないかと勝手に予測していますので動向を注視する必要があります。なお、法定養育費制度では、日割計算が導入されるものと考えられます(民法766条の3第2項)。今後、ざっくり、月単位で決めている実務に変更が生じないかも見ていく必要があるでしょう。
3-2.そもそも、法定養育費制度は非監護親の事情を考慮しないで決めること
今後は、法定養育費制度は、父母が養育費の定めをせず協議離婚をした場合に当然に発生し、債務者とある別居親の資力・収入は問題とならないので、ありていにいえば、婚外子で、父親意識の乏しい父親などには、主観的に過酷と思える負担も出てくることになるでしょう。
民法は、あくまで、市民社会のプレーヤーとしての利益調整を図る法律であり、罰金を決める法律ではありません。このため、債務者(非監護親)は支払い能力を欠くためにその支払いをすることができないとき又はその支払いをすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができるとされています(民法766条の3第1項ただし書き)。
法定養育費制度や先取特権は、民事執行法の領域と交錯しているため、「証明」という文言が、実体法である民法に登場するという訳の分からない法律になっています。
もっとも、現在でも、父親の収入が低い場合は、養育費が計算上ゼロになったり、便宜上1万円から2万円で調停をまとめたりしていますが、今後は法務省令で定める法定養育費の範囲では暫定払いも拒むことは難しいように思われます。
暫定払いを拒む場合は、「債務者(非監護親)は支払い能力を欠くためにその支払いをすることができないとき又はその支払いをすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したとき」であることが必要とされるでしょう。
したがって、働く場合は、非監護親の事情に左右されず、子の事情のみで一定額の設定がされるわけですので、今後、養育費の支払に関する法意識に変化が生じるものと考えられます。
家庭裁判所でも、一定期間猶予したり免除したりする処分ができるという規定ももうけられましたが(民法766条の3第3項)、逆に言うと家裁の有利な処分を得ない限り、不可能とも読めます。非監護親としては、過剰な債務の全部もしくは一部の免除又は猶予ができるようですが、運用上、「生活が著しく窮迫する」というような要件にほとんど該当する場合はないといわれています。
法定養育費についても、不払いがあれば、従来どおり、確定期限が到底していない将来分についても債権執行ができます(民事執行法151条の2第3号)。
4.調停における情報開示手続(財産開示手続のようなもの)
家事調停で、非監護親の収入及び資産の状況に関する情報開示の申立てができるようになりました(人訴法34条の3、家事事件手続法152条の2第1項)。今後は、協議離婚を止めて養育費についてきちんと決めるという趣旨においても後々苦しまないために家裁の利用が増えるのではないかと思います。ここでは触れられていませんが、今回の一連の改正で、調停に代わる審判が積極活用されるのではないかと占っており、調停がまとまらなくても一定の熟議ができた場合、裁判官が調停の結論を一応審判にしてもらえることで紛争は簡易迅速にまとまる方向性になるのではないかと思われます。
その過程の目玉が情報開示制度なのです。
主に財産分与について注目されている制度ですが、養育費、婚姻費用についても活用できるものとされています。
こちらは、開示に応じず、虚偽の開示をしたときは、過料というペナルティがあります(行政刑罰の一種)。
もっとも、10万円以下の過料のため、実効性のほどは不透明と解説されることが少なくないように思われます(人訴法34条の3第3項、家事事件手続法152条の2第3項)。
これは、婚姻費用分担調停が別途提起されていなくても情報開示の申立てができることになっています。
5.強制執行の際の財産開示制度の簡便化
養育費について強制執行の依頼を受けた弁護士をしたことがあれば、その執行手続の余りの煩雑さに辟易したことがあるものと思われます。
とりわけ、辟易するのが給与債権を差し押さえる場合、勤務先が分からない場合です。この場合、現行法では、①実体裁判→②財産開示手続→③情報取得手続をしなくてはなりませんでした。
しかし、「新しい養育費制度」では、既に実体裁判の段階で「情報開示制度」がもうけられることになり(家事事件手続法152条の2第1項)、更に、財産開示制度前置主義が改められることになりました。
確かに、実務上、財産開示制度でも、債務者に勤務先の申告を求める運用なのですが、不誠実な債務者の場合、もとより裁判所からの命令に応答しない者も少なくありません。
そこで、不誠実であれば不誠実であるほど、母子家庭や子の貧困が助長される結果を招き、複雑な執行法の法制度もそれを助長するような隠れ蓑になっていた感じがしなくもありませんでした。
そこで、そもそも、協議離婚をした場合は、債務名義、つまり①を経由しなくても、いきなり②又は③に進むことができるようになった。
イメージ的にいえば、控訴審を省略していきなり最高裁に飛越上告をするようなものでしょうか。
第一に債務名義がなくてもいきなり財産開示や第三者の情報取得制度が利用できるようになりました(民事執行法206条2項)。
