共同親権法制等の運用~地域の弁護士会はどんどん提言を~

 

共同親権法制に向けて

―令和6年家族法改正の運用を巡って

交通事故の運用に「赤い本」(東京)「青い本」(一般)「黄色本」(名古屋)「緑本」(大阪)があるように地域の実情に照らした運用提言があっても良いのでは? 弁護士会は“家庭裁判所の運用”にも提言を

文:服部勇人(弁護士)


■実務の中から生まれた“民権運動”としての基準書

「赤い本」「青い本」「緑本」「黄色本」――交通事故に遭われて弁護士に依頼された経験のある方やインターネットのホームページに傷害慰藉料の基準表がよく載っています。

これらは単なる交通事故損害賠償の計算式ではありません。

歴史的に、名古屋は「交通大戦争」を経験し、個別の裁判官ごとの判断のバラつきが生じました。これに対して、弁護士たちが「実務上の不正義」として声を上げ、弁護士会で基準を作り公開・適正化を求めた運動の成果なのです。

例えば、離婚慰謝料についても、個別の裁判官によって判断のバラつきがあります。慰謝料の基準を大胆に披瀝する裁判官もいましたが、一般論ではそういえても、ケースバイケースとなっています。離婚慰謝料は制度的仕組みとも関わっており、多くの法律家が存続自体が不正義であると考えているからです。

アングロサクソン法や中国法でも、離婚慰謝料という制度自体に否定的であるため、否定論に近い裁判官の場合は、低額化を示します。また、実質離婚後扶養に代わるものと位置付けている(理解している)裁判官は、ケースバイケースで判断しています。

交通事故の損害賠償というのは、明確な法定式がない分野です。そして、離婚の慰謝料や共同親権法制、法定養育費の担保権の実行についてもルールが良く分からないところがあります。


「非訟=裁判にあらず」という分野では、裁判官の主観や人生観に大きく左右され、不透明な判断や不均衡な結果が生まれていました。

交通事故は、確かに弁護士にも、保険会社側代理人弁護士と、被害者側中心の弁護士に分かれます。

もっとも、委員会を作り、「非訟裁判官の裁量のブラックボックス化」に対して、現場の弁護士たちは実態を明らかにし、公開性と予測可能性を求めて示談交渉で解決することも多くなったのです。

地域の弁護士会ごとに色分けされた「赤い本」(=東京)、「青い本」(日弁連交通事故相談センター)、「黄色本」(=名古屋)などの実務書を生み出すきっかけとなりました。

特に、交通事故被害者救済にバイアスをかけたものが青い本であり、赤い本は次第に東京地裁の運用が裁判官らも加わり反映されるようになり、黄色本は、残念ながら次第に色あせてしまい、名古屋でも赤本が幅をきかせるようになってしまいました。

つまりこれは、実務家弁護士を通した「民権運動」だったといえるのです。


■家裁実務の「魔法使い化」とは何か

一方で、家庭裁判所の実務はどうでしょうか。

たとえば共同親権者指定、親権者の単独指定、監護者争い、面会交流の可否、離婚慰謝料額など、極めて人の人生に深く関わる判断が継続的になされているにもかかわらず、その基準はあいまいです。

「一切の事情を考慮し」「総合的に判断する」といった判例上のマジックワードが使われ、何が決め手だったのかは弁護士でもよく分かりません。最近、大阪高等裁判所の家事抗告集中部の判事を務めた方の発言を聴いていて、「実際、経験していないから分かっていない人もいる」「裁判官も本当に分かっていない」という言葉を聴いて、本当にフィーリングでやっているのだな、と思いました。

平成末期の家裁の迷走は奇しくも、大阪の家事抗告集中部出身の判事たちが、運用を示してそれが逆に家裁に定着していくというものでした。つまり、交通事故は民間の弁護士が曖昧さを正したのに対して、家庭裁判所の基準は、大阪の家事抗告出身者が家事抗告の運用を退官後に出版することで、逆に裁判官たちのバラつきが治まっていくという形となりました。

もっとも、家事抗告集中というのは、大阪高等裁判所にしかありません。東京高等裁判所における家事抗告は持ち回りです。名古屋高等裁判所も同様で、ほぼ家裁判事の経験をしたことがない裁判官が、高裁の立場から見直しを入れてしまうというわけです。

それが正義に適う場合もありますし、ない場合もあります。

非訟は、ある法律要件がある場合に法律で定められた効果が生じるものではありません。

裁判官がする行政処分に近いのです。しかし、行政の仕事であれば、行政手続法などにより、判断基準や標準処理期間も定められていますが、司法の仕事、とりわけ家裁の仕事は曖昧さがぬぐい切れないところがあります。

ときどき、法律相談の際、本人訴訟の主張書面を拝見するときがありますが、「ああ、これは、外在的攻撃だ」と思う時があります。基本的には、憲法学と同じように、制度批判をするときはもちろん決定や判決を批判するときは、同じ土俵で「内在的批判」をすることが効果的です。

内在的批判ですら、内部ルールすら明確ではないのに、まさに、「魔法使いの王国」です。

家族法、とりわけこどもの権利に関わるものでは、弁護士による各地のあるべき家裁の運用基準書があって良いのかなと思います。離婚版「赤い本」(東京家裁)、「黄色本」(名古屋家裁)、「緑本」(大阪家裁)、「青い本」(特定の理念に基づく運用書)などです。

なぜ私たちは、予測不能な魔法使いのような判断を「仕方ない」と受け入れてきたのでしょうか?


