養育費

将来の養育費債権については、仮差押えをすることができるか

将来の養育費債権については、仮差押えをすることができるか

1 本件は,元妻であるXが,元夫であるYとの間で作成した強制執行認諾文言のある公正証書(以下「本件公正証書」という。)で定められた長男A及び二男Bの養育料(1人当たり月額3万円)のうち,Aに係る支払期限が到来していない養育料債権(平成28年2月~平成32年3月の50箇月分,合計150万円)を被保全債権として,Y所有の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)に対して仮差押命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である(な、」」お,本件申立てがされた時点〔平成28年1月〕において,A及びBに係る支払期限が到来した養育料債権のうち合計139万円の未履行分があった。)。
 2 事実関係の概要は,後掲の原決定の「事実及び理由」第3の1を参照されたい。
 3(1) 原審(原々審も基本的に同旨)は,金銭債権について債務名義が存在する場合には,債権者は,特別の事情のない限り,速やかに強制執行をすることができるから,原則として,民事保全制度を利用する必要性(権利保護の利益)が認められないと解されるところ,Xにおいて,本件公正証書を債務名義とし,既に支払期限の到来した未払の債権239万円(未払の養育料139万円及び本件公正証書で定められた慰謝料100万円の合計額)を請求債権として本件不動産について強制競売の申立てをすることができることなどに照らすと,上記の特別の事情があるとはいえず,本件申立ては,権利保護の利益を欠き不適法であるから,これを却下すべきものとした。

許可抗告

 これに対して,Xが抗告許可の申立てをしたところ,原審は抗告を許可した。1 本件は,元妻であるXが,元夫であるYとの間で作成した強制執行認諾文言のある公正証書(以下「本件公正証書」という。)で定められた長男A及び二男Bの養育料(1人当たり月額3万円)のうち,Aに係る支払期限が到来していない養育料債権(平成28年2月~平成32年3月の50箇月分,合計150万円)を被保全債権として,Y所有の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)に対して仮差押命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である(なお,本件申立てがされた時点〔平成28年1月〕において,A及びBに係る支払期限が到来した養育料債権のうち合計139万円の未履行分があった。)。
 2 事実関係の概要は,後掲の原決定の「事実及び理由」第3の1を参照されたい。
 3(1) 原審(原々審も基本的に同旨)は,金銭債権について債務名義が存在する場合には,債権者は,特別の事情のない限り,速やかに強制執行をすることができるから,原則として,民事保全制度を利用する必要性(権利保護の利益)が認められないと解されるところ,Xにおいて,本件公正証書を債務名義とし,既に支払期限の到来した未払の債権239万円(未払の養育料139万円及び本件公正証書で定められた慰謝料100万円の合計額)を請求債権として本件不動産について強制競売の申立てをすることができることなどに照らすと,上記の特別の事情があるとはいえず,本件申立ては,権利保護の利益を欠き不適法であるから,これを却下すべきものとした。これに対して,Xが抗告許可の申立てをしたところ,原審は抗告を許可した。
 (2) 本決定(多数意見)は,本件事実関係の下において,所論の点に関する原審の判断は是認できるとして,いわゆる例文の形で本件抗告を棄却した。

 (2) 本決定(多数意見)は,本件事実関係の下において,所論の点に関する原審の判断は是認できるとして,いわゆる例文の形で本件抗告を棄却した。

パースペクティブ

シュシュ:仮差押え命令の可否については、これが保全の必要性か、権利保護の必要性についての見解が分かれるが、民事保全については、保全の必要性のみが要件となるよね。

弁護士:本件では、養育費が債務名義があることだね。そして、期限到来と未到来がまざっているのです。期限未到来の最右については、たとえ、債務名義を有していたとしても仮差押えの必要は認められます。思うに期限が到来している債権の強制執行と未到来のものの債券については保全の必要性が認められる。

