石破さん、よく読んで~法定養育費2万円は当初半額で低すぎる

 

法定養育費「月2万円」問題~当初の議論の半分は不正だ。

宇賀裁判官の反対意見が示した審査の視点とは

最高裁判所における生活保護基準引下げ訴訟(最高裁第三小法廷令和7年6月27日判決)で、宇賀克也裁判官が示した反対意見は、行政の政策決定を「どのように決めたか」という行政学者を経験した判事として、手続的正当性の観点から厳格に評価する必要性を示しました。

手続的正統性の枠組みでは、まず、法定養育費についても、「専門的・技術的判断」に過誤や欠落がないかを審査し、そこで瑕疵があれば、その先の政策判断には立ち入らずとも違法評価が可能であるとされます。

法定養育費制度の理念

法定養育費の理念は、「こどもの貧困の連鎖を断ち切る」です。特に、ひとり親世帯におけるOECD加盟国の中で、日本は、こどもの貧困率が高いことが問題視され、制度に結実したのです。

憲法25条が示す理念に照らし、生活水準の後退や著しい低位設定がなされる場合には、国には法定養育費が2万円であるという「やむを得ない理由」の説得的説明責任が課されるというのが生活保護訴訟判決で示された考え方です。

健康で文化的な最低限度の生活を営むのに必要なこどもの「法定養育費」が2万円であるのか。専門性、外部有識者の顔が見えない議事の不透明さ、指標や算定根拠の合理性があるのか、時給水準やインフレなどを考慮して、相当に疑問であるといわざるを得ません。

「月2万円」案にこの枠組みをあてはめると?

「2万円」の根拠が不透明

一例を挙げると、家賃の上昇トレンド、米価の上昇、消費者物価の上昇、最低賃金の上昇に照らすと、その中でこどもの衣食住・教育を担うべく「2万円」で足りるとするならば、その根拠は具体的にどのようになるのでしょうか。一例を挙げると、幼児を抱えている場合は就労能力が低く、また、15歳以上であれば食費は大人と変わりません。月額2万円で大学進学は適うのでしょうか。

最低賃金法の制度が「地域格差」を明確に取り込んでいるのに対し、本制度は弁護士ドットコム社の取材に対する法務省回答では、全国一律額であることを低額の根拠にしています。

しかしながら、養育費の検討会では、全国一律額であることから低額にする議事は行われていません。

全国一律を論拠に2万円をすることは違法であること

法務省は弁護士ドットコムの取材に対して「全国一律であること」を低額に定める論拠となっていますが、法技術的に最低賃金法のように、都道府県ごとに決めることが容易であり、低額に定める論拠となっていません。

また、総務省の消費者物価指数(CPI)は前年比+2.5%程度の上昇が継続していますので、定額制は妥当ですが、柔軟かつ不断の見直しをしなければ、こどもの貧困の連鎖を断ち切るという法定養育費制度の趣旨が没却しかねません。

法定養育費の手続の透明性は保たれたか

法定養育費の検討会においては「月3万〜4万円」案が取り上げられています。法制審議会でもそれくらいを念頭に議論がされていたといいます。

にもかかわらず、突如、2万円に収斂した恣意的決定性を問題視せざるを得ません。そもそも、法定養育費における有識者の主流な意見はどこへいってしまったのでしょうか。生活保護訴訟と同様、法務省は、「説明責任」の要請を満たしているとは到底言い難いといえるでしょう。

法定養育費制度の本質と債務の厳格性

法務省は、弁護士ドットコム社の取材に対して、法定養育費について、暫定的な制度でゼロよりマシといった趣旨を述べています。しかし、法定養育費制度では、きちんと養育費債権が発生するのであり、暫定的で消滅するような自然債務などではありません。

国税債権など、裁判を経なくても法律で債権債務関係が生じることなどいくらでもあり得ます。

法定養育費は、調停などが煩雑のため、結果的に、主に父親の養育費の支払いの不払いが70%に至っているという社会的不正義の是正が目的です。なお、アメリカでは、不払いは30%に留まっています。

そして、法定養育費債権は先取特権も附されており、裁判を経なくても担保権実行としての執行ができる強力な履行力を持ち、債務の法的性質は揺るがないものです。

定額給付は先取特権の行使のため、分かりやすい金額であることが求められた結果であり、執行を意識しての選択であり、全国一律であるから低額にするべきというのは、いささか意味が不明です。養育費というものに置かれたウェイト(重み)を理解していないからこそ、70%が不払いなのではないでしょうか。低額に抑えるということは、こどもの営みを軽視することにつながり、さらに養育費の不払いすら助長する恐れすらなしとはしません。

こどもの権利条約と制度設計の乖離

こどもの権利条約第27条は、「子が身体的・精神的・道徳的発達に必要な生活水準を享受する権利」を明記しており、国家に対しては補助義務と最大限の資源投入義務(第4条)を課しており、法定養育費2万円は、条約に違反するものであるというほかありません。

その意味で、2万円が「健康で文化的な最低限度の生活水準」を担保するものであるのか、年齢差・物価変動・地域差といったこどもの具体的生活実態を踏まえた制度設計になっているのか。

現時点では、ネガティブであるといわざるを得ません。とりわけ、検討会における妥当額が3万5000円から4万円程度の「2万円」、つまり半額にされたことには著しい疑問を感じざるを得ません。

結びに代えて

家庭裁判所の審理の結果、義務者が支払う養育費が2万円が妥当であることは確かにあります。

しかし、法定養育費は、親の都合を考慮せず、こどもの必要費を中心に組み立てる計算構造をとるはずでした。しかし、「全国一律だから低額」では制度趣旨を誤解しており、法律の立法の趣旨を誤解しており、かかる法務省令は法令の委任の趣旨に反しているといわざるを得ません。

