妻は夫から身体的・精神的暴力も受け・・・。どのような証拠が必要か。
- 夫が浮気しているから離婚したい。妻は夫から、身体的・精神的暴力も受けてきている。どのような証拠が必要か。
相手方配偶者が不貞や暴力の事実を認めず、裁判になったときに備え、メールや写真、録音、診断書など、客観的な証拠をなるべく多く準備しておくことが重要です。裁判は、事実で決まると思っても過言ではありません。法廷にできる限りの証拠を出せる準備が必要でしょう。
- 不貞の立証調停が不成立となり、裁判で争う場合には、離婚を請求する側において、離婚原因の存在を主張、立証する必要があります。相手方配偶者の不貞を理由として離婚を請求する場合には、相手方の不貞の事実(性交渉の事実)を立証しなければなりません。
相手方配偶者が不貞の事実を認めている場合は問題ありませんし、性交渉の場面を撮影した写真やビデオが存在する場合や、相手方配偶者が不貞相手の出産した子供を認知した場合、もしくは相手方配偶者が不貞相手と同棲している場合などであれば不貞の事実の立証は容易です。もっとも、最近は、リベンジポルノだ、などといちゃもんをつけてくる愛知県弁護士会の前役員もいます。
しかし、通常はそのような直接的証拠まではなく、不貞行為の存在を推認させる事実を立証して裁判官の心証を形成することになります。これが間接証拠ですが、家庭裁判所の方が認定が甘い傾向にあります。
ひとつの方法としては、相手方配偶者を尾行し、相手方配偶者が不貞相手と連れ立ってホテルへ入り数時間後に出てきたという一連の場面を写真撮影するなどして証拠化することが考えられます。つまり、「入り」と「出」の証拠がないと不貞の証拠としては弱いということを覚えておきましょう。
しかし、ホテルへは入ったけれど性交渉はしていないなどの反論をされる場合もあります(特にいわゆるラブホテルではなくシティホテルを利用した場合)ので、それだけでは必ずしも十分ではない場合があります。ただし、よほど変人の裁判官にでもあたらない限り、山尾志桜里さんのように政策論争をしておりました、っといった弁明は通用しないと思います。この場合は全体的な間接証拠が弱いのだ、ということも意識しておく必要があります。間接事実積立型であるので、総合判断になるのが不貞行為の立証です。
そのような反論をしにくくするためには、相手方配偶者と不貞相手がホテルへ入っている事実を、一度だけではなく何度も証拠化したり、相手方配偶者と不貞相手とのメールによって2人が男女として交際している事実を裏付けたりすることが考えられます。もっとも、探偵資料を取得するのに弁護士がおすすめする平均は50万円~100万円くらいで、それ以上は「悪徳」と考えてよいと思います。不貞の慰謝料も100万円程度のケースもあり、まずは弁護士に相談してから探偵業者に相談するのも良いかもしれません。
なお、このような尾行等を調査会社(いわゆる探偵)に依頼することも考えられますが、高額の費用を請求されたり、調査内容に満足できなかったりしてトラブルになるケースもありますので、注意が必要です。よくあるのがカウンセリング重視の調査会社で、調査内容ではなくカウンセリングに満足してしまう商法、調査のポイントを突いていない場合・・・調査会社に依頼する場合は、社歴や評判等から信頼のおける会社を選ぶようにすること、また、依頼する前に業務内容や費用の見積もり等について十分に説明を受けることが重要です。特に100万円をトータルで超える場合は、一度別の探偵業者にいってみましょう。
不貞行為そのものを立証できない場合でも、相手方配偶者の不誠実な行動や、それにより夫婦関係が悪くなり別居に至った事情、別居期間などが考慮され、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」があるとして離婚が認められることもあります。よって、そのような観点からも、不貞行為の直接的な証拠にならなくても、異性との親密な内容のメールのやりとりを証拠として収集しておく価値があります。FacebookやTwitterなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)によって、相手方配偶者と異性との親密な写真ややりとりが明らかになる場合もあります。メールやラインは、肉体関係を連想させるものも多く、今日では、それが最も効率良い不貞の立証方法とされています。
- 暴力の立証
