永井尚子判事の裁判例、特殊な事例だが父の記憶がない面会交流を認めた事例
大阪高裁平成21年1月16日家裁月報61巻11号70頁 父親の記憶がなくても面会交流が認めた事例 (1) 面接交渉の可否 子と非監護親との面接交渉は,子が非監護親から愛されていることを知る機会として,子の健全な成長にとって重要な意義があるため,面接交渉が制限されるのは,面接交渉することが子の福祉を害すると認められるような例外的な場合に限られる。 ところで,相手方は,抗告人が未成年者との面接交渉を求める動機を疑問視し,仮に未成年者が抗告人と馴染んだ後に抗告人が退去強制された場合に未成年者に与える影響をも懸念して面接交渉に反対している。確かに,抗告人は,前記1(3)の訴訟において,未成年者との面接交渉が抗告人及び未成年者にとって極めて重要であり,抗告人が退去強制となると抗告人と未成年者にとって回復不可能な損害となる旨主張しているが,これは,抗告人が日本での在留許可を求める理由の一つとして主張するものであり,そのことゆえに,抗告人が日本での在留許可を求めるために未成年者との面接交渉を利用しているとまでは認められない。また,抗告人が未成年者との面接交渉の機会を利用して相手方との復縁を求める可能性があるとも認められない。 抗告人は,上記訴訟の1審で敗訴したことをも踏まえ,仮に退去強制となる場合でも,日本に滞在している間に未成年者と面接交渉し,未成年者に抗告人が父であることを知らせ,母国○○国について話をするなど,直接の面接交渉を実現することに意義があると考えている。確かに,未成年者が抗告人と面接交渉し,抗告人ヘの愛着を感じるようになったのに抗告人が退去強制となった場合には,未成年者が落胆し悲しむことも考えられるが,未成年者が父を知らないまま成長するのに比べて,父を認識し,母だけではなく,父からも愛されてきたことを知ることは,未成年者の心情の成長にとって重要な糧になり,また,父が母国について未成年者に話すことは,未成年者が自己の存在の由来に関わる国について知る重要な機会となる。抗告人が日本を退去強制となると,当面は未成年者との直接の面接交渉は困難になるが,手紙等の交換を通じての交流が続けば,未成年者が成長した後も親子間の交流は可能であることにかんがみると,未成年者の福祉を図るためには,現時点で抗告人と未成年者との直接の面接交渉を開始する必要性が認められる。 したがって,相手方は,抗告人に対し,抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務が認められる。 (2) 面接交渉の条件 前記のとおり,抗告人と未成年者との面接交渉を認めるとしても,その条件については,未成年者の年齢やこれまで未成年者が抗告人を知らなかったこと,相手方の生活状況や意向等にかんがみると,面接交渉の頻度は3か月に1回として相手方の仕事の繁忙期を外し(平成21年2月以降,毎年2月,6月,8月及び11月),開始時間は午後0時とし,初回は1時間,2回目以降は2時間とし,相手方が付き添うことなどを内容とする主文第2項のとおりとするのが相当である。 3 以上のとおり,相手方には,抗告人に対し,主文第2項の条件で,抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務があると判断する。