離婚時の財産分与で学費って考慮されるの?(例外的です)

 

離婚時の財産分与で学費って考慮されるの?(例外的です)

シュシュ:おじさん、財産分与でお母さんがお父さんに僕の大学の学費って分けてもらえるのかな?

弁護士:そうだね。大学の学費は、一般的に離婚するときは、「養育費」に「プラスする」という整理をすることが多いね。だから、財産分与での考慮は例外的だよ。

シュシュ:「例外的」なら分けてもらえるの?

弁護士:そうだね。例外的ではあるよ。財産分与は貸借対照表を作って資産を分ける制度なんだ。これに対して、日常の生活費をキャッシュフローベースで賄うのが「養育費」や「婚姻費用制度」なんだよ。

シュシュ:学費は、日常的な支出で生活費に入るの?

弁護士:うん。15歳以上の場合は一人当たり概ね30万円くらいの学費が既に算定表に織り込み済みになっているんだ。だから、例えばシュシュが名古屋大学に進学して学費が80万円とすると、オーバーフローする50万円を父母の基礎収入割合で分けることになるかな。

シュシュ:基礎収入割合?

弁護士:まあ、ざっくり年収の按分割合とそれほど変わらないけど、養育費の基礎収入割合とは、父母それぞれの年収から生活に回せる金額(基礎収入)を算出し、それをもとに父母の経済力に応じた負担割合を決定するための割合のことです。

シュシュ:そうなんだ。僕が国立に入れれば、例えば、父50:母50の割合だったら、お父さんに25万円請求できるということになるんだね。

弁護士:そうだね。

シュシュ:でも、例えば、私立大学の場合、一年間で200万円くらいとるところもあるよね。医療系とか、南山大学とか、その辺りも考えているんだけど。あと、立命館とか、同志社もさあ。

弁護士:一般的な家庭では、「学資保険」という大学費用のための貯蓄をしていることがあるよ。これは、本来はこどもの財産ではなく、「父母の財産」というのが法律の理解なんだ。だけど、こどものために積み立てたことは父母では争いがないこともあるため、協議や調停では、それはこどもの財産として、財産分与の貸借対照表から除外してしまうことも合意が成立するとあるよ。そういう意味で、財産分与で考慮されることが例外的にあるんだ。

シュシュ:例えば、僕が、ハーバード大学にいって、年間600万円の学費が必要であるとしたらどうなるのかな?

弁護士:そもそも、離婚前の場合は大学進学は重要事項であるため、父母の共同親権行使の対象になるんだよ。また、ニューヨークやボストンに移転するには居所移転が伴うため、離婚前なら父母両方の同意がいるので、ある程度真摯な同意がないといけない。

シュシュ:無視して僕がハーバードにいって、学費600万円を支払って欲しいといって、お母さんが夫婦共同財産から支出してしまったらどうなるの?

弁護士:難しいね。話合いになると思うけど、審判では、私立文系程度の120万円が学費負担の上限とされているので、まるまる600万円をお母さんがお父さんに内緒で別居後に支出してしまったら、持ち戻しの対象になることが多いと思います。

シュシュ:別居後に預金から600万円を無断で支出したら夫婦共同財産に戻さないといけない可能性があるんだ。

弁護士:そうだね。令和6年の家族法の改正で、父親の大学進学についての関与が強化された側面もあるかなと思うから、シュシュもパパとママとよく話し合ってもらうのがいいよ。そして、自分の希望や可能性があることをパパやママにプレゼンすると支出してもらいやすいかもね。

シュシュ:うん、僕、今、あんま夢とかなくて、だから自分の可能性を最大限高められる大学に進学したいんだよね。自分は、政治学や法学に関心があるから法学部を選びたいし、英語を話せるようになりたいから留学もしたいと思っているんだ。

弁護士:そういうこどもの視点を財産分与でも取り入れられるといいよね。

財産分与における学費の考慮は例外的

財産分与において、こどもの学費を巡る思惑があることがありますが、基本的には、養育費や婚姻費用で解決されるべき問題であり、財産分与という枠組みでの解決は、一定の調整弁として機能することはあり得ますが、基本的には学費の考慮はほとんどされないと思います。