もっとも、形式的に申立手続自体は、財産開示手続、第三者の情報取得制度は別々のようであり、それを1回の申立てにより複数の失効が可能となるというものの(民事執行法167条の17)、いずれにせよ別々の申立てが必要な書式を執行裁判所が用いるのであれば、分かりにくい制度が残ることになります。
なお、法改正では、一回の申立てで複数の執行手続がカバーされるのは明文で給与債権に限ることになったようですから(民事執行法167条の17第1項第1号、2号)、一般的に給与債権は、普通の弁護士の感覚では差押債権に選ばないと思われるが、家事事件は特殊であることが債権回収の実務からも明文で示されたものといえるでしょう。
6.結びに代えて~アメリカ法を意識する立法政策を~
今回の新しい養育費制度は、執行力を強力にするため、養育費債権を労働債権並みに保護するものであり、一般的に使用者を経験したことがない者からすると、にわかに経験し難い不平不満こともあることでしょう。
とりわけ若くて経験不足な義務者にとっては主観的な不平不満が強いかもしれません。
しかしながら、事業を経営しているものからすれば労働債権に不払いがあれば先取特権で執行を受けるなど当たり前のことであって、また、多くの経営者は、労働債権に自分の金銭債権は負けることを知っているところ、その間に養育費債権が位置付けられることになりました。
したがって、養育費の不払いをする者は、給与の不払いをする者とほとんど同義と一定程度の層からは評価されることになるだろう、もっといえば社会的信用を失うだろう、ということ自体には留意される必要があるでしょう。実際、大手企業の場合は、人事部で掌理する事柄です。
実際は対処の仕方が問題であることは、労働事件で使用者も労働者もいずれも経験したことがある弁護士としていえることである。
アメリカでは、立法政策の流れとして養育費の福祉での対処が試みられましたが、なぜ国民の税金で養育費を支払うのかという批判を浴び、父親が支払うのが当たり前という話しになりました。
つまり、子育てに関する費用の支払いの拒否は税金での対処を求めていることになりますが、そういう国は比較法的にみて社会主義の立法政策でもみられません。
例えば、中国民法でも養育費の規定はあります。言い換えると、中国ですら、全て税金で賄うことなどできないのです。
したがって、予算的制約により、養育費をプライベートの領域で強制執行力を強める方向性に立法政策の流れに、アメリカではその不履行には拘禁までついてくるということになっています。
いずれにせよ、すでに財産開示制度に対する不出頭は罰金刑など令和元年改正で執行力が高められているため、これまでの制度と併せ、より不履行に対する履行確保策が立法政策上講じられることが望ましいといえるでしょう。
しかしながら、より本質的であるのは、①行方不明の父親の発見、②養育費を負担すべき義務者の早期確定、③裁判所が裁判所侮辱罪の制裁を伴う支払命令の発動、④養育費の強制的な取立てがセットになっているということも指摘しておきたいと思います。
我が国では、現状、①、②、③も不十分なところが少なくなく、④のみ、今回の「新しい養育費制度」でもう少しカバーされたものと一応いえます。民法の改正とはいえ、ざっくりいって、④の中に入る範疇、つまり養育費支払の履行確保の一環といえる改正といえます。
しかし、その中には、法務大臣が、養育費額を命令で決められるとの規定ももうけられ、それは広い裁量で判断される事柄であり、小さく生んで大きく育てるという観点からいうと、最終的には、②の部分も強化された改正といえるかもしれません。
今後の法改正は、東京都や名古屋市でいえば、区役所が義務者の所得を把握しているから、裁判所の命令がなくてもすぐに情報を提供する制度、父親の居場所が分からない場合は市長が職権で調べる制度、国税庁に調査嘱託し調査拒否を認めない立法政策(税金の取立てに養育費は勝ること)を採用などが挙げられます。
ざっくり簡単にお役所と警察にいけば養育費が取り立てられる仕組みが重要と考えます。
アメリカでは、父親の行方不明については、連邦レベルで、社会保障庁、内国歳入庁、選抜徴兵局、国防総省、復員軍人庁、国立人事記録センター、雇用保障局のデータにアクセスできることになっている。
とりわけ、アメリカでは、内国歳入庁にアクセスできることがとても養育費の取立てに貢献しており、およそ税金を支払っているものは簡単に居場所を特定できるとともに、収入も把握できることになっており威力を発揮しています。
これに対して、裁判所からの調査嘱託にすら、「守秘義務」なるもので回答を拒否する財務大臣及び税務署の対応に国民は峻烈な目を向けなければなりません。
なぜならば、私たちは、市民社会のプレーヤーとして、一般債権を劣後債権として、養育費債権を優位にある債権として先取特権を与えた、つまりこどもは社会で育てていくものと決めたのです。
にもかかわらず、養育費債権より前に、それを国税がかすめていくのは社会的正義に反するからです。
正しく、こども滅びて国栄える、ということにならないように、財務省及び国税庁には現在の調査嘱託に守秘義務を盾に裁判所命令にも応じないという頑迷な態度につき、強く再考を促したいという問題意識を叙述しておきます。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、離婚、財産分与、高額所得者の離婚に伴うファイナンスの問題に力を入れて取り組んでいます。ディフェンスやオフェンスが必要な方は、お早めにご相談ください。(ただし、養育費プロパーの問題、減額・免除・執行の相談、確定した債務名義の鑑定などは有償です。)