新しい法定養育費制度と先取特権をめぐって

 

新しい法定養育費制度と先取特権をめぐって

 

取り決めが廃止された法定養育費

令和6年の改正家族法では法定養育費と一般先取特権が新設されました。法定養育費は、従来、養育費が①父母間で取り決めがなく具体的な権利の発生がしていない、②権利は発生していないため実現できない―という状況にありました。

そこで、法定養育費は、「取り決め」がなくても新たな制度が導入されることになりました。

もっとも、法定養育費は、暫定的・補充的性格があるものといわれています。つまり、本来、養育費は、父母の協議で定められまとまらない場合は養育費調停で決めるべきものですから、それまでの「つなぎ」としての暫定性・補充性があるといわれています(今津綾子「令和6年改正家族法における養育費制度の概要と展望」家法60号5頁)。

注意が必要であるのは、「暫定的・補充的」であるから、終期が18歳、こども一人当たり2万円に抑えられているという趣旨に過ぎず、「つなぎ」として債権は「取り決め」がなくても自動的に発生するものであり、この限りでは、特段他の債権と異なるところはなく、既に発生した債権に「暫定性・補充性」を理由に簡単に養育費が免除されるというわけではありません。

なお、こども一人当たり2万円という金額は、生活保護法に基づく生活扶助基準額などをもとに決められた最低限のものであり、養育費の側も「養育費は2万円支払えば良い」という誤った意識を持たないようにすることが大切です。

これに対して、民法では義務者=債務者を保護するために、債務者が支払能力を欠くために法定養育費の支払ができないことを証明すれば支払を拒むことができますし(民法766条の3第1項但書)、家裁が法定養育費を免除ないし支払猶予することができるとされています。なお、執行手続では任意的審尋であり、この民法766条の3第1項但書が具体的場面でどのように機能するのか分かりにくいといえます。

しかしながら、従来の家裁実務でも義務者が無職の場合でも、最低でも1万円から2万円の養育費の支払を家裁は審判に命じていたところであり、現実的に債務者が支払能力を欠くために法定養育費の支払ができないことを証明することに成功することはほとんどないでしょう。

また、養育費が不払いであった以上、債務者は自業自得であり、家裁はやむにやまれぬ政府利益の確保など明白かつ現在の危険を避ける重大な目的がない限り、既発生の養育費を安易に免除ないし支払猶予することは、先に述べたように最低の2万円にとどまっており、これら金額の設定自体に社会の批判が強かったことも照らすと、家裁が法定養育費を免除ないし支払猶予することは、権利者である債権者の財産権を侵害しかねないともいえるので、慎重な運用になるのではないかと思います。

今回は法定養育費と先取特権など新しい令和6年改正による養育費制度について、弁護士が解説します。

 

先取特権の付与による民事執行の容易化

これまで養育費は、債務名義をとったうえで強制執行をするという非常に脆い制度に委ねられており、これが養育費の不払いを助長し、実に離婚後7割の義務者が養育費を支払っていないという実態を招いています。

例えば、お母さんがお父さんの給与について強制執行をするためには、調停調書のほか、執行文の付された債務名義の正本を用意するっ必要があります。このように、養育費は公正証書又は調停調書によらない限り、「私製証書」では強制執行をするために「調停のし直し」をする必要がありました。

令和6年改正法では、「債務名義なし」での執行を可能にするということに重点が置かれています。そこで、養育費債権は一般先取特権という法定担保物権が設定されることになったのです。これによれば、「私製証書」による合意があれば、公正証書や調停調書がなくても、先取特権を使用として、こども一人当たり8万円までの金額であれば、調停調書や公正証書がなくても、弁護士が作成した私製証書でも担保権の実行ができるようになったのです。

