親権者変更が認められた事例からそのエッセンスをみる。

親権者変更が認められた事例

福岡高裁平成27年1月30日決定平成26年(ラ)第414号  一般的には「親権者の変更」は、「親権者の解任」を意味するとされています。そうすると,親権者の指定の要素よりも変更の要素の方が厳しく考えられていると理解されています。したがって,親権者変更が認められた裁判例をみると,実際の重要なエッセンスが見えてくると考えられます。 なるみさんにうらみはありませんが、なるみさんは、合計すると5名の未成年者を妊娠したことになり、少し情緒不安定になることはあるとしても,やや依存的傾向が強く自主性に乏しい方だったのかもしれません。このように親権者変更で男性親が逆転勝訴するケースはめずらしいですが、事実の経過から既に離婚し前婚でもこどもは手放していること、不貞行為をしていること、夜間アルバイトをしており主たる監護者は彬水さんだったとみられたこと、親権者合意には反する監護の実態が長く続いたこと,保育園行事になるみさんが呼び出しに応じなかったこと,監護補助者がいないことなどがポイントになっているようです。つまり、なるみさんは、自分の親族からも育てられないといわれてしまい、それに沿うように昼間の仕事を得ることもできなかったということになることになるようです。いったん親権者を指定しても事情変更の原則を厳しく適用しなかった例として,参照されると思います。

 いろいろ理由は考えられますが、なるみさんの行動全般が不安定で、こどもを任せられない一方で不貞行為をして監護者としての適格性が疑われること,保育園行事の参加に熱心ではなかったこと,かえって彬水さんの方が「親代わり」として実質的に機能していたので、これを覆すとこどもの環境を激変させかねないという配慮があったものと考えられます。

 

第1 ステップファミリー  

  1 本件はステップファミリーのようです。妻なるみさんは,前夫の鈴世さんと婚姻し,緋生と千騎をもうけましたが平成18年に離婚し,緋生と千騎の親権者は夫の鈴世さんとされました。

  2 彬水さんとなるみさんは、平成20年に再婚んし,平成21年に長男卓,長女寧々をもうけた。

  3 なるみさんは,平成23年から,夜間,飲食店等でアルバイトをするようになり,1週間に2,3回以上,朝帰りをするようになりました。

  4 なるみさんは,彬水さんの留守中にアルバイト先の男性チーフ筒井圭吾(以下「男性チーフ」という。)を自宅に泊めるなどし,平成25年に男性チーフと肉体関係を持ち妊娠した。

  5 この次第で,人工中絶手術を受けた。

  6 なるみさんは,夜間飲食店等でアルバイトをしていたことから,彬水が仕事を終えて夕方帰宅するのと入れ替わりに,相手方が食事の準備をして夜出かけて朝方帰宅する状況であった。そして,なるみさんが出かけた後,彬水は未成年者らを入浴させて,寝かしつける等していた。

  7 なるみさんと彬水さんは離婚に向けて話し合い,未成年者らの親権について対立したものの,彬水さんは,未成年者らの親権者をなるみさんとすることに承諾しました。

  8 彬水はこの承諾を後悔し,離婚届の親権者に関する記載欄を空欄にしたまま署名押印し,相手方に交付し,なるみさんにおいて親権者に関する記載欄になるみさんの氏名を記載した。その後,相手方が抗告人との約束に反して男性チーフと交際していることがわかったので,離婚不受理届を市役所に提出し,なるみさんに対し,未成年者らの親権は渡せないと告げました。これに対し,相手方は,包丁を自己の手首に突き付け,そのようなことを言うと死ぬと述べる等して,未成年者らの親権について争った。

  9 彬水さんとなるみさんは,平成25年,彬水の養父母及び弟,なるみさんの両親及び妹に加え,男性チーフも交えて話し合いをした。

  10 当初,なるみさん以外の全員が未成年者らの親権者をなるみさんとすることに反対したが,なるみさんはあくまで未成年者らの親権者となることを主張した。そこで,彬水さんの母親は,なるみさんに対し,なるみさんの住居や昼の仕事が決まり,生活が安定するまで未成年者らを監護すると申し出,なるみさんはこれを承諾し,その上で未成年者らの親権者をなるみさんとすることで合意した。

  11 彬水さんとなるみさんは,未成年者らの親権者をいずれもなるみさんとする離婚届を提出し,同日,離婚した。

  12 なるみさんは,未成年者らを彬水の両親に預け,福岡県内のアパートを借りて,彬水さんの肩書き住所地にある自宅を出た。

   (2) 離婚後の経緯
      ア なるみさんは,平成25年□□月及び□□月に,未成年者らと面会した。

      イ 彬水の父親は,平成26年□月,なるみさんに対して電話で未成年者らが相手方に会うと情緒不安定になるから会わせることはできないと告げた。

      ウ 彬水は,平成26年□月□□日,本件親権者変更の調停を申し立てた。なるみさんは,この調停において,彬水に対し,未成年者らとの面会交流を求め,面会交流が実施された。

      エ 彬水は,平成26年□月,なるみさんを被告として福岡地方裁判所久留米支部に対して,不貞行為が不法行為に当たるとして,損害賠償金165万円及び遅延損害金を請求する訴訟を提起した。

   (3) 未成年者らの監護状況

      ア 未成年者らは,平成25年,いずれもわくわく幼稚園に通い始め,相手方が幼稚園への送迎を行っていたが,同年以降,彬水の両親の自宅で同人らに監護養育されており,その状況に特に問題はない。抗告人は,できるだけ両親の自宅で過ごすようにして,未成年者らの世話をしている。未成年者の欠席日数は卓が4日,寧々が5日などである。

