再婚してこどもが生まれた場合、養育費の減額はできますか。
離婚するにあたり前妻との間で、こどもの養育費の金額を毎月10万円としました。しかし再婚してこどもが生まれた場合、毎月10万円の養育費の支払いを変更してもらえますか。
離婚にあたり養育費を決めても、その後に事情変更が生じたときは、養育費の金額を増減することは可能です。再婚して新たないこどもができるということは、原則として事情変更に該当します。
1 いったん決めた養育費の変更
離婚にあたり夫婦間で協議して養育費を決めても、あるいは調停や審判で養育費が決められても、その後に事情変更が生じたときには、養育費の金額を増減することが可能です。
これは、あくまで養育費を決めた後に生じた事情変更の場合ですから、養育費を決めていた際にこどもがいることが分かっており織り込み済みになっているときは養育費の金額の増減を求めることができません。この点に関連して、養育費の金額は、双方の収入を基礎として算定されていますが、再婚することによって負担すべき社会保険料の金額が増加し、収入の認定額がその分減額されることもあります。そこでその算定には注意が必要です。
つまり社会保険料が上がることを織り込んで養育費の合意をするべきだ、というのがポイントです。判例でも、養育費を決める調停成立時に再婚し、なおかつ再婚相手のこどもを養子縁組していた事案において、再婚と養子縁組によって社会保険料が増加したこと等の理由で収入が減少することは、その当時、予測可能な事情であるから、養育費を減額すべき事情の変更とはいえない。(東京高決平成19年11月9日家月60巻6号43頁)
2 事情変更を認めたケース
これに対して、養育費を決めた後に再婚して生活環境が変わることは事情変更に該当します。
判例でも離婚後3年間は毎月20万円、二女が23歳になるまで毎月30万円の養育費の合意をしました。しかし、その後父母ともに再婚し、3人のこどもは妻の再婚相手の要旨になった事案がありました。この事案で、合意当時予想し、あるいは前提となし得なかった事情があるとして、合意事項を修正し、生活保護基準の方式を用いて、養育費の月額を21万円に減額し、支払いの終期を成年到達までとして、臨時の出費は養父が負担するとした事例もあります。
3 元妻の再婚後の義務者は誰か
一般に、元妻が再婚し、この再婚相手の収入が高い場合は、元夫から元妻に対し、養育費の金額が高すぎるとか、そもそも養育費を支払う必要がないといったクレームが出されることがあります。
こうしたトラブルを事前に回避するためには、再婚が予定されている場合は特に注意が必要です。例えば、算定表の金額を多少減額するというようなことが考えられますが、再婚もしてみなければわかりませんので、将来の再婚を織り込み済みにできるのかという問題もあります。
こうした場合は、弁護士と話し合い、抽象的に再婚相手の年収を認定するのは難しいでしゅうし、具体的金額があっても再婚時までに変動を生じている可能性があるので、難しい可能性もあります。一度弁護士にご相談ください。
再婚をした場合ですが、東京家庭裁判所と名古屋家庭裁判所では運用が異なりましたが、現在は、名古屋方式が主流になり、第一次扶養義務者は養親であるので、第二次的扶養義務者の生来の父については、養育費の支払いの免除を求めることができるでしょう。
しかしながら、養育費は生来の父の愛情表現の一つですし、面会交流を断られる論拠の一つとされてしまう恐れもあります。ですから、旧東京方式でこどもの生活費を3人で分担するということも考えられるでしょう。
4 将来の社会保険料の増加は、事情変更にあたらないとした判例(東京高裁平成19年11月9日)
1 当裁判所は,原審判と異なり,相手方の養育費減額の申立ては理由がないから却下すべきであると判断する。その理由は以下のとおりである。
2 記録によれば,以下の事実が認められる。
(1)抗告人と相手方は,平成15年×月×日,協議離婚をするに際し,相手方が抗告人に対し,養育費として未成年者1人につき月額3万円を支払う旨合意し,相手方は抗告人に対し,離婚から平成16年5月まではこの合意のとおり養育費を支払ったが,その後,養育費の減額を主張し,平成16年6月からは未成年者1人につき月額2万円を支払うようになった。
(2)この間,相手方は,平成17年×月×日,Fと再婚し,平成18年×月×日,Fの長女であるG(平成7年×月×日生)と養子縁組をした。
(3)抗告人は,平成18年×月×日,相手方に対し,養育費として未成年者1人につき月額3万円を支払うことを求めて別件調停を申し立てた。相手方は,未成年者1人につき月額2万円を支払うことを主張したが,平成18年6月×日,ア 相手方は未成年者1人につき月額2万2000円を平成18年6月から未成年者らがそれぞれ成年に達する月まで毎月末日限り支払うこと,イ 相手方が未成年者ら3人の養育費として,離婚後平成16年5月まで月額9万円,平成16年6月から平成18年5月まで月額6万円を支払ったことを確認すること,ウ 抗告人が相手方に対し,相手方の実家を介して未成年者らに連絡を取ることを認めること,以上を内容とする調停が成立した。
