全寮制の学校と婚姻費用・養育費

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さて、今回は、全寮制の学校に入った場合の婚姻費用の算定についてです。

思考停止の原審と実態をとらえた家事抗告集中部(大阪高裁)の判断が対照的です。

また、この判例タイムズ1437号で紹介された裁判官によるものと思われる匿名コメントでは、判例時報にやはり裁判官がコメントした2322号70号のコメントに合理性が認められるとしましたが、そうでもないとストップをかける記述がなされていることにも注目されます。

まずは、思考停止に陥った原審の判断です。

原審は寮費(85万円)のうち公立高校で算定表に織り込まれている33万円を超える約52万円について、双方の基礎収入割合に応じて按分負担するものと判断しました。しかし、寮費というのは「教育費」なのでしょうか。

大阪高裁家事抗告集中部はそのように考えませんでした。今回のポイントは、入寮により母親の生活費が減少したのでその限度で養育費の分担額から除いたというものです。

つまり、未成年者は入寮によって母親である一審申立人の食費・光熱費が下がっていることを指摘しました。

つまり、未成年者がいなくなっているのだから、その分、減額されるでしょうということです。しかし、算定表の別表を変えるのではなく、「生活扶助基準額」を参考にするというイレギュラーな判断で月額2万8000円を養育費から控除しました。

たしかに,一審相手方からすれば、こどもは全寮制の学校に入り教育費の中に寮費も含まれているのに、なぜ妻+15歳以上の表で金額を支払わなければならないのか、という疑問が生じるところです。

