こどもの意見表明権
こどもは成長途上にありますから保護される対象である一方、個人として尊重され自分の権利を自分で守るべき存在でもあります。
保護の対象から権利の主体へ
ジャン=ジャック=ルソーは、人間は弱い存在であり、未成熟であるとして未成熟である点にポイントを置くとこども保護論に傾きます。パターナリスティックな話しとなります。他方、こどもに無限の可能性があるという点に重点を置くと、こどもの権利条約の趣旨である権利主体論に向かうことになります。
意見表明権
弁護士:こどもの権利条約12条は意見表明権を規定しています。
シュシュ:自分の意見を形成する能力のある子に対して、自分に影響を及ぼすすべての事項について意見表明権を保障し、離婚調停、非行少年の審理、児童福祉法による保護措置などで意見を聴取される機会を保障すべきということだよね。でも意見形成が不十分な場合はどうなるのかな。
弁護士:第一義的には代理人は親だろうから親ということになりますが、例えば離婚調停などには、こどもの手続代理人という制度があります。あくまで「手続」代理人で、すべてを代理するわけではないのですが・・・。
シュシュ:こどもの手続代理人は何をする人なの?
弁護士:調停や審判で自分の意向を表明する代理人ということになるかな。ただ、その位置づけまでは完全に確立されていないんだ。「子の代理人」ではなく、「子の手続き代理人」だからね。子の親権者の指定、別居親との面会交流、親権の停止・喪失などの事案で裁判官が、子が家事審判や家事調停に参加した方が望ましいと判断した場合、父母から選任して欲しいとの申出があった場合に弁護士を手続代理人に選任するものです。
シュシュ:日本の法律も、ようやく意見表明権を規定するようになったよね。2011年に成立した家事事件手続法は65条で家裁は、親子、親権その他未成年者である子がその結果により影響を受ける家事審判の手続において、子の陳述の聴取、子の意思を把握するように努め、審判するにあたり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならないと定めているよ。
子の訴える力
弁護士:子は、言葉に出せなくても、態度でメッセージを送ることがある。
シュシュ:うん。まあ、体調悪くなったり、寂しくなったり、いろいろかな。
弁護士:そのときはカナダやオーストラリアなので語られるのは、子は声を持っている、しかし、決めるのは子ではないということです。
シュシュ:Having a voice,no choiceだよね。でも、僕は自分でブリュッセルに残りたいということをいったよ。友達のマサヤもそうだっていっていたなあ。
弁護士:時に自分で決めないとなると、こどもに過度のプレッシャーがかかるんだよね。離婚後の親権者をこどもが決めたとなると、選ばなかった親に対する遺棄感を持つことになるんだ。
シュシュ:うーん、でも僕は九州のおばあちゃんの家にいってもやはり日本語つたないなって・・・。同じ年齢の親戚の子とかと比べても語彙は少ないから。勝手に決められちゃうのは嫌だな。だから、信頼できる人に自分の気持ちを聴いてくれることが大事だと思います。
弁護士:うん、どのような年齢、判断能力の子でも人間の尊厳があるからね。自分の考えがあるのに、それを無視されて配慮されることもなく決められちゃうと嫌だよね。
シュシュ:小学1年生でも意見を持っていることがある。
弁護士:そう、そう事案があったんだよね。作文で賞をとるような子だったんだけど裁判所に客体として扱われてるなと感じたときもあり、そのときは、Having a voice,no chiceの調和の観点で悩むところがありますよね。
シュシュ:こどもでもさ、部分的にせよ権利の客体とみなされちゃいけないと思う。調査官調査とかも、そういうところに配慮して欲しいな。
弁護士:意見表明権は個人を尊重する要でもあるから、おかしいと思うことはおかしい、間違っていると思うことは間違っているといってみるべきかもね。お互い一致するところはないけど議論するところが民主主義のプロセスですからね。
シュシュ:大阪の高校で起きた茶髪で無理矢理黒色に染めさせられた裁判の行方なんか気になるよね。フランス語圏の価値観からすると、違うスタイル、意見に対して、変り者と排除する日本の空気感は多様性に欠けているよね。みんなそれを恐れて統一や大勢に順応しがち。同調圧力で周りを気にしながら生活をするんじゃ、こどもの意見表明以前の問題といわれないようにするべきだね。
弁護士:アメリカでは、共和党支持者と民主党支持者に対話が成り立たないというからね。議論と多様性を好むフランス的価値観、もう一つの民主主義のモデルは大事だね。