      イ わくわく幼稚園では,2か月に1回当該期間中に誕生日を迎える園児の誕生会が開催され,同会には園児のほか保護者も参加することになっていた。平成25年□・□月の誕生会が企画され,未成年者寧々もその対象であったが,親権者であるなるみさんは仕事の都合を理由に欠席したため寧々の誕生会は実施できず,その後も幼稚園の求めにもかかわらず欠席し,結局誕生会に彬水及び彬水の父親が出席し,未成年者寧々の誕生を祝った。また,わくわく幼稚園では,平成25年園児らの普段の様子について担任の先生が保護者に報告をするクラス懇談会が企画され,同園は親権者であるなるみさんに参加を求める電話をしたが,電話に出ることはなく,結局,彬水さんが上記懇談会に出席した。

      ウ 未成年者らの保育料は彬水が支払っていたが,平成25年からはなるみさんが支払うこととなった。しかし,なるみさんからは実際に支払われず,引き続き彬水が支払っている。

   (4) 抗告人及び相手方の生活状況

      ア 彬水は,実家で両親,弟と共に生活し,福岡ウェディングフラワー株式会社に勤務し,月額23万円程度の収入を得ている。

      イ なるみは,平成26年,丸八運輸株式会社の面接を受け,同社に就職し,福岡市内のアパートからなるみさんの肩書き住所地にあるアパートに転居した。 しかし,なるみさんは,同社を休職し,退社した。もっとも,収入がないため,これまでの貯蓄を取り崩して生活費に充て,未成年者らのために支給されている児童手当や児童扶養手当も自己の生活費に充てることがあった。

      ウ 相手方は,求職活動の結果,田川市内の不動産会社である株式会社田川不動産への就職が決まり,平成27年から勤務することが予定されている。給料は,試用期間の3か月は手取り12万円,試用期間後は手取り15万円であることが予定されている。また,相手方は,未成年者らを引き取った場合,現在居住するアパートで一緒に暮らすつもりであり,このアパートには未成年者らが生活できるだけの居住空間が確保されている。そして,相手方は,未成年者らを福岡県田川市内のマーブル保育園に預け,将来的には福岡市内に転居することを考えている。もっとも,なるみさんにはなるみさん方の両親等の援助が見込めず,他になるみさんを援助する監護補助者が見当たらない。

 3 判断

   (1) 民法819条6項は,「子の利益のため必要があると認めるとき」に親権者の変更を認める旨規定しているから,親権者変更の必要性は,親権者を指定した経緯,その後の事情の変更の有無と共に当事者双方の監護能力,監護の安定性等を具体的に考慮して,最終的には子の利益のための必要性の有無という観点から決せられるべきものである。そこで検討すると,前記2で認定した事実によれば,

  ①未成年者らは平成25年以降,親権者である相手方ではなく抗告人及びその両親に監護養育され,安定した生活を送っており,このような監護の実態と親権の所在を一致させる必要があること,

  ②婚姻生活中において,相手方は,未成年者らに対して食事の世話等はしているものの,夜間のアルバイトをしていたこともあって,未成年者らの入浴や就寝は抗告人が行っており,またその間の未成年者Cの幼稚園の欠席日数も少なくないこと,

  ③相手方は,未成年者らの通園する幼稚園の行事への参加に消極的であること,また,親権者であるにもかかわらず保育料の支払いも行っていないこと,

  ④相手方に監護補助者が存在せず,抗告人と対比して未成年者らの監護養育に不安がある (両親を含めた抗告人と相手方との話し合いにおいて,相手方以外が相手方が未成年者らの親権者となることに反対したことからも,その監護能力に不安があることが窺える。)こと,

  ⑤未成年者らの親権者が相手方とされた経緯をみても,未成年者らの親権者となることを主張する相手方に抗告人が譲歩する形となったが,他方で相手方の住居や昼の仕事が決まり,生活が安定するまで未成年者らを監護することとなり現在に至っているので,必ずしも相手方に監護能力があることを認めて親権者が指定されたわけではないこと,

  ⑥相手方が養育に手が掛かる幼児がいながら婚姻期間中に男性チーフと不貞行為を行っており,未成年者らに対する監護意思ないし監護適格を疑わせるものであることが認められる。そうすると,未成年者Cが5歳,同Dが4歳と若年で,母性の存在が必要であること,不動産会社への再就職が決まり,一定の収入も見込まれることを併せ考慮しても,未成年者らの利益のためには,親権者を相手方から抗告人に変更することが必要であると認められる。

   (2) 相手方の主張に対し

      ア 相手方は,親権者の指定の後に事情の変更がない限り親権者の変更は認められるべきではない旨主張する。しかし,親権者の変更の判断において,事情の変更が考慮要素とされるのは,そのような変更もないにもかかわらず親権者の変更を認めることは子の利益に反することがあり得るからであって,あくまで上記考慮要素の1つとして理解すべきであり,最終的には親権者の変更が子の利益のために必要といえるか否かによって決するべきである。そうすると,抗告人と相手方の監護意思,監護能力,監護の安定性等を比較考慮すれば,親権者を抗告人とすることが未成年者らの利益のために必要であると認められることは前記のとおりである。相手方の主張は採用できない。

      イ 相手方は,婚姻期間中に未成年者らを監護養育してきたし,監護能力もあると主張する。しかし,前記認定判断のとおり,相手方が未成年者らを一定程度監護養育したとしても,その監護の安定性は抗告人の方が勝るし,監護補助者が見当たらない点で監護能力も抗告人が勝っているといわざるを得ない。相手方の主張は採用できない。

 4 以上のとおり,未成年者らの親権者を相手方から抗告人に変更すべきところ,これと異なり本件申立てを却下した原審判は失当であるから,原審判を取り消すこととし,主文のとおり決定する。

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