妻が認知症になり、日常の家事もできず夫との会話も成り立たない状態が5年以上続いている。夫は家事と介護に尽くしていたが、仕事をすることもできず疲れ果てたので離婚したい。

 

  • 妻が認知症になり、日常の家事もできず夫との会話も成り立たない状態が5年以上続いている。夫は家事と介護に尽くしていたが、仕事をすることもできず疲れ果てたので離婚したい。

 

 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、その配偶者の療養・監護について具体的方途があるときは、離婚は認められると思われます。認知症は、この要件にはあたらない可能性がありますが、精神病の場合と同様の要件で、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚が認められる場合があります。

 

回復の見込みのない強度の精神病の場合

 

① 精神病の意義及び程度(離婚認容の条件その1)

 

     「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」ことは、法定の離婚原因の一つです。

 

     精神病とは、幻覚や妄想などによって現実と非現実の区別がつかない症状であり、人格変容、意思伝達能力の欠如、日常生活能力の喪失等を伴います。とはいうものの、法定離婚原因ではありますが、現実には薬理コントロールが進んでいる昨今、離婚原因としての実質よりも、夫婦生活として破綻しているのかという視座からみられることが多いように思います。

     法定の離婚原因のひとつとして示す「精神病」とは、統合失調症、双極性障害(躁鬱病)、偏執病(パラノイア)、初老期うつ病などであり、アルコール依存症、麻薬中毒、ヒステリー、神経症(ノイローゼ)などは該当しません。認知症も精神症状を伴うことがありますが、精神病とは異なって分類されます。もっとも、これらが原因で犯罪行為に走った場合はこの限りではないでしょう。

 

     また、「強度の」とは、夫婦の共同義務が十分に果たされない程度に精神障害がある場合を意味します。さらに、精神病が「回復の見込みがない」ことを要します。つまりは、夫婦として婚姻したのに介護を強いられるというのでは夫婦共同生活とはいえないということなのでしょうが、戦前の家制度よろしく、家が面倒を最終的にみるべきとの価値観があるように思えてなりません。

     昭和45年には、精神病が軽快して退院できても、通常の社会人として復帰し、一家の主婦としての任務に耐えられる程度にまで回復できる見込みがない場合には、それを法定の離婚原因として裁判所が認めました。このように、家事労働がベースラインとされていますが、家事代行サービスも普及した中、どれほどの合理性が認められるのか疑問です。

     他方昭和47年の判例で、精神病で度々入院していてもその都度日常生活に支障がない程度に回復している場合は、不治の精神病にはあたらないとしました。

 

② 療養・監護の具体的方途(離婚条件その2)

 

     回復の見込みのない強度の精神病に該当し、離婚原因があるとしても、裁判所がなお婚姻を継続すべきと認めるときは、裁量により離婚請求を棄却することができます。

     この点、昭和33年最高裁は、「民法は…諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度その方途の見込みのついた上でなければ、離婚の請求は許さない法意である」旨を判示し、離婚後病者の療養・監護に十分な保証がない場合には、離婚の請求を認めないとしてきました。本体、夫婦の協力扶助義務は、配偶者が病気に罹患したときにこそより強く求められるべきものであることからすれば、その義務を十分に尽くしたうえではじめて離婚を認めるとする判例の趣旨は当然の帰結といえるでしょう。つまり、ある程度、介護に架橋しないと許さないという趣旨です。

     その後、昭和45年最高裁が、精神病者の生活の保障の要件をやや緩和して、離婚の請求を許す傾向にあり、精神病者の実家に療養費の負担をするだけの視力があるうえ、離婚請求者自身も可能な限り支払う意思を表明している事案について、離婚を認めました。下級審の裁判例においても、(1)親族等による精神病者の引き受け態勢ができている場合、(2)離婚請求者が離婚後の扶養・看護に全力を尽くす旨を誓っている場合、(3)離婚請求者に離婚と同時に財産分与を命ずることによって療養費や生活費の相当額が負担される場合、(4)生活扶助・医療扶助等の国の保護による療養が可能である場合、などの事案で離婚が認められました。これら4つの要件は重要と思われる。

 

民法770号1項4号にあたらない精神病、精神病以外の難病、重度の身体傷害の場合

 

①「婚姻を継続し難い重大な事由」に基づく離婚請求

 

     民法770号1項4号の「強度の精神病」にあたらない程度の精神病や「回復の見込みがない」とはいえない場合であっても、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。

 

     また、精神病以外の難病や重度の身体的障害の場合にも、夫婦の強直義務を果たすことができない点では、精神病と共通の事情がありますので、同5号に該当する可能性があります。特に、認知機能の低下を伴う認知症や知的障害を伴う難病・重度の身体的障害の場合には、症状によっては、夫婦の協力義務を果たすことができないだけでなく、精神的交流までもが阻害される点でも精神病の場合と共通します。一方で、知的障害を伴わない難病や重度の身体的障害の場合は、日常生活において夫婦の協力義務を果たすことができないとしても、精神的交流までが阻害されるわけではないので、たとえ回復の見込みがなくとも、同5号に該当するか否かの判断はより慎重に行われる傾向にあります。

