再婚相手と籍を入れない場合の財産管理、遺産相続対策とは
再婚相手と籍を入れない場合の財産管理、遺産相続対策とは
中高年の方が再婚する場合、前の配偶者やパートナーとの子どもや孫との関係をふまえて「再婚相手と籍を入れない」ケースが多々あります。この辺りは相続も含めてトラブルになりたいといえるでしょう。
確かに籍を入れなければ子どもや孫の理解を得やすくなりますが、残された内縁配偶者が生活に困る可能性があり、注意が必要です。そこで生前のうちから内縁の配偶者の生活保証を検討しておく必要があります。
今回は、再婚相手と籍を入れない場合の財産管理や遺産相続対策方法を解説します。
パートナーと籍を入れずに生活している方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.再婚相手と籍を入れない夫婦が増えている
近年では「かたち」にこだわらない婚姻生活を選択する方が増えています。フランスでは若者が結婚は拘束力が強すぎるとして、PACSという内縁契約のみにとどめておくことがあります。加えて、我が国でも、特に中高年の方が「再婚」する際には、こどもの相続権に配慮を示したり扶養義務が生じないようにするため、あえて婚姻届を提出せずに「事実婚」を選択する傾向があります。
中高年の場合、以前のパートナーとの間に子どもや孫がいるケースが多いからです。再婚するとしても、婚姻前に取得した財産は子どもや孫に受け継がせたいと考えるでしょう。
再婚相手と籍を入れてしまったらパートナーへ2分の1の遺産が引き継がれてしまいます。また子どもや孫が再婚に反対するケースも少なくありません。反対をしても再婚すること自体はできますが、そうはいっても、周りと軋轢が生じてしまいます。
そこであえて結婚届を出さず籍を入れず、夫婦共同生活、つまり事実婚の関係を継続するのです。それであれば遺産は子ども達に引き継がれますし、理解も得やすくなって円満な関係を維持しやすくなります。
2.再婚相手の生活における財産管理方法
中高年のカップルが婚姻届を提出せず内縁の夫婦として生活する場合、日々の財産管理方法に工夫が必要です。なぜなら、混在してしまうと、相続関係も錯綜してしまうからです。
夫婦のどちらにも婚姻前から有していた固有財産や相続財産があるとき、婚姻後の財産と混じってしまったら混乱が生じるからです。婚姻前から持っていた財産と婚姻後に形成した夫婦共有財産については分けて管理しましょう。
具体的には夫婦のどちらかの名義で銀行預金口座を開設し、そこに2人が生活費を入金して光熱費やクレジットカードの引き落としを設定したり、日々の買い物に使ったりする方法が有効です。
また関係を解消する際のルールも取り決めておきましょう。内縁関係でも関係解消時には財産分与を行えます。婚姻中に形成した財産、たとえば上記で紹介した「生活のために利用している口座」の残高を夫婦で2分の1ずつに分ける、と定めておくのは必須です。一方、婚姻前から有していた固有財産については別居時にお互いに請求しないことも、確認的に定めておくと安心です。当事務所では、夫婦財産契約も手掛けていますが、若い方はともかく50歳を超えてからのパートナーと結婚される場合は夫婦財産契約書をあらかじめ作成されるのが良いと思います。
3.遺言書作成が必須
婚姻中の財産管理方法を決めても、「死亡後の問題」は解決しません。事実婚の夫婦の場合、配偶者にはお互いの相続権がないからです。
夫婦がどちらかの名義の家に居住している場合、名義人となっている配偶者が死亡すると、相続人となった子どもが所有権を主張して、残された内縁の配偶者に退去を迫るケースも少なくありません。
また夫婦の預金を一方配偶者名義にしていた場合、その配偶者が死亡すると残された配偶者は預金を相続できません。子どもが預金を相続し、夫婦で貯めた財産を奪われてしまうおそれもあります。
このような問題を防止するには「遺言書」の作成が必須です。遺言書があれば、相続権のない内縁の配偶者にも家やその他の財産を「遺贈」できます。たとえば遺言書において、内縁の配偶者に「居住している家」「預貯金」「株式」などを遺贈する、と定めておくと良いでしょう。
どちらが先に亡くなるかわからないので、お互いに遺言書を作成しておくようお勧めします。
4.遺言書を作成するときの注意点
遺言書を作成するときには、以下の3点に注意してください。
4-1.公正証書遺言にする
遺言書にはいくつか種類がありますが、必ず「公正証書遺言」を選択しましょう。公正証書遺言以外によく利用されるのは「自筆証書遺言」です。確かに自筆証書遺言には自宅で簡単に作成できる、費用がかからないなどのメリットがあります。しかし素人の方が自己判断で作成すると「要式違反」で無効になりやすい問題をはらんでいます。
遺言者の死後に子どもが「無効」「配偶者が偽造したものだ」などと主張して、トラブルにつながるケースも少なくありません。自宅に保管していると発見されない可能性もありますし、発見した子どもが破棄したり隠したりする可能性も考えられます。
公正証書遺言なら、公証人が職務としてしっかり作成するので、要式違反で無効になるケースはほとんど考えられません。公証役場で原本を預かってもらえるので紛失や偽造、破棄隠匿などのおそれもありません。
確実に遺言内容を実現するには、公正証書遺言が有効です。面倒でも、夫婦双方が公証役場へ申し込んで公正証書遺言を作成しておきましょう。なお、最近は法務局に自筆証書遺言を保管してもらえる制度もできましたので、詳しくは法務局のホームページをご覧ください。
4-2.遺留分侵害額請求
2つめに「遺留分侵害額請求」に注意が必要です。遺留分とは、子どもなどの法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。これはこどもらが相続できるだろうという期待権といえます。
遺言によってパートナーへ遺産を遺し、子どもの遺留分を侵害すると、子どもは残されたパートナーへ「遺留分侵害額請求」という金銭請求ができます。そうなると、死後に子どもとパートナーとの間で大きなトラブルが発生してしまうリスクがあるのです。
遺言書を作成する際には、遺留分対策が必須といえるでしょう。たとえば以下のような対応が考えられます。
- 子どもにも一定の遺産を遺し、遺留分を侵害しないようにする
- パートナーへ生命保険金を受け取らせて遺留分侵害額請求に備える
- 子どもに遺産を先渡しして、生前に家庭裁判所で遺留分を放棄させる(ただし必ず放棄が認められるとは限りません。けだし放棄には合理的な理由が必要とされ、裁判官が許可しない場合も少なくないからです。)
遺留分対策で迷われたら、弁護士までご相談ください。
4-3.配偶者控除を受けられない
事実婚のパートナーへ高額な財産を遺贈すると「相続税」が発生する可能性があります。
法律婚の配偶者の場合「法定相続分または1億6千万円まで」の遺産取得分まで税額控除を受けられるので、相続税がかかるケースはわずかです。一方、事実婚のパートナーには上記の配偶者控除が適用されないので、相続財産にそのまま相続税が課税されます。また本来の法定相続人ではない人への遺贈の場合、相続税額が1.2倍に増額されます。
内縁のパートナーへ遺贈すると、高額な相続税がかかる可能性があるので、一定以上の財産のある方は必ず事前に税金のシミュレーションを行いましょう。
その上で、生前贈与や不動産の購入、生命保険の活用などの税金対策をしておくようお進めします。
内縁のパートナーと関係を築く際には、財産管理や遺産相続に関する正しい知識と対策が必要です。迷われた方は、迷われている方専門の名古屋市の家族法の弁護士(離婚、相続、後見)までご相談ください。