慰謝料

婚姻破綻後の慰謝料請求ができないことを巡って名古屋の弁護士徹底解説

婚姻破綻後の慰謝料請求ができないことを巡って名古屋の弁護士徹底解説

元裁判官で、家事調停官古藤肇麿弁護士に話しをうかがいたいと思います。

服部弁護士と古藤家事調停官とのパースペクティブ

弁護士: まず事案について説明させていただきます。昭和42年5月1日婚姻の松浦游さんと充希さんが昭和62年5月6日に別居したもので、二人の間には、43年5月に立夏、46年4月に朔をもうけています。游さんは昭和61年7月ころ別居する目的で離婚調停の申立てをしていますが取り下げています。その後、昭和62年5月6日に別居しています。そして、游は秋月茗子さんと昭和62年4月ころ知り会っています。夏ころ肉体関係を持ち、昭和62年10月から同棲をしているという事案です。
調停官:そもそも、イスラム教では一夫多妻制も認められているように、この問題は「家族法の根本に起因する問題」でして、社会の婚姻をめぐる立法政策によって規定されるものですが、論者の婚姻感や性的モラルにも見解が投影されます。したがいまして、各人の価値観のいわばリトマス試験紙といわれている「非常な難問」といわれています。
弁護士:芸能人の不倫など寛容な面がある一方で訴訟になるような案件では非常に高葛藤になることが多いというのが印象です。訴訟といっても処分文書があるわけではありませんから、人格攻撃を受けることもあります。
調停官:最高裁が、平成8年3月26日民集500巻4号993頁を出す以前の最高裁の判例というのは、いずれも、第三者が配偶者の一方と肉体関係を持つ前に婚姻関係が破綻していたとはいえず、かつ、不貞行為に起因して婚姻関係が破綻した事案というシンプルなものなのです。あとで議論に出るでしょうから、昭和54年判決は、保護法益を「他方の配偶者の夫又は妻としての権利」として理解しています。
弁護士:比較法的にみますと、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスでは、実質的に、不貞の慰謝料否定説が通説的のように思いますね。価値観が大きいと思いますが、私も、慰謝料否定説には共感するところがあります。イギリス法では廃止理由は、①貫通を理由とする損害賠償は妻を夫の所有物とみる思想に基づくものである。②このような訴訟によって夫の感情が和らげられるというのはこじつけにすぎず、姦通を防止する効果も明らかではない、③賠償額をいくらにするかの決定は困難なものであり裁判所が困難な問題を背負い込む、④このような訴訟は相手方に対する脅迫材料になる、というものです。正直、申し上げて、日本の裁判所は、イギリスやアメリカの廃止理由の理論のうち、上記②及び④についての理解が甘いのではないか、と感じます。
調停官:たしかに私も弁護士をしますが、アメリカ法の廃止理論である、復讐を目的とするものであり脅迫材料に使われることが多い、私刑的という論拠は妥当する面があると思います。正直申し上げて、心理的に伝染した弁護士が感情的に白黒つけてやる、というような例も散見されて調整機能が果たされていない点もありますね。少なくともアメリカ廃止理論における良識ある人がこのような訴訟を提起することはないと断じることはできませんが、少なくとも良識ある示談交渉が先行しなくてはならないと思いますね。そして良識的でない人については不利に扱っても、元裁判官としては構わないのではないか、と感じます。
弁護士:平成8年判例が特徴的なのは、婚姻共同生活の平和の維持という権利を挙げているということで、「他方の配偶者の夫又は妻の権利」との表現は、妻は夫の所有物のような印象を与えますし不相当だと思います。
調停官:たしかにそのとおりですが、最高裁の説示で規範的部分を持つわけではないので、下級審は様々です。しかし、平成8年判例は、単に夫婦の一方の他方に対する貞操義務違反に加担する行為ととらえるのではなく、第三者が家庭に介入して破壊に導くような行為をすることの一つととらえていると考えられるのです。
弁護士:昭和54年の判例が一般的説示であることからその射程を広くとらえる見解がおおかったように思います。
