双極性障害と婚姻費用、離婚、財産分与について解説!
双極性障害と婚姻費用、離婚、財産分与について解説!
夫の鈴世さんは、管理職として仕事のストレスが増えて,過労も重なり、双極性障害と診断を受けて,心療内科に通院を始めるようになりました。37歳のころ、身内に不幸があった後、うつ症状が悪化しました。医師の助言で、夫は6か月間病気休暇をとったものの、病状が安定せず、うつ状態と躁状態を繰り返しました。そして、そのまま3年間休職したものの、復職後は1年半程度働いたが,再度休職をしている状況にあります。
このほか、病気に由来するかは分かりませんが、浪費があり、妻のなるみさんは別居してしまいました。
今回は双極性障害の相手方との離婚において、婚姻費用・離婚・財産分与について、名古屋の弁護士が解説いたします。
1.うつ病や双極性障害
1-1.うつ病
「うつ」の症状は、生活リズムの変調、体調不良、エネルギーの低下、ネガティブな感情の増加及びうつ病性の認知の歪み、ポジティブな感情が減る等です。また、希死念慮も高い頻度で見られます。
「うつ」の症状によっては、婚姻生活を継続していくことが困難になる場合もあり、結果的に離婚原因があると認定される場合もあります。また、財産分与や婚姻費用の算定においても、「うつ」への配慮が必要になる場合があります。
「うつ病」や「うつ状態」にある当事者は、離婚調停や訴訟により、さらに「うつ」の症状が強くなることがあります。また、思考の整理ができなかったり、適切な判断ができなくなったりするという場合もあります。まずは、裁判所や反対当事者にも配慮を求めるようにしましょう。
1-2.双極性障害
「躁」と「うつ」の両方がみられる双極性障害といいます。躁になると活動的になり、性格も明るく声が大きくなったり、創造的で清算的になりエネルギッシュになったります。しかし、それも長続きせず、次第に気分が落ち込んで身体が重くなり、「うつ」に移行していくのが双極性障害です。
双極性障害には、Ⅰ型とⅡ型があります。Ⅰ型の場合は、躁状態の方が問題になることが多いと解されます。また、Ⅱ型は軽い躁とうつ病がみられる場合で、本人の自覚的苦痛や生活の支障が大きいのは「うつ病」のときといわれています。
鈴世さんは、うつ病になり、休職中に買い物やギャンブルをして貯金を減らしましたが、このときは躁状態にあったのではないかと考えられます。躁状態の場合は、常識を逸脱した言動をとったり、乱費も多くなったりするため、これまで築いてきた人間関係や社会的信用、仕事や家庭といった人生の基盤が大きく損なわれるものです。
離婚の交渉にあたっても、「躁」状態か、「うつ状態」かによって、受け止め方が異なり、躁状態の場合は常識を逸脱する言動をとる可能性もないとはいえないといえるので,交渉が成立しにくくなる可能性もないとはいえません。
2.夫から婚姻費用をもらうことができますか。
一般的に鈴世さんは、双極性Ⅱ型障害と考えられますが、鈴世さんは令和元年に復職したものの、令和2年には再び求職しています。
休職中であるとしても、夫に失業手当などの定期的な手当がある場合は、婚姻費用は認められると思います。その際の基礎となる夫の収入ですが、考え方が分かれるところです。
一般的に、双極性Ⅱ型障害といっても薬理コントロールができていれば就労には問題がないので、休職前の給与水準を賃金センサスで認定するという考え方もあり得るでしょう。これに対して、実務上、病気と因果関係があり失業しているような場合は休職前の給与水準で算定されるのは困難でしょう。
鈴世さんが休職中の場合は、休職手当や傷病手当が得られると思いますので、現実に夫が得ている金額が基準になるといえると思います。
既に述べたとおり、「病気のために働けないかどうか」は判断が難しく収入がない場合は、賃金センサス等で収入を算定することは困難であり、稼働能力は減退していると評価せざるを得ないと思います。
3.夫と離婚することができますか。
鈴世さんのように双極性障害となり、また、金融資産を浪費して夫婦生活が成り立っているとはいいにくい場合、離婚をすることはできるのでしょうか。
3-1.配偶者の言動によっては離婚が認められるケース
法定離婚原因の中には「重度の精神病」というものがありますが、双極性障害については、「重度の精神病」にあたるとはいえないと思います。しかし、治療に熱心ではなく服薬を怠り、結果、躁転を繰り返すなどの事実関係が出てきた場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があると思います。
