円滑な面会交流の実現のためにいかなる方法がとり得るか
本件は不仲を原因として、母が長男を連れて別居開始後まもなく、面会交流調停が成立したものです。
そして、面会交流調停が成立したものの、その後面会交流の実施において調整事務にトラブルが生じ、数度の面会交流が行われたのみで中断している事例であるが、その後離婚訴訟と平行して、Xが面会交流の不相当な時期及び方法等を定めることから本審判がなされた。
エフピックなどでの調整機能は、最近少なくなってきている
検討
(1) 一般に,父母が離婚した場合も,未成熟子が非監護親と面接交渉の機会を持ち,親からの愛情を注がれることは,子の健全な成長,人格形成のために必要なことであり,面接交渉の実施が子の福祉に反するなどの特段の事情がない限り,これを認めるのが望ましい。しかし,面接交渉が子の健全な成長,人格形成のためであることに鑑みると,その程度,方法には,自ずから一定の限度があり,子の心理面,身体面に与える影響,子の意向等を十分配慮する必要があるし,真に子の福祉に資するような円滑かつ安定的な面接交渉を実施するには,父母相互の信頼と協力関係が必要である。
(2)ア 相手方は,面接交渉の回数につき,毎月1回第4日曜日の面接交渉及び半年に1度遠出ないし宿泊付きの面接交渉を求めている。
しかし,本件は,紛争性が強い事案であり,未成年者は,10歳という心身とも未だ未熟な年齢であり,また,その性格は内向的であるうえ,同居中の両親の争いについて生々しい記憶を有していること,他方,申立人に対する愛着の強さは相当なものがあり,心の拠り所となっている状態にあること,前同調停において合意ができたのは1か月半に1度の面接交渉であり,宿泊については申立人において「検討する。」との内容にとどまっており,本件において申立人は,未成年者の負担が大きいとして宿泊付面接交渉につき反対していること,前回調停で合意された面接交渉すら具体的内容について折り合いがつかないなどの理由でそのとおりには実施されておらず,平成17年8月を最後に中断したままとなっていること,これまでの面接交渉の状況から未だ申立人と相手方との間に面接交渉についての信頼関係が十分に形成されているとはいえないことを総合考慮すると,相手方主張のような前回調停を上回る割合ないし宿泊付の面接交渉を認めることは,現時点では時期尚早であり,未成年者の肉体的・精神的負担を増加させ,父母相互の信頼と協力関係に悪影響をもたらしかねず,真に子の福祉に資するような円滑かつ安定的な面接交渉を期待することが困難となるおそれがあるというべきである。
したがって,相手方の上記主張は採用できない。
イ 相手方は,申立人に対し,未成年者の学級担当者との面談を時宜にかつ定期的に実施し,その内容を相手に知らせ,未成年者の通信簿全部のコピーを交付し,学校行事については予定の連絡があってから1週間以内にメールかファックスで伝達し,学校からの配布物を月に1度コピーして送付し,通っている塾についてのカリキュラム,内容,頻度を開示,未成年者の進学についての考えを明らかにすることを求める旨主張する。
しかしながら,これらの情報の開示は,面接交渉の実現とは直接関係がない事柄であり,面接交渉の手段でもなければ,目的でもない。むしろ,面接交渉において,これらの開示を求めることは,かえって未成年者の養育のありようをめぐって新たな紛議をもたらし,未成年者をその渦中に置くこととなるおそれがあるから,本件面接交渉において上記情報の開示を求めることは相当ではない。
したがって,この点についても,相手方の主張は採用できない。
ウ 相手方は,面接交渉において未成年者との会話に制限をもうけるべきではない旨主張する。
しかしながら,面接交渉において未成年者の生活状況をあれこれ詮索したり,申立人の言動の真偽について未成年者に意見を求めたりすることは未成年者を申立人と相手方の紛争に巻き込み,無用のストレスを与えることになりかねず,子の福祉に反するから,許されるべきではない。