シュシュ:しかし、多数意見は保全の必要性を認めなかったんだね。仮差押え命令の発令の際に必要な権利保護の必要性の判断に際しての判断を示したものといわれているよ。

判例

抗告代理人阿部正義、同阿部和子、同阿部一真の抗告理由について
 本件事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官岡部喜代子、同木内道祥の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 裁判官木内道祥の反対意見は、次のとおりである。
 本件仮差押えに民事保全制度を利用する必要性(権利保護の利益)がないとする原審の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
 一 本件仮差押えにおける権利保護の利益につき、まず問題とされるのは、抗告人が債務名義を有することであるが、債務名義があっても、債権の期限が未到来であれば、強制執行を開始することができない(民事執行法三〇条)のであるから、期限到来分の債権とは別異のものである期限未到来の債権については債務名義があることをもって仮差押えを利用する必要性を否定することはできない。
 本件で抗告人の有する養育料債権は、給料その他の継続的給付に係る債権に対しては、期限未到来のものについても差押えが可能である(同法一五一条の二)が、本件では、相手方は給料その他の継続的給付に係る債権を有するとは認められないから、この差押えを利用することはできない。同法一六七条の一六は期限未到来の養育料債権についても間接強制を認めるが、それは六月以内に確定期限が到来するものに限られているところ、本件仮差押え申立ての時点において、抗告人の有する養育料債権のうち期限未到来分は、平成二八年二月分以降、長男分については五〇月分一五〇万円、二男分については六八月分二〇四万円の合計三五四万円であり、間接強制が可能であることをもって本件仮差押えにつき権利保護の利益がないということもできない。
 さらに、債務名義を有しており、債権の期限が到来していて即時に強制執行の申立てが可能な債権を有する債権者であっても、その時点で強制執行の申立てをするか否かは債権者の意思に委ねられている。本件仮差押え申立て時点で養育料債権の期限到来分、すなわち、延滞分は長男分と二男分を合計してほぼ二年分の一三九万円にのぼっているものの、ただちに強制競売を申し立てることが経済的にちゅうちょされる実情にある抗告人が、それを行わないからといって、別に有している期限未到来の債権の保全措置をとることについて、不利益を課せられる理由はないはずである。
 二 次に、本件仮差押えの対象とされた不動産には独立行政法人住宅金融支援機構を債権者とする抵当権が設定されているところ、現状では、無剰余とされる可能性が相当程度あるものの、上記抵当権は普通抵当権であり、相手方が被担保債権の分割支払を怠っている状況もうかがえない以上、将来において剰余が生ずる見込みがあることは否定できない。債務名義がなく今後の提訴を予定して行われる不動産仮差押えの申立てにおいて、申立ての時点で対象不動産が無剰余である可能性が相当にあっても、仮差押えが認められているのは、強制執行を開始できる将来の時点における剰余の見込みが否定できないことを前提としているからである。本件でも、同様に、現時点の無剰余の可能性の程度を理由として仮差押えを利用する必要性を否定することはできない。
 確かに、抗告人は、既に期限の到来した養育料債権一三九万円および慰謝料債権一〇〇万円の合計二三九万円について、不動産に対する強制執行の開始を求めることができる。しかし、その強制執行手続の請求債権は期限到来分のみである。期限未到来分についても債務名義があるので配当要求をすることができるが、それは、抗告人が差押えをすることができた不動産を対象とする強制執行手続についてである。相手方が複数の不動産を所有していれば、差押えは請求債権の額に相応する不動産に対してしか許容されない。期限到来分の債権で差押えを許されなかった不動産があれば、それを期限未到来分の債権によって仮差押えをする必要性があるというべきである。その仮差押えによって、この不動産を相手方が処分してもそれに優先することができ、他の債権者からの差押えがあっても当然の配当加入が認められるからである。
 三 以上のとおりであるから、債務名義を有しているが期限未到来であって即時に強制執行の申立てができない債権を有する債権者が、期限未到来の債権を保全するための実効性がある仮差押え制度を利用することについて、強制執行の申立てが可能な債権を有しているが即時に強制執行の申立てをしていないが故に権利保護の利益を否定することはできないというべきである。
 裁判官岡部喜代子は、裁判官木内道祥の反対意見に同調する。

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