もっとも、強制執行は、将来に渡る差押えもできましたが、先取特権の場合は未払い分についての部分が被担保債権になるに過ぎません。

このため、今後、離婚するための夫婦は、先取特権の対象となる養育費、つまり担保権の存在を証する文書を最低限作成してから離婚するようにしましょう。

重要なポイントは、こども一人当たり8万円であれば、調停調書や公正証書は不要になったという点です(安部将規「養育費請求権への先取特権付与と弁護士実務」家法60号11頁)。ただし、一般の先取特権の存在を証する文書が必要ですから、弁護士などが作成した「私製証書」による離婚協議書が必要になります。

一般常識からすると、養育費について合意した文書を作成することがマストといえますが、場合いよっては、電子メールやLINEなどのやり取りを通じて合意を立証し、担保権の存在を立証することになるとされていますが(前掲安倍12頁)、通常、電子メールやLINEは長期に保存されているとは限らないというべきですので、弁護士がメールやLINEをチェックする義務はなく、むしろ、私製証書の作成をメルクマールに判断するのが相当でしょう。(正直、執行裁判所は、裁判所書記官が実務の主導を握っているのに、事実認定が伴う、LINEやメールで担保権の存在が立証されると考えるのは甘いように思います。)

 

養育費について調停や公正証書をする場合~8万円を超える養育費

今後も、調停調書や公正証書などの債務名義がマストになるのは、8万円を超える場合となります。

例えば、こども一人当たり10万円×2=20万円の場合は、先取特権では16万円までしかカバーされません。

もっとも、全額の支払は担保されませんが、1人8万円、合計16万円でも担保権実行の効果は高いので、養育費が高額にわたるからという理由だけで公正証書や調停を提起する流れが定着するかは法社会学的観点を見る必要があるでしょう。

この点、公正証書は5年分の養育費を基準に手数料がとられますから高額に渡ることも多いでしょう。(ただし、公正証書作成の費用は自治体いよって補助金が支給される場合もありますので、事務所がある街の補助金の支給については調べておきましょう。)

例えば、名古屋市の場合ですと、名古屋市では、養育費の取り決めに関する公正証書や調停調書など(強制執行が可能な書面)を作成した場合、その作成費用の一部を補助する制度があります。

対象となるのは、養育費の取り決めにかかる費用を実際に負担し、「債務名義」を取得しており、現在そのお子さまを扶養しているひとり親の方です。公証人手数料や戸籍取得費用、家庭裁判所への申立費用などが対象となり、上限5万円まで補助されます。

申請期限は、公正証書や調停調書を作成した日の翌日から6か月以内です。期限を過ぎると申請できませんので注意が必要です。申請は区役所ではなく、社会福祉法人愛知県母子寡婦福祉連合会へ行います。

先取特権における合意文書における基本的記載事項

先取特権を行使するための「合意文書」たる「私製証書」には、①親権者(又は監護者)の明示、②非監護者(義務者)の特定、③養育費の対象となる子の氏名、④こどもごとの養育費の金額、⑤支払の始期、終期、⑥支払時期(定期金債権であることを明示すること)、⑦支払方法-が必要でしょう。

その他、法務省の手引きでは、⑧ボーナス加算をする代わり毎月の養育費を抑えること、⑨進学や病気時等に特別な費用の負担をする合意、⑩養育費のうち携帯電話の料金や塾の授業部分は直接携帯電話会社や塾に支払うある種の支払方法の合意も考えられます。

そして、法定養育費制度があるので、父母間での合意による私製証書は、法定養育費を清算する趣旨が含まれることが多いとされています(前掲安部14頁)。少なくとも、未払いの法定養育費問題を解決した趣旨であるのか、解決しない趣旨であるのかを記載するのが望ましいとされています。金額としては多くないと思われるが、清算条項をもうけてしまうと、未払いの法定養育費問題を解決した趣旨であると意思解釈される場合も少なくないと思われるため留意がいります。

なお、今後は、「未払いの法定養育費の取扱いについての検討が必要になるのは、調停や審判において養育費が定められる場面も同様」とされています(安部14頁)。

合意書面は成立の真正の証明が求められることに特に注意が必要!