この調停の際,当事者双方から各自の平成17年分の所得税の確定申告書が提出され,これらの収入を養育費算定の基礎収入とした上で話合いが行われた。相手方は,調停成立時において,当時仕事に使用していた自己所有のトラックを買い換えるか,又は会社からトラックをレンタルで借りるかしなければならないという事情を認識していた。
(4)相手方は,平成18年9月から仕事に使用するトラックをレンタルで借りるようになり,レンタル料として月額10万5000円を支払うようになった。
(5)相手方は,平成18年8月分の養育費の支払を怠ったため,抗告人は履行勧告の申出をし,相手方は,平成18年9月×日に8月分の養育費を支払った。相手方は平成18年9月分の養育費について別件調停における合意額の半額しか支払わなかったため,抗告人は,再び履行勧告の申出をしたが,相手方が上記のレンタル料の支払等を理由にこれに応じなかったため,抗告人は,相手方の財産に対して強制執行をした。
(6)相手方は,平成18年12月×日,養育費減額の調停(以下「本件調停」という。)を申し立て,減額の理由として,借金の返済が多くなったこと,税金も未払になっていること,トラックのレンタル料を支払うようになったことを挙げた。
(7)別件調停において相手方が提出した平成17年分の所得税の確定申告書及び所得税青色申告決算書によれば,相手方の収入は671万9243円であり,経費242万9361円及び青色申告控除10万円を差し引いた所得金額は418万9882円であった。この金額から社会保険料控除6万3200円,生命保険料控除5万円,損害保険料控除3000円,配偶者控除38万円,扶養控除38万円,基礎控除38万円を差し引いた結果,課税される所得金額は293万3000円であった。
本件調停において相手方が提出した平成18年分の所得税の確定申告書及び所得税青色申告決算書によれば,相手方の収入は680万4411円で,ここから経費376万6657円及び青色申告控除10万円を差し引いた所得金額は293万7754円であった。この金額から社会保険料控除82万1500円,生命保険料控除5万円,損害保険料控除3000円,配偶者控除38万円,扶養控除38万円,基礎控除38万円を差し引いた結果,課税される所得金額は92万3000円であった。
3(1)上記2の事実によれば,相手方の平成18年の課税される所得金額は平成17年の課税される所得金額と比較して,収入が約10万円増加し,経費が約134万円,社会保険料が約76万円増加したことから,合計で約200万円減少したことが認められ,それに伴って養育費の算定の基礎となる相手方の総収入も減少したことが認められる。そして,この総収入の減少の原因となった経費の増加は月額10万5000円のトラックのレンタル料の支払によるものであり,社会保険料の増加は婚姻と養子縁組によるものであると認められる。
(2)しかし,上記のとおり,別件調停の成立時において,相手方は既に再婚し,再婚相手の長女と養子縁組をしており,当時仕事に使用していた自己所有のトラックを買い換えるか又は会社からトラックをレンタルで借りるかしなければならないという事情を認識していたのであるから,トラックを利用した事業者というべき相手方としては,レンタル料がいくらであるかは重大な関心事であり,レンタル料の額,ひいては(1)の総収入の減少についても相手方は具体的に認識していたか,少なくとも十分予測可能であったというべきである。なお,原審判は,その理由として,収入減少の程度が大きく,予想できた減収の範囲を超えていることを掲げているが,関係記録によっても,相手方がどの程度の減収を予想していたかなどを含め上記事情を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
また,相手方の本件調停の申立書によれば,相手方が別件調停で定められた養育費の支払をしばしば怠っている理由は,トラックのレンタル料の支払のみではなく,それ以外の借金や税金の滞納にもよるのであって,これらの点について,相手方において別件調停の成立時に予測不能であったと認めるに足りる証拠はない。しかも,相手方は,トラックのレンタル料の支払が必要になった平成18年9月に先立つ平成18年8月の段階で養育費の支払を遅滞し始めているのであって,相手方が養育費の支払をしない理由は,必ずしもトラックのレンタル料の支払のみであるとはいえない。
(3)調停は当事者双方の話合いの結果調停委員会の関与の下で成立し,調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有するのであるから,その内容は最大限尊重されなければならず,調停の当時,当事者に予測不能であったことが後に生じた場合に限り,これを事情の変更と評価して調停の内容を変更することが認められるものであるところ,上記の事情に照らすと,相手方の収入の減少は相手方に予測可能であって,これをもって養育費を減額すべき事情の変更ということはできない。
したがって,その余について判断するまでもなく,相手方の養育費の減額の申立ては理由がない。
第3 結論
よって,原審判は相当ではないからこれを取り消すこととし,当裁判所として審判に代わる裁判をすることが相当であるから,主文のとおり決定する。