改正家族法における「監護の分掌」の 意義と実務的課題
改正家族法における「監護の分掌」の 意義と実務的課題
第1 序論
令和6年に成立し、令和8年4月1日に施行される改正民法において、離婚後の選択的共同親権制度が導入された。これに伴い、離婚後の子の養育のあり方が多様化することが見込まれ、子の監護教育等に関して複数の選択肢が用意されることとなった。
その一つとして、現行法では明確な規定がなかった「監護の分掌」に関する規定が新設され(新民法766条1項)、父母が子の身上監護を分担することが明文化された。本稿では、監護の分掌の法的意義、類型、そして実務上の判断枠組みについて、改正法の趣旨を踏まえながら考察する。
なお、改正法は離婚後の親権につき、父母の協議による単独親権・共同親権の選択、及び裁判所の関与による決定という枠組みを採用している。監護の分掌は、主として共同親権の文脈において問題となる制度であるが、婚姻中においても適用される点に留意が必要である。
第2 監護の分掌の意義と類型
1 監護の分掌の意義
監護の分掌とは、子の身上監護を父母が分担することをいう。改正民法766条1項においてこれが明文化されたことは、従来実務上の問題として扱われてきた交替監護等の法的位置付けを明確にするとともに、共同親権制度の導入に伴う新たな監護の枠組みを制度的に整備するものとして重要な意義を有する。
監護の分掌は、包括的・優先的な権限を付与する「監護者指定」と異なり、一部の権限のみを認めるものである。事案によっては、包括的な監護者を定める必要まではなく、事項の分掌で足りるケースもあり、審理においては申立ての趣旨の変更が促されることも想定される。
2 監護の分掌の類型
(1)期間の分掌
期間の分掌とは、平日は父母の一方が、休日は他方が監護を担うといったように、父母が一定の期間ごとに子を交替監護する形態である。いわゆる「交替監護」として従来実務上も議論されてきた形態が、改正法により明文化されたものということができる。
期間の分掌においては、自身の監護期間中における旅行や習い事、重大でない医療行為といった「日常の行為」は単独で行うことができる。他方、進学先の決定など「分掌期間後も影響が継続するような重大な行為」は、自身の監護期間中であっても単独で行うことはできず、急迫の事情がない限り、共同親権者と協議して共同で行う必要がある。
(2)事項の分掌
事項の分掌とは、「教育に関する事項」や「医療に関する事項」といった抽象的な事項について、子の身上監護の権限を父母の一方に委ねる形態である。
事項の分掌が定められた場合、その分掌された事項に関する限り、重大な行為であっても一方の親が単独で決定することができる点で、期間の分掌とは権限の性質が異なる。すなわち、例えば「教育に関する事項」を分掌する親は、当該事項に関係する重要な方針選択(進学先の決定等)も単独で行うことができる。
(3)両類型の併用
期間の分掌と事項の分掌は、併用することが可能と解される。例えば、基本的には交替監護(期間の分掌)で父母双方が日々の養育に関わりつつ、特定の重要事項に関する決定権(事項の分掌)は一方の親に一元化するといった運用が考えられる。
期間の分掌のみである場合、子の進学先などの重大な教育方針については父母が都度協議して共同で決定しなければならない。しかし、教育方針について父母間で意見の対立が予想される場合などに、「教育に関する事項」を母に分掌させておけば、母は期間に関わらず教育に関する重大な方針選択を単独で行うことができるようになる。このような場面において両類型の併用が活用される余地がある。
第3 権利義務の範囲と他制度との区別
1 身上監護事項への限定
監護の分掌によって付与される権限は、あくまで「子の身上監護に属する事項」に限定されており、法定代理権の行使、財産管理、身分行為に係る事項は対象外である。
例えば、「教育に関する事項」を分掌する親であっても、子を契約当事者として学校と在学契約を締結するような法定代理権の行使は単独ではできず、他の親権者と共同で行うか、特定の事項に係る親権行使者の指定の手続を経る必要がある。
2 監護者指定との区別
監護の分掌は、包括的・優先的な権限を付与する「監護者指定」と明確に区別される。監護者として指定された者は、子の身上監護に関する事項について包括的に単独で行使することができるのに対し、監護の分掌は特定の期間または事項についての限定的な権限付与にとどまる。
3 特定の事項に係る親権行使者の指定との区別
「特定の事項に係る親権行使者の指定」は、進学先の決定や重大な医療行為など、現に直面している具体的な重要事項について、どちらの親が単独で決定権を持つかを裁判所が指定するものである。これに対し、事項の分掌はより包括的・継続的な権限付与という点で異なる。
実務においては、より限定的な「特定の事項に係る親権行使者の指定」で足りるのか、それとも継続的な「事項の分掌」が必要かを慎重に検討することが求められる。
第4 実務における判断枠組みと考慮要素
1 基本的視座
監護の分掌は、基本的には共同親権の下で、別々に生活する父母が子の監護を分担する制度である。そのため、子の利益を最優先に、分掌の必要性と相当性が慎重に検討される。
2 期間の分掌における考慮要素
期間の分掌(交替監護)においては、交替監護が子に過度な負担を与えないことが求められるため、以下のような要素が考慮される。
・ 父母の住居間の距離及び移動時間
・ 子の年齢、心身の状況、学校や習い事の状況
・ 環境の変化への適応性
・ 父母が緊密に協力し合える関係にあるか
・ 現に交替監護をしている場合にはその状況
