面会交流の間接強制

面会交流の間接強制

面会交流の間接強制って、面会させないと罰金を支払うものみたいなイメージがありますよね。東京地裁が1回の不履行に100万円、名古屋高裁が50万円の制裁金を設定し、報道によれば前者では面会が実現したということもあり、注目を浴びているところもあるかもしれません。でも、間接強制ってまた裁判をやるんでしょうか??

面会交流の間接強制

 監護親に対して、非監護親と子との面会交流を命じる審判が履行されない場合、裁判で間接強制により履行を命じることができるかという論点が昔ありました。この点は最高裁が、監護親がすべき給付にかけるところがない場合は審判に基づき間接強制決定をすることができると判断しました。

 これが平成25年3月28日のことです。

 具体的には、

・面会交流の日時・頻度

・面会交流時間の長さ

・子の引き渡し方法

これが具体的に定められていることが必要です。

間接強制可能な決定を出すかどうかが攻防の対象になっている

 審判では、給付が特定されていなければ、監護親の善意に依存することになりますので、面会交流親としては、間接強制可能な決定を出すべきかという「べき論」に移ってきています。

 一例を挙げると年長者の場合は実施要領付のものは出さないとか、初回の場合は様子をみたいといったものです。最初から実施要領がつくのは離婚調停中などで一回も会わせていないなど悪質性の強い「拒否型」、抽象条項による面会交流条項を定めたが面会が実現しない「再度調停型」などに限定していく方向性なのか否かが注目されます。

 この点は、特段、理論的にどう、ということはなく裁判所の合理的裁量に委ねられているといえるでしょう。

間接強制決定手続の場合の子の意思とは

 特定性の要件が満たされていれば、執行裁判所(といっても家裁が担当することが多い)は、常に間接強制を命じることができるのでしょうか。

 名古屋家裁の場合は、あくまで実感ですが、審判の内容については特段の事情がない限り間接強制可能と考えていますし、これが通説ではないかと思われます。

 しかし、本案で権利義務関係が形成されたにもかかわらず、また審理の対象にすると蒸し返しを招くこともあり得ます。最高裁は原則論として、子が面会交流拒絶の意思を示していても間接強制決定をすることは妨げられないとしています。したがって、原則としては子の意思に関する主張は先行する本案の面会交流審判で考慮済みであり、間接強制決定手続で審理対象にならないと考えることも可能であり、現実にこのような見解に立ったと思われる審判例も数多く存在します。

 もっとも、子の拒絶の意思が強固で間接強制によることが子の福祉にかなわず不適当であるとされる場合は、間接強制を発令すべきでないと考える見解もあります。大阪高裁でこのような見解を採用したものが登場しました。

 しかし、間接強制の裁判は強制執行の裁判にすぎません。やはり事情の変更を主張して本案を直すというのが良いように思われます。

複雑な手続であるので弁護士関与が相当な場合も

 わかりやすく言うと面会交流を認めていた審判を、子の意思を理由に変更して禁止して欲しいという審判を申し立てるということになります。ですので、よく手続選択を誤っている例を見ますが、まずは審判に係る面会交流を禁止し、または面会交流についての新たな条項を定めるための調停か審判を申し立てる理由となり得るにすぎないというべきです。なので、家事事件手続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 ただ、こどもの人権は重要であることはいうまでもありません。家庭裁判所だからといって、きちんと彼らの人権に即した判断をしなければなりません。もっとも、面会交流に否定的な子の意思は、多かれ少なかれ監護親の影響を受けて形成されていることは既に一部の高裁では経験則と指摘されるところです。いわば、子の意思なのだけど、実は監護親の意思という認識が広まるにつれて、面会交流の認容基準として従来ほど、子の意思は重視されていなくなっているという見解も紹介されています。これに反対する見解もありますが間接強制は強制執行の裁判です。従って、家庭裁判所調査官やこどもの手続代理人が参加するような仕組みがありません。

 ですので現状では本案の変更を急ぐしかないということになりそうです。

間接強制金

 間接強制金が1回100万円という支払いを命じた事例がありましたが、結果的に面会交流が実現し、荒療治を受けたのではないかと評価されます。今後、悪質な親に対しては、こうした裁判がなされる可能性が高まったとはいえるかもしれません。