調停官:しかしながら、昭和54年の判決は、婚姻関係が破綻していない時期の問題での同棲開始の違法性を否定した控訴審を破棄するためのものにすぎません。したがって、昭和54年判決が、婚姻関係の破綻の有無、第三者の行為の態様に関わらず、常に不法行為の成立を認めるという立場を採用したものではありません。判決の読み込みとして正しくなく、いわゆる枕営業判決もそうした流れで出たものですね。
弁護士:たしかに、平成8年判例は、昭和54年判決につき、「所論引用の判例、婚姻破綻関係前のものであって事案を異にし、本件に適切ではない」と指摘していますね。
調停官:そのとおりです。ですから、枕営業事件のように平成8年の保護法益が夫婦共同生活の平和にあるので、それが乱されていないので違法ではないといえるかどうかは将来の残された課題といえるでしょう。少なくとも配偶者が不貞をして、精神的苦痛を受けるという説明は可能でしょうからね。
弁護士:そうなりますと、「破綻」という概念が重要になってきます。破綻後は損害賠償義務を負いませんし、破綻後は離婚請求でも有責配偶者にならない可能性があるからなのです。そのため、肉体関係を持った時期と婚姻関係の破綻の時期との先後関係が問題になります。
調停官:服部さんがいわれた離婚サイドの問題は最判昭和46年5月21日民集21巻3号408頁ですね。破綻後は、有責配偶者にならないので、有責配偶者からの離婚請求の法理の対象にならない、というものですね。このように、離婚請求の許否というコンテクストにおいても、婚姻関係破綻後の配偶者以外との肉体関係ないし同棲をもって有責行為とはみないことを明らかにしています。
弁護士:破綻の認定ですが、弁護士は別居を一つのメルクマールとして考えます。
調停官:最判平成8年からすれば、不法行為責任阻却の要件として別居等の外形的事実を要求してはいない。別居時の外形的事実は「破綻」を根拠づける具体的事実の一部をなすものです。
弁護士:私は昔、そういう説明をされると後ろ倒しなのか、と思っていたのですが前倒しに利用されることもあるのですね。
調停官:家庭内別居という言葉があるように別居という概念の外延自体も不明確になっています。そこで、最判平成8年の趣旨からすれば、いわゆる別居に至っていなくk手も破綻を肯定すべき事案は存するといえます。
弁護士:ですから別居前の事象で婚姻破綻しその後別居するということもあり得るのですね。
調停官:そうですね。本件は、昭和62年5月6日に別居しています。そして、游は秋月茗子さんと昭和62年4月ころ知り会っています。夏ころ肉体関係を持ち、昭和62年10月から同棲をしているという事案です。
弁護士:そうしますと、夏というのが7月、8月を指すと考えると、別居から2~3カ月で破綻を認めています。
調停官:ですから、この判決の表面的理解で破綻は早くなっている気がします。しかし、本件についてみると、昭和59年には会社設立の経緯をめぐってかなりの婚姻が毀損された状態になったとみることができますし、昭和61年には離婚調停が起きています。また、昭和62年の游さんの大腸癌に対する充希の看病状況などを総合考量して、別居前から破綻が認定できるケースかもしれません。
弁護士:過失の問題もありますね。
調停官:判例では信義誠実の原則に反し権利の濫用にあたると処理しております。これが最判平成8年6月18日ですね。婚姻関係が破綻していないが茗子さんにおいて、婚姻関係が既に破綻したと信じ、かつ、そう信じることについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しないと解すべきことを示唆するものと思われます。
弁護士:本件については、モノガミーの価値観に基づくものが我が国の社会状況に適合し、国民一般の方意識でもあるという認識を前提とするとともに、婚姻関係が破綻している場合、これを認めないことで裁判所が過剰に問題を抱えるのを防ぐとの利益が考量されていると思われます。
調停官:日本では、不貞では慰謝料を認めるべきという法意識と裁判所に明らかに破綻後の案件を持ち込まれるのを防止するという私益と公共益を比較衡量していることになりますね。
