母である元妻は未成年子2人の親権者として遺産分割手続きにおける代理人となれるのでしょうか。なれない場合はどのような手続が必要でしょうか。
- 離婚に際し、妻が未成年2人の親権者となりましたが、元夫が再婚後に事故で死亡。後妻と未成年子2人との間で遺産分割調停をする場合、母である元妻は未成年子2人の親権者として遺産分割手続きにおける代理人となれるのでしょうか。なれない場合はどのような手続が必要でしょうか。
元妻が親権者として未成年子2人両方の代理人になることは、利益相反行為として許可されません。どちらか一方の未成年子の代理人にしかなれないので、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てることになります。
- 親権者と未成年子の利益相反
未成年子と親権者の利害関係が対立する行為については、親権者は自ら未成年子の代理人となることはできず、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法826条1項)。これは、未成年子の犠牲のうえで親権者が利益を得ることを防止することによってこどもの利益を保護するためで、例えば、未成年子から親権者に対する贈与は、同条に定める利益相反の典型です。
同一親権に服する1人の子と他の子との間で利益が相反するときにも、一般的に親権者に公正な親権の行使を期待することができないとして、法は、親権者が一方の子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求することを求めています。
なお、利益相反にあたるか否かは、行為の外形から形式的に判断され、例え実質的には親として両方の子供にとって平等に行動できるとしても、形式的に対立する関係にある以上は、利益相反にあたるものと判断されます。
- 冒頭の事案の場合
冒頭の事案においては、2人の未成年子がそれぞれ遺産分割調停の当事者となり、1人の取り分が増えればもう1人の取り分が減るという関係にありますので、まさしく民法826条2項の規定する利益が相反する場面といえます。したがって、いずれかの未成年子について特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。
- 特別代理人の選任手続
特別代理人の選任の手続は、特別代理人選任申立書という書類に、利益相反行為の内容等を記載したうえで、家庭裁判所に提出することになります。請求権者について、民法826条は親権者のみを請求権者として挙げていますが、家事法では、家庭裁判所は、家事事件の手続が遅滞することにより損害が生ずるおそれがあるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で特別代理人を選任することができるとされています。
また、特別代理人選任の審判の管轄は子の住所地家庭裁判所となるのが原則ですが、遺産分割調停など関連事件が子の住所地以外の家庭裁判所に係属している等の理由があるときは、関連事件が係属している裁判所に上申書を提出して、その家庭裁判所申立をすることもできます。
- 特別代理人の資格・権限等
特別代理人に選任される者の資格については特に欠格事由等はありませんが、特別代理人としての職務を適切に行えることが必要であり、未成年者との関係や、利害関係の有無などを考慮して適格性が判断されます。
実務上は、申立人(親権者ら)の推薦する者の中から裁判所が選任しています。
なお、特別代理人と未成年子の間に前述の利益相反関係がある場合には、その権限を行使することができません。典型なのは、夫が死亡した場合の遺産分割などです。
特別代理人は特定の事項について親権者の補充として一時的に子の代理を務める者であり、その特定の事項の終了により特別代理人の任務は終了します。
また、子が成年に達したり結婚したりして親権者の親権が消滅することによっても、特別代理人の資格は消滅します。
この点、昔は、親族が特別代理人になり、事実上、母などの意向ですべて決められていたが、最終は、こどもの利益の観点から、きちんとした分配を求める適正な手続きが求められるといえよう。