こどもが面会交流を拒否するメカニズム
面会交流の申立をすると拒否されたり、反対に拒否を望まれる方がいます。
最近「子の意向表明権」が家事事件手続法に規定されたこともあり、子の意向というのは「真意」として分析される傾向にあります。
表面的には,洗脳されている,忠誠葛藤がある,PAS(片親疎外症候群)である,という主張が出ることがあります。
しかし,なかなかどれも表面的な主張で,監護親も洗脳や忠誠を意図的に誓わせているということはないと思います。
そこで,どうして,「子の拒絶」という意向が出てくるのでしょうか。
江藤鈴世さんとなるみさん夫妻。2年前に離婚していますが,なるみさんは実家から新居に移転して,鈴世さんとの連絡を絶つようになりました。
ふたりの間には緋生くん(10歳),千騎くん(7歳)のこどもがいますが,親権者はなるみさんです。
なるみさんは,・・・というと,もともと幼稚園教諭の資格を持っていましたので,元々の幼稚園の園長に頼んで教諭として働きはじめていました。
他方で,電話番号や住所も変えて,鈴世さんに通知しませんでした。
なるみさんは,もともと父子家庭で育ちましたが,祖母,父親が同じ年に急逝し,継母との関係を疎遠となり,仕事を始め心労が重なるようになってしまいました。
実家を出たのも,実父がなくなり,継母と生活をすることに心理的負担を強め,こどもたちを連れて独立して生活することにしました。
これに対して鈴世さんは,連絡がとれず,実家を訪ねても継母からはけんもほろろの対応をされます。しかし,なるみさんの仕事の関係で前の職場に行けばわかるのではと考えて,
なるみさんの前の職場を訪ねたところ,復帰したなるみさんが働いていました。
なるみさんは,仕事場にまで,離婚した夫が訪ねてきたということで,自分の職場内での地位を脅かされると感じて,園長に頼んで追い返してもらいました。
また,継母が,祖母,父親の法事に積極的ではないことから,なるみさんが料理屋を借りて,喪主や法事を行っていました。
鈴世さんは,住所が分からないので,実家にあてた調停を起こしましたが,継母と仲がよくないなるみさん。継母は,なるみさんに「また,調停がきているわよ」という連絡をしました。
しかし,仕事上,簡単に休みがとれない職場であるため,なるみさんは調停にもいかず鈴世さんは,調停を取下げ,職場で直接交渉をしようと思いましたが,園長から施設管理権の侵害だ,と注意され,近寄ることもできません。
応対したなるみさんは,「こどもたちが嫌がっているので、会わせられない」との返答。たしか半年前に面会したときは,あんなに楽しく時間を過ごしたのに,と思い,ついつい「なるみが,緋生と千騎に僕の悪口をいって洗脳したんだろ!」「洗脳なんてしていません!」と口論になりました。なるみさんは,口論では鈴世さんにかなわないので,幼稚園から退去するよう告げて,その後,弁護士事務所を訪問し,窓口になってくれるように依頼しました。なるみさんとしては,なんとなく継母や鈴世さんの知らないところに移ったのだから,もう住所は教えたくないな、という心情を持つようになりました。
鈴世さんは、県教育委員会の教師をしているため、風の便りで、緋生くんと千騎くんが通っている学校の名前を知ることになりましたが,無理に会うと,担任教諭にも迷惑をかけると思い、なるみさんの弁護士から依頼を受けた弁護士からの通知を機会に、鈴世さんも,アイスブレイクしないと,ということで,弁護士に依頼し交渉を委ねることにしました。
調停の調査官調査報告書。緋生くんは,「パパはパチンとするから嫌い。これまで1万発くらい殴られたかな。あと,勉強,勉強ってすごいいじめてきたんだよ」との記載,千騎くんは,「パパとママは仲良くして欲しいけど,お兄ちゃんがいかないならやめとく。う~ん,手紙のやりとりくらいはしてもいいかな」との記載。
面会交流を禁止・制限する事由がない場合には、実施を阻害している要因を取り除く作業であると考えられます。
なるみさんが、緋生くんが会いたがっていないと調停で伝えると、鈴世さんは、なるみさんが緋生くんを洗脳していると批判をつよめますので、一層早急な面会交流を求めてくることになります。
そうすると、なるみさんは、不安を高め、心理的にそれを察知した長男は、「会いたくない」という言葉に加えて、次々と鈴世さんの悪口を伝えるということで、なるみさんを安心させようとします。そしてなるみさんはこどもの意向として自信を深め、長男もなるみさんが不安定から解消された様子をみて、自分の行動が良かったと評価することになります。
そのような長男の様子をみると、ますます鈴世さんはなるみさんに対する非難を強めることになります。
そして、なるみさんが再び不安感を抱くと、長男はさらに過激な言動で鈴世さんに対する否定的発言をするようになります。
鈴世さんとなるみさんには、夫婦の問題と親子の問題を切り離して考えられるようになることが大切です。
そこで、なるみさんの監護は適切であると親権を奪うようなことはしないという態度を示すことや長男が興奮している状態にあるので、間接交流を通じて、長男が現在の生活を落ち着かせてから再協議をするというのも一つの方法です。
面会交流事件は、際立って増加しており平均審理期間が長期化しています。お悩みの際は、名古屋駅ヒラソル法律事務所の弁護士に法律相談ください。