外国人との離婚

ハーグ条約をめぐる人身保護請求―原則顕著な違法性を認める。

国境を越えた子の連れ去り防止を定めたハーグ条約を巡り、米国在住の日本人の父親(非監護親)が、息子(13)を日本に連れ帰った母親(監護親)に子の引き渡しを求めた人身保護請求の上告審判決(二審制)で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は15日、「父親の請求は認めるべき」として、父親側の敗訴とした名古屋高裁金沢支部判決を破棄し、特段の事情も認められないとして出頭確保の観点から、審理を名古屋高裁に差し戻した。今後、刑罰の裏付けをもってこどもは、米国に引き渡されることになる。

  • <判決の焦点>「違法な身体拘束」に当たるかのかどうか
  •  拘束は、自由意思を持っている場合にはあたらないところ、9歳から10歳程度をいうものと理解するのが下級審の一般的傾向です。しかし、最高裁は、12歳から13歳程度を基準にしているうえ、悪性の吹込みがあった場合は本当の自由意思とはいえないとして拘束に該当するとしています。(最判昭和61年7月18日)
  •  本件は、日本人同士の争いであったことから最判平成5年10月19日の規範を利用し、親権に基づき特段の事情のない限り適法として顕著な違法性があるというためには、右監護が子の幸福に反することが明白であることを要する、とされていました。
  • 本件で最高裁は、ハーグ条約による返還命令に従わない場合は「顕著な違法性」に該当するとの初の判断を示し、現在の拘束者が監護を止めることが子の幸福を害するなどの特段の事情のない限り、違法であると、最判平成5年10月19日の日本国内における親権紛争では、こどもを監護している者が適法とされましたが、ハーグに関して平成30年3月15日は、こどもを監護している者が原則違法とされるパラダイム変化がありました。刑事法の山口厚氏が裁判長であることも大きく影響したものとみられます。

 最高裁は判決で「条約に基づく裁判所の命令に従わず、子を返還しない場合は、特段の事情がない限り著しく違法な(身体)拘束(顕著な違法)に当たる」との初判断を示した。

 判決などによると、今回の裁判は米国で暮らしていた日本人夫婦が争っている。母親は夫婦仲が悪化した2016年に息子を連れて帰国。米国に残った父親が子の連れ去り防止の原則を定めたハーグ条約の国内実施法に基づき、東京家裁に息子の返還を申し立てた。家裁は返還を命じたが、母親は応じず、強制執行のため執行官が自宅を訪れた際にも息子の引き渡しを拒んだ。

 これに対し、父親は息子の引き渡しを求めて人身保護請求の裁判(2審制)を起こした。1審の名古屋高裁金沢支部は昨年11月、「息子は自らの意思で日本に残ることを選択した」として母親のしていることは、不当な「拘束」にあたらないとして、父親側の敗訴としていた。

 ハーグ条約は、親の一方が相手に断りなく16歳未満の子を国外に連れ出した場合、残された親の求めに応じ、原則として子を元の国に戻さなければならないとするルールを定める。日本は14年に加盟し、昨年10月時点の加盟国数は98カ国。今回は、年齢も16歳に近く微妙なものですが、比較的高年齢なこどもも強制的引渡しが命じられることが明らかになったことにより、今後の実務に少なからず影響を与えるものと考えられます。

 

 

1 本件は,米国に居住する非監護親が,非監護親の妻であって日本に居住する監護親により,非監護親と監護親との間の二男である被拘束者が法律上正当な手続に よらないで身体の自由を拘束されていると主張して,人身保護法に基づき,被拘束者を釈放することを求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  • 非監護親と監護親は,いずれも日本国籍を有する者であるところ,平成6年に日本において婚姻し,長男(平成8年生まれ)及び長女(平成10年生まれ) をもうけた後,平成14年頃に家族4人で米国に移住した。
  • 被拘束者は,平成16年▲▲月▲▲日に米国で出生し,戸籍法104条1項所定 の日本国籍を留保する。
  • 裁判所は,同年9月,監護親に対し,米国に被拘束者を返還すること

