親権と監護権の分属
- 離婚の話し合いの中で、3歳の子の親権を父、監護権を母とすることはできるのでしょうか。
親権と監護権を別々の親に分属させることは可能ですが、子の福祉の観点から分属させるのが相当でない場合もありますので、分属させることに何らかの積極的な必要性がある場合に限定すべきです。基本的に通帳を作るなどの場合は、父に連絡をとらなければならないことから煩雑などが理由です。
- 親権と監護権の分属は可能か
未成年子を有する父母が離婚する場合、父母の一方を子の親権者として定める必要があります。そして、親権者は親権に基づき未成年の子を現実に監護養育します。しかし、例外的に、例えば父親を親権者としつつ母親が監護者となるといった解決方法がとられることがあります。
このように親権と監護権を分属させることについては、父母間の紛争調整のための妥協的解決にすぎず、親権者が親権の本質である子の監護養育を行わないのは適当でないとして、親権と監護権の分属は、父母以外の第三者を監護者とする場合(施設入所等)に限るとする意見もあります。
しかし、親権者のほかに監護者の規定として民法776条が定められた趣旨や、子の福祉の見地から、父母が離婚した後も、財産管理権を持つ親と監護権を持つ親が協力し合う形が望ましいこともあり得ることから、一般的には分属させることは可能と考えられています。こどもに対して双方が責任が持つということでむしろ望ましいという見解もあります。
- 分属の必要がある場合
民法は、子の福祉のために親権と監護権の分属が必要な場合が生じることも予定したものと考えられますが、あくまで例外的な措置と考えられています。
監護者の権限の範囲は、身上監護する権利、教育権、居所指定権、職業許可権、懲戒権を含むとされています。他方、監護権なき親権は、財産を管理し、その財産に関する法律行為について子を代表する権利や、15歳未満の子の養子縁組や氏の変更などの身分行為についての代理権、監護者に対する助言、指導、子への面会、経済的援助などが考えられます。
これらの分属が考えられるのは、
- 父母の一方が身上監護する者としては適当であるが、身上監護以外については適任者でない場合
- 父母双方が親権者となることに固執している場合で、この解決が子の精神的安定に効果があると解される場合
- 父母のいずれかが親権者になっても子の福祉にかなう場合に、できるだけ共同親権の状態に近づけるという積極的意義を認める場合
などがあります。
- 親権と監護権の分属の手続
離婚の際に未成年者の子の親権者と監護者を分けることは、父母間の協議で定めることができます。
父母間で協議が調わない場合には、家庭裁判所が定めることになります。
- 親権と監護権の分属の問題点
親権と監護権を分属させる必要がある場合で、父母間の葛藤が大きい場合は、子に心理的な悪影響を与えることが考えられます。
例えば、離婚後、子を監護している母親が、子の氏を母親と同じ氏にしたいと考えても、親権者でない母には法定代理権がないため、親権者である父親の協力が得られない限り子の氏の変更はできません。
母や子がそれを不満に思うような場合には相互の不信感が増すこともあり、問題を深刻化させることにもなります。また、各種の手当の受給について、親権者と監護者が異なることが現実的な不都合をもたらすことも指摘されています。
したがって、親権と監護権の分属は、これらの問題を踏まえても、なお分属が適当であると積極的な必要性が認められる事案に限定されるべきものと考えられますが、共同親権の国でも8割が母親がこどもを監護している実態を踏まえると、父親には法的監護をさせるのが相当で一概に否定するばかりではなく、積極的意味も認められます。
なお、親権と監護権を分属した場合、15歳未満の子の養子縁組に関する法定代理人の承諾に関しては、監護者の同意を要するものとされています。