生活実感からして、最低養育費が2万円であるというのは低すぎることは当然であるとして、ヒラソルの弁護士は、法定養育費の制度設計をめぐる本質的な問いは、決定過程も不透明であり説明責任が果たされていない不正義を中核に据えて反対意見を述べたいと思います。そして、こうしたことが、こどもの生活費への配慮に対する共感力の不足につながるのです。

こどもの貧困の連鎖を断ち切るという制度の理念を現実の力とするための法定養育費を立法委任があることを理由に、こどもの生活費とは全く別の事情を持ち出し、法務省が骨抜きにするのでは、全く無意味であるといわざるを得ません。法務省には、生活保護訴訟を教訓とした法的・制度的・実証的に説得力ある説明を求めます。

ヒラソルは法定養育費3万5000円を求めます

ヒラソルの所長弁護士は、養育費の検討会での議事のとおり、法定養育費は3万5000円とするのが相当であり、こどもの尊厳を守る道筋として、2万円への決定は、看過し難い手続的正義に不正があった(審議されていない)というしかありませんので、ここに反対意見を明らかにいたします。

所長弁護士 服部勇人

パブリックコメント案

法定養育費制度について、全国一律・非スライド・簡素設計という方向性には賛成する。しかしながら、月2万円という水準は、各種統計指標との整合性に欠け、こどもの平均的な生活費像を適切に反映していない。法定養育費制度は父母の所得に関係なくこどもの扶養費を観念するものであるから、平均的な統計も参照するのが妥当である。したがって、以下に述べる理由により、「貧困の連鎖を断ち切る」という制度趣旨を損なわない範囲での金額及び設計の見直しを強く求める。

文部科学省「子供の学習費調査(令和5年度)」によれば、公立小学校における学習費総額は年間約33.6万円、すなわち月あたりに換算して約2.8万円となっている。これは教育費「のみ」の金額であり、衣食、医療、交通といった基礎的支出を加えれば、月2万円という設定は非現実的である。また、家庭裁判所の運用における養育費の水準は、実務上「月額4~6万円」が中心帯であり、現行の改定算定表の存在も相まって、「月2万円」はその相場から大きく外れている。

これらを統計からみても、消費者物価指数(CPI)は直近で前年比+2.7%程度の上昇を示しており、2万円という固定額は今後ますます実質的価値を失う危険がある。加えて、地域別最低賃金の全国加重平均も上昇していることに照らすと、こどもの扶養費を著しく低廉に留める根拠はなく、統計的・専門的裏付けに欠けている。

服部説は、全国一律・非スライド・簡素設計の方向性を支持する。ただし、その金額の「初期設定」においては、教育費や生計費といった客観的統計指標を反映させる必要がある。とりわけ次の点に着目する。

  • 文部科学省調査によると、公立小学生の月あたり学習費は約2.8万円である。
  • これに対して、衣食・医療・交通等の基礎費用を簡素に加算すれば、+7千円~1.2万円程度の上乗せが妥当である。

したがって、法定養育費は月額3.5万円を基準とすべきである。大雑把であるが、これらを下回る統計は見出し難いし、生活感ともかけ離れる。

また、法定担保物権としての執行の便宜性からシンプルにしている以上、戸籍から年齢が容易に特定できるため、15歳以上の子については、算定表においても生活指数の増加が前提とされており、一律に+1万円(=月4.5万円)とすることが合理的である。この年齢区分は戸籍によって簡易に把握でき、執行上の障壁とはならない。

以上のとおりで服部説は、0歳から14歳までは月額3.5万円、15歳から18歳までは4.5万円を現時点では相当であると判断する。複数人がいても、いずれにせよ、戸籍謄本や住民票の提出が執行には必要であるから、年齢区分をもうけることは合理的である。その他、物価スライドなども検討には値するが、それは、最低賃金の変更により対処し、将来的には都道府県の最低賃金や国家公務員の地域手当なども参照しつつ決めるというものが望ましいといえる。少なくとも、教育費を中心に食費を統計的に把握すれば、2万円という数字にはならない。また、法定養育費は、最低養育費として機能して憲法25条や生活保護基準と親和性が高く、暫定的なものではなく、国民の法規範として独り歩きする懸念があるものであり、統計的裏付けや合理性が必要である。したがって、暫定的であるとか、全国一律対応というのは、減額調整する論拠になり得ない。一般国民はそのようには理解せず、「こどもは2万円で生活できる」という幻想の独り歩きを招き、貧困の連鎖を断ち切るどころか、貧困を援助・助長・促進するものと言わざるを得ない。

なお、法定養育費の制度趣旨からすると、暫定性は求められておらず、家事調停を行わない限り継続的に暫定であればそれはもう暫定とはいわないと思われる。また、暫定や全国統一だから低額にとどめるとか、こどもの扶養費を犠牲にして良いというのは児童の権利条約にも反する。とりわけ驚きを禁じ得ないのは、検討会の議事録において、2万円という数字も、暫定性の強調や全国一律適用の弊害からの減額といった趣旨は議論されていないとうかがわれる。議論されていない事柄が考慮されることに驚きを禁じ得ず、合理的な検討過程を経ているとは言い難い。

選択的共同親権の議論で疲れ果てて、ウェブ会議が中心で検討会が儀式に成り果てたのではないか。法定養育費は共同親権とは関係なく、我が国の「子の貧困」を正面から扱うテーマともいえるが、立法の委任の趣旨を逸脱した理由を考慮して2万円と減額することは認められ難いと思われる。

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