相手方配偶者の暴力を理由として離婚を請求する場合も、離婚訴訟で争う場合には、離婚を請求する側において、相手方の暴力の事実を立証しなければなりません。相手方配偶者が暴力の事実自体は認めていても、暴力の回数や程度等についてお互いの主張に食い違いがある場合は、それらの点についてもできる限り立証する必要があります。
あなたの記憶をまとめた文書(裁判では「陳述書」というタイトルで提出されることが多いです。)も証拠の一つにはなりますが、やはり、客観的な証拠、そして、暴力がされた当時の証拠をなるべく多く集めることが重要です。
- 身体的暴力
暴力を受けた箇所の写真や、医師の診断書が重要となります。ただし、医師の診断書は、治療が必要な期間については記載されていますが、怪我の状況(程度・部位・大きさなど)については写真の方がわかりやすいので、医師の診断書を得た場合であっても、日付入りの写真も併せて残しておく方が良いです。
また、写真では、結果として残った怪我の状況についてはわかりますが、具体的な暴力の態様(殴られたのか、蹴られたのか、髪を引っ張られたのか、など)や回数についてはわかりません。暴力の状況についてはその都度日記などに残しておく有用です。
離婚請求に先立ってDV防止法による保護命令申立を行っていたような場合で、裁判所による審問の際には、相手方配偶者が暴力を認めていたようなケースでは、審問期日調書も重要な証拠となり得ます。
暴力について警察へ通報・相談していた場合は、相談等の記録(管理票)、勤務日誌・当直日誌、110受理指令処理用紙や犯罪事件受理簿なども証拠となり得ます。これらは、都道府県警察本部長へ個人情報保護法に基づく開示請求をして入手できます。
更に、暴行罪や傷害罪で起訴(略式起訴も含む)されている場合は、その刑事記録(供述調書など)は極めて重要な証拠です。これは検察庁へ閲覧謄写申請をして入手します。
- 精神的暴力
暴言などの精神的暴力は、身体的暴力の場合と異なり、第三者の目に見える結果が残りにくいので、毎日の記録の積み重ねが重要になります。
暴言の録音は直接的で極めて有効な証拠ですが、1回の暴言が直ちに精神的暴力にあたるというわけではありませんので、なるべく多く録音を残しておく必要があります。また、そのような暴言に至った事情(どのようなことで相手方配偶者怒り出したのか、単なる夫婦喧嘩と言われるような状況ではないか等)もわかるように、前後の会話も含めなるべく多く録音等を残すようにするとともに、その都度、日記などを残しておくと有用です。
お互いが交わしたメールなども、内容によっては暴言の証拠となりますので、消去せずに残しておきましょう。
- PTSD等の心身の疾患
暴力は、身体的暴力のみならず精神的暴力も、強いストレスとなって被害者の精神に回復困難な障害を与え、うつ病やPTSD(心的外傷ストレス障害)などを引き起こします。
その他にも、長期にわたって暴力を受けることによって、パニック障害などの不安障害や頭痛や背部痛などの身体化障害など様々な心身の不調を引き起こすこともあります。
したがって、身体的暴力や精神的暴力によって、うつ病やPTSDをはじめとする心身の疾患を発症した場合、心療内科や精神科で適切な診断を受け、医師の診断書を暴力の証拠として提出することになります。
ただし、医師の診断書は、直接的には、あくまでうつ病などの結果を証明するものであって、それだけで直ちに、身体的暴力や精神的暴力があった事実や、うつ病の原因が暴力である事実まで認められるわけではありません。よって、やはり、②のような録音や日記などの証拠は重要です。
なお、医師の診断書やカルテの記載に、受信の原因に関する申告内容の記載がされていることもあり、このような場合は証拠として使用することも考えられます。
- 冒頭の事例の場合
離婚訴訟では、不貞や暴力の有無や程度について裁判所が判断することとなりますが、その場合、どちらの主張する事実関係が、より真実らしいかが問題となります。
主張する不貞や暴力を直接的に裏付ける客観的証拠がなくても、主張する一連の事実関係の要所要所で、主張内容と符合する客観的な証拠があれば、主張全体の信用性が高まります。
最終的には訴訟を担当する弁護士が証拠の取捨選択をしますが、関係しそうな証拠はできるだけ多く集めて置くことを心がけるとよいと思います。
また、特にメールや録音については、前後の文脈や会話の流れなどを踏まえてその発言の趣旨が判断されるため、問題だと思ったメールや発言の前後も含め、なるべく多く残しておくことをお勧めします。