弁護士:いずれにしても市民社会に大きな影響を与える判例といえます。

最判平成8年6月18日
一 本件訴訟は,被上告人がその夫八代譲次と肉体関係を持った上告人に対し損害賠償を求め,上告人がこれを権利の濫用に当たるなどと主張して争うものである。原審の確定した事実関係の大要は,次のとおりである。
1被上告人と譲次とは昭和59年1月16日に婚姻の届出をした夫婦であり,同年5月20日に長女が,同61年6月7日に長男が出生した。
2 上告人は,昭和45年11月21日に北川義則と婚姻の届出をし,同46年8月27日に長女をもうけたが,同61年4月25日に離婚の届出をした。上告人は,離婚の届出に先立つ同60年10月ころから居酒屋「喜多やん」の営業をして生計をたて,同62年5月ころには自宅の土地建物を取得し,義則から長女を引き取って養育を始めた。
3譲次は,昭和63年10月ころ初めて客として「喜多やん」に来,やがて毎週1度は来店するようになったが,平成元年10月ころから同2年3月ころまでは来店しなくなった。この間,譲次は,月に1週間程度しか自宅には戻らず,「喜多やん」の2階にあるスナックのホステスと半同棲の生活をしていた。
4被上告人は,譲次が「喜多やん」に来店しなくなったころから毎晩のように来店するようになり,上告人に対し,譲次が他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし,平成2年9月初めころには,「譲次との夫婦仲は冷めており,平成3年1月に被上告人の兄の結婚式が終わったら離婚する。」と話した。
5 譲次は,平成2年9月6日に上告人をモーテルに誘ったが,翌7日以降毎日のように「喜多やん」に来店し,「本気に考えているのはお前だけだ。付き合ってほしい。真剣に考えている。妻も別れることを望んでいる。」などと言って,上告人を口説くようになった。
6上告人は,当初譲次を単なる常連客としてしかみていなかったが,毎日のように口説かれた上,膵臓の病気になって精神的に落ち込んでいたこともあって,譲次に心が傾いていたところ,平成2年9月20日,病院で待ち伏せていた譲次から,「妻とは別れる。それはお前の責任ではない。俺たち夫婦の問題だから心配することはない。俺と一緒になってほしい。」と言われ,また,病気のことにつき「一緒に治して行こう。お前は一生懸命に病気を治せばよい。」などと言われたため,その言葉を信じ,同日譲次と肉体関係を持った。
7 上告人は,その後も譲次と肉体関係を持ったが,平成2年10月初めころ,譲次から,「妻が別れることを承知した。妻は○○に家を捜して住むので,自分たちは○△のアパートに住もう。」などと結婚の申込みをされたため,譲次と結婚する決心をし,長女の賛成を得て譲次の申込みを承諾した。譲次は,上告人に対し,被上告人が○○に引っ越す同年12月ころには入籍すると約束した。
8 譲次は,平成2年10月10日から11月24日までの間に,上告人の結婚相手としてその母,長女及び姉妹らと会ったりしたのに,被上告人との間での離婚に向けての話し合いなどは全くしなかった。一方,上告人は,譲次の希望を受けて,自宅の土地建物を売却することとし,長女のためのアパートを捜すなど譲次との結婚生活の準備をしていた。
9平成2年12月1日,被上告人に譲次と上告人との関係が発覚し,上告人と被上告人は,同日午前7時半ころから翌2日午後2時ころまで被上告人宅で話し合った。その際,上告人において譲次が被上告人と離婚して上告人と婚姻すると約束したため譲次と肉体関係を持つようになった経緯を説明したところ,被上告人が「慰謝料として500万円もらう。500万円さえもらったら,うちのジョウくんあげるわ。うちのジョウくんはママ引っ掛けるのなんかわけはないわ。」などと言ったため,上告人は,譲次に騙されていたと感じた。
10上告人,被上告人及び譲次の3人は,平成2年12月2日午後8時半ころから翌3日午前零時ころまで話し合った。被上告人は,譲次に対して子の養育料や慰謝料を要求し,上告人に対して慰謝料500万円を要求したが,譲次は,被上告人の好きなようにせよとの態度であり,上告人は,終始沈黙していた。
