違法な連れ去りがあった場合の監護者指定の判断基準
名古屋の離婚弁護士のコラムです。 違法な連れ去りといっても,審判前の保全処分では考慮の対象になるものと考えられます。しかし,本案の場合は違法性よりも子の福祉に適うかという観点から判断がされることになるので,監護開始の違法性はあまり重視されないものと考えられますが,実務上,監護者指定の判断基準にどのような影響を与えるのでしょうか。 考え方としては,違法な連れ去りをした者に対して,司法的視点から重い立証責任を課すという立場がありますが,たしかに審判前の保全処分は引渡しを求める側の証明責任が重たい印象があるので一つの考え方ではないかと考えられます。次に,監護者の資質を比較衡量する上で違法な連れ去りをした親側を不利に扱うという考え方もありますが,もともと不利であるから連れ去った経過もあるでしょうからあまり意味のない規範といえるかもしれません。そして,連れ去り行為を特に重要な問題として考慮しない立場があるといわれています。 連れ去りというと「誘拐」ですが父母が取り合いをしているだけですから,拉致であるとか連れ去りであるとか,子の奪い合い紛争をしているにすぎないので,子の福祉にどちらが叶うか子の立場から最善の立場を考えるべきで,監護開始が違法だから引渡しというのはおかしな結論というように考えられます。 そもそも,従前の母の監護下において,その主たる監護に特段の問題がなかった事例において,家庭裁判所の手続を軽視した父による違法な連れ去りにつき,父による法的手続を軽視する態度を監護者の資質に欠く不利な事情として扱っています(大阪高裁平成17年6月22日)。また,父による違法な連れ去りの後にきずかれた父子の安定的な情緒関係を重視しない扱いをしています(東京高裁平成11年9月2日)。 しかし,父との心理的情緒的結びつきが強いのであれば,これを重視する考え方もあります。 多くの事案を経験していますが,憲法判例とは異なり比較考量に指針がないので,アドホック・バランシング(裸の利益衡量)になってしまい,関係ない事項も同列に並べて比較衡量をするというのは,違和感を感じます。 そして「制裁」によって子の監護者を指定することが,子の最善の利益に適合するかは問題があるというべきでしょう。これら判例は説示の仕方やアプローチの仕方に異論がありますが,このような考え方もあり得るところです。