家族信託を活用!事実婚、同性婚のパートナーを守る方法
家族信託を活用!事実婚、同性婚のパートナーを守る方法
内縁関係、同性婚のカップルの場合、配偶者に遺産相続権がありません。これらのパートナーシップ関係は法律上の「親族」として認められないので、一方が認知症になって介護施設に入所することになると、残された方が大きな不利益を受けてしまうおそれがあります。離婚と同じく解消はありますが、病気になったがゆえそのようなことにならないように具体的に決めてもらいましょう。
今回は、事実婚や同性婚のカップルで一方が認知症になったときにパートナーが困らないようにする「家族信託」という方法を解説します。婚姻届を出さずに生活している内縁や同性婚の方、学生の彼氏彼女の方などは、ぜひ参考にしてみてください。
1.内縁関係、同性婚の場合「成年後見制度」を利用できない
内縁関係や同性婚のカップルの場合、片方が認知症になって判断能力が低下してしまうと残された方が大きな不利益を受ける可能性があります。成年後見人としても、後見人の場合は、血族になってしまうかもしれません。なお、任意後見は利用することができます。
1-1.同性婚の配偶者が「不法占拠者」扱いされるリスク
たとえば同性婚のカップルで、認知症になったパートナー名義のマンションに居住している場合を考えてみましょう。マンションの名義人が施設に入所することになったら、残された方は「他人のマンション」に住んでいる状態になってしまいます。そうなると、施設入所したパートナーの親族との間でトラブルになる可能性も懸念されるでしょう。本人の記憶が薄らいで「この人は誰か分からない、知らない人が家に住んでいる」などと言われたら「不法占拠者扱い」されるかもしれません。
また本人が死亡した場合、パートナーには遺産相続権がないので、本人の相続人から退去を求められる可能性も高くなります。
1-2.法律婚の夫婦の場合には配偶者の権利が守られる
法律婚の夫婦の場合、片方が認知症になっても戸籍によって夫婦関係を証明できるので、居住権が簡単に認められます。また配偶者の認知症が進行したら家庭裁判所で「成年後見人」の選任申し立てが可能です。成年後見人が選任されたら、その人が本人の財産を適切に管理するので、本人が認知症となっても財産を守れるでしょう。配偶者自身が後見人になることも可能です。
1-3.内縁関係、同性婚の場合には成年後見制度も利用できない
内縁や同性婚の配偶者の場合には、成年後見人の選任申立をする権限が認められません。このため、任意後見の申立てをする方は非常に多いので、ご留意ください。
相方が認知症になって判断能力を失ったとき、財産を管理する人がいなくなって困難な事態に陥る可能性が高くなってしまいます。
このように、同性婚や事実婚の場合、パートナーが認知症になったり死亡したりするとリスクが高くなるので、予防措置が必要です。この点については、任意後見や家族信託は配偶者的なパートナーのことを知る上でも良い機会と思われます。
2.家族信託とは
内縁関係や同性婚のカップルで、パートナーが認知症になったときに備えるにはどうすればよいのでしょうか?
任意後見という方法もあります。
次に、この場合「家族信託(民事信託)」を利用する方法が有効です。
家族信託とは、信頼できる家族に財産を託し、誰かのために管理処分してもらう「信託契約」です。信託契約とは、お金や不動産、株式などを信頼できる人に預けて自分や第三者のために管理してもらう契約をいいます。
たとえば親が子どもに自宅不動産を信託し、親のために管理してもらう場合を考えてみましょう。このようにすると、親が認知症になっても子どもが適切に家の管理を行えます。子どもが家の固定資産税を払ったり傷んだときに修復したりしてくれるので、親は最後まで安心して生活できるでしょう。
最近では、遺言や生前贈与、成年後見人制度の活用と並んで家族信託が注目を浴びています。
3.家族信託の設定方法
家族信託を設定するときには、以下の3者を決めなければなりません。
3-1.委託者
委託者とは、財産を預ける人です。たとえば不動産や預貯金などの「所有者(保有者、名義人)」が委託者となります。
3-2.受託者
受託者は、財産を預かり管理する人です。
3-3.受益者
受益者は、財産管理によって利益を受ける人です。委託者と同一人物であってもかまいませんし、別の人を指定することも可能です。
また信託財産の内容も明らかにする必要があります。たとえば「自宅不動産」「A銀行の預貯金」「B会社の株式」などを指定しましょう。
4.内縁関係、事実婚で家族信託を活用する方法
内縁関係や事実婚のケースで家族信託を活用するには、どのようにすれば良いのでしょうか?
たとえば、同性婚で配偶者(Aさん)名義のマンションに住んでいて、配偶者が認知症になったときの相方(Bさん)の生活を守りたい場合を例に、家族信託の設定方法を考えてみましょう。
この場合、委託者をマンションの名義人であるAさんとします。
受託者はAさんやBさんの親族など、誰か信頼できる人を選びます。たとえばAさんに懇意にしている甥がいるなら、その方に任せても良いでしょう。信頼できる相手であれば、親族でなくてもかまいません。
受益者は、Aさんが生きている間は「Aさん本人」とするのが通常です。このようにすれば、Aさんが認知症になって自分でマンションを管理できなくなっても、受託者であるAさんの甥がきちんと物件を管理してくれるので安心です。Bさんが追い出される心配もありません。
5.家族信託は死後にも有効
家族信託を設定して委託者本人が死亡してしまったら、信託契約の効果はどうなるのでしょうか?
家族信託の契約は、委託者の死亡後にも存続させられます。生前は委託者を受益者として設定していた場合、死後には受益者を別の人に変更できます。
たとえばAさんが甥にマンション管理を委託してAさん自身を受益者としていた場合、Aさんの死後は受益者をBさんへ変更すると良いでしょう。このように設定すれば、Aさんの死後は甥がBさんのためにマンションを管理するので、Bさんが追い出される心配はありません。
不法占拠者と間違われる可能性もなく、安心して生活を続けられます。
また家族信託が終了するときには、最終的な財産の帰属先も定められます。たとえばBさんが死亡したときにはマンションの所有権を甥に帰属させるとしておけば、AさんやBさんのために力を尽くしてくれた甥に報いることができるでしょう。
家族信託は、事実婚の夫婦や同性婚カップルなど、成年後見制度を適用しにくいケースで非常に役立ちます。
6.家族信託利用の流れ
家族信託契約を利用したい場合には、以下の流れで進めましょう。
6-1.専門家に相談する
家族信託は複雑で、素人には設定が困難です。まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。家族信託に積極的に取り組んでいる専門家を探して相談してみてください。
6-2.スキームを決める
家族信託を利用するときには、委託者、受託者、受益者、信託財産を決めなければなりません。専門家のアドバイスを受けながら、事案に沿った最適な方法を設定しましょう。
6-3.契約書を作成する
信託契約書を作成します。専門家に依頼していれば、専門家が作成してくれます。
6-4.契約書を公正証書にする
契約書は公正証書にしておくようお勧めします。その方が契約に対する信頼感も高まり、無効になる可能性も小さくなってトラブル回避しやすいためです。
6-5.登記する
不動産を信託する場合、登記しなければなりません。
あとは受託者が信託財産を契約内容とおりに管理していけば目的を達成できるでしょう。
事実婚、同性婚のカップルは法律婚のご夫婦とは異なる困難に直面するケースが多々あります。お困りの際にはお気軽に家族法、離婚、相続、家族信託に強い当事務所の弁護士までご相談ください。