シンガポール人との離婚のコラム―宗教で裁判所が異なる
シンガポール人との離婚のコラム―宗教で裁判所が異なる
1 近年、日本人と外国人との婚姻及び離婚が増加し、それに伴い、日本で離婚手続をとることができるのか、また、とることができるとしていずれの法律によるのか、などが問題となりまう。日本人同士の離婚の場合でも、住所地が海外の場合は固有の問題があります。
2 国際離婚としては、①国際裁判管轄、②準拠法、③外国判決・執行、④国境を越えたこどもの連れ去り・面会交流、⑤在留資格としての配偶者資格を失う可能性が挙げられます。
3 シンガポール家族法では、当事者が、シンガポールに資格(市民権)に基づき居住又は直近3年間常習的に住んでいた場合、シンガポール家裁で離婚手続きがとれます。
4 シンガポールには協議離婚はありません。したがって、日本で協議離婚をしても、シンガポール家族法には何ら影響を及ぼしません。ゆえに、必ず裁判所で離婚手続きをとる必要があります。
5 シンガポールでの裁判所ですが、イスラム教か否かで管轄が異なり、非イスラムはシンガポール家裁、イスラム教の方はシャリア裁判所がそれぞれ裁判をすることになります。
6 離婚原因についても、シンガポール家族法の適用か、イスラム教による離婚になるかにより手続きは異なります。
7 シンガポールは英米法の影響を受けいわゆる破綻主義が採用されていますが貫徹ははされていません。すなわち、結婚して3年間は離婚が特段の事情がない限り認められていません。その後は、回復不可能な程度に婚姻が破綻している場合に限り、離婚が認められています。もっとも、破綻主義はすべて類型化されています。
8 第一が不貞行為及び生活を共にするのが耐え難い、第二が共に生活することが合理的に期待できないような行動をとっている、第三が2年間の悪意の遺棄、第四が3年間の継続的別居、第五が被告において離婚を争っている場合は4年の別居となっています。
9 以上から分かるとおり、性格の不一致、両親との不和、価値観の不一致、性的不調和、などの場合は、仮に双方が離婚に同意している場合でも、少なくも上記第四の3年間の別居が必要になります。シンガポールは2010年にハーグ条約に加盟しています。
なお、シンガポールでは、国際的な連れ去りには、誘拐罪には該当しないとの解釈が多いようです。家族ビザは、離婚後は無効となるので、14日以内に自国に戻るか、EPと呼ばれる就労ビザに切り替える必要が生じます。
10 イスラム教の場合、シャリア裁判所が家事を担当します。イスラム教でも離婚は認められていますが、ここでは概括的な説明にとどめ、具体的な法令説明ではないことをご理解ください。
ざっくりいうと、イスラム教は男性から離婚を申し出ることは簡単です。ですので実務上も、タラークという協議離婚に近い制度があります。これは「夫が妻にタラーク」と宣言するだけで離婚が成立します。タラークは女性差別的ではありますが、実務的で8割はタラークによるものとされていますが男性側が主導権を持ちやすいといえるでしょう。
11 次に女性側からの離婚は制限されており「フルウ」というものは、いわば結納金を返還しなければなりません。次に「タリーク」は婚前契約に違反した場合です。また、「ファスフ」は悪意の遺棄やDVなどの場合です。「リアーン」は妻の浮気した場合の類型です。
12 シャリアでは、原則として、父親が親権者であり、こどもはイスラム教徒と解されており国籍は父親と同じとなります。そして、離婚して自国へ帰国する場合、こどもと帰国する場合は、父親の許可が必要になりますので注意してください。
13 一方がシンガポール人の場合は、シンガポールでの離婚成立には、非イスラムの場合は、シンガポールは裁判離婚制度を取っているので、通常双方で弁護士を立ててThe Subordinate Courts of Singapore(シンガポール下級裁判所)で手続きを取ります。日本へはお二人が離婚をしたことを報告する形になります。届出に裁判所からでた仮判決書(Interim Judgment)と最終判決書(Final Judgment)の提示とそれぞれの和訳文の添付が求められます。訳文はご自身でご用意下さい。既に生活の拠点を日本に移されている方は、最寄りの市区町村役場で手続きについて問い合わせて下さい。