妻の親族の土地上の建物について、使用貸借契約の解除が問題となった事例

 

妻の親族の土地上の建物について、使用貸借契約の解除が問題となった事例

 

源誠二が単独で所有権登記名義を有する建物が、妻の藤聖子側の親族の土地上に建築されている。この場合、藤の親族の所有する土地上に源の建物が存在する場合、夫婦といえども、土地の所有者は、夫婦の婚姻関係破綻を理由に土地の使用貸借契約を解除することはできるのか。

 

藤は、源からすると、本件建物は無価値であるから、本件建物を譲渡するよう求めていました。

 

1.妻の親族の土地上に夫婦の建物を建築する場合

婚姻相手の藤聖子は、地元では名家で知られており土地をたくさん持っていました。そこで婚姻後は、その土地上に、住宅ローンの建物を建築するということは比較的よく見られる現象といえます。

しかし、財産分与実務上、対立が激化しやすい多くの事例の一つといえます。

一般に「離婚原因がないと離婚できない」と考えている方が多数おられますが、必このように伝統的に藤の土地に、源が夫婦共有の建物を建築してしまった場合、どうなるかが問題となります。

この場合、土地をもっている藤側の親族としては、夫婦間の婚姻関係が破綻したことを理由に、敷地利用のための「使用貸借契約の終了」や「解約・解除」を主張して、財産分与を有利に進めるための圧力とすることが考えられます。

 

1-1.使用貸借の終了のケースにあたるか否か

裁判例としては、「婚姻関係破綻の事実」が、「目的に従った使用及び収益の終了」に該当するとして、使用貸借契約の終了が認められた裁判例があります。(東京地裁平成9年10月23日判タ995号234号)

そうなると、ベースラインとしては、使用貸借の終了を主張されてもやむを得ないというところと言わざるを得ないようにも思えます。

1-2.弁護士とこどもの対話

陽希:判例タイムズの裁判例は、夫の母(つまり祖母)が所有する建物に夫婦及びそのこどもが居住していたというもので、妻の宗教活動による対立から、夫が当該建物から別居したため、祖母が、夫の妻子に対して、当該建物使用貸借契約の終了を主張していた事例です。

弁護士:東京地裁は、1)夫婦間の婚姻関係破綻を認定したうえで、2)婚姻関係が破綻し、夫が別居したことをもって、当該建物を、夫とその家族が共同生活を営むための住居として使用するという当該建物使用貸借契約上の目的に沿った使用収益は、本件口頭弁論終結時にはすでに終了したものと言わざるを得ないとしたんだよね。

結論において、夫の母による建物明渡し請求は認められました。

陽希:こどももいるのに、子の福祉とかは使用貸借の目的に考慮されなかったんだね。つまり、1)夫婦が共同生活を営むための住居として使用することを当該建物の「使用及び収益の目的」(民法597条2項)と認定した点、2)婚姻関係の破綻の事実をもって、使用貸借契約の目的に従い使用及び収益が終わった(民法597条2項)として、使用貸借契約の終了事由に該当するとしたことが注目に値するね。

2.婚姻関係破綻と使用貸借契約の解約・解除事由との関係

そもそも、使用貸借契約の解約・解除理由にしても、建物の存立の基盤になっているのに、そんなに簡単に解除されても良いのだろうか。

この点について、婚姻関係破綻の事実が、貸主(藤の両親)と借主との間の信頼関係の破壊を認定するための主たる評価根拠事実に該当すると考えられ、使用貸借契約の解除が認められる場合があるとした裁判例として、東京地裁平成23年5月26日判時2119号54頁があります。

2-1.弁護士とこどもの対話

陽希:23年の東京地裁判決は、亡き父親が所有する敷地に、源さんが建物を建ててしまったという事案でしたね。そして、源さんが、黒田カナさんと不倫をしてしまったという事案だったみたいだね。そして、藤さん側の親族が、源さんに対して、敷地の使用貸借契約の終了を主張して、「建物収去土地明渡」を求めたんだよね。

弁護士:うん。東京地裁は、「使用及び収益の目的」とは、建物所有目的といった、社会経済的云々などの一般的抽象的な使用収益の態様・方法を意味するのではないとされました。そして、当事者が、当該契約を締結することによって、実現しようとする個別具体的動機又は目的を意味するとされたんだよね。

