- お知らせ
服部勇人弁護士「「若手弁護士向け!離婚後選択的共同親権法制と家族法改正の実務 家族法研究」を出版
この度、弊所の所属弁護士が、法務博士として、共同親権法制など改正家族法に関する若手弁護士向けの専門書を出版いたしました。是非、法律職の方には、スマホやタブレットで気軽にお読みいただければと思います。
「若手弁護士向け!離婚後選択的共同親権法制と家族法改正の実務 家族法研究 (Hilasol Labo) Kindle版」
令和6年5月17日、「民法等の一部を改正する法律」(改正法)が成立し、いわゆる「改正家族法」が制定されました。令和8年5月までには施行されます。令和4年12月10日に先行して施行された改正(先行改正法)に続くものです。先行改正法では、懲戒権の削除や女性の再婚禁止期間の廃止などが骨子とされ、子どもの人格を尊重する視点を強化したものでした。このことから「改正家族法」は子の意思形成支援や子の意向を中心に、こどもの権利条約への理解が深められることが期待されます。
今回の改正家族法は、以下の点を中心に法制度の枠組みを見直し、親権制度の再構築を目指しています。
改正のポイント
- 懲戒権の削除と子どもの人格尊重
先行改正法において削除された懲戒権(旧民法822条)は、「子どもの人格の尊重」を明示するものとして重要視されました。この改正により、親権者が子どもを個人として対等に捉えるべき立場が強調されています。 - 離婚後の親の協力義務
改正家族法では、離婚後の父母が子どもの利益のために協力する義務が規定されました。これには、相手方の人格を尊重し、暴言や誹謗中傷を控えるべき旨が含まれています。このような規定は、親同士の対立を抑制し、子どもの健全な成長を支援することを目的としています。 - 親権の義務的側面の強調
民法817条の12第1項において、親は親権の有無に関わらず子どもに対して生活保持義務を負うことが明文化されました。これにより、親権が単なる権利ではなく、責務としての側面が強調されています。 - 面会交流の事実上の強化
改正家族法では、面会交流(親子交流)についての規定が再整理され、子どもの福祉を最優先とした運用に影響が出ることが考えられます。面会交流の実施に際しては、暴力や児童虐待が疑われる場合のリスク回避が重要視されるほか、ACEs(小児期逆境性障害)という家庭裁判所調査官が見落としている視座を付け加えます。
離婚後共同親権の法制化と課題
今回の改正により、離婚後共同親権の法制化に向けた議論も進んでいます。共同親権は、欧米諸国でスタンダードとなったものの、オーストラリアでは退潮傾向が見られ、極東アジアとの比較からどの程度定着するものであるのか、弁護士として執務上、「共同親権で協議書を作って良いのであろうか?」という視点、いわゆる子連れ別居の法的整理という視点―など弁護士としての日本における選択的共同親権の相場感覚の理解を目指します。
セミナー講師などのお問い合わせは、ヒラソル法律事務所までお願いいたします。なお、内容についてのお問い合わせは受け付けておりません。
本書では、法制審議会の議論においては、DVや虐待のケースでは、ACEsなどこどもの適応に悪影響が出ることから、共同親権は避けられるべきとの発達心理学者の議論も踏まえて、合意が得られない場合の選択的共同親権の在り方についても考えます。
実務への影響と弁護士の役割
本書では、共同親権に向く場合、子連れ別居、監護権、面会交流(本書では「親子交流」との用語は用いない)に焦点を当て、改正家族法の実務的理解を深めるためのガイドを提供します。特に、弁護士への業務妨害が増える中、若手弁護士の皆さんが委縮しないように、気軽に改正法をスマートフォンで読んで欲しいというような構想で執筆しました。
改正家族法を実務に落とし込む際の参考となるよう、実際の法律相談、協議離婚をまとめる際の参考、子連れ別居への助言についての集中的検討、家事調停での特色などをまとめます。
改正家族法に関する類書は多いかもしれませんが、面会交流の専門家が、主に弁護士を中心とした法曹関係者向けに執筆したものであり、施行前の段階での筆者の私見や経験談も含まれていますが、すべて法律家としての視点からまとめられています。改正法の解釈や運用において、ニュートラルに、現実的な視点と学問的裏付けに基づく実践、家庭裁判所への批評を目指し、法の支配と子の最善の福祉に捧げるものです。
若手弁護士向け!離婚後選択的共同親権法制と家族法改正の実務
(目次)
はしがき
第1 はじめに
第2 改正後の概要と主要ポイント
第3 離婚後共同親権法と家族法改正の実務
第4 子連れ別居のアドバイスの変化~共同親権時代のリスク管理
