オーバーローンの財産分与

オーバーローンの場合

例えばマンションの価格が1000万円で住宅ローンが2000万円というケースです。
結果的に1000万円の赤字が生じています。

そして、この1000万円の赤字部分について、預金・有価証券などの共有財産をもって、1000万円の補填をすることができなければ、マイナスの財産分与はできない、ということになりますので、財産分与を請求することはできないということになります。財産分与については、本来プラスの財産の清算を予定しており、借金の分与は想定されていないと考えられています。もっとも、離婚調停などでは債務も事実上、財産分与のおいて清算することが公平であると考えられていますが、既にできてしまった借金と将来の資産形成的意味のある住宅ローンは同列には論じられないのではないか、とも考えられます。

少し変わっているかも知れませんが、財産分与はプラスを分ける制度ですのでマイナスしかない場合は、そもそも法律上、財産分与請求権が発生しません。でも、調停ではどちらかが住み続けるという話しになることもあります。これは、財産分与といわれているかもしれませんが、事実上の処理の問題を協議しているだけ、と法的には整理されることになります。

この場合でも、当事者間で、不動産を夫婦の一方が取得するという合意はできますし、これは財産分与を原因として所有権を移転させるということの妨げにもならないとされています。学説としては、オーバーローン不動産の価値はゼロであるから、財産分与の対象とならずローンの負担も含めた不動産全体が財産分与の対象外となるのであって、そのマイナスを他の財産と通算することはできないという見解があります。この見解は、どちらかというと、人訴における離婚訴訟に馴染みやすい見解のように思います。①説は割り切った見解ですが、実質的公平には反すると考えられます。

これに対して、夫婦のプラスからマイナスを差し引いたものが分与されるという見解があります。この見解によれば、住宅の時価と住宅ローンの残債務を差し引きして残るマイナス財産は、預貯金等の他の積極財産と通算することができます。通算の結果を総額として清算を考えるということになります。実務的には②の見解が、公平の観点から裁判例・学説上馴染みやすいように考えられます。

では、①説及び②説については、いずれなのが妥当という問題ではなく「出口」の問題として、財産分与はプラスを分けるという建付となっていますが、形式的枠組みではプラスを分けるという「出口」が決まっており、その実質的な考慮である計算過程はすべての財産を取り上げて、プラスからマイナスの控除をするということが考えられています。

しかしマイナスを調停で合意することができるかといえば、当事者間で合意が成立した以上債務引受は認められます。もっとも、審判や訴訟で、マイナスしか残らない場合は、債務の引受を命じることなどはできない、とする考え方が主流となっています。

この点、債務相当の金銭給付はもちろんですが、財産分与が審判や訴訟で行われるとしても、その法的性格は非訟なのですから裁判所が債務引受を命じたら違法になるということはなく、理論的には、債務引受を命じることは可能と考えられます。しかし、実務では、そもそも、究極的に財産分与はプラスを分ける制度と理解されていることからくる限界があるものと考えられ、債務引受は命じることができないとする見解が主流です。

もっとも、少なくとも合意で成立する調停では可能であるうえ、理論的には財産分与は非訟手続である以上、訴訟法的観点を強く打ち出せば、金融機関に対抗できなくても元夫婦間での債務の負担割合を決めておくことには、当事者間の紛争解決に意味があると考えられ、理論的に可能で、実務上も意味があるならば債務の対内的割合を定めておこうという審判例も出されています(大阪家庭裁判所審判平成17年6月28日)が、追随する裁判例はあまりみられないのが実情です。

なお、財産分与は清算的財産分与が中心ですが、離婚後扶養、慰藉料、未払の婚姻費用も考慮することができるとされていることから、このような取扱ができます。

事例

名古屋高等裁判所平成21年5月28日(夫から妻に対する離婚等請求事件において夫婦共有財産であるマンションの夫持分につき清算的財産分与として夫に取得させた上で扶養的財産分与として妻に対し賃貸することを命ずるなどされた事例)

主文ではこのように示されました。「被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の不動産の被控訴人の持分(全体の一〇〇〇分の八八三)を、下記内容で賃貸せよ。賃貸期間 本判決確定時から平成二七年三月まで 賃料   月額四万六一四八円 支払時期 毎月末日限り」

