相手を支配しないこと―DVを考える。
DVとは何か
DVとは、ドメスティックバイオレンスのことをいいます。主に配偶者の一方から他方での暴力を意味するものです。暴力には、身体への暴力、精神的な暴力、性的な暴力、経済的な暴力があるといわれています。
DVと夫婦喧嘩、口論とは何が違うの?
単なる夫婦喧嘩とは異なるのは、DVには支配関係が伴うということです。つまり支配と服従の関係があります。一例では、自分が思うようにならなかった場合、ストレスが溜まった場合、お金がなくなった場合、社会から評価されない場合など、つい立場の弱い身近な存在に当たってしまい暴力がエスカレートするのです。そういう意味で本質的なDVは児童虐待と軸足を一にするものといえるでしょう。ただし、SIVのように突発的暴力のように支配と服従がない場合に、DVであることを殊更強調したり保護命令を利用したりすることは趣旨を正解しないものといえないこともないのではないでしょうか。
ちなみに夫から妻だけではなく、妻が夫にというケースもあります。実際、あべこべDVのケースでは婚姻費用のケースでも苦労することが多かったですね。
DVの特徴と背景
家庭という密室で行われる
このため、暴力が極限に至るまで発覚しにくいという問題点が指摘されています。
妻が夫に経済的に依存しているため、家を出ることができなかったり、高齢者の介護をしているため逃げ出せないというケースがあります。
世間の目が届かないため暴力が正当化されやすい
社会のルールやモラル、職場や世間の目などが届かないために暴力が加害者の中で容易に正当化されるという問題点があります。
法は家庭に入らずの大原則
家庭生活はプライバシーが最大限尊重されるべき空間だからこそ当事者の自治にもっとも委ねられるべきであり、ある意味では世間からずれたルールでも正当化されやすい面があるのです。そして警察や行政については第三者が介入すべきではない、と考えられてきました。現在でも、保護命令で逮捕されたケースなどで不起訴になるケースもあり、3度目の保護命令違反であるのになぜ検察は不起訴にしたのか保護命令裁判官が疑問を呈したケースもありました。ただ、必要以上に家庭における自治の尊重を説くのは結果としてDVを隠してしまう可能性もはらみます。
なお、夫から妻へのDVはジェンダーの問題があると指摘する論者もいますがこれは昭和中期のカビのはえた議論というべきでしょう。男性が力で強く女性が弱いというステレオタイプで、男が女に暴力をふるうという構造的問題があるとフェミニストが指摘しますが、首都圏では夫婦共働きが当たり前であり、かえって女性から男性へのDVを隠す温床との指摘もあり多くの支持は得られていません。
どんな人がDVをする?
加害者の属性としては以下のとおりです。
・会社員、事務職 40パーセント
・専門職 15パーセント
・技術、作業職 13パーセント
・販売職 13パーセント
・大企業管理職 11パーセント
同居中の暴力は?
・同居中の暴力 88パーセント
⇒ その後離婚、別居 43パーセント
・1回限りの暴力 24パーセント
・こどもへの暴力もあり 63パーセント
暴力が振るわれた原因
・妻の言動が気に食わない 84パーセント
・イライラ、疲れていたこと 48パーセント
・男のプライドが傷ついたから 45パーセント
DV防止法の仕組み
配偶者の身体に対する暴力や脅しなど、被害配偶者が配偶者暴力相談支援センターや警察へ相談をしたり、通報をすると警察は暴力の制止や被害発生防止措置をとることになります。そして本人から被害を防止するための援助を受けたい申出があり、相当であれば必要な援助が行われることになります。
裁判所には3つの保護命令の申立てができます。
住居から加害者を退去させる命令、被害者本人、必要性があればこども、被害者の親族、支援者の住居、勤務先、学校、その他の場所について、加害者のつきまとい、徘徊、電話やファックス、電子メール送信などでの接触を禁ずる命令、被害者に対する面会の要求、著しく粗野な言動、電話・ファックス・電子メール送信の禁止がある。保護命令に違反すると1年以下の懲役又は100万円以下の罰金になるが、精神疾患があるようなケースなどでは、十分なパニッシュメントとして機能していない。現実には2回程度不起訴になって、その後罰金、次に執行猶予、次に実刑ということであり、よほど理性を失っている場合、刑罰に対する制裁については、あまり機能していないといえます。
ポイントとしては、被害者の保護は、安全の確保、被害者の転居、加害者のつきまといの防止などがあります。これらによって精神的支配から脱することで被害者の心理的回復を図り、離婚手続きの円滑化、生活再建などにも寄与するものと考えられています。
課題
今後の課題としては親権者の指定、子の引渡し、面会交流、養育費分担などのワンストップ対応が課題になるといえそうです。具体的に、ワシントンDCにはDV裁判所がありこれらのワンストップ対応にあたっています。これは残された立法的課題といえるかもしれません。