DV

実際に夫が妻を殴ったのは1回だが、妻からの離婚を求めることができるか。

 

 

  • 妻が夫に対して自分の考えを述べたり、言い返したりすると、夫はすぐに声を荒げ拳を振り上げて妻にに殴りかからんばかりにし、妻は、夫に殴られまいと萎縮している。実際に夫が妻を殴ったのは1回だが、妻からの離婚を求めることができるか。

 

 結論からいうと、裁判や調停では証拠がものをいいます。弁護士に依頼をするにしても、診断書やカルテは有力な証拠になります。特段の事情がない限り、どうして怪我をしたかを医師に伝えて病院に通っておくだけで違うと思います。これをするかしないかで結論はDVなのか、モラハラにとどまるのか、で変わってくると思います。

 暴力や虐待は、たとえ夫婦間においても、絶対に許されるものではありません。いわゆる正当防衛の抗弁もほとんど認められません。

 夫の妻に対する同居に耐え難い暴行・虐待が原因で夫婦関係が破綻に至れば、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、離婚することができます。暴力には、身体的暴力だけでなく、精神的な暴力も含まれます。したがって、ご質問のような場合にも、離婚が認められる可能性があります。ただし、裁判や調停では証拠がすべてです。まずは、警察や配偶者暴力センター、身近なところでは医師に相談して受傷箇所を写真にとっておきましょう。

 (1)配偶者間暴力の実態と暴力を理由とする離婚件数

    内閣府「男女間における暴力に関する調査」(平成26年)のアンケート結果によれば、配偶者からの暴力について「何度もあった」という人は女性9.7%男性3.5%で、「1、2度あった」という人は女性14%、男性13.1%でした。これを合計すると、配偶者からの暴力を1度でも受けたことがある人は女性23.7%男性16.6%となります。

    このうち、女性の調査結果では、配偶者からの暴力は、身体的暴行15.4%、心理的攻撃11.9%、経済的圧迫7.4%、性的強要7.1%であり、身体的暴行に限られていないことがわかります。

 

    また、同年司法統計年報によれば、家庭裁判所の婚姻関係事件における妻からの申立理由のうち、「暴力をふるう」は23.2%、「精神的に虐待する」は24.3%、「生活費を渡さない」は28.5%で、それぞれ申立理由の約4分の1を占めています。

    3個までの複数回答ですので、単純に合計するわけにいきませんが、夫からの身体的暴力及び精神的虐待が離婚の大きな原因の一つとなっていることがわかります。

 

 (2)暴力の定義

 

    配偶者からの暴力には、身体的暴力のほか、精神的、性的、経済的暴力が含まれます。配偶者からの暴力は、被害者の尊厳を害し、犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害であって、絶対に許されるものではありません。意に反する性交渉も暴力に該当する場合があります。

    DV防止法でも、配偶者からの「暴力」の定義には、身体に対する暴力だけでなく、これに準ずる「心身に有害な影響を及ぼす言動」を含むことが規定され、言葉による暴力などの精神的暴力も同法による保護の対象となることが明確にされています。

 

    国連が国際的な人権基準として公表した、「女性に対する暴力に関する立法ハンドブック」(国連ハンドブック)の中でも、保護の対象となる暴力は、物理的、心理的、経済的、性的暴力を広く含むべきものとされています。

 

 (3)身体的暴力・精神的虐待行為と離婚原因

 

    ①「婚姻を継続し難い重大な事由」への該当性

 

     夫婦間における暴力・虐待行為は、「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚原因となります。ただし、具体的な暴力・虐待行為が「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するか否かは、様々な事情を考慮して判断されます。

     DV防止法施行以前も、離婚訴訟において、配偶者の暴力・虐待行為が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとされる事例はありましたが、配偶者による暴力が精神的暴力も含め、許されないものであることが法律で明確にされたことにより、配偶者の暴力・虐待が違法な行為であるとの認識が、裁判官、調停委員、弁護士を含む関係当事者にも深まりました。

     また、身体的暴力のみならず配偶者からの精神的暴力が強い精神的ストレスとなって、被害者の精神に回復困難な障がいを与え、うつ病やPTSDを引き起こすことも広く一般に知られるようになりました。もっとも、これらは、証明力としては弱く、やはり形成外科的見地な診断書の方が重宝されます。

