不貞の信義則や権利濫用で生活費が10万円増額の審判
読売新聞の報道によると、一般的な算定表の基準を10万円上回る審判が出て確定したため、話題になっているとのことです。一部報道によりますと、事例は、「今回の夫婦のケースでは夫の年収が約1400万円、妻は別居後に始めた仕事で年収約93万円で、小学生の子が2人。従来の方式に当てはめると夫が支払う費用は月26万円となる。しかし、東京家裁は夫に月36万7856円の支払いを命じた。」とのことです。
読売新聞の報道の一部によると、「夫の不倫が原因で小学生の息子2人を連れて別居することになった東京都内の妻が、夫に生活費の支払いを求めた審判で、東京家裁(吉田純一郎裁判官)が、裁判所による一般的な算定金額より1月あたり約10万円多い費用の支払いを夫に命じた。審判は(平成31年1月)11日付で、既に確定している。」とのことです。
では、どのような事情だったのでしょうか。
実は不貞の場合、妻側の不貞の場合、妻分の生活費は請求できないという権利濫用の法理が一時的に否定される運用ですが最近は、再度、それに基づいた運用に戻っています。しかし、他方では、なぜ減らす方向で権利濫用は働き、増やす方向で権利濫用は働かないのかという疑問はありました。もっとも、これに基づく審判はこれまでなかったようになります。
ヒントになりますように、①不倫して社宅を夫を出て行った場合に社宅費用の減算を認めるのが妥当かという議論、②こどもの連れ去りの際、連れ去った際の分の生活費については権利濫用を根拠に減算できないという裁判例があります。
おそらくは、こうした裁判例を参考にしたものとみられますが、どれほどの射程距離になるのかは、続報を待ちたいところです。
読売新聞の報道によると、「審判によると、夫妻は30歳代。夫は2年前に不倫が発覚し、住んでいた社宅から出て行った。その後、妻は社宅から退去させられ、昨年6月から賃貸住宅(家賃月10万円)に息子2人と暮らしている。別居する夫妻の生活費を裁判所が決める場合、収入や子どもの数などから計算する「簡易算定方式」が用いられることが多い。同方式では今回のケースで夫が支払う生活費は月26万円だが、妻側は「賃貸住宅の家賃も夫は応分の負担をすべきだ」と主張していた。」とのことです。
しかしながら、既に26万円の婚姻費用がベースになっている場合、もともとかなり高額であるので、その背後事情が気になるところです。もっとも、算定表では標準住居費が決まっていますが、これは減算の根拠になるものと思います。
そもそも、不貞の認定は、裁判で行うべきで婚姻費用負担の裁判で行うべきではないという見解もある中で、このような審判が出ると別居をためらうケースも出てきて、かえって父母双方の精神的負担になるようなケースがあると思います。ポイントとしては、社宅から出て行かざるを得なくなったが、まだ婚姻関係が続いているので本来居住権利はあるのではないか、それに比例する形で元来、減算される必要がなかった家賃を減算せざるを得なくなったので、その分、婚姻費用を増額したのではないかとの解釈も成り立ちます。いずれにしても、権利濫用や信義則を根拠に増額するケースは疑問であり、今回も加算調整で解決ないし理解すべき問題と考えられます。なお、なぜこのようなやや疑問な判断に即時抗告がなされなかったかも疑問で、少なくとも説得的説示がない限りは高裁で維持されるのは疑問を抱かざるを得ません。
一部報道によると、夫の追い出し+習い事で10万円の加算調整がされたという理解があるようです。具体的には、「従来の方式で(婚姻費用を)算定するのが相当」としながらも「個別の事情で、従来の方式が考慮していない額の分担をさせるべきか、公平の観点に照らして判断すべきだ」と指摘。「夫側の一連の行為でやむを得ず転居したものと認められ、従来の方式での額を超える分は収入比に応じて分担する義務があるのが公平だ」としたものです。
さらに、従来の方式では考慮されてこなかった子の習い事の費用も、東京家裁は「夫が習い事に同意していた場合は収入に応じて負担させるのが相当」と判断した。このように、習い事+賃料費用が一定額認められたというところが要素になると整理され、その背後には悪意の遺棄や不貞があるものと推察されます。しかし、今後別居後の妻がアパートを借りて、その賃料代を夫に請求するケースが増えることも考えられるのではないでしょうか。