この記事では離婚時の財産分与における学費の取り扱いについて、よくある誤解を取り上げたいと思います。

 

財産分与と基準日後の支出の関係

まず、養育費というのは、算定表を基準に抽象的な数値を求めます。そして、その抽象的な数値を主に、個別具体的なケースに応じて加算調整するという構造となっています。学費については、日常的な支出(キャッシュフロー)の問題であるため、一般的には、「婚姻費用」や「養育費」といったテーマで扱われます。

さて、離婚時の財産分与では、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を清算し、分け合うことが基本となります。このときの基準となる日(以下「基準日」とします)は、通常は別居開始日や主に同居の場合は離婚調停を申し立てた日などとされ、それ以降の収入や支出があり、資産に増減額が生じても原則として財産分与の対象には含まれません。

 

では、基準日以降に夫または妻の一方が子どもの学費を支払った場合、その負担は財産分与においてどのように扱われるのでしょうか。この点については、実務上さまざまな判断がされています。

婚姻費用として扱われるのが原則

基準日以降の学費の支出は、本来「婚姻費用分担義務」に基づくものと考えられるのが原則です。婚姻費用分担義務とは、夫婦が別居していても婚姻関係が続いている限り、生活費や子どもの教育費などを分担する義務のことです。

 

そのため、たとえ夫婦のどちらかが自己名義の財産から子どもの学費を支出したとしても、これは基本的には婚姻費用の負担であり、婚姻費用や養育費という枠組みの中で話し合いをされることが原則です。したがいまして、直ちに財産分与の対象となるわけではありません。

例外的に財産分与で考慮されるケース

例外的に、学費の支出が財産分与において考慮されるべき特別な事情がある場合もあります。以下のようなケースが、その代表です。

①     当事者間の合意がある場合

子どもを被保険者とする学資保険や、子ども名義の預貯金について、その原資を審査されることになりますが、往々にして父母の資産として扱われることが多いと思います。こどもの預貯金がこどものものとして扱われるのは、お年玉やアルバイトの貯金などこども自身と密接関連性あるものに限られ、児童手当なども基本的には父母の資産とされます。

もっとも、調停や離婚協議では、その席上、学資保険を典型的に、「子どもの教育費として使う」という夫婦間の明確な合意がされる場合があります。学資保険は、実際は使用用途に制限はなくパチンコに使っても差し支えないのですが、金融商品としての名目や性質上、こどもの教育費として、こどもの親権や監護者に選任される方に分与されるということがあり得るかと思います。

なお、学資保険については、こどもの資産であるという道徳的主張がされることもあります。調停では、そのように合意されることもありますが、一般的には夫婦の共有財産そのものとされています。

上記のように、学資保険は、財産分与の対象から除外し、考慮外として親権者や監護者に取得させることが調停実務上は道徳的であるとされる場合がありますが、離婚訴訟になりますと、そのような法的理解は採用される余地はほぼないと考えて差し支えないと思います。

②     高額な学費を夫婦の共有財産から支出した場合

一般的には、使途不明金の主張の一部として整理されることが多いのではないかと思いますが、家裁実務では、使途不明金は、基準時に存在しない財産を持ち戻すべきとの主張は認められませんし、これらを寄与割合として考慮することも困難であるとされています(武藤裕一『家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』227頁(新日本法規、2022年))。

この均衡から基準日後の使い込みは、基本的には持ち戻しの対象となります。それが学費であったとしても、学費は本来、養育費や婚姻費用から支弁されるものであり、預貯金額から賄った場合、負担能力に応じていない進学であることも多く、他方親権者の同意を得ていないケースが少なくないように思われます。

例えば、インターナショナルスクールや海外の大学に通うための高額な学費が問題となります。これも、原則としては、婚姻費用や養育費の枠組みの中で判断されることになりますので財産分与で考慮されることはありません。

もっとも、こどもの利益のために学資保険が財産分与の対象からは外されるということは、調停の場合あります。

また、親権者や監護者に帰属している場合は、そういった財産分与での資産から学費を支出していることから、婚姻費用や養育費の加算調整については必要ないと判断されるといったことがあるかもしれません。