具体的には、夫のどのような行為が、「婚姻を継続し難い重大な事由」の評価根拠事実になるのでしょうか。
- 浪費
- 昼夜逆転の生活
- 暴言
- 他方配偶者の病気にどれくらいケアをしてきたのか
- 精神的、肉体的、経済的に配偶者に一定の配慮をしてきたのか。
設問の妻・なるみさんは、鈴世さんが双極性障害になってから就労をして生活費を稼ぎ、通院に付き添ったり、日常生活でもうつ病の改善のために努力をしたりしてきたということですので,婚姻破綻にあたり一定の評価をされる可能性があります。
また、離婚後の夫の生活に裁判所は関心を持つ可能性があります。
具体的には、財産分与の結果どれくらい資産が残るか、住む家はあるか、年金の金額、治療の支援策―などです。離婚後に夫が精神的、肉体的、経済的にあまりに過酷な状況におかれる場合には、結論的に破綻の認定に至らない可能性もありますが、日常生活をしている双極性障害の方もたくさんいますので、なぜ、そこまで状態が悪いのか、ということも審理の対象になるのではないかと思います。
3-2.離婚前提で今後の生活を考える
双極性障害の影響から日常生活に支障が出ている鈴世さん。休職中のうえに多額の浪費行為をした場合、事実上は、婚姻破綻状態にあるといわれてもおかしいとまではいえないと思います。
もっとも、なるみさんとしては、離婚を希望する場合は、婚姻破綻していても離婚を主張することが信義則に違反しないことを明らかにする必要があります。
具体的には、以下のようなものになるでしょう。
- 夫の双極性障害の程度
- 薬理コントロールの可否
- 今後の治療の可能性
- 回復の見通し
- 診断書や医師の話し
―こうした事情を証明することで、離婚を希望したとしても、信義則に反しないことを主張立証する必要があると思われます。
双極性障害を患っている方の立場から
双極性障害については、どのような機序で罹患するかも分かっておらず、病気に罹患したことは配偶者のどちらの責任でもないといえます。この場合の鈴世さんは、疾患があり、かつ、離婚も求められるということになると大変つらいものといえます。しかし、双極性障害の場合は、暴言などが証拠によって証明される場合もありますが、裁判所は、病気だから暴言を吐くというセオリーにはあまり賛成ではありません。
個別具体的な事情は異なると思いますが、浪費や暴言などが行き過ぎているといえそうな場合は、離婚が認められることもやむを得ない場合もあることを前提に、適切な治療を受けて、場合によっては行政や民間の福祉の力を借りる必要があるかもしれません。
4.夫に対する慰謝料請求は認められますか。
暴言の証拠がある場合は分かりませんが、鈴世さんのように、双極性障害になり、金融資産の浪費をしたという場合は、慰謝料請求まではできない可能性が高いと思います。
本件では、鈴世さんは、休職中の手当も生活費にあてていたという良情状もあります。そこで、慰謝料が発生するほどの夫婦の協力扶助義務違反があったとはいえない可能性が高いと思われます。
5.財産分与の判断において、夫の病気の影響で2分の1ルールは変更されますか。
鈴世さんが、双極性障害になった後、なるみさんは、保育園で働き始めました。
なるみさんが働き始めた後には、なるみさんの資産の増加には、鈴世さんの協力はないといえます。そこで、なるみさん名義の預金も財産分与の対象になるのか、また、2分の1ルールの見直しはあるのでしょうか。
基本的にはありません。
清算的財産分与は、夫婦が同居中に協力して築いた資産を分けるものであり、財産分与の基準時の資産を2分の1で分ける場合がほとんどです。ただ、具体的な金額は、一切の事情を踏まえて、裁判官の裁量で決められることになっているため、2分の1ルールが少し修正される可能性が全くないわけではないでしょう。
ただし、病気による休養は誰でも起こりえることや、鈴世さんが、休職中の手当から生活費を負担していたり家事労働をしていたりした場合には、直ちに2分の1ルールが修正されるかは微妙といえます。例外的であるとは思いますが、場合によっては、資産形成への寄与割合を調整することもあり得るのではないかとも考えられます。
双極性障害と婚姻費用、離婚、財産分与をテーマのコラムでした。なかなかお話合いが前に進みづらいという話しをうかがうこともあります。
場合によっては、双方とも、弁護士によるサポートが必須ではないでしょうか。当事務所では離婚と子どもの問題に非常に力を入れていますので、名古屋で離婚や婚姻費用、財産分与問題にお悩みの方はぜひご相談下さい。