特に注意が必要であるのは、当事者が私文書である合意書面によって養育費を形成した場合、合意書面の成立の真正の証明が求められることに特に注意が必要です(法20条、民事訴訟法228条1項)。

また、サインについては「記名・押印」が望ましいが、自署や実印による成立までは一般的には必要がないとされています。

しかし、法律要件に照らすと、「署名」「実印」が望ましいでしょう。

この点、いわゆる二段の推定の問題が生じることになるので、自署のみの場合であると対称文書の提出が必要である可能性があります。

成立の際、特に遠隔地の場合、電子メールを用いて、「記名」のみで成立させる場合もあるかもしれないが、「記名」のみの場合、合意の成立を証することは困難ですので特に注意が必要です。

合意文書は「公印省略」はダメということです。

したがって、電子署名でも使わない限り、「署名」「実印」が無難となり得るのです。

合意文書は成立の真正が争われる可能性もあることから、結局、自署及び実印により成立させた方が爾後の紛争を避けられると思います。

かように実務運用では、合意文書の成立の真正が厳格に解される可能性もあるから、弁護士としては、合意文書作成で満足するのではなく、署名・印影の対照文書(具体的には、同じハンコで押した離婚届の控え)の保管を強く推奨することになると考えられる。

法定養育費を先取特権で実行する場合

なお、法定養育費2万円と先取特権8万円を掛け合わせて担保権の実行をすることも考えられる。法定養育費の発生日は離婚の日であるので戸籍謄本を提出する。

そして、法定養育費を請求することができる者は「子の監護を主として行うもの」(民法766条の3第1項)である。

このため、いわゆる主たる監護者とこどもが同居していることを証明するために住民票が添付書類となる。なお、DVの関係で、住民票が移動していないことも考えられるが、ケースバイケースであろうが、市役所に相談しつつ、児童福祉手当の受給者証や学校と主たる監護者のやりとりを示す書類が添付書類となり得るという見解もあるが(安部15頁)、直ちには疑問です。

なお、ワンストップ型の書式については、片野正樹ほか「新しい養育費制度の下での民事執行実務上の留意点」家法60号36頁、特に先取特権については、42頁に書式がある。

執行手続のワンステップ化

これまで、給与を差し押さえるためには、「財産開示手続」→「情報取得手続(勤務先特定)」→「差押命令の申立て」という3つのステップを別々に申し立てる必要があり、債権者にとって非常に負担が重いものでした。これが1回の申立てで連動して行えるようになります。

具体的には、1回の申立てで完結とされます。養育費の債権者が「財産開示手続」等の申立てをした場合、以下の手続きが連続して行われたものとみなされるというのです。

つまり、財産開示手続、情報取得手続、差押えの3点セットが1回の申立てで完結とされるのです。

しかしながら、ワンストップ化の対象は「給与債権」のみです。「預金債権」の場合は、ワンストップの方法によることはできません。

養育費などの請求権(扶養義務等に係る債権)に基づき、給与を差し押さえたい場合に限り、1回の申立てで3つの手続きを連続して行ったことになります(ワンストップ化)

これまで給与を差し押さえるためには、「①財産開示手続」→「②情報取得手続(勤務先特定)」→「③差押命令の申立て」という3つのステップを別々に申し立てる必要があり、債権者にとって非常に負担が重いものでした。

今回の改正(新民事執行法167条の17)により、養育費などの債権者が「財産開示手続」等の申立てをした場合、3つの手続きが連続して行われたものとみなす仕組みが導入されました

具体的な書式としては、「財産開示手続申立書(ワンストップ・債務名義用)」「当事者目録(ワンストップ・債務名義用)」「当事者目録(ワンストップ・債務名義用)」「請求債権目録(ワンストップ・債務名義用)(扶養義務等に係る定期金債権等)」「差押債権目録(ワンストップ・債務名義用)」「(ワンストップを求めない場合)上申書」という書類を提出することになるようです(家法60号36頁)。

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