また、分掌期間後も影響が継続する重大な行為は単独で行うことができないため、父母間の緊密な協力関係が安定して継続できることが不可欠とされる。この点で、期間の分掌は他の類型と比較して、父母間の良好な関係性をより強く前提とする制度といえる。
3 事項の分掌における考慮要素
一方、事項の分掌においては、期間の分掌ほどの緊密な関係性は求められないものの、共同親権とする際に求められる同程度以上の関係性は必要となる。
また、事項の分掌を定める必要性があるか、対象をより絞った「特定の事項に係る親権行使者の指定」で足りるのではないかという観点からの慎重な検討が求められる。
4 終期の設定
監護の分掌には、終期を定めることができる。婚姻中の場合は「父母が離婚し親権者が定められた時又は別居解消に至るまで」といった形で終期を定めることが相当である。
離婚後において分掌を定める場合、必ずしも終期を定めておく必要はないが、以下の観点から終期を区切ることが有用な場合がある。
期間の分掌については、子の年齢や学校・習い事の状況等に応じて交替監護の内容が変化し得るため、期間を区切って定めることがある。事項の分掌については、分掌する事項の性質に応じて期間を区切ることがあり、例えば「教育に関する事項」の分掌において「子が中学校を卒業する時まで」とすることが考えられる。
期間の分掌と事項の分掌を併用して主文を項で分ける場合、「日々の生活リズムが変わるタイミング」と「特定の重要事項の権限を一元化しておくべき期間」は必ずしも一致しないため、各項の終期を無理に揃える必要はなく、それぞれの分掌の目的や子の状況に応じて個別に設定することが合理的である。
第5 審判主文の構造
1 期間の分掌の主文例
期間の分掌を定める審判主文は、概ね以下のような形式による。
「未成年者の監護を分掌する者を、(本審判確定の日から令和○年○月○日までの間、)次のとおり定める。 (1)毎週月曜日の朝から金曜日の夕方まで 申立人 (2)その余の期間 相手方」
2 事項の分掌の主文例
事項の分掌を定める審判主文は、概ね以下のような形式による。
「未成年者の監護に関する事項のうち、【教育・医療】に関する事項を分掌する者を、(本審判確定の日から令和○年○月○日までの間、)【申立人/相手方】と定める。」
3 特定の事項に係る親権行使者の指定の主文例
特定の事項に係る親権行使者の指定を定める審判主文は、概ね以下のような形式による。
「未成年者の○○高校との在学契約の締結及びこれに付随する事項に係る親権の行使を、【申立人/相手方】が単独ですることができる。」
4 両類型を併用する場合の主文構造
期間の分掌と事項の分掌を併用する場合、それぞれ対象の特定方法や付与される権限の性質が異なるため、一つの文にまとめるのではなく、主文の第1項・第2項として項を分けて記載することが明確かつ実務的と解される。
これにより、「誰が」「いつ」「何の権限を」持っているのかが明確となり、後日の紛争予防にも資するものと考えられる。
第6 関連制度との関係
1 親子交流との関係
宿泊を伴う親子交流が頻回に行われる場合、交替監護との区別が困難な場合がある。もし交替監護とすることが子に過度な負担を与え相当でないと判断される場合は、「期間の分掌」ではなく「親子交流」の定めに変更するよう運用されることがある。
なお、改正民法766条1項は「面会及びその他の」という文言を削除し、「父又は母と子との交流」と規定した。これにより、直接対面のみならず、電話・ビデオ通話等の間接交流も制度的に包含されることが明確になった。今後の実務では「面会交流」に代わり「親子交流」という用語が一般化すると考えられる。
2 養育費との関係
養育費の算定に関しては、期間の分掌(交替監護)が定められている場合において、単に監護日数の割合で日割り計算するのは不相当な場合がある。養育費には純粋な生活費だけでなく学校教育費等も含まれるため、算定表等に従って基本額を算定した上で、それぞれの期間でどちらが何をいくら負担するか等を総合考慮して修正されるのが相当とされる。
3 子の引渡しとの関係
交替監護において、行き来のたびに強制執行で子の引渡しを実現することは子への負担が大きいため、期間の分掌の定めと併せて「子の引渡し」が命じられることは基本的にない。この点は、実務上重要な考慮事項となる。
4 必要的単独親権との関係
DVや虐待のおそれがある場合や、「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる」場合には、共同養育は適さないと判断され、例外なく単独親権(必要的単独親権)となる。このような事案においては、監護の分掌を定めること自体が不相当となる。
第7 結論
監護の分掌の明文化は、子の監護における父母の多様な関わり方を法的に後押しするものである。改正法では「父母の協力」を理念としつつも、画一的な共同養育の形を押し付けるのではなく、事案ごとの父母の関係性や子の状況に合わせて、同居・交代監護・親子交流など多様な関わり方を選択できる柔軟な枠組みが用意されていることが特徴である。
実務においては、「監護者指定」「監護の分掌(期間・事項)」「特定の事項に係る親権行使者の指定」というそれぞれの制度の包含関係や権限の違いを正確に理解した上で、事案に応じた最適な制度を選択し、子の最善の利益にかなう解決を導くことが求められる。
とりわけ、①分掌の必要性と相当性の慎重な検討、②期間の分掌と事項の分掌の適切な組み合わせ、③終期の合理的な設定、④DV・虐待事案における必要的単独親権の適切な判断、の各点が重要な実務上の課題として残される。
改正法の施行に伴い、これらの制度が適切に運用され、子の最善の利益の実現に貢献することが期待される。