11譲次は,平成2年12月3日午後10時ころ「喜多やん」に来店し,他の客が帰って2人きりになると,上告人に対し,被上告人に500万円を支払うよう要求し,上告人がこれを拒否すると,胸ぐらをつかみ,両手で首を絞めつけ,腹を拳で殴ったりなどの暴行を加えたが,翌4日午前3時ころ上告人の体が冷たくなり,顔も真っ青になると,驚いて逃走した。
12被上告人は,平成2年12月6日午後10時ころ「喜多やん」に来店し,上告人に対し,他の客の面前で「お前,男欲しかったんか。500万言うてん,まだ,持ってけえへんのか。」と言って,怒鳴ったりした。また,被上告人は,同月9日午後4時ころ電話で500万円を要求した上,午後4時20分ころ来店し,満席の客の面前で怒鳴って嫌がらせを始め,譲次も,午後4時40分ころ来店し,嫌がらせを続けている被上告人の横に立ち,「俺は関係ない。」などと言いながらにやにや笑っていたが,上告人が警察を呼んだため,2人はようやく帰った。
13譲次は,平成3年3月24日午前5時30分ころ,自動車に乗っていた上告人に暴行を加えて加療約1週間を要する傷害を負わせ,脅迫し,車体を損壊したが,上告人の告訴により,その後罰金5万円の刑に処せられた。
14被上告人は,平成3年1月22日に本件訴訟を提起した。他方,上告人は,同年3月に譲次に対して損害賠償請求訴訟を提起したが,右損害賠償請求訴訟については,同6年2月14口に200万円と遅延損害金の支払を命ずる上告人一部勝訴の第一審判決がされ,控訴審の同年7月28日の和解期日において200万円を毎月2万円ずつ分割して支払うことなどを内容とする和解が成立した。
三 原審は,右事実関係の下において,以下のとおり判断し,本訴請求を棄却した第一審判決を変更して,被上告人の損害賠償請求のうち110万円とこれに対する遅延損害金請求を認容した。すなわち,(1)上告人は,譲次に妻がいることを知りながら,平成2年9月20日以降譲次と肉体関係を持ったものであるところ,肉体関係を持つについて譲次からの誘惑があったことは否定できないが,上告人か拒めない程の暴力,脅迫があったわけではなく,また,被上告人と譲次との婚姻関係が破綻していたことを認めるべき証拠もないから,上告人は,被上告人に対してその被った損害を賠償すべき義務がある,(2)本訴請求が権利の濫用に当たるというべき事実関係は認めるに足りず,上告人の権利濫用の主張は理由がない,(3)右一の事実関係を考慮すると,上告人において賠償すべき被上告人の精神的損害額は100万円が相当であり,弁護士費用は10万円が相当である。
三 しかしながら,原審の右判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記一の事実関係によると,上告人は,譲次から婚姻を申し込まれ,これを前提に平成2年9月20日から同年11月末ころまでの間肉体関係を持ったものであるところ,上告人がその当時譲次と将来婚姻することができるものと考えたのは,同元年10月ころから頻繁に上告人の経営する居酒屋に客として来るようになった被上告人が上告人に対し,譲次が他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし,同2年9月初めころ,譲次との夫婦仲は冷めており,同3年1月には離婚するつもりである旨話したことが原因を成している上,被上告人は,同2年12月1日に譲次と上告人との右の関係を知るや,上告人に対し,慰謝料として500万円を支払うよう要求し,その後は,単に口頭で支払要求をするにとどまらず,同月3日から4日にかけての譲次の暴力による上告人に対する500万円の要求行為を利用し,同月6日ころ及び9日ころには,上告人の経営する居酒屋において,単独で又は譲次と共に嫌がらせをして500万円を要求したが,上告人がその要求に応じなかったため,本件訴訟を提起したというのであり,これらの事情を総合して勘案するときは,仮に被上告人が上告人に対してなにがしかの損害賠償請求権を有するとしても,これを行使することは,信義誠実の原則に反し権利の濫用として許されないものというべきである。