 

②判例の基本的姿勢

 

     昭和36年最高裁では、妻の精神病が強度だが回復の見込みがないと断定することはできない事案において、「妻の入院を要すべき見込み期間、夫の財産状態及び家庭環境を改善する方策の有無など諸般の事情につき更に一層詳細な審理を遂げ」るよう判示し、民法770条1項5号に基づく離婚を認めた控訴審判決を破棄し、差し戻しました。

     同5号には、同条2項の適用がありませんので、判例は同5号への該当性の判断にあたり、療養監護の具体的方途等、諸般の事情を併せ考慮したうえで、離婚を正当化する事情があるかどうかを総合的に判断すべきことを求めたものと考えられます。

 

③裁判例の検討

 

     イ)妻が認知症(アルツハイマー症)とパーキンソン病にかかり、寝たきりの状態で、精神傷害の程度も重度で回復の見込みがなく(通常の会話もできず、夫もわからない状態)、特別養護老人ホームに入所している事案で、平成2年長野地裁は、夫からの離婚請求を民法770条1項5号に基づいて認めました。

       この裁判例では、夫が42歳で再婚を考えていること、妻は離婚後も全額公費負担で介護を受けられること、病状が極めて重く、その性質・程度は同4号の強度の精神病にも比肩し得るものであったこと、夫がこれまで可能な限りの療養・監護を尽くし、夫としての誠意を十分に尽くしてきたなどの事情が考慮されました。

       高齢化社会を迎えて認知症が増加しており、同種の離婚問題も増えることが予想されますが、夫婦の一方が認知症にかかったからといって、直ちに離婚が認められるわけではないことに注意する必要があります。

 

     ロ)中程度の統合失調症

 

       夫が中程度の統合失調症で回復の見込みがない事案で、別居期間が6年以上に及ぶこと、夫婦がそれぞれ経済的に独立していること、妻は子にン継続の意思を全く有していないことなどの事情が考慮され、昭和52年名古屋高裁金沢支部は、民法770条1項5号に基づく妻からの離婚請求を認めました。

 

       一方で、昭和59年東京地裁では、妻の統合失調症が中程度まで回復し、家族等の庇護の下において通院治療を受けながら単身生活を送っている事案において、今後妻の面倒をみることは耐え難いほどの経済的負担を夫に強いるものではないとして同5号に基づく離婚請求が棄却された事案もあります。

 

     ハ)脳腫瘍による植物状態

 

       妻が脳腫瘍のため植物状態にあり、回復の見込みがない事案について、民法770条1項4号の趣旨を斟酌したうえで、植物状態になって約4年が経過し婚姻関係の実態を取り戻す見込みがないこと、妻が離婚後過酷な状態に置かれないよう配慮されていること、夫が長年妻の治療・見舞いに誠意を尽くしてきたことなどの事情が考慮され、平成5年横浜地裁横須賀支部では、同5号に基づく離婚請求を認めました。

 

     ニ)難病 脊髄小脳変性症

 

       平成3年名古屋高裁では、結婚後15年して妻が難病(脊髄小脳変性症)と診断され、平衡感覚の失調、言語障害等の症状を呈し、日常生活さえ支障をきたす状態にあるが、知能障害は認められない事案で、夫からの離婚請求が棄却されました。夫婦・親子間における精神的交流は可能であり、妻が子供との同居・婚姻継続を希望していること、夫が看病も入院生活の援助もせずに放置し、誠意ある支援態勢を示さないという事情が考慮され、婚姻破綻を否定したものです。

 

④判断基準

 

     以上からすると、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するか否かの判断にあたっては、病気の程度と将来の見通しに加えて、離婚請求者が相手方に対しとってきた態度、その窮状(看病疲れ等)、経済的負担、婚姻の客観的は単を示す事情、離婚後の病者の療養看護についてできるかぎりの具体的方途を講じたか否か婚姻継続に対する病者の意思など諸般の事情を併せ考慮したうえで、離婚を正当化する事情があるかどうかが判断されることになります。

 

離婚の手続き

 

①意思能力がある場合

 

     精神病や認知症に罹患した配偶者と離婚するには、当該配偶者に離婚するについての意思能力(離婚の意味と効果が理解できること)が必要です。精神病や認知症に罹患していても、意思能力がある限り、協議離婚あるいは調停離婚によって離婚することが可能です。

     裁判離婚に際しても、成年後見人等の同意を得る必要はなく、単独で訴訟を追行することができます。もっとも、調停裁判所又は受訴裁判所の裁判長が申立て又は職権で弁護士を手続代理人又は訴訟代理人に選任することがあります。

 

②意思能力がない場合

 

     通常は、回復の見込みのない強度の精神病にかかっているような場合には離婚についての意思能力がない場合が多いと思われます。この場合は、離婚を求める配偶者は、精神病にかかっている他方配偶者について、家庭裁判所に後見開始の申立てをして、後見開始の審判を受けます。

     後見開始の審判を受けた場合は、家庭裁判所で選任された後見人又は成年後見監督人を被告として、家庭裁判所に離婚の訴えをていきすることとなります。

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