 現在は、感覚的に養育費の7割程度ではないかな、と個人的に思っていますが、東京では夫婦共働きのケースもあり、間接強制金など痛くもないという例もみられるためかもしれません。

 しかし、高額な間接強制金は子の福祉の観点から相当ではなく、監護親としての適格性も疑われかねないという点にも留意すべきでしょう。父母ともに子の福祉の観点から行動しましょう。

 裁判所では非協力的な姿勢をとれば、強制金をある程度高額にする必要があると判断されています(神戸家裁平成24年2月16日決定)。

 また、一度決定が出されても増額変更を申し立てる余地もあります。(民事執行法172条2項)

東京家裁平成28年10月4日決定

100万円の間接強制金を認めた事例

第一 申立ての趣旨等
 主文同旨
第二 当裁判所の判断
   〈編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します〉
 一 一件記録によれば次の事実が認められる。
 (1) 債権者と債務者は、平成一二年××月××日に、婚姻し、平成一五年××月××日、未成年者が誕生した。
 (2) 債権者と債務者は、平成二三年に別居した。
 (3) 債権者は、平成二三年六月三日、△△から帰国し、その後、未成年者と同居していた。
 (4) 債務者は、平成二三年七月一五日、未成年者を通っていた小学校から連れ帰り、以後、同居し、未成年者は転校した。
 (5) 債権者は、平成二三年九月一二日、未成年者を通っていた小学校から連れ出したが、警察が介入し、未成年者は債務者に引き渡された。
 債務者は転居し、未成年者を転校させて、現住所を明らかにしていない。債権者は、同日後、未成年者との面会交流をしていない。
 (6) 債権者は、平成二四年九月二一日、未成年者との面会交流を求めて調停の申立てをしたが(当庁平成二四年(家イ)第七八六八号)、平成二六年一〇月二二日、不成立となり、審判に移行した。この間、債務者は、試行面会及び未成年者の調査に応じず、面会が未成年者の福祉に反するとしてこれを拒み、その理由として、債権者による育児放棄、連れ去りの危険及び未成年者による面会の拒否を主張し、間接強制になじまない旨主張した。
 当庁は、平成二七年一二月一一日、債務者の前記の主張をいずれも退け、審判をしたが、当事者双方が即時抗告したところ、東京高等裁判所は、平成二八年四月一四日、債務者の前記主張をいずれも退け、別紙の面会を認める旨決定し、同決定が同月一八日確定した(以下、同決定を「確定決定」という。)。
 (7) 債務者が、確定決定に従わず、その第一回面会交流に応じなかったため、債権者は、次回の面会につき履行勧告の申立てをしたが、債務者は確定決定に従わなかったため、債権者は本件申立てをした。
 (8) 当裁判所が民事執行法一七二条三項により、債務者の申述を求めたところ、債務者は面会交流を拒絶する旨述べ、その理由としては、債権者によるネグレクト及び未成年者の連れ去り並びに未成年者の拒否を挙げる。また、間接強制を認めるべきでない理由として、未成年者の拒否をいい、その意思を尊重すべき旨及びそれを前提とする監護者の限界を主張する。
 (9) 債務者の平成二七年の年収は給与収入合計二六四〇万円である。
 二 債務者が間接強制について述べる点は、未成年者の年齢及びその意思(面会の拒否)並びにそれを前提とする監護親の限界をいうものであるが、年齢については、要は、債務者が確定決定に従わず、面会交流に応じない間にも、未成年者は成長を続けているということであり、《証拠略》記載の未成年者の面会の拒否についても、前記確定決定が当時提出された未成年者の手紙によって意思を認定し得ないとした事情が改められたとは認められず、債務者の主張は採用し難い。
 また、債務者が面会交流をさせられない事情として主張する点は、前記のほか、既に確定決定で退けられたことの繰り返しであり、理由がない。
 三 そうすると、債務者は債権者に対し、速やかに未成年者との面会を認めるべき義務があることは明らかであるところ、本件の経緯等にかんがみると、もはや任意の履行を期待することは困難な状況にあることから、間接強制の方法によって実現を図る必要及び理由があり、債務者の資力その他を考慮し、民事執行法一七二条一項により、間接強制の方法として主文のとおり定めるのが相当である。

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