面接交渉における基本的な判断基準は,子の福祉に反するか否かである。そうすると,面接交渉自体が両親の紛争に未成年者を巻き込んだり,いずれの親の言動やふるまいが正しいかの選択を迫ったり,監護親の言動が正しいかどうかのテストを未成年者に求めたりするのは,未成年者に著しいストレスを与え,子の福祉に反するおそれがあるから,特段の事情がない限り,不相当といわざるを得ない。仮に,そのような面接交渉を重ねるならば,いずれ子が面接交渉自体を拒否ないし消極的になることになろうが,裁判所としても,相応に成長した子の意思は尊重せざるを得ず,早晩,面接交渉を禁止せざるを得ない事態が生じかねないおそれがあるというべきである。
したがって,上記相手方の主張は採用できない。
エ 当事者双方は,本件面接交渉を社団法人○○を介して行うことに合意しているところ,今後,面接交渉を円満かつ安定的なものに,長期に継続するためには,同職員又はその指定する者(当分の間は同職員の立ち会いが必要であろうが,同職員の判断により,将来,当事者間に信頼関係が築かれたとされた時期には,同職員の指定する者の立ち会いによる面接交渉が可能となろう。)の立ち会いのもとに実施する必要がある(申立人が提案する双方代理人が交互に立ち会う方法は,前記従前の紛争の経緯に照らし,相当ではない。)。
また,面接交渉の日時,場所,方法,同交渉の際の留意事項,禁止事項については,同職員の指示に全面的に従うべきである。
(3) 以上を総合勘案すると,申立人は,相手方に対し,本審判確定後1か月半に1回の割合で,社団法人○○の職員又はその指定する者の立ち会いのもと,相手方が未成年者と面接交渉を行うことを許さなければならず,当事者双方は,前記面接交渉の日時,場所,方法,同交渉の際の留意事項,禁止事項について,社団法人○○の職員の指示に従わなければならず,また,諸般の事情を考慮すると,上記面接交渉に関し,社団法人○○に支払うべき費用は,当事者双方が折半して負担すべきである。
面会交流権の実施における問題
シュシュ:面会の調整って難しいよね。僕とパパとママのスケジュールが合わないといけないし、弁護士が双方ついている場合は、なかなかいろんな人も入るよね。
弁護士:うちの事務所も依頼者の調整をしていますが、突然、キャンセルをしてきたり、時間を短くしてほしい、そうでないならばやめたい、みたいな連絡が入ることがありますね。
シュシュ:両親間の対立が激しい場合は、調整自体が困難だけど、第三者が入ると第三者が入ることによる難しさがあるよね、と思います。また、結果としてその新たな紛争が発生したり、定められた面会交流が実際には履行させない事態となってしまうことも少なくないよね。
弁護士:定められた面会交流が履行させない場合には、強制執行等の手段をとることも可能であるが、そのような方法によって子の福祉に沿うような面会交流が実現できるかについて疑問があるよね。
面会交流の実施への第三者の関与
面会交流を定める際には、円滑かつ継続的な面会交流が実現させるような方法を定める必要がある。時期や回数についてもその要素の一つであるが、面会交流の実施に際しては第三者を関与させるとうい方向も選択肢として考えられる。
従来、面会交流の調停等の過程で、当事者双方の心理的な調整を行って実施する方法もあったが、調査官のかかわり方については、職務の性質上一定の制約を伴う。また、双方の代理人が面会交流の実施に関与するということが実務上広く行われている。しかし、終期など限界もあるうえ、調整に熱心でない弁護士もいる。
このような中で、調査官の天下り先としてエフピックが作られて、第三者機関に面会交流の援助を求めることの有用性の認識が広まりつつある。
本審判は、公開判例としては初めては、面会交流の実施に当たって第三者の面会援助機関の利用を面会交流の実施条件として示したものとして意義を持っている。いまだ利用できる期間やその条件等が限られているという問題はあるが、支援機関の経験の蓄積や家裁の側でも多少の理解が深化すればよいが、現在のような「左遷どころ」のような運用ではなく、福祉的機関として、また男女ともに公平に接して偏頗に思われないことが肝要なように思われる。