本件マンションについて
ア 妻の特有財産部分の存否及び内容
(ア) 妻は、妻の持分がその特有財産であると主張する。
a 妻は、本件婚姻前の昭和五六年三月に丁原社に入社し、本件婚姻後の平成八年六月同社を退職した。退職金は三〇三万一〇四七円であり、妻は、そのほか同社から受給した賞与約二〇〇万円、厚生年金基金約六二万円、失業保険や、従前貯めていた財形貯蓄の解約金約一八六万円を合せて、その大半を定額貯金にしていた。
b 本件マンションの購入代金は、約二八〇〇万円であり、そのほかに諸経費約二八〇万円が必要だったが、そのうち二六八〇万円は、夫が主債務者となって住宅金融公庫から融資を受けた。
その余の約四〇〇万円の前払代金・諸経費のほとんどは、上記aの妻名義の定額貯金を解約してまかない、本件夫婦は、夫が全体の一〇〇〇分の八八三、妻が同一〇〇〇分の一一七の割合で本件マンションの共有持分の登記手続をした。
(イ) 以上認定の事実によれば、本件マンションにつき、わざわざ妻の持分が共有登記されたのは、上記(ア)bのとおり、前払代金・諸経費のほとんどを妻名義の財産によってまかなったことによると認められるところ、①上記(ア)aのとおり、妻が昭和五六年三月に丁原社に入社し、平成八年六月に退職するまでの大半は、本件同居期間以前の時期に当たり、本件同居期間の分はわずかであること、②本件婚姻後に支払われた失業保険についても、上記①のような本件同居期間以前の妻の就労に対応する部分が大きいとみられること、③前記一(2)認定のとおり、家事・育児はもっぱら妻が行なっており、本件婚姻後も、妻の就労に対する夫の貢献は極めてわずかであったと考えられること等を勘案すれば、上記のとおり、妻名義の財産によって取得された妻の持分は、その特有財産に当たると認めるのが相当である。
(ウ) したがって、本件マンションは、①全体の一〇〇〇分の一一七が妻の特有財産であり、②残り一〇〇〇分の八八三だけが財産分与の対象となる本件共有財産というべきところ、《証拠略》によれば、本件別居時の本件マンションの価額は、二〇〇〇万円程度と見積るのが相当であるから、本件別居時の前者の価額を二三四万円、後者の価額を一七六六万円と認定することとする。
(エ) これに対し、夫は、妻の持分がその特有財産であることを争っているが、上記(ア)(イ)認定の事実に照らし、採用することができない。
イ 夫の持分に対する妻の占有権原等
(ア) 妻は、本件夫婦間には、夫の持分を目的とする本件賃貸借契約が成立していたと主張してその確認を求めており、その根拠として、別件婚費審判における夫の主張内容及び同審判の結果等をあげているが、従前の紛争の経過に照らすと、本件別居時に、夫が妻に対し、将来にわたり本件マンションの使用を承諾していたとは認められず、上記確認請求は採用することができない。
(イ) しかしながら、前記二認定のとおり、本件別居は、夫による悪意の遺棄に該当し、また上記(7)のとおり、遠い将来における夫の退職金等を分与対象に加えることが現実的ではなく、更に一部が特有財産である本件マンションが存在するところ、このような場合には、本件婚姻関係の破綻につき責められるべき点が認められない妻には、扶養的財産分与として、離婚後も一定期間の居住を認めて、その法的地位の安定を図るのが相当である。
(ウ) そして、(a)夫は、別件婚費審判において、夫が本件マンションの家賃相当分の控除を強硬に主張し、その結果、家裁によって、その金額が四万六一四八円と定められた点や、(b)直接清算的財産分与の対象とすることが困難な退職金及び確定拠出年金についても、扶養的財産分与の要素としては斟酌することが妥当である点を考慮すれば、①清算的財産分与によって、本件マンションの夫の持分を夫に取得させるとともに、②扶養的財産分与として、夫に対し、当該取得部分を、賃料を月額四万六一四八円、賃貸期間を長女が高校を卒業する平成二七年三月までとの条件で妻に賃貸するよう命ずるのが相当である。
(9) 住宅ローン
住宅ローンの本件別居時の残額は二四六五万二八二一円と認められる。

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