■名古屋の「黄色本」に見る、地域実務の力

たとえば、私も関わった経験のある愛知県弁護士会の委員会で作っていた「黄色本」は、実際は、委員が判例を集めて執筆をして、地道に裁判例を編纂していました。交通事故紛争処理センターの方々も時々名古屋地裁民事三部(交通集中部)に来て判例をコピーしていたといいます。

例えば、赤い本だと、むち打ちか否かで大きく変わります。つまり、「大した問題か否か」で判断基準を使い分けています。青い本の場合、交通事故被害者救済の理念が先行し賠償額の設定も高めでした。黄色本はあまり広がりがありませんでしたが、一応名古屋地裁の裁判例を編んだものであり、名古屋地裁管轄では無視するべきものではありませんでした。


わたしは、黄色本の特色は、傷病名や等級に機械的に依存せず、診療実態や通院経過、医師とのやりとりに即して、被害者の実像を重視した評価をしていました。

黄色本は、名古屋の交通事故の実態に即した“適正手続の履践”を志向する地域知の体系化だったのです。

共同親権も地域性が出やすいだろうといわれています。こうした地道な地域の実情に応じた運用基準がもっていた“思想”に注目すべきではないでしょうか。


■共同親権法制と「色分け」の再構想を

2026年の共同親権制度施行を前に、またしても家裁実務は“基準なき混乱”に陥るおそれがあります。

  • 対立したときはどうするのか

  • そもそも、どのような場合、法的監護のみを担う共同親権者として相応しいのか

  • 実家が傍にある場合とそうでない場合の違いは
  • どのような配慮が「こどもの最善の利益」とされるのか

現時点では、それらを明確に示す「運用書」は存在しません。
このままでは、裁判官の“魔法的裁量”が強化され、市民の側は見通しを持てないまま、制度だけが走っていくことになる。

ですから、各地の弁護士会は、家事法制に力を入れて運用提言をして欲しいと思います。例えば、名古屋市のこどもの大学の進学先が問題となった例がありましたが、東京家裁の裁判官に、南山大学、金城学院大学、中京大学、名城大学、愛知大学、愛知学院大学、名古屋学院大学、東邦大学・・・といっても、文系や理系でも差異がありますし、説明しても分からないでしょうといった感じがします。地域の実情に即した運用は弁護士会の内部向けのものとして、会内利用限りで蓄積はしていくべきなのかなと思います。

■弁護士会が沈黙してはならない

家裁では、裁判官経験者が書いたマニュアルが実務を席巻する――これが実情です。それは一見便利ですが、批判的な視座に欠けており、世の中を良くしよう、こどもの利益を守ろうという発想はなく、本来あるべき姿ではありません。

むしろ、弁護士会こそが実務の積み重ねを社会に開示し、基準を提示し、裁判官の思考に“問い直し”を迫る存在であるのではないかと思います

交通事故実務はそうした不正義が、たまたま交通事故分野で表面化したものに過ぎないのです。家族法、とりわけ離婚や共同親権、面会交流といったテーマでも、地域の実情はあてはまり得るのです。

【あとがきに代えて】

「実務の透明化」とは、裁判所に寄り添うことではありません。また、東京家裁のルールを全国統一的に適用することでもありません。

裁判官の判断様式に光を当て、問い、批判する力のことである。

ある裁判官がこういいました。「東京家庭裁判所では証人尋問は『ファースト・トラック』で実施しております」

「ファースト・トラック」で皆さん、意味が分かりますか。要するに、尋問は手抜きして終わりましょうという裁判所の都合を英語にすると、あら不思議 ”FIRST TRACK”

小池百合子さんの「STAY HOME」のように、カタカナにすれば、なんとなく騙されてしまうのです。

私は、このように返事をしました。

「東京家裁のルールは存じておりますが、こちらは名古屋家裁ではありませんでしたか。」

的確な法廷弁論こそ、こどもの権利や弱者の権利、多くはDVや児童虐待の恐怖におびえるこどもや女性(あるいは、男性も時々弱者である)に求められる。法の最前線は、家制度の残滓と戦う家族法の弁護士です。

是非、各地の弁護士会は、共同親権法制や離婚慰謝料など、地域の実情に根差した試みや提言を続けて欲しいですし、行っていないところは行って欲しいと思います。養育費については、弁護士会で提言を出したことがありまして、それが新しい令和元年標準算定表に結実しました。提言の積み重ねは決して無駄なことではないと思います。

依頼者様の想いを受け止め、
全力で取り組み、
問題解決へ導きます。

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