大阪高裁は、父も同意したものであるから増加分を考慮しないものの、入寮に伴う食費・光熱費の二重負担は相当ではない、と判断したものと考えられます。

判決文は以下のとおりです。

第一 抗告の趣旨及び理由
別紙即時抗告申立書《略》、抗告理由書《略》及び平成二八年九月一五日付け主張書面《略》(各写し)のとおり
第二 当裁判所の判断
一 当裁判所は、原審判を上記のとおり変更することが相当であると判断する。
その理由は、次のとおり補正し、次項に抗告理由について補足するほかは、原審判の理由説示のとおりである。
(1) 原審判二頁二〇行目〈編注・本号後掲七二頁三段二三行目〉の末尾に、改行して次のとおり加える。
「(6) 抗告人は、平成二八年七月一一日、Pと婚姻し、同日、同女の長男(平成一二年××月××日生。一六歳)と養子縁組を行い、上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。」
(2) 同三頁一五行目〈同七二頁四段二九行目〉の「基礎収入」の次に「(抗告人は二二四万〇六一六円(基礎収入割合五一%。月額一八万六七一八円)、相手方は八一万七七二五円(基礎収入割合三九%。月額六万八一四三円))」を加える。
(3) 同三頁二一行目〈同七三頁一段七行目〉の末尾に改行して次のとおり加える。
「 もっとも、未成年者は上記進学に伴い入寮し、上記学費の相当部分が食費、光熱費を含む寮費に充てられるところ、上記入寮の限度で相手方は食費及び光熱費の負担が軽減することが認められる。そして、上記負担の軽減される額について検討すると、一級地-一における生活扶助基準の居宅第一類(飲食物費、被服費等個人単位で消費する費用)が一五歳~一九歳で月額四万五六七七円、居宅第二類(光熱費、家具什器購入費等世帯全体で消費する費用)が世帯人数一人で月額四万三七九八円、同二人で月額四万八四七六円であること、世帯人数の減少が直ちに人数に応じた支出の減少につながるとはいい難いこと及び標準的算定方式により算定される養育費の額及び相手方の基礎収入額を考慮すれば、食費につき上記四万五六七七円の約六割に当たる月額二万七〇〇〇円が軽減され、光熱費につき上記世帯人数二人の生活扶助基準額と同一人の額の差の約四分の一に当たる月額一〇〇〇円が軽減されると認められる。したがって、この月額合計二万八〇〇〇円を養育費から控除すべきものである。
(4) また、抗告人は、平成二八年七月一一日、Pと婚姻し、同日、同女の長男(一六歳)と養子縁組を行い、上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。これを前提として抗告人の未成年者に対する養育費の額を標準的算定方式により算定すると、月額四万四〇〇〇円程度となる。
(計算式)
一八六、七一八×(九〇÷(一〇〇+九〇+九〇))≒六〇、〇一六
六〇、〇六一×(一八六、七一八÷(一八六、七一八+六八、一四三))≒四三、九六九」
(4) 同三頁二二行目から同四頁五行目まで〈同七三頁一段八~二五行目〉を次のとおり改める。
「(5) そうすると、当事者双方の生活状況等、本件記録から認められる諸般の事情を考慮し、上記学費や食費・光熱費の負担減(月額二万八〇〇〇円)等を加味した養育費分担額は、平成二七年八月から同年一二月までは月額八万円、平成二八年一月から同年三月までは六万五〇〇〇円、同年四月から同年六月までは六万九〇〇〇円、同年七月から未成年者の高校卒業が予想される平成三一年三月までを四万八〇〇〇円、平成三一年四月から未成年者が満二〇歳に達する日の属する月までを四万四〇〇〇円と定めることが相当である。なお、相手方は、未成年者の高校入学時に要した費用の半分の負担を求めているが、その費目は、合宿代、交通費、年間部費、被服費や日用品代、寮費等であり、標準的算定方式及び上記学費の修正により考慮済みと解するべきである、また、上記年額八五万五六〇〇円を超える学校教育費が発生していることを認めるに足りる資料はない。
(計算式・平成二八年四月から同年六月まで)
六五、〇〇〇+三二、〇〇〇-二八、〇〇〇=六九、〇〇〇
(計算式・平成二八年七月から平成三一年三月まで)
四四、〇〇〇+三二、〇〇〇-二八、〇〇〇=四八、〇〇〇」
(5) 同四頁六行目の「(5)」を「(6)」と、同五頁一行目の「(6)」を「(7)」とそれぞれ改める。
(6) 同四頁二三行目から同二六行目まで〈同七三頁二段二七~同三段三行目〉を削除する。
(7) 同五頁六行目から同一二行目まで〈同七三頁三段二五~一四行目〉を次のとおり改める。
「三 以上によれば、抗告人に対し、相手方が本件に係る調停を申し立てた平成二七年八月分から平成二八年九月分までの未払の養育費として合計五七万九〇〇〇円を即時に支払うとともに、同年一〇月から平成三一年三月まで四万八〇〇〇円を、平成三一年四月から未成年者が満二〇歳に達する日の属する月まで四万四〇〇〇円を毎月末日限り支払うよう命じることが相当である。」
二 抗告理由につき補足する。
(1) 抗告人は、私立高校学費のうち年額六〇万円は食費及び光熱費であって、これは標準的算定方式により算出された養育費の額に含まれており、これを控除した学費残額は二五万五六〇〇円であり、これは公立高校の学校教育費相当額三三万三八四四円を下回るから、抗告人の養育費の額に加算すべき学校教育費は存在しないと主張するところ、上記主張は一部理由があり、これを考慮した養育費の額の算定については原審判を補正の上引用して説示したとおりである。
なお、付言すると、上記学校教育費八五万五六〇〇円は、抗告人も同意の上行った私立高校への進学に必然的に付随するものであり、抗告人主張のとおりこれによる学校教育費の増加を養育費の額の算定において考慮しないことは相当でなく、原審判を補正の上引用して説示したとおり、抗告人の分担する養育費の算定において食費・光熱費の二重負担を避ければ足りるというべきである。
(2) 抗告人は、平成二八年七月一一日、再婚相手の長男と養子縁組を行い、同人に対する扶養義務を負担するに至ったから、同月以降の抗告人の分担する養育費の額は月額四万円が相当であると主張するところ、上記主張は一部理由があり、これを考慮した抗告人の分担する養育費の額については原審判を補正の上引用して説示したとおりである。
三 以上によれば、抗告人に対し、上記のとおり養育費の支払を命じることが相当であるから、これと一部異なる原審判を変更することとし、主文のとおり決定する。

名古屋は親と同居しているこどもが多いのですが、東京などでは、おそらく親と別居しているこどももたくさん大学生になるといると思います。この場合において学費に食費、光熱費が含まれ、一審申立人が食費及び光熱費などの生活費を節約できるはずだ、というのは、比較的これまで気づかれてこなかった理論的視座のように思われ、大学生の婚姻費用を決める場合などには実務上の参考になると思われます。

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