陽希:そうなると、不倫してしまうと、当事者間の信頼関係が破壊されてしまって、無償で使用させるべき実質的な理由が欠けるに至ったような場合にも、類推適用されるとしました。

そのうえで、契約の前提が存在しなかったとして、使用貸借の解除を認めるものとしました。

弁護士:同じような裁判例が、松山地判平成17年9月14日にもあるようだよ。

 

上記のように、いずれの裁判例も、夫婦間の婚姻関係自体が土地の利用をめぐる貸主と借主との信頼関係の破壊に直結するとの論理構成をとっているものではありません。

しかし、夫婦間の婚姻関係破綻の事実が、土地の利用をめぐる貸主と借主との信頼関係の破壊を認定させるための主たる評価根拠事実となるとの論理構成をとっていると理解されています。

 

そうすると、本件では、源と藤はともに警察官ですれ違いが絶えないことや、性格の不一致が理由であることに照らすと、直ちに夫が婚姻関係を破綻させたといえるかどうかは分からず、夫が有責とまではいえないと考えられます。

 

もっとも、婚姻関係の破綻に至る事情や経緯を踏まえると、藤の両親から、源に対して、信頼関係破壊に基づく本件土地の使用貸借契約の解除を主張することはあり得ないとまではいえず、本件建物収去、本件土地明渡を請求し得ると考えられました。

 

たしかに、夫が住宅ローンを支払っているものの、財産分与において、夫である源は、建物の明け渡しを拒否しましたが、藤の両親としては、藤が居住できない本件土地を底地とするメリットはないといえます。

考えかられる交渉

  • 藤の代理人としては、源に対して、妻による本件建物の取得を認めるよう要請
  • 藤の母から、夫婦間の婚姻関係破綻により信頼関係を破壊されたことを理由に、本件敷地の使用貸借契約を解除して、建物収去明渡を求める可能性があること
  • 土地の賃料相当額を損害賠償として請求する

 

などが考えられると思います。

 

3.親族の土地上の建物について、使用貸借である場合の建物の評価はどうなりますか。

さて、源・藤のカップルが離婚することになった場合、妻である藤の親族の土地に住宅ローンを組んで建物を建てた源の建物の評価額がどうなるかが問題となります。

 

まず、藤の土地上に存在する建物の評価額をめぐって対立した事案といえます。

源としては、住宅ローンの取得額もありますから、2000万円と主張しました。

しかし藤としては、源は敷地を利用することができることができないため、1500万円であると主張しました。

妻の親族の土地上に建築された建物が財産分与の対象になる場合、1)土地の所有者と、2)建物の所有者が異なることになります。

そこで、建物の使用貸借権が財産分与の対象になるかどうか、つまり、建物の評価額に敷地利用権が含まれるかが問題となるのです。この点、賃借権や地上権を除いては、敷地利用権としては価値があるものとはいえないでしょう。

そして、仮に敷地利用権が、使用貸借とすると、土地の利用者、この場合では、藤さんの親族などに限られることになりそうです。そこで第三者などに売却することはかなり難しそうです。

したがって、市場流通性の観点から、敷地利用権(使用貸借の場合)付き建物の評価自体が低廉化することが多いという事態があります。

まず、建物の評価額に敷地利用権を含むか否かですが、使用貸借権の場合、なかなか含むという解釈は難しいと思います。具体的には、建物が夫婦の協力によって取得・維持・管理されたものか否か、財産分与の結果、建物を取得するのがどちらであるのか、敷地利用権を含めて建物を評価することが当事者の公平にかなうか否か、一切の事情を総合的に判断し、敷地利用権価格を建物の評価に加えるかを判断します。

しかし、実際は、賃借権や地上権以外は評価の対象に入れるのは難しいでしょう。

この点、源さんには、気の毒になりますが、離婚に伴い敷地所有者等と建物所有者の立場が対立し、そもそも結果として建物の存立が脅かされる事態が生じた場合には、建物は市場流通性がないものとして低い価格で評価されざるを得なくなるのです。

この点は、男性であれば、妻の親族の土地上の建物を建築しない方が良いかもしれないというアドバイスにつながるかもしれません。

また、一般的に、敷地利用権付き建物自体の市場流通性が乏しいため、その査定が顎は一般に低廉化することになることになるといえます。

この場合、藤さんの親族が底地を所有していても、藤さんが建物を取得する場合、市場流通性の乏しさも考慮に入れて、より低い金額が妥当な査定額とされる可能性があります。

 

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