なお、基準日以降の通常の収入では賄いきれず、夫婦の共有財産(たとえば基準日時点の預貯金)を取り崩して支払ったような場合については、原則としてはそうした事情は考慮されず、一般的に私立文系大学の1年間の学費相当(120万円)を超える支出は、一般的に同意がない限り合理的といわれることはほとんどありませんので、ご注意ください。

基準日後の支出は、「基準日後の財産分与財産の不当引き出し」の問題として整理されるのみとなる可能性もあります。いずれにせよ、財産分与の基準日は別居日又は離婚調停提起日ですから、それ以降の支出は、財産分与上考慮されないことは法理上当然です。したがいまして、基準日後の貯蓄から多額の学費などを賄う場合は、調停や協議の中で合意をしておいて、独断で決めず、少なくとも自らの見解は文書で他方配偶者に連絡しておいた方が良いでしょう。

一般的な経験からいえば、別居日以降は、父母は、家賃をそれぞれ二重負担しなければならず、生活効率は低下し、余裕や貯蓄に廻る金額が減少することが普通です。そうすると、別居前の「生活水準」にこだわる余り、婚姻費用や養育費で加算調整の合意をしないまま、夫婦の共有財産から基準日後に支出することはリスクが高い行為です。基本的には、このような理解ですが、家裁代理権がない司法書士や行政書士などでは、財産分与と養育費の区別もつかないケースやその役割分担論といった制度自体を理解していない行政書士や司法書士もいますので、家族法の専門家である弁護士に聴くと良いでしょう。

なお、別居後、支出してしまった金額は、生活費として必要かつ相当な場合は、割合的に一定額は財産分与において考慮される可能性がありますが、全額考慮されるわけではないということに留意するようにしてください。

一般的な見解(むしろ「扶養的財産分与」の問題である)

 

そもそも、財産分与は、清算的財産分与が中心です。

 

もっとも、令和6年の家族法改正で、明示的に「扶養的財産分与」の存在も、法律上位置付けられています。学費においては、「扶養的財産分与」として考慮され得るものですが、イメージでは、月額2万円から3万円程度加算され得る程度のことで、高額の学費を全て賄うような扶養的財産分与が命じられる例はほとんどないと思います。

新しい財産分与ルールでは、2分の1ルールが採用されています。

令和6(2024)年1月30日に取りまとめられた家族法制の改正では、当事者が、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求した場合には、「家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮し、分与させるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」としたうえで、「この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」とされています。

たしかに、既に支出済の学費について、いずれにせよ、父母が学費を負担するべきであったから、既に貯蓄から支出された学費は、清算的財産分与として一部考慮するという考え方はあり得ると思います。これらは、ケースバイケースの判断になると思います。

財産分与対象として一部考慮され得るポイント

基準日以降の学費の支出が財産分与対象と判断される際には、以下の点が重要となります。

これらは、財産分与は、最終的な夫婦間の財産清算の調整弁であり、例えば、婚姻費用の過払いや財産分与基準日後の使い込みなどの調整も行われるからではないかと考えられます。

基本的な「法学からの評価」は、学費であれば支出することが正当化されるものではなく、「財産分与基準日後の使い込み」という基本的には、ネガティブな評価を受けやすいですので、留意されるようにしてください。

 

  • 別居した親が子どもの進学や留学について事前に明確に承諾していたか
  • 承諾の事実が証拠から認められるか
  • 支出の必要性や金額の相当性があるか

これらが認められる場合には清算に当たり、散逸させた財産について、双方に負担を分配するという形式を採用する余地が生じますが、個人的には、調停での解決が望ましく、一般的に、離婚訴訟において、多額の費用がかかる海外留学にはこどもの居所移動も伴うわけですから、ある程度明示的な合意がある場合を除いては、私見は、審判や人事訴訟で、基準日後に支払われた学費が、財産分与の「一切の事情」として清算対象に含まれる可能性は否定されないものの、「一切の処分」は家裁裁判官の自由裁量によるものであり、これを期待に、財産分与基準日後財産分与の対象になる財産を散逸させることは、私見はおすすめできません。