を命ずる旨 の終局決定(以下「本件返還決定」という。)をし,本件返還決定は,その後確定した。

  • 非監護親は,本件返還決定に基づき,東京家庭裁判所に子の返還の代替執行の申立て(実施法137条)をし,子の返還を実施させる決定(実施法134条1 項,138条)を得た。 執行官は,平成29年5月8日,監護親の住居において,実施法140条1項 に規定する監護親による子の監護を解くために必要な行為をした(以下,これを 「本件解放実施」という。)。

監護親は,本件解放実施の際,執行官による再三 の説得にもかかわらず玄関の戸を開けることを拒否したため,執行官は,2階の窓 を解錠して立ち入ることとなった。その後も,監護親は,被拘束者と同じ布団に 入り身体を密着させるなどして,本件解放実施に激しく抵抗した。また,被拘束者 も,米国に帰ることを促す執行官に対し,このまま日本にいることを希望し,米国 には行きたくない旨を述べて,これを拒絶した。執行官は,子の監護を解くことが できないとして,本件解放実施に係る事件を終了させた(国際的な子の奪取の民事 上の側面に関する条約の実施に関する法律による子の返還に関する事件の手続等に 関する規則89条2号)。

(5)  非監護親は,米国カリフォルニア州上位裁判所に,監護親との離婚を求める訴えを提起するとともに,被拘束者についての監護等に関する命令を求めたところ,同裁判所は,平成29年8月15日までに,非監護親が被拘束者についての監護 を単独で行うものとすることなどを内容とする命令をした。

(6)   被拘束者は,平成29年9月27日及び同年10月6日,被拘束者代理人と面談し,その際,日本にいることを希望する旨の意思の表明が監護親の圧力によるものであるかのように受け取られることは非常に不満である,自己の意思により日本での生活を希望していることを強く主張したいなどと述べた。また,被拘束者は,上記のとおり希望している理由として,ようやく日本での生活に慣れてきたのに米国に戻って生活するのは大変である,飲酒した非監護親から,暴言を吐かれたり,けがをする程度のものではなかったものの暴力を受けたりしたことがあり,来日して非監護親と離れたことで安心した面もあるなどと述べた。

なお,被拘束者は,本件返還決定に関する実施法に基づく手続や米国カリフォルニア州上位裁判所における被拘束者の監護権等に関する手続などについて,一部誤解していたところもあったが,被拘束者代理人の説明を受けて正しく理解した。

 (7)   監護親は,現在,薬剤師として勤務する傍ら,食事の支度など被拘束者の身の回りの世話をしている。 被拘束者は,来日後,a市内の小学校に通い,平成29年4月に同市内の中学校 に進学した。被拘束者は,勉学や部活動に励み,友人や教員との人間関係も良好 で,家庭においても,監護親と親和し,兄,姉及び他の親族とも交流を持ってい る。また,被拘束者は,現在,日本語による意思疎通に問題はなく,年齢相応に筋道を立てて会話をすることができる。

 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,非監護親の請求を棄却した。

 (1) 被拘束者は,現在,日本での生活環境になじみ,良好な人間関係を構築して充実した学校生活を送っており,家庭内においても監護親と親和して,情緒も安定し,年齢相応に発達を遂げて健やかに成育しているものと見受けられ,また,その判断能力が欠けているなどといった事情はうかがわれない。これらのことなどを考え合わせると,被拘束者は,自己の真意を曲げて日本にいることを希望する旨の意思を表明したとは解されず,自由な意思に基づいて当該意思を表明したというべきである。よって,監護親の被拘束者に対する監護が人身保護法及び同規則にいう拘束に該当するとは認められず,また,非監護親の本件請求は,被拘束者の自由に表示した意思に反するというべきである。

(2) 監護親の被拘束者に対する監護状況,被拘束者の年齢及び意向などを考慮すると,監護親の被拘束者に対する監護が人身保護法及び同規則にいう拘束に該当するとしても,その違法性が顕著であるとは解されず,本件返還決定が確定していることは,本件の帰すうに影響しない。