第5 子連れ別居の倫理を巡って
第6 離婚協議書の作成
第7 共同親権を選択するか否か
第8 監護者指定を行うべきか
第9 選択的共同親権の評価に対する学説
第10 人事訴訟における共同親権の審理
第11 家事調停・審判における共同親権・面会交流
第12 こどもの手続代理人を巡って
第13 共同親権Q&A
第14 結びに代えて
第17 参考文献一覧
第18 補遺
【巻末・家族法研究~いくつかのこどもをめぐる裁判例を巡って】
【巻末・申立ての書式例】
離婚後共同親権法制を含む家族法改正と弁護士実務上の注意点
はしがき
令和6年5月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号、以下、「改正法」という。)が成立し、いわゆる「改正家族法」が成立した。もっとも、令和4年12月10日にも「民法等の一部を改正する法律」が先行して改正されていた(以下、「先行改正法」という。)。
先行改正法は、①懲戒権の規定の見直し、②嫡出推定・否認制度の見直し、③女性の再婚禁止期間の廃止、④認知無効の訴えの規律の見直し、⑤第三者の精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の嫡出否認についての規定が骨子であったが、改正家族法につながるものとしては、懲戒権の削除が重要である。懲戒権の削除は令和6年4月1日から既に施行されている。
そして、先行改正法は、旧民法822条の懲戒権の規定を削除し、先行改正法821条は、「親権を行う者は前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、こどもの人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰、その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」と規定し、「子の人格の尊重」を規定し、体罰も許されないことを民法上明確にしている。
懲戒権の削除は、「こどもの人格の尊重」の明示といえ、親権者と子とを対等な個人と個人の関係として捉えるものであり、子に親権の行使の客体にとどまらない主体的位置付けを与えて監護教育についての制約規律を設けたのである。いわば、こどもの権利条約を意識するよう促したうえで、改正家族法の布石とされたといえる原点として留意される必要がある。
そして、改正家族法でも、親の責務に関する規定が新設され(民法817条の12第1項)、民法817条の12第1項の扶養義務の程度の規定の新設も、親権の有無に関わらず、親はこどもに生活保持義務を負うことが明示化され親権の「義務」の側面が強調されるに至った。
加えて、離婚後の父母は、子の利益のため、互いの人格を尊重し協力しなければならないとされ(民法817条の12第2項)、暴行・脅迫等の相手方の心身に悪影響を及ぼす言動や誹謗中傷をしてはならないこと―が観念されるに至り、将来的には、欧米ではスタンダードといえる「離婚の慰藉料否定説」にまで成熟しそうな萌芽といえよう。
おそらく、令和6年5月24日から2年以内の政令で定める日から施行される改正家族法は施行前後で弁護士向けのマニュアルも多く出版されることになると思われるが、面会交流(親子交流)の専門家である筆者がレファレンスを示し、若手の弁護士等の理解が進むように、本書を執筆することとした次第である。それゆえ、叙述は親権、監護権、面会交流(本書では「親子交流」(民法817条の13第1項)という用語はあえて用いないこととする。)を中心に叙述する。
なお、本書は弁護士向けの共同親権法制を中心とした専門書であるため、法曹以外の方は読者としては一切想定していないのでご寛容いただきたい。もとより法施行前に執筆されたものであるため、筆者の個人的見解や経験談にわたるところもあることは否定できないが、もとより、叙述はすべて法学者としての私見であり、弁護士としての私見や所属団体の見解とするところではないことはお断りしておきたい。
最後に、私たち法律家は制定法の解釈について制度趣旨や目的に照らして実質的に解釈することが基本的な役割である。プラグマティズムを法解釈に援用することに力を入れ、制定法準拠主義に陥ることは妥当ではない。憲法や改正法の法解釈には社会的文脈、立法目的、運用が与える実際の効果を中心に、法が現実社会でどのように機能するか、家族法は将来に向けられているものに注意を払うべきである。
法学は、「生きた憲法」や「家族法」の観点から柔軟に解釈し民主的価値との調和を図ることが重要であると思われる。
弁護士 服 部 勇 人