夫が支払うローンマンションに居住中の婚姻費用は?

 夫と別居中で、妻と14歳以下の子が住む夫名義のマンションのローン(16万)が夫から支払われているが、妻から夫へ婚姻費用を請求したら断られた。夫の年収は1000万円、妻の年収は300万円、住宅ローンは16万円で、婚姻費用より高額の住宅ローンを支払っている場合、調停ではどのように判断されるでしょうか。

 算定表の金額よりは減額されますが、婚姻費用の支払いは認められます。

婚姻費用と住宅ローンの支払いの関係

 婚姻費用の支払義務者が、婚姻費用の権利者の居住する物件の住宅ローンを支払っている場合、義務者による住宅ローンの支払いは自らの資産形成のための債務弁済であり、生活保持義務者である婚姻費用の支払いに優先するものではないので、住宅ローンの支払いをしたことをもって、婚姻費用の支払いをしていることにはなりません、住宅ローンの支払いは婚姻費用とは別個の支払いであると考える必要があります。

 ただし、義務者の住宅ローン支払いにより権利者は住居費の負担を免れるという関係になりますし、婚姻費用の簡易算定表のもととなる計算式において住居費はすでに計算のなかに包含されていることから、義務者が算定表どおりの婚姻費用を支払うと、義務者の負担が過大になるため、調整が必要となります。

 もっとも、住宅ローンの金額が10万円を超えるペースの場合は、夫の側も、生活ができず過酷になる可能性もあるのであって、あまりに平均住居費と実際のローンの返済額が乖離している場合については、退去を求めていくなど、自らの生活に相応しくない生活をしている場合、生活レベルの目安に落とさないと、離婚自体も難しくなるので退去を求めるなどが考えられます。

住宅ローンの調整方法

 実務では、住宅ローンは全額を控除するのではなく、一部を婚姻費用から控除して、公平な結果となるよう調整されています。

 具体的には、

  • 住宅ローンの支払額のうち、簡易算定表において特別経費として考慮されている標準的な住居関係費を超えた部分を上限とした金額を義務者の特別経費に加算する方法、
  • 権利者及び義務者の年収から算定された婚姻費用の金額かが、権利者が負担を免れている部分として、権利者の年収に対応した標準的な住居関係費を控除する方法

などが使われています。名古屋家庭裁判所では、下の方法、つまり平均住居費を控除する方法で調整をしています。このため、特に、ローン額と平均住居費の差額が大きい場合はすぐに弁護士に相談した方が良いでしょう。このため、男性の場合は、下記のとおり、自己に有利になり得る②―1の方法による主張やキャッシュフローベースで困窮しているといった主張をすると良いでしょう。ただし、本件では、妻の年収も300万円ある事案ですので、過度の一般化はできないでしょう。

 冒頭の事案の場合

2-①の方法で調整した場合

  •  義務者の月収(約83万円)に応じた標準的な住居費は約7万5千円です。住宅ローン16万円からその7万5千円を差し引いた9万5000円を義務者の特別経費として計上することが可能です。
  •  夫の年収1000万円に応じた基礎収入率は35%ですが、特別経費9万5000円は月収に対して11%です。したがって、基礎収入率は、35%から11%をひいた24%となるので、義務者の基礎収入は1000万円の24%で240万円となります。

 次に、妻の年収は300万円で基礎収入率は38%なので、権利者の基礎収入は114万円です。

  •  義務者と権利者を足した、みなし世帯収入は354万円となります。

 生活指数は、親が各100で14歳以下の子どもは55なので、妻子で155、家族で255となります。

  •  上記を計算すると、妻と子の世帯に割り振られる婚姻費用は以下のように215万1764円です。

354万円×(155÷255)=215万1764円

【みなし世帯収入×(妻子生活指数÷みなし世帯生活指数)】

  •  この婚姻費用から、権利者である妻の基礎収入114万円を差し引くので、義務者が権利者へ支払うべき婚姻費用は年額101万1765円となり、12か月で割った8万4314円が今回の婚姻費用の最低限目安となります。

2-②の方法で調整した場合

 簡易算定表上の婚姻費用14~16万円から、妻の月収25万円に対応する住居関係費3万2000円を控除します。

 義務者が支払うべき婚姻費用の目安は、10万8000円から12万8000円となります。

  •  ただし、以上はあくまでも婚姻費用算出の目安となる考え方であり、ローンは組み方によっても月額が変わってきますし、権利者及び義務者双方の生活状況など実情に合わせて柔軟に調整がなされるべきです。

 ただ、少なくとも、義務者が高額の住宅ローンを支払っているからといって、婚姻費用負担のすべてが免除されるということはありませんので、権利者から義務者に対して調停を申立てれば婚姻費用の支払いが認められます。

依頼者様の想いを受け止め、
全力で取り組み、
問題解決へ導きます。

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