     以下、事例を紹介しますが、公刊物に搭載されているのはDV防止法施行以前のものが多く、同法施行後は、これらの事案より緩やかな基準で離婚が認められるものと思われます。

 

    ②「婚姻を継続し難い重大な事由」にあるとされた裁判例

 

     イ)身体的暴力によるもの

     (a)夫の暴行から端を発し、妻が缶コーヒーで夫の額部を殴打したのに対し、夫が妻の顔面を手拳で殴打し、妻の歯2本が折れたなど、夫が妻に対して、相当の程度・回数の暴行・虐待に及んだ事例(平成11年名古屋地裁)

     (b)婚姻関係の破綻の原因は、夫が身体傷害という自らの苦しみを妻に対する暴力や妻の目の前での物に対する破壊等でしか解消する道を見出すことができず、その行為の妻に与える影響等に対する推察ができなかったことにあるとされた事例(平成8年東京高裁)

     (c)夫が妻に対して、髪をつかんで振り回す、電話機を投げつける等の暴力を振るい、また包丁を持ち出し「殺してやる」などと脅かした事例(平成2年東京地裁)

 

     ロ)精神的暴力等が含まれるもの

     (a)夫は、気に入らないことがあると感情を爆発させ、暴言を繰り返して執拗に妻を責め続け、激昂すると妻の頭や顔を殴ったり蹴ったりし、異常な行動により妻に対し眠らせない生活を強いるなど、身体的精神的虐待をした事例(平成17年東京地裁)

     (b)夫が妻の両親などに対し点不信感を抱いたことが遠因となり、ついには、夫が妻の不適切な言辞をなじって生活費を渡さなくなった事例(昭和59年東京地裁)、

        婚姻費用を負担せず、パチンコに興じる生活を続け、暴言を吐き、暴力を加えた事例(平成16年東京地裁)など、経済的虐待の事例。

     (c)夫が妻に対して、「○○弁は汚いので標準語で話せ」「食事は俺が帰るまで待ってろ」などと命令し、「前の女には殴ったり蹴ったりしたけど、お前には手を出さないでおこうと思う」などと言って、妻を強制的支配下においていた脅し・威嚇の事例(平成13年神戸地裁)

 

     ハ)性的暴力

     (a)性交に際し、妻が夫から必ず靴を履くよう強要され、また過度にわたる性交渉を求められた事例(昭和35年大阪地裁)

     (b)夫が妻に過度の性交渉を要求し、これに応じないと夫は怒って、その都度妻に暴力を加えた事例(昭和58年東京高裁)*ただし、この事例については、、結局双方が身勝手な態度・行動に終始して衝突を繰り返し、相互に相手方に対する愛情や信頼を失っていたとされています。

 

    ③「婚姻を継続し難い重大な事由」にはあたらないとされた裁判例

 

     イ)長年会社人間的な生活をしてきた夫に対し、妻が精神的な暴力を受けたとして求めた離婚請求が、夫が妻の立場を思いやるという心遣いに欠ける面があったことは否定できないものの、完全に破綻しているとまで認めるのは相当ではないとした事例(平成13年東京高裁)

     ロ)女性問題や暴行等夫に問題がなかっとはいえないが、別居は性格や価値観の相違が大きな要因と見るべきで、婚姻関係が深刻に破綻し、回復の見込みがないとまで認めるのは困難とした事例(平成25年東京高裁)

 

 

 (4)冒頭で問題とされている事例の場合

    今回のように、夫が妻を殴ったのは実際には1回だったとしても、身体的暴力の回数が少ないから許されるというものではありません。更に、その他にも、夫は妻に対して、じっさいに殴られるのではないかという恐怖を与え、自由な発言を許さない態度を示しています。このような夫の言動が、妻の心身に有害な影響を与えていることは明らかですので、夫の言動は精神的暴力といえます。

    したがって、妻がこのような夫の身体的精神的暴力によって夫との同居を耐え難いと感じているのであれば、婚姻を継続し難い重大な事由に該当するとして、離婚が認められる可能性があります。最近は、「DV冤罪」と主張する男性も増えているので、いずれにしても、暴力の証拠の収集という観点を頭に入れておきましょう。

 

熟年離婚に関するお悩み