4  しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  • 監護親の被拘束者に対する監護が人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるか否か等について意思能力がある子の監護について,当該子が自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情のあるときは,上記監護者の当該子に対する 監護は,人身保護法及び同規則にいう拘束に当たると解すべきである(最高裁昭和61年(オ)第644号同年7月18日第二小法廷判決・民集40巻5号991頁参照)。本件のように,子を監護する父母の一方により国境を越えて日本への連れ去りをされた子が,当該連れ去りをした親の下にとどまるか否かについての意思決定をする場合,当該意思決定は,自身が将来いずれの国を本拠として生活していくのかという問題と関わるほか,重国籍の子にあっては将来いずれの国籍を選択する ことになるのかという問題とも関わり得るものであることに照らすと,当該子にと って重大かつ困難なものというべきである。また,上記のような連れ去りがされる場合には,一般的に,父母の間に深刻な感情的対立があると考えられる上,当該子と居住国を異にする他方の親との接触が著しく困難になり,当該子が連れ去り前とは異なる言語,文化環境等での生活を余儀なくされることからすると,当該子は, 上記の意思決定をするために必要とされる情報を偏りなく得るのが困難な状況に置かれることが少なくないといえる。

これらの点を考慮すると,当該子による意思決定がその自由意思に基づくものといえるか否かを判断するに当たっては,基本的 に,当該子が上記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて必要とされる多面的,客観 的な情報を十分に取得している状況にあるか否か,連れ去りをした親が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていないかなどといった点を慎重に検討すべきである。これを本件についてみると,被拘束者は,現在13歳で,意思能力を有していると認められる。しかしながら,被拘束者は,出生してから来日するまで米国で過ごしており,日本に生活の基盤を有していなかったところ,上記のような問題につき必ずしも十分な判断能力を有していたとはいえない11歳3箇月の時に来日し,その後,非監護親との間で意思疎通を行う機会を十分に有していたこともうかがわれず,来日以来,監護親に大きく依存して生活せざるを得ない状況にあるといえる。そして,上記のような状況の下で監護親は,本件返還決定が確定したにもかかわらず,被拘束者を米国に返還しない態度を示し,本件返還決定に基づく子の返還の代替執行に際しても,被拘束者の面前で本件解放実施に激しく抵抗するなどしている。これらの事情に鑑みると,被拘束者は,本件返還決定やこれに基づく子の返還の代替執行の意義,本件返還決定に従って米国に返還された後の自身の生活等に関する情報を含め,監護親の下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面的,客観的な情報を十分に得ることが困難な状況に置かれており,また,当該意思決定に際し,監護親は,被拘束者に対して不当な心理的影響を及ぼしているといわざるを得ない。以上によれば,被拘束者が自由意思に基づいて監護親の下にとどまっているとはいえない特段の事情があり,監護親の被拘束者に対する監護は,人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるというべきである。また,上記説示に照らすと,本件請求は,被拘束者の自由に表示した意思に反してされたもの(人身保護規則5条) とは認められない。

  • 監護親による拘束に顕著な違法性(人身保護法2条1項,人身保護規則4条)があるか否かについて 国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において,実施法に基づき,拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず,拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には,その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り,拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性があるというべきである。

これを本件についてみると,監護親は,本件返還決定に基づいて子の返還の代替執行の手続がされたにもかかわらずこれに抵抗し,本件返還決定に従わないまま被拘束者を監護していることが明らかである。他方で,米国への返還のために監護親の被拘束者に対する監護を解くことが著しく不当であることをうかがわせる事情は認められない。したがって,監護親による被拘束者に対する拘束には,顕著な違法性がある。

 5  以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記事実関係を前提とする限り,非監護親の本件請求はこれを認容すべきところ,本件については,被拘束者の法廷への出頭を確保する必要があり,この点をも考慮すると,前記説示するところに従い,原審において改めて審理判断させるのを相当と認め,これを原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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