 そうすると,本訴請求が権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり,その余の上告理由について判断するまでもなく,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,右に説示したところによれば,右部分についても,被上告人の本訴請求を棄却した第一審判決は相当であり,被上告人の控訴は棄却すべきものである。

最高裁平成8年3月26日
一 原審の確定した事実関係は次のとおりであり、この事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。
 1 上告人とaとは昭和四二年五月一日に婚姻の届出をした夫婦であり、同四三年五月八日に長女が、同四六年四月四日に長男が出生した。
 2 上告人とaとの夫婦関係は、性格の相違や金銭に対する考え方の相違等が原因になって次第に悪くなっていったが、aが昭和五五年に身内の経営する婦人服製造会社に転職したところ、残業による深夜の帰宅が増え、上告人は不満を募らせるようになった。
 3 aは、上告人の右の不満をも考慮して、独立して事業を始めることを考えたが、上告人が独立することに反対したため、昭和五七年一一月に株式会社A(以下「A」という)に転職して取締役に就任した。
 4 aは、昭和五八年以降、自宅の土地建物をAの債務の担保に提供してその資金繰りに協力するなどし、同五九年四月には、Aの経営を引き継ぐこととなり、その代表取締役に就任した。しかし、上告人は、aが代表取締役になると個人として債務を負う危険があることを理由にこれに強く反対し、自宅の土地建物の登記済証を隠すなどしたため、aと喧嘩になった。上告人は、aが右登記済証を探し出して抵当権を設定したことを知ると、これを非難して、まず財産分与をせよと要求するようになった。こうしたことから、aは上告人を避けるようになったが、上告人がaの帰宅時に包丁をちらつかせることもあり、夫婦関係は非常に悪化した。
 5 aは、昭和六一年七月ころ、上告人と別居する目的で家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てたが、上告人は、aには交際中の女性がいるものと考え、また離婚の意思もなかったため、調停期日に出頭せず、aは、右申立てを取り下げた。その後も、上告人がAに関係する女性に電話をしてaとの間柄を問いただしたりしたため、aは、上告人を疎ましく感じていた。
 6 aは、昭和六二年二月一一日に大腸癌の治療のため入院し、転院して同年三月四日に手術を受け、同月二八日に退院したが、この間の同月一二日にA名義で本件マンションを購入した。そして、入院中に上告人と別居する意思を固めていたaは、同年五月六日、自宅を出て本件マンションに転居し、上告人と別居するに至った。
 7 被上告人は、昭和六一年一二月ころからスナックでアルバイトをしていたが、同六二年四月ころに客として来店したaと知り合った。被上告人は、aから、妻とは離婚することになっていると聞き、また、aが上告人と別居して本件マンションで一人で生活するようになったため、aの言を信じて、次第に親しい交際をするようになり、同年夏ころまでに肉体関係を持つようになり、同年一〇月ころ本件マンションで同棲するに至った。そして、被上告人は平成元年二月三日にaとの間の子を出産し、aは同月八日にその子を認知した。
 二 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
 三 そうすると、前記一の事実関係の下において、被上告人がaと肉体関係を持った当時、aと上告人との婚姻関係が既に破綻しており、被上告人が上告人の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和五一年(オ)第三二八号同五四年三月三〇日第二小法廷判決・民集三三巻二号三〇三頁)は、婚姻関係破綻前のものであって事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。

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