例えば、協議離婚では、弁護士の文献の中には、「学費の扱い学費の負担については,子の志望が医学部や薬学部であり,特に私立の場合には数千万円単位となるため,仮に裁判所が判断した場合には,無制限に学費を養育費に加算することは認められないと予測されました」としつつ、「譲歩することになりました。つまり,3人の子の養育費として,大学卒業までの学費をすべて夫が負担する代わりに,借地権の1割相当額を分与対象財産に加算しない,という条件で離婚する合意に達した」というバーターでの和解例を紹介しているものもあり参考になります(三平聡史著『ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表』48頁(日本加除出版、2020年))。

前掲三平にあるように、「学費の扱い学費の負担については,子の志望が医学部や薬学部であり,特に私立の場合には数千万円単位となるため,仮に裁判所が判断した場合には,無制限に学費を養育費に加算することは認められない」というのは実務感覚として合致しています。これは、「財産分与」という法律構成を変えたところで、異なるところはないというのが家裁実務の感覚といえるでしょう。

参考:婚姻解消後の学費負担

婚姻関係の解消後に発生する学費負担については養育費に含めることが一般的ですが、進学先による増額は認められるのでしょうか。

基本的に養育費に含まれる学費の目安は、公立の小・中・高等学校の学費に相当するとされています。したがって、私立の学校に進学したり大学に進学したりなどの場合では、目安より多くの費用がかかると考えられるでしょう。

一般的には、算定表に織り込み済みになっている金額をオーバーフローする部分を、父母の基礎収入割合で分配するという実務が多いかと思います。

このケースでは、以下のいずれかの条件に当てはまれば養育費とは別に学費の請求が認められる可能性がありますが、既に算定表に織り込み済みの部分もありますし、全部転嫁することはできません。また、近時は、学生による奨学金制度による自己負担も主流ですので、全て父母が負担するのかといった基本的な教育的価値観の共通性も踏まえて、まずは協議をされると良いでしょう。もっとも、地方では高卒の労働者もたくさんいますし、いわゆるボーダーフリー大学の場合などは否認されることもあり、こどもの現実的なキャリア形成を踏まえたものでなければ、離婚後負担を迫っても拒否される場合もあるのではないかと経験的に思っています。

 

  • 父母が大学進学を双方が合意していた
  • 離婚前に大学進学が決定しており、他方配偶者が認識・認容していた
  • 収入や両親の学歴がいずれも大卒であり大学進学が妥当と考えられる(この場合でも、両親ともに国公立大学卒業の場合は私立大学程度の学費の負担(特に120万円を超える場合)は地域によっては当然認められるかは、紛争地の地域の進学事情などの実情に応じると思います。)

進学時にトラブルにならないよう、子どもの年齢にかかわらず学費の負担については婚姻解消時に合意を形成して公正証書にしておくことがおすすめです。この際は、入学金についての取り決めもしておくと良い場合もあります。

まとめ

財産分与は、貸借対照表と同じであり、「基準日」があります。基準日以降に他方配偶者の承諾なく、預貯金など夫婦共有財産の貯蓄から支払われた子どもの学費は、原則として婚姻費用や養育費の加算調整問題として処理されます。

したがって、財産分与の対象外とされるのが一般的です。

財産分与での考慮は、学資保険の除外を求めるということはよくあることです。それ以外は、例外的であり、「財産分与基準日後の使い込み」として処理されることがほとんどであるということを覚えておいてくださればと思います。

とりわけ、共同親権法制の中で、大学の進学は、共同親権行使が必要なこどもに重大な影響を与える事柄ですから、離婚に至るまでは、当然共同親権行使ということになりますので、共同親権下であるか否かといった事情や、その均衡から、他方配偶者の承諾を得ておくことが望ましいと思います。

離婚成立前にこうした問題が生じた場合は、令和6年改正により、別居中の夫婦のこどもについての共同親権行使の内容についても改正がありました。家裁代理権を持つ弁護士専門家に相談しながら冷静に対処することが大切です。

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